12話 問題点
フィリアン・テイルは陸続きの巨大な大陸の世界である
その内人族は5分の3の広さにいくつもの国を作っていた。
大国と呼ばれるのが3か国。
中規模の国が10か国程度。
小国が20か国はあったようだ。
魔族の勝利が確定した後、その国々を魔王達が自分の支配化にするべく襲撃し、全ての国が魔王の支配化となった。
勇者ユクスが一体も魔王を倒さなかった事もあり、一か国に一体の魔王が支配しているような状態だ。
エリカーサ王国はこの中の分類では中規模の国に該当する。
大国とはどの国とも接しておらず、必ず一か国以上間に国を挟んでいる様だ。
面している国は中規模の国が一か国、小国が二か国。あとは海に面している。
戦争敗北の敗因になった国。
そう聞くとその国は連合軍にとって重要度の高い大国だ、と勘違いしてしまうが、実際には中規模でも小さい国。とてもこんな国の判断の所為で戦争に大きな影響を与えたのが信じられない。
領土の残りの5分の2は魔族領土だ。
エルフとドワーフはどこに行った?
そう思って調べてみると、エルフとドワーフなどの他の種族はどうやら人間の領土内の人間が住みつかない森の奥地や山脈の中に住んでいる。
一か国で集まるのではなく、各地域に100人単位の集落をつくって生活していたようだ。
だが現在、エルフもドワーフも一か所に集結しているらしい。
集まっているのは戦争で交渉や指揮を任されていた者達の住処でエルフは帝国、ドワーフは聖王国の中にある様だ。
どちらの種族も魔族の脅威を感じて攻められた場合に対抗する事を考えて集まっている。
しかし自分達から打って出る事は考えていない。
他種族と力を合わせても魔族には勝つ事が出来なかった。今更種族が一か所に集まったんだから反撃しようとはならない。
つまりいつか来る終わりまでみんなで一緒に居ようとしているだけだ。
「エルフとドワーフが手を組むことは?」
「ないでしょう。エルフとドワーフは考え方が根本的に違います。連合軍創設時も人族が間に入って仲を取り持ったから上手くいったようなもの。彼らだけでは交渉しても決裂すると思います」
戦後の領土で見ると魔族70%、エルフ10%、ドワーフ8%、精霊・獣人合わせて10%、人間の領土は全て魔族に奪われているので0%。
領土だけ見ても力関係がよく分かる。
これを見る限り転移先をエルフやドワーフの住処にしても駄目そうだ。
人間は戦争中に他種族を囮にして逃げ延びるという行為を行った。
エルフはその所為で重要人物を魔族に攫われて、ドワーフも逃げるのに遅れて多くの命が奪われた。
その為、人間を恨んでいてとてもレベルが上がるまで匿ってくれる雰囲気ではない。
恨みの少ない獣人族は人間と同じで住処が見つかりやすく、既に大きな集落が滅ぼされてしまっている。
匿ってもらってもレベルが上がるまで持つのか微妙だ。
精霊族に至っては人間が入り込めないので匿ってもらいようがない。
つまり安全にレベルを上げられる場所はない。
それだけ世界を調べても答えは変わらなかった。
人間の安全度1を俺は少し舐めていた。
匿ってもらうのが無理となると隠れてレベルを上げるしかない。
しかし魔族から隠れて動くとなると魔族の目の届きにくい森の奥地や山の頂上など街から離れていた方がいいのだがそういう場所は強い魔物が生息している。
レベル1の俺が勝てる魔物が生息しているのは、人間領の大きな街の周辺。
魔族の目と鼻の先で隠れながらのレベルアップしかない。
はっきり言って無理だ。
そうなるとやっぱりレベル1をどうにかするしかない。
……堂々巡りだな。
「鳥、なんかいい場所はないのか?」
『う~ん、そうですね。おすすめは出来ませんが、生き残っている人間のいる場所はどうでしょうか?』
「生き残っている人間がいるのか!?」
魔族の手を逃れて生活している連中がいたのか。
魔族に今まで見つからずにいるという事は隠れ家的な拠点があるって事だよな。……匿ってもらえそうな同族……いいじゃないかっ! それがなんでお勧めできないんだ?
『その……生き残りはいます。ですがそういった者達は早々に国を裏切って逃げ出した者達なのです。そういった底辺の集まりに転移しても……』
鳥の説明ではよく分からないので実際にその生き残った者達を見せてもらう。
……うん、これは駄目だわ。
上手く匿ってもらえたとしてもパシリとしてこき使われて強くなる前に殺されるのがオチだ。
やっぱりレベル1スタートの問題はスキルでどうにかするしかないな。
◆
フィリアン・テイルの主神様の分身体にして"鳥"のあだ名をつけられたバードで御座います。
この名前ですか?
これは主神様からこちらに送られる前に付けられた名前です。
どうも私に名前を付ける方はネーミングセンスを疑いたくなる方ばかりです。
分身体に名前を与えられることの方がおかしいので貰えただけでももの凄く嬉しく思っていますが。
……と、私の名前の事などどうでもいいのです。
それよりも私は主神の命令で世界に来て下さる転移者に自分の世界の説明を行う様に、という大役を頂き、プロフィールに宿ってプロフィールを開いて詳細まで見てくださる方を待ちました。
随分と長い間待ちました。
たまにプロフィールが開かれるのですが、詳細まで開く者は皆無。
それがようやくお一人詳細まで開く方が現れました。
詳細が開かれ、私はプロフィールの中から出る事が出来たのです。
そして使命に従って持てる限りの説明をしました。
それはもう丁寧に。
その甲斐あってか彼は転移してもいいと言って下さったのです。
一回のチャンスを確実にものにする。流石は私です。
しかしまだ油断できません。
自分の神の世界を悪く言いたくはないですが、私の主神の納める世界の条件は最悪です。
その所為で現在転移者候補様はスキル欄とにらめっこして随分と悩まれています。
このままでは転移を辞退されるかもしれません。
どうか踏み止まって下さい、と祈っております。
それで私は凄く暇です。
質問はたまに受けるのですが、それ以外は全てご自分で調べてしまって私の出る幕がありません。
もっと私に質問してもいいんですよ、と言っても改善は見られません。
ですので私の暇つぶしも兼ねて転移者候補様の悩まれているスキルについて説明したいと思います。
まず今回私共が提示させていただいたスキルポイント5000000pt。
これがどれだけ多いのかと言いますと、私の主神が出せる上限となっています。
スキル選択に表示されているスキルの中で一番高いスキルでも500000pt。
初級の魔法や下位の身体能力強化などでしたら5ptで取得可能です。
つまり取得できないスキルというものは存在しません。……流石に全てのスキルを取ることは出来ませんよ。
スキルの数は膨大ですからので。
スキルの分類はまず『戦闘用』と『それ以外』から始まります。
そして『戦闘用』を進みますと身体強化系、戦闘補助系、戦闘外系に分布していき、身体強化系を更にタップすると肉体強化と魔力強化に行きつきます。
そこまで行ってようやく肉体強化をタップすると【下位筋力強化】や【下位速度強化】といったスキルが表示されるのです。
ちなみに今の説明が最も枝分かれの少ないルート。
『それ以外』の方ですと日常関連や職業関連で大量に枝分かれしていきます。
ですから神の意図でも働かない限り世界中探しても同じステータスの者はそういません。
それこそLvまですべて同じという事は99%ありえないと断言できます。
そんな膨大なスキルの中から都合のいいスキルを探し出そうとしているのですからそれは大変な事でしょう。
私としても手助けをしたいと思っているのですが、どういう方向での解決を望んでいるのかも決まっていない状況では意見の出しようがありません。
「ではどんな方向でもいいとしてじゃ。レベル1で転移しなければいけんデメリットを解決する考えはあるのかの?」
『…………』
「なるほどの。こりゃあ小僧も難問を抱えたもんじゃわい」