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第1話 世界で1番美しい能力

私は放課後、委員会の仕事で残っていた。やっと仕事が終わりカバンを持って教室を後にした。

夕焼けに照らされた廊下を歩く。紅く染まった廊下はどこまでも続いているように見える。


「持田さん?」


いきなり声をかけられて持田真心もちだまこは飛び上がった。振り向くと見覚えのある人がいた。同じクラスの皆見優奈みなみゆうなが笑みを浮かべながら真心を見ていた。

「皆見さん、どうしたの?」

「あのね…驚かないで聞いて欲しいんだけど」

「うん、何?」


優奈はもじもじしながら言うかを迷っていた。が、意を決したようにバッと顔を上げ、こう言った。

「持田さん、あなたは能力を持っているの」


「え?」


皆見さん、大丈夫だろうか。マンガの読みすぎなのだろうか。それか疲れている?心配になってきた。


「だから驚かないでって言ったじゃない!」

「皆見さんどうしたの?疲れているの?今日うち泊まってく?」

「それもいいけど今はその話じゃないわ。持田さんの能力の話よ」

「いや、私が能力者?能力者なんてこの世にいないでしょ」

「でも実際能力者なのよ。私視えるの」

「いや、そんなこと言われても確証が無いよ」

「うっ…でもそうなの、信じて!」

「うーん、じゃあ私は何の能力を持っているの?」

そう聞くと彼女は綺麗なビー玉を見つめるような瞳で真心を見た。


「持田さんが持っているのは私が出会った中で1番美しい能力…」



「努力する能力」



「努力する…能力…?そんな当たり前のことしか出来ないの?全然美しくないよ」

「そんなことない、努力はいい事よ」

「それはそうだけど…」

「努力が苦手な人もいるの。途中で止めちゃう人もね。でも持田さんは努力を止めない、止めれない」

「それって努力家なだけじゃないの?努力家ならたくさんいるよ」

「違う、もっと強く努力するの」

「うーん、よく分かんない」

そう言うと優奈はくすりと笑って「それでいいの」と言った。

ますますこの人のことが信じられなくなってしまった。この人は私を騙しているだけなのではないのか?

疑いの目でジロジロ優奈を見ていると彼女はくすぐったそうに笑った。


「あ!まだ本題が残ってた!」

「え?」

あんな重大発言をしておきながらあれは本題じゃないのか。

「持田さん、ソフトボールに興味ない?」

「ソフトボール??野球みたいなの?」

「うん、そうよ。で、どうなの?」

「別に興味はない…なんかごめん…」


「そう!じゃあ一緒にやりましょ!」

「え!?人の話聞いてた!?」

「ほらほら!楽しいからやろ?お願い!」

そう言いながら彼女は大きな瞳をキラキラ輝かせた。

う…そんな目で見つめられると頷かない訳にはいかないじゃないか。真心は基本的に押しに弱い。

「…いいよ」

「ホント!?やったー!ありがとう、真心!」


「え?」


「?どうかした?」

「なんでもないよ」

「そう」


真心は呼び捨てで呼ばれるのは生まれて初めてだった。くすぐったくて嬉しい。


「でも確か野球って9人でするんじゃない?」

「お!よく知ってるね!大丈夫、目星は付けてあるわ」

「誰?」

「この市内の能力者よ」

「ええ!?まだ能力者っているの?」

「そうよ、良かったじゃない。仲間が増えて」

「いや、まだ私、能力のこと信じた訳じゃないからね?」

「大丈夫よ、自ずと分かってくるわ」

「というかどうやってその人たちと会うの?」

「今日の6時に町内グラウンドに呼び出してあるわ」

「用意周到だね」


そんなことを話しながら歩くこと10分。グラウンドに着いた。まだ5分前なのに数人の人影が見える。

「あの人たちかな?」

「そうよ、感じるもの」


徐々に人影に近づいていく。そこには5人の女の子がいた。

「私が皆見優奈よ、よろしく」

優奈が5人に向かって挨拶をする。

森野蒼衣もりのあおい、よろしく」

背が高くて綺麗な子が言った。

仲川花なかがわはなです〜よろしくお願いします〜」

ほわほわした可愛い女の子だ。

外海そとうみ琴葉ことは…」

サラサラのストレートの髪を持つ少女が言う。

二宮光にのみやひかりだ」

目を前髪で隠した女の子が言った。

白井しらいだけど」

ぶっきらぼうなツリ目の子。

「下の名前は?」

優奈が聞く。何も答えない。

「まあいいわ」

優奈はにっこり笑った。

「も、持田真心でしゅ、よろしくお願いします!」

盛大に噛んだ。恥ずかしい、埋まりたい。優奈と蒼衣と花が笑ってくれたから助かった。


「集まってくれてありがとう。前に話した通りこれから私たちはソフトボールチームを組みます。みんながいなかったら組めなかった。本当にありがとう」

優奈が嬉しそうに言う。

「実は後2人いるの。彼女たちとこの7人の9人でやっていきます、よろしく!」

みんなが拍手する。いや、みんなではない。白井が不満そうな顔で優奈を見て言い放つ。

「気持ち悪いのよ!そんなことしなくても私は強い!」

強い?どういうこと?


白井は勢いよく右手を振り下ろした。次の瞬間、白井は20メートル程向こうにいた。

「え!?嘘!?」

真心は思わず叫ぶ。しかし20メートル先にいたのは白井だけではない。琴葉が白井を追いかけていた。頭が追いつかない。横にいつの間にか優奈がいた。

「白井は3秒間時を止めれるの。白井だけは動けるのよ」

「じゃあ何で琴葉ちゃんは…」

「琴葉は相手の能力を打ち消すことが出来るの。こんなこともあろうかと私が能力を使うように頼んでおいたの」

もうわけが分からない。何でもアリなのか、能力というものは。


「何でもアリってわけでもない」

蒼衣が言った。

「へー、そうなんだ………は!?」

「何で分かるの!?私の考えてること!」

「分かるよ、そういう能力だから」

蒼衣はあっけらかんと言う。

「でも私は相手と同じ気持ちにならないと意識を共有出来ない」

「私の考えてる事なんて私にしか分からないのに何で?」

「真心の考えてる事なんて顔見れば分かる」

ふふっと蒼衣は笑った。可愛い。とても可愛い。真心が男なら一瞬で恋に落ちている。


いや、今そういう事態ではない。白井が走って逃げてしまった。何であんなに怒っていたのか分からない。何であんなに強さに固執するのかも分からない。分からないなら分かればいい。


「……………追いかけなきゃ」


そう言うと真心は走り出した。

「え!?ちょっと待って真心!」

優奈が叫ぶ。真心には聞こえていない。白井と琴葉との差は広がるばかりだ。

「ああもう!光!!真心をよろしくね!」

優奈が光をキッと見る。一瞬ビクッとした後、光は走り出した。


いや、走り出したという表現は違うかもしれない。目にも止まらぬ速さで遠ざかり始めた。そしてあっという間に真心に追いつき、彼女を抱き抱えたまま再び進み始めた。ぐんぐん白井たちとの差を縮めていく。


優奈は花と蒼衣とその様子を見ていた。


正直、想像以上だった。


白井と琴葉は時間を超越しているのに、3秒のアドバンテージがあるのに、光の方が明らかに速い。彼女は体を思い通りに動かす能力を持っている。真心を抱えながら走る姿は駿馬のようだった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!待って光ちゃん速いぃぃぃ!!」

「…叫ばないで」

「分かったから!スピード落として!」

「……」

光は無言でスピードを上げる。真心がうるさいが知ったことではない。

10メートル程先に2人が見えた。

「…行くよ!」

「は?」


思いっきり真心を投げ飛ばした。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

真心は放物線を描きながら2人に一直線に飛んでいく。

「手ぇ伸ばせ!!」

光が叫んだ。


「手ぇ伸ばせ!!」

光の声が聞こえる。真心の体は2人に一直線だ。怖くて手が伸びない。

でも光がここまで運んで来てくれた。真心が走ったところで絶対に追いつけないことは分かっている。でも走るしかなかった。真心の自分勝手に光は付き合ってくれた。真心が飛んでいる間1回も時間が止まっていない。真心は有り得ない速さで飛んでいるのだろう。

「…絶対…掴まなきゃ…」

白井の肩に手を伸ばす。


「掴め!!」


光の声が聞こえた。手に力を入れる。白井の肩を掴んだ。

白井が倒れる。その上に真心は落ちる。白井がなんとも言い難い情けない声を上げた。なんか申し訳ない。

すぐに琴葉が追いついた。真心も立ち上がる。

「白井さん、ごめ…」


「何で!?何で私に追いつけたの!?」


白井は物凄い形相で真心を見る。怖い。

「だって光ちゃんが投げてくれ…」

「うるさい!!私は強い!」

話が噛み合わない。白井はまた立ち上がって逃げようとする。

「待って!」

真心は白井の腕を掴む。

「うるさい」

白井はもう片方の腕を振った。気がつくと白井は見えなくなっていた。


「真心、お疲れ様」

優奈が近づいてくる。

「どうしよう、逃げられちゃった。ごめん」

「いいのよ。今日はもう帰りましょ」

「ごめんね…私…何で能力者なんだろう…もっと使える能力が良かった」

「言ったじゃない、真心の能力は世界で1番美しいの。ほら、立って。次があるじゃない」

優奈が手を差し伸べる。その手を掴んで立ち上がった。


「私、絶対に諦めないから」


真心が言った。


「そういうとこよ」


優奈が笑った。

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