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25話 告白

 ベッドからソファーへと移動するために身体を持ち上げると思い出した。

 そう言えば最後に腹に刺さったはずなのに痛みがない。

 戦闘中はアドレナリンが大量に分泌していたから痛みをあまり感じなかったけどかなり深く刺さっていたよな。

 それに肩も。


「あ、その傷は……ごめんなさい。回復魔法で治したのだけど傷を綺麗に治せなくて」


 服を捲ってみると確かに傷跡は残っているものの傷口は完全に塞がっていて痛みは感じられなかった。

 手で擦っても昔からある傷のように感じる。


 急所は外れたとはいえ槍が深々と刺さった大怪我が眠っている間に完治している。

 普通なら全治数週間の怪我が寝ている間に治る。

 実際に体験すると回復魔法って反則だと思う。


「いや、治してくれて助かったよ」


「でも傷が残ってるでしょ?」


「エリティアが治癒してくれなきゃ死んでいたんだし名誉の負傷だよ」


 肩の方は傷も残っていないし、何の問題もない。


「それよりソファーに座って話を続けようか」


 この話はこれでおしまいという様に俺は捲っていた服を元に戻してソファーに腰かけた。

 エリティアも反対側に座ってお互いが向き合う形になる。


「それでこれからどう動くかだけど」


「分かってる。ユクスを救出するのよね」


(……………………はい?)


 話を遮られただけでなく予想していなかった話が出たような。


「大丈夫。この命に代えても作戦を遂行してタスクを外に出すから」


「えっと……話が全く見えてこないんだけど。一体何の話?」


「え? だってこれからの予定でしょ。まだ魔族達は魔王ブローが死んだことを知らずにいるのだから逃げるでしょう?」


 うん、ここは魔族達の巣窟になっているし、その考えは普通だな。


「その過程で地下牢に捕らわれているユクスを救出するんでしょう?」


「それが分かんないんだけどっ!?」


「……だってユクスは勇者よ。魔族と対抗する一番の手段として助けるのは普通の考え……違うの?」


 ……確かにそういう考えもあるのか?

 俺にとっては勇者ユクスは出来損ないのただの屑男という評価だから助けるなんて考えてもいなかった。


「外にはレジスタンスがいるんでしょ? エルフとドワーフの同盟軍が。だから奴隷の首輪の解除方法も判明してあなたをここに寄越した」


 エリティアの見当違いな仮説が続く。


「その話ってどこからの情報?」


「……ユクスだけど」


 あぁ、確か地下牢にいる間はユクスと隣接した場所に入れられていたな。

 そこで出鱈目を吹き込まれたと。


「ユクスもエリティア同様、外の情報は一切入らないよう隔離されていたのに知っている訳がないだろう。それはたぶんエリティアを正気にさせて牢屋から出たいというユクスの希望的観測から出た嘘だぞ」


「……そうかも」


 というか少し考えればユクスに重要な情報が来るなんてある訳ないと分かるものだろう。


「じゃあ今エルフやドワーフは?」


「どちらももう魔族に対抗しようとは思っていない。魔族の脅威から逃れるために隠れている状態だ」


 勇者ユクスの希望の全くの反対の状況だ。


「更に言うとエルフはまだ奴隷の首輪の解除方法を解明できてはいない。……たぶんこのままだと一生解明できないだろうな」


「じゃあどうしてあなたは解除方法を知っているのよ」


 その問いかけに俺はしまったと思った。

 要らない所まで話を進めてしまった。


「どうしたの? 私の質問に答えて」


「言っても信じられないと思うぞ」


「信じられないような事なの? でもそれを信じる信じないは私が決める事だわ」


 エリティアは話の内容を聞く気満々で待っている。

 これは話すまで喰いついてくる感じだ。


(……しかしこれは言ったら絶対に可笑しな奴だろ。……言いたくねえ)


 だけどエリティアならとも思わなくもないし、ずっと隠し通すよりも最初に行ってすっきりした方が後後良くなる可能性もある。

 結局、後か先か。


「分かった。話すよ。でも信じられなくても笑わないでくれよ」


「分かった約束するわ」


 覚悟を決めて俺は俺の身に起きた白い空間内での話を始めた。


 大量のスキルを所持していることや最初に玉座の間に転移したのが球体(かみ)が行ったからと起き掛けに質問してきたことも答えつつ、包み隠さず話した。


「まぁ、つまり俺はこの世界の住人ではなく異世界人って事だ」


「……………」


 話し終えたエリティアの表情は何とも言えない顔になっていた。

 まぁ、いきなりこんなこと言えばこうなるよな。


「あ~………やっぱり信じてないよね。でも本当なんだ。信じてくれ」


「……確かに俄かには信じられない話よ。異世界人だって照明は出来るの?」


「証明、か……」


 そりゃあこんな突拍子もない話信じるには照明が欲しいよな。


「……証明する物はない」


 やってしまった。

 この世界では使えないだろうからとスマホを白い空間内に置いてこなければよかったと今更ながらに後悔する。

 あれがあれば写真一発で証明になったかもしれないのに。


「……じゃあ一つ質問に答えて」


「え?」


「私の質問に答えてくれたら今言った話を信じてあげるわ」


「本当か!? 分かった何でも聞いてくれ」


 大抵の事なら答えられるはずだ。


 俺が了解するとエリティアの眼光が増した気がした。

 切り裂くような苛烈で鋭い印象を与える瞳。

 俺には好印象な瞳だけど。

 

「あなたの話を聞いて一つだけ腑に落ちない事があるわ。それはあなたがここに着た事よ」


 俺がエリティアの瞳に見惚れている内にエリティアは質問を始めた。


「あなたはユクスを助けないと言った。つまり魔王を倒した時に貰える経験値? が取れれば他の魔王でもよかったことになる。少なくとも絶対に私なら魔王ブローを選ばない」


「……俺は魔王ブローを倒せると思ったんだ」


「はぐらかさないで。倒せる相手ではあったんでしょう。事実あなたはそのスキルで魔王ブローを倒せている。でも倒しやすい相手ではなかったでしょう?」


「……」


「あなたの言う【愚者の一撃】というスキルは発動するのに一撃当てないと言ったわ。それが条件なら魔王ブローは選びたくない相手だわ」


 魔王ブローの戦闘方法は近接戦闘だけでなく、中距離、遠距離もこなすことのできるオールラウンダー型だ。

 攻撃の範囲は広いし、様々な攻撃を行ってくる。


 そのため転移した位置がすでに射程圏内で近づくまでに何度も攻撃を対処しなければならなかった。

 接近戦闘に特化した魔王を相手にしていればそんな苦労をせずに近づけた。


「少なくとも私なら魔王ギガレアを選ぶわ」


 "魔王ギガレア"というと勇者が敗走した時の魔王か。

 力、速度、俊敏性とほとんどの身体能力は最下級魔王と同等レベルでしかないのに防御力だけは中位の魔王よりも高いという防御に偏り過ぎの魔王だった。

 勇者ユクスはその防御力を越える事が出来ずに敗走したのだ。


 だけど【愚者の一撃】に相手の防御力は関係ない。

 寧ろ防御力に自信がある分、一撃わざと食らってくれる可能性すらある。


 どう考えても魔王ブローより魔王ギガレアの方が倒しやすいだろう。


 そんな相手がいるのになぜ魔王ブローを選んだのか?


「あなたはまだ何かここへ転移しないといけなかった理由を隠している。それを教えてくれたら信用するわ」


「それは……」


 それは俺が最も答えたくない事だ。

 特にエリティアに言いたくない。


 まさかこんな展開になるとは。


 言わないと信頼を勝ち取れないのか……。


「……言わないと駄目か?」


「ええ」


 こういう時、咄嗟に良い嘘を思い浮かべばもう少し女性関係も上手くいったと思う。

 つまり何もいい案が浮かばない。


 下手に嘘をついてもばれるし、信用を失うだろう。

 もう話すしかなかった。


 口の中が渇いていく。

 その後の事を考えると足が震えそうなほどの恐怖が襲ってくる。


 それでも覚悟を決めて内に混み上がってくる精一杯の言葉を掬い上げるように言い放った。


「エリティアを俺のパートナーにしたかったからだ。君がいたから魔王ブローを標的に選んだ」


「えっ、私!?」


「そうです。俺の隣にいて欲しい、そう思ったから魔王ブローが相手でも構わないと戦った」


「……」


 言う事を伝えたがエリティアは固まってしまった。


 そりゃそうだろ。


 今日会ったばかりの名前すら知らない男にいきなり告白されたんだから。

 逆の立場なら絶対に避けるね。


 だがこれが俺の本心。

 初めて映像で見ていた時から惹かれていた。

 魔王ブローに奴隷の首輪を着けられて好きなようにされているのを見て何とかしたいと本気で思った。

 だから世界の状況も、相手が魔王ブローであっても転移したんだ。


 それが分の悪くても勝負を挑んだ理由。

 本当にエリティアを奴隷の首輪の呪縛から解放しているんだから自分の行動力を見直したよ。


「嘘をつい「てません」」


「俺にとってエリティアは誰よりも魅力があり、一緒に歩んでいきたいと思ったんです」


 エリティアは俺がこの場を乗り切るために出鱈目を言っていると追及するのを言い切る前に否定する。


「疑うのなら奴隷の首輪を着けてもらっても構わない。俺はエリティアをパートナーとして迎え入れたいんだ」


 言いたいことは言った。

 あとはエリティアが俺の言葉を信じてどう返答してくれるかだ。


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