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18話 愚者の一撃

 魔王ブローの自爆魔法『爆炎陣』を食らったにも拘らず死ななかった。

 全身の皮膚が焼け焦げて指一本動かす事が出来ず、常に痛みに襲われていて、正常とは言えなかった。

 それでも目を開ければまだ玉座の間の風景が見えている。


 なぜ俺は生きている。


 『爆炎陣』は中級魔法に該当する。

 直撃しているし、術者は魔王ブローだ。普通の爆炎陣よりも威力は高かったはずだ。

 どう考えても即死の攻撃。ギリギリHPが残りましたなんて都合のいい事が起こったとは考えにくい。


 普通ではまずありえない。

 ……つまり普通では無理な事で助かったという事か。


 そういえばゲームの根性とかガッツみたいなスキルを取っていなかったか?

 名前はなんだったっけか?


 確かことわざみたいなスキルで数字がついた一石二鳥? 朝三暮四? 五臓六腑? 七転び八起き? 

 9……。



 【九死に一生】

 一撃で死んでしまう攻撃に対して命を繋ぎ止める。



 確かこのスキルだ。

 これが発動して一命を取り留めたんだろう。


 今の今まで忘れていたけど。


 このスキルはレアスキルだけど発動条件が分からず、一体HP何%以上必要かも、どれぐらいの割合で救ってくれるのかも、そもそもステータスに能力値が書いていない。更にそれら条件が書いてあったとしても能力値が分からないんだから「使い勝手が運だ」、と期待せずにいた。

 もし暗殺者に寝首をかかれた時の為に発動してくれたらいいな、とそんな安易な理由で一応取っておいた。

 そのスキルが期せずして今発動した。


 生きていてよかったと思う。誰だって死にたくない。

 ……ただし助かりぞこないになるのでなかったらではあるけど。


 この【九死に一生】というスキルが助けてくれるのはあくまでも一命を取り留めるだけ。攻撃のダメージがゼロになる訳でもなければすぐさま戦闘を終了してくれる訳でもない。

 身体の状態は死に体のままだ。


 こんな状態では戦うことはおろか、自力で逃げる事もできない。

 つまり助かる見込みがなければ全くの無抵抗で二度殺される様な物だ。


 まさに俺の今の状況のように。


 視界はまだ十分に回復していないけど魔王ブローがかなりのお怒りである事は分かる。

 これで見逃してくれる可能性は無いだろう。

 助けてくれる者が現れる可能性もないし、この場を切り抜けられる都合のいいスキルもない。

 完全に助かり損である。

 

 そう状況分析している間に魔王ブローは拳を振り上げる。

 また拳で殴る様だ。

 それも先程の様なただの殴るではなく、魔王ブローの能力の纏った本気の拳。


 どう考えても嫌な予感しかしない。


 こんな何の抵抗もできない相手にそんな技を使うなよ、と叫びたかったが、未だに声が戻らなかった。


(……今度こそ本当に死ぬな。まさか死ぬ思いを二回もさせられるなんてな。……そういえば死んだら球体(かみ)が魂を拾ってやるとか言っていたな)


 一度死を覚悟した分、余裕ができたのかもう走馬灯を見る事はなく、そんな、いらない事を考えてしまう。

 魔王ブローの拳が俺へと放たれる。

 俺は死を覚悟して目を閉じた。


 そう。この時は本気で死を覚悟したのだ。


 だが目を閉じてもいつまで経っても痛みはやってこず、恐る恐る目を開くと魔王ブローは球状の障壁に閉じ込められて、中では必死に脱出しようと魔王ブローが障壁に向かって攻撃をしている。

 俺を殺す時に使った技だけでなく、最強の技まで使って本気で。


 それでも障壁はびくともしないという信じられない光景が広がっていた。


 暫く俺は何がどうなっているか分からなかった。

 俺は何もしていない。

 誰かが助けに来たのかとも思った。

 だが状況が進むにつれて次第となぜこうなったのか理解できて来た。


 レベル1の俺が魔王ブローに勝負を挑むことを選択させた重要なスキル。



 【愚者の一撃】

 相手とのレベル差が開いている程威力が上昇する効果ダメージを与える。



 レベル差の相手に対してのみ強大な威力を発揮するスキル。


 いや強力は言い過ぎか。

 実際の力の差に対しての攻撃力の上昇率が本当に微々たるものだ。レベル差が1や2ではまず発動せず、10程度では下位スキルの上昇よりも劣り、100レベル差がついてようやくまともなダメージ量となる。

 更にレアスキルの通常取得方法は、スキルツリーを極めるか、レベル100を超えるかのどちらかしかなく、【愚者の一撃】の取得方法は後者である。

 レベル100ともなればそれなりに強者として分類されて、100以上も差がある格上と戦うことなどまずない。更に例えそれほどの強敵と戦う場合があったとしても、威力は精々戦闘でいつも使っている技よりも多少強いか同等の威力でしかなく必殺の一撃とはなり得ない。

 言い換えれば使い勝手が悪い上にレベルが上がるにつれて使い道のなくなるゴミ一直線スキルだ。


 だがレベル1で転移しなければならない俺にとっては最も有用なスキルであった。


 【愚者の一撃】の御蔭で転移直後に高レベルの相手(魔王)を倒して大量経験値を得て一足飛びにレベルアップする大物食い(ジャイアントキリング)計画を実行に移す事が出来た。


 この一撃を強化するために【窮鼠猫を噛む】や【苦し紛れの一太刀】、【窮余の一策】、後は【火事場の馬鹿力】や【最後の悪あがき】といった絶体絶命や劣勢な状況によって発動する攻撃力を飛躍的に上昇させるスキルを大量に取得して少しでも勝率を上げる編成を組んでいる。

 こういったスキルは効果の重ねがけが可能だから何十倍にも効果が上乗せされているはずだ。


 そんなこの計画の最大の問題点。

 それが発動条件である攻撃を当てる事。

 だからあんな必死になって魔王ブローに近づいて一撃を入れようとした訳だ。


 ……俺が一体どうやって一撃を入れたのか分からないが、兎に角魔王ブローに俺の攻撃が届き、発動する事が出来たのだろう。


 そして不安点は発動した効果の内容。

 このスキルは他のスキルとは違って発動した際に起こる効果内容がその時々で変わるのだ。


 魔王ブローが障壁内から出ようと技の猛攻を浴びせてもビクともしないのには称賛する。

 だが防御ばかりで魔王ブローにダメージを負わせているようには見えない。

 もしかしたらここまま終わってしまうのかもしれない。俺は障壁がこのまま消えてしまうのではと気が気ではなかった。


 

 そこから状況は時間の経過とともにどんどんと好転していった。

 終始攻撃を続けていた筈の魔王ブローが急に攻撃を止めてから障壁内に渦のようなものが渦巻き始め、魔王ブローが劣勢になっていった。

 次第にダメージも負い出して攻撃も鈍っていき、最後には大爆発が起こった。


 外にいる俺には一切影響を与えないので正確には分からないが、素人目にも魔王ブローの必殺技以上の威力はあると分かった。

 中にいる魔王ブローはただでは済んではいないだろう。


「ハハハ……凄いなこりゃあ」


 身体の痛みに耐えながら俺は笑った。


 障壁内部の爆発が収まると、魔王ブローがあれほど攻撃して壊せなかった障壁が泡になって消えていった。

 障壁が無くなると内部に溜まっていた煙が外部に流れていき、見えなかった内部の様子が露わになる。


 内部にいた魔王ブローは倒れていた。

 あの巨体が横たわった状態でピクリとも動かない。


 見るからにボロボロだが先程の爆発でも原形を保っている魔王ブローの肉体。

 無事ではない。

 しかし俺の視点からではそれ以上の事を判断する事が出来なかった。


 死んでいるのか、それとも身体が動かない状態や気絶しているだけで生きているのか。

 もし生きているのだったら俺には打つ手はない。


 今度こそ俺の完全敗北となる。


(……というか、どうやって確認すればいいんだ)


 この視点から確認が取れないなら確認しに行くしかない。でも俺は身体が動かない。

 このままではずっとこのままの大勢だ。


「……んっ」


 ――――動いた。


 魔王ブローではなく、俺の身体の方が。


 先程まで指先一つ動かす事が出来なかったはずの身体に力が入るのを感じて手の平で地面を押してみるといつも通り体を起こす事が出来た。

 身体を確認すると『爆炎陣』で全身焼け焦げになっていた筈の皮膚が元の肌色の肌に戻っている事に気がついた。

 それだけではない。

 焼き切れた神経も、ずっと感じていた痛みも嘘のように消えていた。


(……そうだ魔王ブローは)


 まずは魔王ブローの状態からだと立ち上がって全貌が見える位置まで移動して生死の確認を行った。

 移動をして魔王ブローを見るとすぐに生死が分かった。


 倒れている魔王ブローの状態は俺の視点から見た光景から予想よりも酷かった。

 まず四肢の右腕は上腕から引きちぎれており何とか薄皮一枚で繋がっている状態。反対の左腕は肩から指先にかけての多重骨折であらぬ角度で曲がっているし、右脚はプレスされたかの様に押し潰され、左脚は肉が剥かれて骨のみとなっていた。

 一体どんな力が加わったらこんな多様な状態になるんだ。


 それだけ四肢で必死に抵抗したんだろう。

 体幹は所々凹んでいるものの大きな外傷は見られない。


 そして最も酷いのは顔面だ。

 顔の半分が無くなっている。

 たとえ胴体の方が無傷でも助からないと断言できる程激しく損傷していた。

 半分になった顔の横には自慢だった一番大きな角が根本から折れて転がっている。


 俺はその角に近づいて触ると、角から威圧のようなものが感じられた。

 折れて尚脅威を感じさせるとは本当にとんでもない敵だったと実感する。


 と見分が終わって結論を出す。

 間違いなく魔王ブローは死亡した。


 それが分かれば自ずとどうやって自分の身体が回復したのかも推測できる。

 魔王ブローを倒したことによる大量の経験値の取得。

 つまりレベルアップだ。


 レベルを上げるには修練や鍛錬、摸擬戦でも上昇させる事が出来るが、圧倒的に戦闘を行い敵を倒した場合に多くの経験値が入ってくる。

 そしてレベルが上がると僅かだが身体能力やスキルが上昇する。

 俺が回復したのはこの身体能力の上昇だと思う。


 ステータスを確認しないとどれだけレベルアップをしたのか分からないが、HPが全快するほどレベルが上がったのだ。

 レベル1の俺が魔王を倒せばそうなっても可笑しくはない。

 レベルが近い勇者ですら魔王を倒せば大量レベルアップが見込めるからな。

 この結果は当然と言えば当然だ。


 それに【経験値上昇】Lv極、【戦闘ボーナス】Lv極、【強敵殺し】Lv極などの経験値増幅系も多数取得しているしな。


(あとはこの魔王ブローの死体を収納しないと)


 アイテムボックスを発動する。

 どうやって収納すればいいのか分からず取り敢えず念じてみると魔王ブローの死体は吸い込まれるように消えていった。

 そしてアイテムボックスに魔王ブローの死体が入ったことを確認できた。


(なるほど、取り出しはここから外に出すイメージをすればいいのか。それに大分容量が上がっているな)

 

 死体の処理も終わった。

 これでようやく魔王ブロー戦が完全に終わったと言える。

 俺はやり切った感からホッと一息ついた。





 ――――グシャリッ






 …………そして肉が割けるような音と共に身体に刃が生えた。

 【窮鼠猫を噛む】

 弱者が強者に逆襲する際に攻撃威力が加算される。


 【苦し紛れの一太刀】

 相手への攻撃が効いていない程威力が加算される。


 【窮余の一策】

 どうしようもない苦し紛れの攻撃を急所攻撃に変える。


 【火事場の馬鹿力】

 体力がギリギリの時、残りの体力値が少ない程攻撃力を何倍にも増幅させる。


 【最後の悪あがき】

 死にかけている状態ではなった一撃を何倍にも増幅させる。


 【経験値上昇】Lv極

 経験値の獲得量を増やす。


 【戦闘ボーナス】Lv極

 戦闘の内容によって身体能力に配当を加える。


 【強敵殺し】Lv極

 自身のレベルよりレベルが高い相手を倒した場合そのレベル差に合わせて経験値が上昇する。


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