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1話 全選択転移

興味を持って頂きありがとうございます。

手に取っていただいた期待に応えられるよう頑張って書いていきますので、どうか最後まで読んでもらえたら幸いです。

出来たらここですぐブクマを付けてくれると嬉しいかな。

 何気ない日常生活が一変したのは、蝙蝠の翼が空を覆ったのが始まりだった。


 太陽の光を拒むかのように大きく広げられた翼の影が、突然夜でも来たかのように街を暗くしていく。


 異変の正体に気づいた少女は震え上がっていた。

 認めたくない。

 でも見間違いようの無い姿と数の多さに受け入れる以外の選択肢がなかったのだ。


 空を覆う蝙蝠の翼を生やした人型は"魔族"。


 数百年にも及ぶ戦争で今も戦いが続いているはずの敵勢力の種族の名前。

 普通ならこんな所にはいない筈なのに街の外には魔族が尋常じゃないほど見えた。


 街の近くにこんなにも魔族が居ればこれから起こる事は明白だった。


 少女は動こうとするが、その前に防壁門の方から爆音が鳴り響く。


 王都には国が誇る巨大な防壁が囲んでいる。

 だから太陽を遮っている魔族は、防壁によって遮られた景色よりも上にいたから見えただけ。

 あの防壁の先には一体どれだけの魔族が押し寄せてきているのか想像する事もできなかった。


 魔族の襲撃。


 その結論に思い至ったのは少女だけではない。

 気づいた住民達が、突然の事態にパニックを起こし、ものの数分で大混乱になった。


 家へと急ぐ者、武器を取る者、防壁門からとにかく離れようとする者。

 どうしたらいいのか分からず、住民達は様々な行動をしてしまっている。


 ここまで攻められているにも拘らず、住民に何も知らされていなかった。

 それどころか襲撃が来たと分かった今も王族からは住民に対して何の報告もされない。


 本来ならどちらも既に報告があってもおかしくない筈なのに。


「た、大変です。王族も、貴族も誰もいません」


 皮肉な事にそっちの答えは近くで集合していた軍隊の伝令によってすぐに得られてしまった。

 それも少女にとっては一番嫌な報告だったと言えるだろう。


 王族、貴族の逃亡。


 国のトップ達が、守るべき国を捨て姿を消したのだ。

 魔族接近の知らせも、避難誘導もされなかったのも報告をする前に既に逃げていたか、それともわざと報告をしなかったのかのどちらかだと分かる。


 いや、それだけじゃない。

 国のトップが不在で命令がないから兵士達が全く行動できないでいる。

 本当ならすぐにでも防壁門の方に援軍を送らないといけない場面で多くの兵士が待機状態になっていた。


 つまり防壁門で戦っている兵の数は、明らかに足りていない。


 防壁門の方を向いた。

 昨日までと変わらずにそびえ続ける巨大な門の前で兵士らしい人物が走ってくる。


「逃げろ! 防壁門はもう持たねぇ!!」


 次の瞬間、防壁門の片方の扉が破られ、叫んでいた兵士は巨大な扉の下敷きになった。



 ―――絶望が王都内へと侵入した。



 少女は兵士でもなければ戦えもしないただの一般人である。

 そんな少女でも防壁門を破って街へと入ってきた存在がどんな存在なのかを瞬時に理解できてしまった。


 人間にとって最も嫌い、最も恐れる存在。


 魔族の中の王、『魔王』。

 絶対的強者の降臨に王都内は凍りついた。


 魔王の姿を見た少女はすぐにでも逃げたいはずなのに動く事が出来ないでいた。

 ライオンの前に不運にも姿を現してしまった小鹿のように。

 動いたら瞬時に殺される。

 そんな不安から足が竦んで動けずにいた。


 そんな中で真っ先に動いたのは、先程少女の近くで待機していた兵士達。

 彼らも魔王を見て死を予感した。

 ただ自分達が戦わないで誰が国民を逃がすのかという思いから死を覚悟しながら魔王へと挑みかかったのだ。


 しかし――――


「"神風鎌鼬"」


 魔王が唱えると兵士達の姿は一瞬で消えた。

 否、消えたのではない。

 そう思うほどに粉々にされたのだ。


 死んだ。

 そう、死んだのだ。


 あれだけの兵士達を一瞬で、何のためらいもなく簡単に。


 このままじっとしていても殺されるのは時間の問題だ。

 その思いから動けなかった人々は再び逃げる為に走り始めた。

 その中には少女の姿もある。


 助かる望みが薄くても彼女らは走るしかなかった。


「さぁ、この国を蹂躙しろ」


 その光景を魔王は蔑んだ笑みを浮かべると部下達に命令を下し、魔王の命を受けた魔族達が狩りを始めた。


 悲鳴が王都中から鳴り響き、絶望の幕が上がったのだった。




 ◆




 ――――辺り一面真っ白な空間にいた。


 右を見ても左を見ても白一色の景色。

 遠くを見渡しても地平線の向こう側まで白一色が広がっている。


 一見外の空間だとしか思えない。

 だが上を向くと、そこには空ではなく、白い天井が存在していていた。


 野外なのか、屋内なのかすら検討がつかない不思議な空間であった。


 ――――ここは一体どこなんだ?


 俺はさっきまで大卒を決める試験勉強という学生の地獄の期間の合間の数少ない気晴らしに部屋でスマホのゲームをしていたはずだ。

 それが突然視界がぶれたと思ったら気がつくとここへ来ていた。


 服装はさっきまでの格好のまま、手元にあるのは唯一ゲームをしていたスマホのみ。

 だがスマホがあれば連絡や現在地を調べる事が出来る、とすぐさまスマホの画面を開いてマップを開こうとした。


 しかしスマホの画面に立つアンテナの表示は圏外になっていた。

 これでは外部と連絡を取る事もマップで現在地の特定する事もできない。


 ――――ここは本当にどこなんだ?


 少なくとも近隣にこんな場所は存在しない。

 それどころかこんなだだっ広くて辺り一面白一色なんておかしな空間が地球上に存在する事も聞いた事がない。

 明らかに現実の出来事のように思えなかった。


「小僧、そこに座りなさい」


 自分の声ではない荘厳な声が響き渡る。

 だが先程全周囲を見渡したが人影なんてなかった筈だ。


 一体どこから喋っているのか?


 再度キョロキョロと辺りを見回すが、やっぱり人影らしきものは見当たらない。


 ただ先程まで何もなかったはずの場所に青白の丸い球体がフワフワと宙を浮いていた。

 見るからに怪しい。

 その前には一般家庭で使われている物よりも明らかに高価そうな座布団がこれ見よがしに置かれている。


「さっさと座らんか」


 再び先程と同じ爺さんのような声が聞こえてきた。

 今度はしっかりと声の発信源がこの丸い球体からだと特定する事ができた。


 そうなると小僧はやっぱり俺の事なのだろうな。

 この空間に他に人もいない。正直怪しさ満点の球体だから無視して逃げるのも手だが、逃げるにしたって場所も連絡もつかないんじゃあどうしようもない。

 兎に角状況が分からない以上は不本意だが、この球体の指示に従っておいた方が良さそうだ。


 もう小僧なんて呼ばれる歳ではないんだがなぁ、と思いながら仕方なく四角い座布団へと座って球体と対峙する。

 球体は装飾はなく青色の一色のみで表面に凹凸は一切見られない。完全な球体で正直どこが正面でどうやってこちらを見ているのかさっぱり分からない。


 本当にこの位置で合っているのか。


 唯一手元に残っているスマホの画面は先程までやっていたスマホゲームの期間限定10連ガチャを打ち込んでいた途中で通信エラーが表示されたままの状態で止まっている。

 今日この日の為にだいぶ前からコツコツと石集めをしてきた成果を出すところだったのに一ガチャすら出来ずに止まってしまった。

 悔しくてもう一度通信できないかと接続ボタンを押してみるが、結果は変わらず再び通信エラーの表示が出現した。

 アンテナが圏外になっているんだから出来なくて当然なんだが。


 ……邪魔されたこの悲しみを相手にぶつけてもいいだろうか? 構わないよな? 折角の勉強の合間の私服の瞬間を邪魔されたんだから一発ぐらい許されるはずだ。


「小僧よ。儂の話を聞くのじゃ」


 俺が考えに没頭していたのに気づいたのか球体に注意された。

 そして気づく。


 十中八九この球体が犯人だよな。俺の一時の安らぎを中断させた奴。

 一緒に転移した仲間(被害者)では絶対ないだろうし、話し方もやたらと偉そうでこの状況について明らかに何か知っている様子、無関係って事はまずありえないだろう。


 この怒りに任せて蹴り飛ばすぐらいしてもいいよね?


 俺は衝動に逆らわずに立ち上がると、球体は危機を察して大音量の声で止めに入った。

 だが防ぐのは間に合わないだろう!


「待て、小僧!? 早まった真似をすれば後悔するのはお主じゃぞ。儂は神でお主のサポートに来たのじゃからな!」


 振り上げようとした足がピタリと止まる。


 ……神? ……この球体が? ただのスピーカー入りボールが爺さんの声を出してるだけじゃないの?


 それも俺をサポートしに来たって……。

 この神様……球体(かみ)の話が本当だとするとこれは例のアレか?


 もし本当にそうだとしたら、もう少し話を聞いてもいいかもしれない。


 俺は素直に座り直すと、球体からは安堵の溜息が漏れた。


「……座って一切話を聞かない奴は何度か会った事があるが、いきなり儂を蹴り飛ばそうとする者は初めてじゃ。物騒な小僧じゃの」


 いきなりこんな場所に連れてきた球体(かみ)の所為なのであんただけには言われたくない。


「小僧。儂のことを舐めておるようじゃが儂偉いんじゃよ? 普通ならお主のような奴が話をする事も許されんくらい上位の存在なのじゃ。もう少し敬うように接することを心がけよ」


 爺さん喋りの球体を敬うのとか無理だから。

 まだ若い女神様だったら気を使うぐらいしたけどさ。


 それより話を進めてくれ。


「話が進まんのはお主の所為じゃろうに……。おほん、お主にはこれから異世界へと行ってもらう事になる。儂はその仲介役をする為に来たのじゃ」


 予感は的中だった。


 本当に異世界召喚? 大掛かりなドッキリとかじゃなくて? 本当に俺みたいななんの取り柄もないような普通の大学生の所に来たの? 選ぶ相手間違えたとかない?


 神とサポート、それに突然この空間に飛ばされてもしかしたらと期待していたが、本当に言われると逆に疑いたくなる。


「疑っておるようじゃが、今回選ばれたのはお主で間違いない。そして変更もできんぞ」


 おお、マジで俺、異世界に行けちゃうのかよ。否が応でもテンション上がるんですが!!


 それでどんな異世界に連れて行かれるんだ?

 勇者召喚? それともスローライフ? 出来れば乙女ゲームの世界は勘弁して欲しいな。乙女ゲームなんて全然やった事がないから行って役に立てる自信が無い。


 でもどうせ行くならもう少し早くしてくれても良かったのに。

 大学入ってから勉強勉強で運動する余裕がなくて、運動不足。腹回りに贅肉がこびりついちゃって周りからも太った太ったと言われてしまうほど体型が良くない状況なんだ。

 戦闘するのにこの体型はまずいんじゃないかな?


 一通り心の中で喜んだ所で球体(かみ)に質問する。


「俺が転移したら何をすればいい? どういった理由で転移するんだ?」


「特に意味はないのじゃ。偶々選ばれただけじゃから抽選に当たったのと同じじゃよ」


 えぇ~、なんか扱いが軽くない?


「普通、何かあるんじゃないの? 勇者として世界を救ってくれとか、マナが乱れて危ないから調整してくれとか、文化レベルの水準が低いから上げて欲しいとか」


「それは転移する世界の事情であって儂には何も関係ないからの。儂の役目はお主を無事に世界な送り届けるだけじゃ。転移先でどんな生活を送ろうとお主の勝手、儂には関係ない」


 なんて投げやりな神だ。

 人の一生に一度あるかないかの大事な時にこんな神に当たるとか俺ついてないな。


「お主のイメージしている神というのは世界の管理を任されている守護神の事じゃろう。生憎と儂はその神よりも偉い立場なのでな。下神の世界がどうなろうと上神の儂に関係がないのは当然じゃろ」


 要は下神の世話をしないダメ神って事だろ。

 ダメ神どころかハズレ神に当たったかもしれない。


「お主、儂の事をダメな神に当たったと思ったじゃろ!」


「思ったけど間違ってないだろ」


「この世界の事を何も知らないで儂をダメ神と決めつけるでないわ! 儂は仕事をきちんと行っておる。最近の若輩神共のように転移者に勝手に強力な加護を与えるような事もせずに、真っ当に仕事をしておるのじゃ」


 やっぱりダメ神どころかハズレ神じゃん。


 俺の立場からしたらその若輩神の方が当たり神だよね。仕事をしっかりこなしているのと俺に益があるかないかは違うじゃん。

 俺も俺tueee出来る加護をくれる神様に当たりたかったな。


 異世界で謳歌してやろうと思ったけど、この神とだと無理そうな気がしてきた。


「別にお主達のいる世界風に言う俺tueeeが出来ん訳ではないぞ」


「そうなのか?」


「その世界の法則に沿っていればなんの問題もない。先程言ったのは正規の方法で選択できるにも関わらず、情で勝手に強力なスキルを与える神がいるという話じゃ。じゃからお主も選択次第では俺tueeeになる事はできるぞ」


 つまりチャンスはあるんだな。

 それならまだ望みがあっていい。


 だから若輩神への怒りを俺に向けるのはやめてくれ。

 転移先のスキルよりも強力なスキルをあげた所為で秩序が乱れたとか、勇者よりも強くして予定が狂ったとか、そっちの方が俺には関係ないから。

 俺は球体の相談相手になる気は無い。


「それじゃあ本題に入るぞ。取り敢えず一番最初に『世界選択』をしてもらう」


 …………『世界選択』?


 球体の体が少し揺れたかと思うと何もなかった真っ白な空間に大型のスクリーンが映し出された。


 そこには無数の丸い球体が映し出されている。


「これが現在転移を募集している世界じゃ」


 世界?

 そう言われて見ると確かに地球儀みたいに見える。


「この中から好きな世界を選ぶがよい」


「ちょっと待ってっ!! 聴き間違いかと思ったが、世界から選ぶのかっ!? スキルからじゃなくて? 行先まで自分で決めるのかよ!?」


「その通りじゃ。この異世界召喚は全て転移者に世界も、スキルも、転移場所も、決めてもらう『全選択型』の転移・転生じゃからな」


 聞き間違いではなかった。

 世界どころか転移先まで全部自分で決めるのかよ。

 こんな召喚方法聞いた事ないぞ。


「最近はお主と同じようにこの召喚方法を聞くと驚く者が増えておるが、本来はこの召喚方法の方が主流なのじゃよ」


 俺の世界の小説なんかじゃ突然異世界に飛ばされたとか、神にあってもチートスキルを貰うだけで終わりの異世界召喚が多い。

 よくあるテンプレ転移を想像していればそりゃあ驚くだろ。


 でも考えようによってはこれでいいのか。

 なんか予想と違うことばかりだけど、これっていい方に予想外だって事だよね?

 好きな世界選んでスキルも任意で選択とか何の説明も無しに異世界の森の中とかよりもずっと優しいじゃん。


 画面を見ると名前と地球によく似た星が並んでいる。

 この一つ一つが地球とは全く別の惑星の世界って事なんだよな?

 一つ二つではなく結構な数の星が並んでいる。


 これが全部そうなのか。

 世界ってこんなにも沢山あったんだな。


「それじゃあ説明に移ろうかの。まずは画面を操作して好きな世界を一つ選択せよ。操作方法はお主の世界の技術レベルに合わせておるから容易じゃろ」


 出現したスクリーンは枠ぶちがないだけで画面に触れると感触がある。

 続いて指の動きに合わせてスライドする。

 すると画面が指に合わせて移動した。


 画面の技術は操作自体はスマホと同じって事か。

 これなら問題なく操作できそうだ。


 問題があるとしたら、


「その前に一つ確認させろ」


「なんじゃい早々に」


「この選択転移に時間制限はあるのか」


 これだけの星の数ある異世界を時間制限有りで見ていたらとてもではないが全部見れずに終わる可能性大だ。

 一つの世界に掛けられる時間も限られたものになってくる。


「心配せんでも時間制限はないぞい。しかもこの空間にいる間は歳を取る事もない。お主の気が済むまで存分に悩むが良いぞ」


 時間制限なしか。

 いよいよ転移者に配慮した転移方法だな。


 それなら言われた通りゆっくりと自分にあった異世界を選ばせてもらおう。


誤字脱字、シナリオの感想、意見、疑問点などありましたら随時対応するのでご指摘お願いします。

ブックマーク・評価を貰えますと作者としては大変嬉しいので面白いと思われましたらよろしくお願いします。

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