第2話 過去の過ち
湯船のお湯に口まで浸かり、ぶくぶくと息を吐き出す。白井に逃げられてしまった。真心は白井が何故あんなにも怒っているのか見当が付かなかった。
(明日、優奈に聞いてみよう)
そう決めて、息を吸って頭まで湯船に沈んだ。
正門をくぐる。
「おはよう」
後ろから優奈の声が聞こえた。
「優奈、白井さんのことなんだけど…」
「真心、朝最初に会ったらおはようでしょ?」
なんだか幼稚園生みたいである。
「ごめん、おはよう、優奈」
「ええ。おはよう、真心。それで、どうしたの?」
「白井さん、なんで昨日怒ってたのかな?連れ戻さないと。ソフトボール出来ないんでしょ?」
「真心は優しいのね、私のために」
「そんなことは良いよ。今大事なのは白井さんが怒っていた理由」
「そうね……実は私、少し分かる所があるの」
「え?」
優奈は賢い。昨日からの付き合いだが、それくらいは分かる。昨日、みんなと別れるまで白井のことを引きずっていた真心を宥めたのは優奈だ。そんな彼女が、白井のように感情を爆発させる所は想像するのが難しい。
「多分彼女は自分の能力に絶対的な自信を持っているのよ……私が以前そうだったように」
「絶対的な…自信?優奈がそうだった…?」
「そう。私のように。ある時まで私は自分の能力に過剰な自信を持っていたわ」
「どうして?」
「今考えると恥ずかしいのだけれど、自分の能力が1番強くて価値が大きいものだと勘違いしていたからよ」
「優奈の能力は強いよ」
他人の能力を視つけることが出来るのだから。
「ええ、そうだと思うわ。でも1番じゃない。ある時、全ての能力に価値があると気づいたの」
「全ての能力に価値が…」
「真心の能力も、蒼衣、花、琴葉、光、白井さんの能力、全部、全部価値があって美しいの。白井さんは、それに気づけていないのだと思うわ。だから私は教えたい、一緒に気づきたい。みんなの能力の美しさを」
「美しさ?」
「そう、美しさ、」
「能力を得た運命の美しさ。もう逃げられないものを得てしまった美しさ」
「ちょっと、分からないかも。ごめん」
「いいのよ、私の考えなんだから」
優奈は続ける。
「でも私が1番美しいと考えているのは真心の能力よ。それだけは覚えておいて」
「分かった。あまり納得出来ないけど覚えておくよ」
「ええ。さ、今日の放課後に白井さんの所に行きましょうか」
「うん。琴葉さんも連れていかなくちゃね」
優奈は意地悪そうにニヤリと笑う。
「彼女がいないと白井さんには太刀打ち出来ないものね。ビックリしたわ。白井さんは時間を止めるのにおバカさんは気にせず走って行っちゃうんだから」
「ええっ」
真心の顔が熱くなる。そんな風に映っていたとは。優奈はそんな真心を置いてスタスタと玄関に歩いていく。どうやら校門前で長い時間話し込んでいたようだ。
「ううう…」
夢中になると周りのことが目に入らなくなるのは考えものである。
「優奈、待ってー」
遠ざかっていく友達の背中を追いかけた。