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補助魔道士ですけど、なにか問題でも?①

「あいたたた」

 尻もちをついたのだろう、おしりの痛みを感じながら立ち上がる。周りを見渡すと、そこは森の中だった。

「え?」

 普通の女子高生で、いつも通り学校へ登校していたはずが、何故かこんなところに。思い出そうとしても、記憶から抜け落ちてるみたいだ。

 持っていたはずの鞄どころか、ポケットに入れていたものすらなく、着の身着のままで森の中に放置されたらしい。ただ身体の違和感もなく、何でこうなっているのかわからない状況だった。

 とりあえず、森を出なきゃと、歩き始めた。

 小一時間ほど歩くと、生活感のあるログハウスを見つけた。ただ、見る限り、電気も水道も通ってなさそうで、私道にいたっては舗装どころか轍すらなく、ここが日本なのか怪しく感じてしまう。こんな山奥で車なしってないよねぇと思っていると、タイミングよく、ログハウスの住人が出てきた。ここで驚いたのは、その住人が、ハイジのおじいさんのような人物であった。あれ?ここ日本だよね?え?と少し混乱しつつも、意を決して話しかけた。

「すいません、ここどこですか?」


 かつての英雄の一人であった、ラグナウは突然声をかけられて驚いた。

 なぜなら、この深い隠者の森で自分以外の人間に声を掛けられるとは思ってもいなかったからだ。この隠者の森は魔獣も多く、そこに居る人間は世捨て人か犯罪者ぐらいであり、両者は他者との接触を嫌うものである。

 さらに声を掛けてきた人物を見て驚く。この森に住む魔獣は、ランクc以上であり、単独で森を走破するには冒険者ギルドランクがAないと厳しいのだが、目の前の地味な少女は明らかに素人にしか見えなかった。擬態かとも思ったので、鑑定スキルを使用したところ、ランクはなく、レベルも3とぶっちゃげ雑魚だった。

 と、そこで、彼女の持つスキルに気がついた。異世界言語とあった。なるほど、迷い人か、と理解した。

 迷い人とは、運命のいたずらか、神の導きかはわからないが、突然異世界に迷い込んでしまう人物のことだと彼は考えている。彼らは異世界言語というスキルと何かしらのギフトを持っている。なぜ知っているかというと、ともにパーティを組んでいた仲間がそうだったからだ。

 ならば、保護せねばならんだろうなと、話しかけてきた人物に答えた。


「ここは隠者の森だよ。」

 聞いたことのない場所だったので、

「それって、何県ですか?」

 ときくと、帰ってきた答えは、

「うーん、ここは国にすら属してないんだよね。」

 だった。紛争地や南極以外では聞かない回答で頭が真っ白になる。続けて、

「おそらく、君の知っている世界ではないよ。」

 と告げられた。ど、どういうこと?


 とりあえず、おじいさんにログハウスに招待され、詳しい話をしてくれた。どうやら私は異世界に飛ばされてきたらしい。おじいさんの知り合いにそういう人がいた事を教えてもらった。ただ、元の世界に戻る手段は不明だそうだ。父と母や、少ないけど仲の良かった友人と会えないと理解し、静かに涙がこぼれた。おじいさんはそんな様子を優しく接してくれた。しばらくして、ある程度気持ちが落ち着いてきたので、この世界のことなどを教えてもらうことになった。


 それから気がつけば一年近く経っていた。おじいさん、いや、お師匠様にこの世界で生きる術を教わっていた。最初は小説みたいとはしゃいでいたが、現実は厳しいものだった。家の畑に出没する兎ですら強く、途方に暮れつつあったが、運良く、私には「マナ循環」というギフトスキルがあったおかげで、補助魔道士の適正があるとのことで、その術を教わった。

 この世界には魔法が存在するらしく、派手な攻撃魔法を使いたいと思ったものの、このスキル特性の制限で使えないらしい。というのも、魔法は自身のスタミナを魔力に変換させ、その魔力を大気中に存在するマナに干渉させて発現するらしいのだが、マナ循環持ちが使おうとすると、循環するマナにも干渉して下手すると自爆することになるそうだ。なんて恐ろしい。

 代わりに補助魔法に関しては、マナ循環持ちしか使えないそうだ。そもそもマナ循環持ちは、スキル特性で防御や耐性がもともと高いのだが、さらに循環するマナに強化をまとわせることができるらしく壁役にもなれるうえに、強化魔法のレベルが上がれば、他者にも掛けることができるようになるそうで、ソロでもパーティでもそれなりに生きていけると教わった。また、強化魔法が他者にかけられるようになれば、弱体化魔法も使えるようになる、正しくはスキル特性で強化・弱体化の魔法はもともと使えるそうだが、他者に掛けれない弱体化魔法は意味がない、ってことらしい。なるほどなぁと思いながら、ある程度使いこなせるまで修行していたわけだ。おかげで、強化・弱体化魔法は他者に掛けれるレベルまで上げることができた。


 そんな折、お師匠様から、せっかく異世界にきたいるわけで、ある程度の自身を守れる術はあるので、世界を見て回ったらどうか、との申し出があった。お師匠様が言うには、迷い人の多くはこの世界を旅しているそうで、同じ迷い人と出会いやすく、情報を集めるにはその方がいいだろう、とのことだった。現にお師匠様の友人である迷い人も何人かの迷い人と出会っていたとのこと。

 それを聞き、なるほど、同じ境遇の人を探してみるのもいいなとおもい、旅をしてみます、と答えた。

 それから数日準備をして、一番近い街までの道をおそわり、今までの感謝をつたえ、旅立った。お師匠様は餞別にと、旅していたときに手に入れたという白いローブ3枚と薙刀の様な武器と赤いよくわからない素材の盾を渡してくれ、

「大変だが、楽しんでこい、気が向いたら帰ってきてもいいからな。」

 と笑顔で送り出してくれた。

 その笑顔に感謝をしながら、近くの街の方角へ進んでいった。


 ラグナウは、弟子の背中を見送りながら、この一年を振り返り、過去自分しか存在しなかった補助魔道士の後継者を育てられたことを神に感謝した。なぜなら、そのジョブに必須なマナ循環はレア中のレアスキルであり、そのスキル自体が神の祝福と言えるものであったからだ。ただし、彼は、意図して、そのことを含め、多くのことを伝えなかった。なぜなら、そのほうが面白くなるはずだからだ。そう、迷い人の旅とはそういうものなのだ。彼は、彼女の旅が苦楽すべて含め、面白くなるようにと神に祈った。


 二日掛けて森を抜け、ようやく馬車の轍のある道に出た。森の中では弱い魔獣数体と出会ったくらいで、意外とあっさり道にたどり着いた。お師匠様の話だと、道沿いにしばらく歩けば、この森からの防御を管轄とする砦を擁する街があるそうで、身分証を作る意味も込め冒険者ギルドへ行きなさいとのことだった。その話を聞きながら、本当にファンタジーの世界だなぁと感動した。

 てくてく、てくてく道を歩いていくと、畑や放牧の光景が周囲に見えてきて、遠くには城壁というのだろうか、壁で囲われた建物がみえてきた。どうやら、目的の場所のようだ。

 近づくにつれ、思った以上にしっかりした壁で、高さは五メートル弱はありそう。お上りさんのごとく、キョロキョロと見渡していると、

「嬢ちゃん、エフスリーははじめてかい?こちらの門からってめずらしいが。」

 と衛兵から声をかけられた。

 少しビックリしたが、落ち着きを取り戻し、

「あ、はい。」

「じゃぁ、とりあえず身分証をいいかな?」

 といわれ、焦りつつ、お師匠様に言われたとおり、

「持ってないんです。森の中で赤盾に拾われ、育てられました。」

 とやや棒読みで言った。多分赤盾ってのがお師匠様の通り名かなんかだろう。そういえば、お師匠様の名前聞いてないや。そんなことを思っていると、衛兵がやや慌てつつ、

「それなら、冒険者ギルドに任せたほうがいいようだな。担当を呼んでくるから、ここで待っててくれ。」

 と言い、近くの衛兵に言付けをし、小走りで走っていった。


 しばらくして、先程の衛兵が小柄の女性と褐色の男性を連れて戻ってきた。む、胸が大きい。こぶりなことにすこし、すこーしですよ、コンプレックスがあるため、ダメージを受けていると、衛兵が、褐色の男性に、あとはお願いしますと言い離れていき、その男性が、

「赤盾のラグに育てられたそうですが、何かわかるアイテムなどないですか。」

 と優しげであるものの、疑いつつ聞いてきた。お師匠様が盾を餞別にくれた意味を理解し、背負っている巨大リュックの中からその盾をとりだした。

 褐色の男性は目を見開き、息を呑みこんだあと、

「失礼な態度をとって申し訳ありません。私、エフスリーの冒険者ギルドの責任者、山を整えし民・マルフォーです。以後お見知りおきを。」

 と頭を下げた。続けて横にいた女性が続けて、

「リッカ・マクメーンです。よろしくお願いします。」

「宮本茉莉花です。」

 とお互いに頭を下げた。頭を上げたところで、目に付く。揺れてやがる。いや、あれは邪魔なんだ、肩こりの原因なんだ。と強がることにする。

 マルフォーさんが、ギルドまで案内してくれるということだったので、あとをついていくところで気づいた。マルフォーさんの耳がとがっており、ファンタジー種族のエルフだと。すこし興奮した。


 マルフォーは、耳を疑った。赤盾のラグが隠者の森の何処かで隠居しているという噂は聞いたことがあったが、それが事実だとは思っていなかったからだ。

 半信半疑で現場に向かってみると、地味な少女が待っていた。ただし、彼女が本当に隠者の森を抜けてきたのであれば、それ相応の実力者ということになる。見た目と実力の矛盾、赤盾のラグ、その点を考慮し、一つの仮定が浮かぶ。過去二人しかいなかった補助魔道士じゃないのかと。ならば、ラグは彼女に何かしらの関連アイテムを渡しているはずだと。疑いつつ、内心ワクワクしながら、何が出るかなと思っていたら、とんでもないものが出てきた。赤盾の通り名になったヒヒイロカネの盾だった。この盾で、相手の魔法を防ぐと、その魔力を吸収するという伝説を持つ盾だ。要するに、これを預けてもいいと思えるほどの潜在能力があるということか。これは対応を間違えられないなと心の中で苦笑しつつ、補助魔道士の実力を知りたいという、かつての戦闘バカの想いもちらついていた。


「では、マリカさん。ギルドカードを作る手続きをしますので、こちらにお願いします。」

 と連れられてきたギルドにはいり、リッカさんに奥のカンター席に案内された。

 ギルド内は閑散としており、数名いる冒険者はマルフォーに連れられてきた私に注目しているようだ。だれだ、地味って言ったやつ。弱体化するぞ。

「こちらの紙に記入と終わりましたら、こちらのステータス水晶に両手で触れてください。」

 と言われたので、言われたとりにする。名前を書き、年齢を書く。リッカさんがそれを見て、「同い年なんですね」という。同い年でこの差って神様ひどい。軽く精神的ダメージを受けつつ、続けていく。ジョブのところで補助魔道士って書いたら生暖かい目で見られたけど、何で?

 書き終わり、水晶に手を触れる。そういえばステータスって見るの初めてだわ。


 宮本茉莉花 17歳

 レベル20

 体力  1080

 スタミナ1200

 攻撃力   86

 防御力  210


 力  3/10

 魅力 5/10

 知力 6/10

 素早さ8/10

 運  9/10


 スキル

 マナ循環(完全)

 強化魔法(4)

 弱体化魔法(3)


 称号

 祝福されし迷い人


 なるほど。自分が数字化されるって変な気分だけど、これがどうなのかわからないんだよねって、リッカさん引きつった笑顔で固まってるんだけど。

 そんな状況を遠巻きで見ていたマルフォーさんが、リッカさんの肩を揺すって再起動させて、なにか言付けをして、

「よくわかってないみたいだから、説明するのでついてきてくれ。」

 と奥の部屋へ連行された。


「ええっと、なにか駄目でした?」

 と、どうしたものかという表情をしているマルフォーさんに尋ねる。

「駄目じゃないんだ。ただ、とんでもないんだよ。」

 と呆れつつ言う。

「どういうことかわかってなさそうだから、まずは一般的な話をするね。」

 相槌を入れながら、聞くことにする。

「まず、レベル。基本的に25歳までの冒険者で、優秀なものでも、年齢=レベルなんだよ。Cランクに上がるのがだいたいレベルも年齢も25前後。で、それを超えていけるのが天才といわれる人たち。」

 引きつりつつ、頷く。

「次に体力とスタミナ。体力1000超えるのは普通は中級戦士職になれるレベルだから28以上で、魔力はスタミナを変換して使うから、魔術師でも多い人もいるけど、1000超えるのは宮廷魔術師になれる人たちね。それも、レベル30前後だからね。ついでに言っておくとレベル50超えると超人扱いだから。ギルドランクだとSランクの人たちだね。」

「つぎが、攻撃力。これは人並みで安心するんだけど、防御力何これ。えっと、補助魔道士の戦い方に関係あるの?」

「お師匠様がいうには、強化して、弱体化させて、物理で殴る。だそうです。」

「なるほど、なのか?まぁいい。次行こう。素早さもおかしいけど、運がおかしすぎる。一般的にね、一般の話だけど、幸運の女神の加護持ちってあだ名つけられる人の数値どれくらいだと思う?」

「6とか7ですか?」

「いや、5だ。ふつうは2とか3だ。ちなみに私は4で運がいいほうなんだ。」

 あー、と苦笑いするしかなかった。

「スキルは補助魔道士用なんだろうけど、まぁこれもおかしいけどおいといて、この称号は初めて見たよ。迷い人は何人も見たけど、これは初めてだよ。このおかしさはこれが影響したって考えればいいのかなぁ。」

 と困り顔で納得することにしたようだ。

 今回わかったこと。祝福のおかげで、すごいステータスになりましたってことだね。神様、ありがとう。あと、できれば胸にも祝福を!!


 しばらくしたら、リッカさんがカードを手に戻ってきた。

「こちらがマリカさんのギルドカードです。なくすと、手数料とペナルティの奉仕活動がつくので大切にしてくださいね。」

 と営業スマイルでいい、ギルドランクの説明を受けた。

 個人的には身分証としてのカードなので、ランクを上げる気はあまりないので聞き流しつつ、手持ちが心許ないので簡単なものをちょこちょこやっていこうと考えていた。

 説明が終わり、お礼を言って退席しようとしたところで、マルフォーさんに呼び止められた。

「一つお願いだが、弱体化の魔法をかけてくれないか?」

 と不思議なお願いをされた。表情に出てたのだろう、

「補助魔道士はあったことないし、ギルドの管理者として、その魔法の効果を確かめたいんだ。」

 とのことで、わからなくもないので、わかりました。と答え、術を付与し、一礼して退室した。


 マルフォーはその恐ろしさに背中から汗が吹き出た。

 その術の効果をこの身で味わったからだ。長命種であるエルフ属うち、剣技に優れる山エルフであるマルフォーはこの危険な隠者の森を管轄する場所のギルドマスターであるため、その能力は超人の域であり、レベルは60を超えている。攻撃力は1000を超えているにもかかわらず、彼女の弱体化の魔法で半分近くまで落とされていた。おそらく、彼女の防御力からすると自身を強化されてしまうと武器次第ではダメージを与えられるのか、怪しいところだ。

 さらに、その魔法が無詠唱だった事をも驚いた。エルフであり、マナに対する感覚が鋭いため、周囲のマナに違和感を感じることができ、弱体化されていることに気づいたが、戦闘中にやられた場合、果たして気がつくことができるだろうか。

 そうして、理解した。自身の師であり、赤盾のラグと共に英雄になった剣神エルガーから、魔獣含むあらゆる種族、あらゆるスキル、あらゆるジョブ、その対処方法、戦闘法などを教わった際、一つのジョブだけは教えてくれなかった。それこそが補助魔道士であり、師に補助魔道士との戦い方を聞くと、笑いながら、「偽物ならいいが、本物だったら全力で逃げることだ。」と。彼の盟友をたてた発言だとおもっていたが、違った。師の言葉はある意味真理だったわけだ。そうだったのかと、これから彼女と敵対しないよう、うまく立ち回らなくてはなぁとため息をついた。


「えっと、この掲示板でいいだよね。」

 ギルドに複数ある掲示板のうち、低レベル用の掲示板の前にでつぶやく。

「無難に薬草採取とか清掃作業でいいかな。」

 と独り言を言いながら、ヨモギっぽい薬草の採取依頼と教会前の広場の清掃依頼を受けることにした。薬草や食べられる野草などの知識は、山で生きる知恵としてお師匠様に教わっている、きのこ以外は。あれ覚えるの無理。絶対に無理。似たようなやつで、片方は猛毒とか、危険すぎて諦めた。

 清掃作業はもともと掃除好きだったこともあり、この2つが無難だと感じたからだ。

 カウンターにいたリッカさんに確認すると低ランクの採取依頼は常設らしく、納入時に依頼を受ける形で良いそうだ。なるほどと納得しながら、清掃について聞くと、こちらは安息日の朝に行うらしく、それまでに依頼希望をする形とのことだ。ちなみに、この世界は1週が種・芽・葉・花・実・枯の6日で枯が安息日になる。また、6週で1ヶ月、10ヶ月で一年となるらしいが、森の中ではそんなこと関係のない生活をしていたため、そんな話だったなぁと今思い出した。

 今日が花の日なので、清掃の希望だけだして、薬草を探しに行くことにした。

 ヨモギっぽい薬草はヨモギのように日当たりのいい草原に生えてるので街の外の放牧地の先の開けた場所にでも探してみることにした。

 リッカさんに挨拶して、門へ向かう。街の探索もと頭に浮かぶが、今日の食事代くらいは稼がないとと、切り替えて歩き出した。


 門の衛兵さんに挨拶して、放牧地の柵づたいに歩いていき、街からかなり離れたところで、良さげな群生地を見つけた。コイツラは繁殖力が強いはずだとある程度乱獲してやるぜっと、せっせとせっせと摘みだした。

 しばらくして満足したので、お師匠様から預かったアイテム袋(薬草)を背負っているカバンから取り出し、詰め込んだ。いろいろ入れれるアイテムボックスはびっくりするくらい高価なものだそうで、種類別に対応するアイテム袋をお借りしている。これも結構するらしいけど、旅には必要だとのことで、貸してくれた。薬草の他に、食べ物と衣服の計3種を携帯している。

 さて帰ろうかと、伸びをして周囲を見渡すと、遠くの森のほうで黒い塊が5個ぐらい動いているのを発見した。なんだろうと凝視していると、こちらに寄ってきてる気がする。んーなんだろうと思っていると、なんとなく風貌が見えてきた。なるほど、フォレストウィンドウルフ、隠者の森の雑魚魔獣が5匹かと理解した。風のように速く動くだけの狼型の魔獣で、20匹くらい群れてくると大変だけど、この程度なら簡単だわと思い、お師匠様からもらった装備を着けつつ、強化魔法を自身にかけた。

 森の生活で、自分の命のために動物や魔獣を殺めることに折り合いをつけることができているため、躊躇なく弱体化魔法の射程に入った瞬間に5匹まとめて掛け、速度に乗ってこちらに突っ込んでくる狼さんたちの首を綺麗に刎ねていく。こちらの世界に来たての頃は、戸惑いが強くダメダメな動きだったが、自分の身の可愛さと慣れとお師匠様の指導によって、スムーズにこなせるようになってしまった。

 さらに、預かった武器の切れ味がありえないほどよく、なんの抵抗も感じずにスパっと切れたので、あまりのチート武器っぷりに苦笑いしてしまう。ものの数秒で事が終わってしまったが、この狼美味しくないんだよねぇ、死体どうしようかなぁ、解体できなくはないけど、上手くないんだよねぇとか思っているところで、街の方から馬に乗った衛兵が数人向かってきてるのが見えた。よし、押し付けよう。


 向こうがなにか言う前に、

「冒険者でーす。狼が居たんで、倒しときました。あとお願いしまーす。」

 と告げ、呆気にとられてる衛兵の皆さんを置き去りにして、街へと歩き出し、すこし離れたところで強化魔法の効果が切れてないのを確認して、全力で走り出した。

 門の100メートルくらい前のところで強化魔法が切れたのでそこから歩き出し、門の衛兵にギルドカードを提示した。衛兵に

「町外れに強めの魔獣がでたらしいが、大丈夫だったかい?」

 と聞かれたが、そんな魔獣見てないので、

「そうなんですか。私の居た方にはいませんでしたが、もし出会ったら危なかったですね。」

 と答えると、

「そうだな。気をつけるこったな。」

 と笑いながら、入っていいとジェスチャーで合図を受け、街へ戻ってきた。


 とりあえず報酬をもらうかと、ギルドに出向き、リッカさんに薬草の納品をお願いした。アイテム袋(薬草)から取り出そうとしたところで、リッカさんに止められて、またもや奥の部屋に連行された。

「えっと、それアイテム袋ですよね。」

 呆れてるのか怒ってるのかよくわからない感じだが、とりあえず、

「はい、アイテム袋(薬草)です。」

 と模範解答のつもりだったんだけど、

「そういうこう高価なもの、他人の目がある場所で出しちゃだめでしょう!!」

 と大目玉だ。あれー?

「(薬草)ってことは、ほかにも持ってるってことね。」

「あるよー。えっと(食料)でしょ、それからー」

「出さなくていいです。」

 と乗っかる感じで止められた。リッカさんはため息を吐き、

「それ、いくらか知ってる?」

「高いっては聞いたけど、いくらかはきいてないよ。えっと、おいくら万円?」

「そのマンエンっていうのが何かわからないけど、私のお給金の5ヶ月以上するわよ。」

 とため息を更に吐かれた。


 危ないめに会うかもしれないから気をつけなさいという内容の長い説教がおわり、納品をお願いした。

 薬草を山盛りにして、ドヤ顔を決めると、呆れつつも量を測り、

「この量だと銀貨3枚ね。」

 とのことだった。

 この国の通貨単位はアルで小銅貨が1アル、中銅貨が10アル、100アルが大銅貨、1000アルが銀貨、10000アルが大銀貨、10万アルが金貨でその上もあるけど、触ることはないので、ないのと一緒だとお師匠様は笑いながら説明してくれたのを思い出した。お師匠様からの餞別は大銀貨5枚だったりする。

 外で拾った薬草で、こんなにもらっていいのかなと思っていると、

「最近魔獣が多く出てるみたいで、需要はふえてるけど、供給が追いついてないからね。」

 とのことだった。なるほど、採取に行くと魔獣にあって怪我するので、薬が必要になるという状態なんだね。まぁ気が向いたらまた拾ってこようと思いながら、報酬を受け取り、ギルドを後にした。


 夕方になりつつある時間だったので、宿どうしようかなと考えつつ、いざとなったら野営すればいいかな、ととりあえず街を探索することにした。


 商店が連なる区画にやってきた時間が遅かったらしく、店じまいをしている露店もおおく、残っているのは装飾品や雑貨くらいだった。ちょうど店じまいを終えようとしているカップルがいたので、

「すいません。私、この街はじめてなのですが、この露天街って朝がメインなんですか?」

 と尋ねると、

「ああ、日用品などは日が落ちるあたりまでやるが、農産物などは昼過ぎにはいなくなるなぁ。うちは乾物や加工品なんかだから、この時間ぐらいまで残るんだけどね。」

 と若い男性のほうが答えてくれた。

「そうなんですね。あと、食事できるところってこの辺りにありますか?」

「この道まっすぐ行くと、屋台街があるわよ。その先が宿屋街よ。ってことは正門から来たんじゃないのね。裏門からってあの先、隠者の森しかなかったような。」

 と若い女性のほうも答えてくれた。これは、深く追求されるとめんどうそうなので、

「助かりました。ありがとうございました。」

 とお辞儀して歩き出した。

 少し歩いたところで、屋台街についた。この街についてから冒険者をあんまり見てなかったけど、ここにいたんだね。壮大に宴会してる。なんか、大物でも倒したのかな。まぁ、絡まれたくはないので、先に宿を探す事にした。


 屋台街を通り過ぎた先の宿屋街は、正門前の広場から大通りに面して3店舗と、その裏通りに安宿が複数店舗連なっているようで、その奥の裏路地は、遠目から見た感じだけど、呼び込みや着飾った女性から考えるに風俗街みたいだった。

 お金もできれば節約したいので、安宿の並ぶエリアから、清潔そうな宿を見つけたので、ここにしようと入店した。店名が「冒険料理の宿」というなんというか地雷な気もするが気にしない。

「いらっしゃい。」

 と筋肉隆々の屈強そうなおっさんが店番をしていた。店の作りは、入り口ロビーの横にカウンターがあり、端にお手洗い、ロビーの奥に食堂、客室は2階のようあった。

「おう、嬢ちゃん、泊まりかい?うちは風呂はないぞ。それでもよかったら、素泊まり600アルで、夕食付きだと1000アル、朝食も付けると1200アルだがどうだい?」

 親が出張で使ってたビジネスホテルのイメージだと、向こうの世界と比べると十分の一の物価かなと思いながら、夕食食込で3泊をお願いした。あの薬草そんな高かったんだね。てか、お師匠様餞別出しすぎですよ。心もとないと思ってた懐事情がそんなことなかったとは。

「おうよ。食事はあと半刻くらいで、夜の鐘がなるんで、それ以降食堂に来てくれや。」

 この世界では、よくあるファンタジー物のように、教会の鐘で時間を知ることになっている。私の感覚的なものだけど、6時、9時、12時、15時、18時、21時で鐘が鳴るらしい。

 上の階から、細身ではあるがしなやかな筋肉をまとってそうな、30代の女性が降りてきた。

「あら、お客さんかい。その大荷物からすると、冒険者かな?こんな辺境の街に旅に来るってのは少ないからね。」

 一応冒険者なので、肯定すると、

「うちらも冒険者だったけど、お金も溜まったし、年齢と旦那の趣味もあってね、この店をやることにしたんだよ。」

 と笑顔で説明してくれた。つづけて、

「私はエルザ、で、このごついのが、旦那で料理人のナイゼ厶。」

「茉莉花です。よろしくお願いします。」

 といい、カウンターのナイゼムさんにお金を支払い、エルザさんに部屋に案内してもらった。

 案内された部屋はベットと机しかないが、よく清掃されており、安心して休めそうだ。エルザさんから部屋の鍵と共同トイレの場所をおそわり、とりあえず部屋で一息つくことにした。


 カバンから水筒を取り出し、一口飲み、ふーっと息を吐く。しばらくこの街に滞在しつつ、この世界のことについて調査しようと考える。お師匠様は、大まかなことしか教えてくれず、そういったのを調べたりするのが、迷い人の旅の醍醐味だとのことだった。まぁ、わからなくもないのでそうすることにした訳だ。

 そもそもこの街の名前すら教えてもらってすらないしね。

 その代わり、生きる術を教えてくれ、実践できるレベルにしてくれたので感謝しかしていない。と、武器を使ったので手入れしなきゃと手入れを始めようとして初めて気がつく。この武器、刃がついてない。どうやって倒したんだろうと不思議に思いながら手に持って観察してると、刃のようなものが出てきた。どういう事?

 手に持ったまま思案していて、ひょっとして、これマナなんじゃないかと思えてきた。そうなると、これは、魔法属性の攻撃になるのかな。そうだとすれば、物理耐性の敵に対して攻撃手段のない補助魔道士専用の武器になるのかなと考えニマニマしてしまう。弱点がなくなっていくぜ。そんなバカなことを考えながら、武器の手入れを行っていたら、教会の鐘がなり、夕食の時間になった。


 2日ほど、森の中での野営だったため、簡単な食事しかしてこなかったので、結構楽しみだったりする。え、風呂はいいのかって?マナ循環のおかげで、体自体は清潔に保たれるそうだ。服は汚れるので着替え必須だけど。でも、お風呂にゆっくり入るのは心地よいので、入る機会があれば、進んではいるけどね。

 まぁ、そんなわけで食事ですね。冒険料理の宿ってのが微妙に引っかかるけど、気にしないことにしたい。

 食堂に入ると、

「嬢ちゃん、来たかい。今日は珍しいものが入ったんで、それをメインにしてみたぜ。」

 といい、食事を運んできてくれた。

 とろみのある野菜スープ、黒パン、なんの肉かわからないけど、スパイシーな香りの強い一口サイズに分けられた肉料理だった。香辛料高くないのか、この世界。そんな驚きを気づいたのか、

「この肉料理には秘密があってだな、この香りは、隣街行く途中ある、この街からも見える黒白山の中腹に香辛料が自生してるんだが、ペッパーガーディアンという硬い魔物が守ってて、ある種の冒険者じゃないと手に入れられないものなんだ。まぁ、そいつらに縁あって、安く手に入れれる。ただ、ペッパーガーディアンはやばいやつらで、よくわからない鳴き声で連絡し合い、見たこともない魔法で攻撃してくるんだ。まぁそれ以上は秘密だ。」

 と笑い、つづけて、

「こっちの肉は、今日知り合いから手に入れた、フォレストウィンドウルフだ。普通に食べると匂いのきつさが先に来て味を鈍らせるんだが、肉を熟成させずに、調理法で匂いを薄れさせれば、肉の旨さがわかるはずだ。それもまた、秘密だがな。」

 とガハハ笑いで調理場へ戻っていった。


 今日はなぜかフォレストウィンドウルフに縁があるなぁとおもいながら、肉をフォークで刺し、口へと運んだ。いつもなら、口に入れた瞬間に独特の臭みが鼻につくのだが、スパイスの香りと肉の旨味しか感じなかった。フォレストウィンドウルフって調理法次第でこんなに変わるのかと驚いた。一口一口と味わいながら、気がつけばすべての料理を平らげていた。

 どうやら、食器類はセルフサービスで戻すようなので、所定の位置におき、自室に戻ることにする。野営続きと久々の対人対応で疲れたのか、睡魔に襲われて、身支度したあと軽く横になるつもりが、気がつけば朝だった。

 早朝の清々しい空気の中、朝食代わりに朝市でなにか食べようと、身支度して、ロビーへ向かった。ロビーのカウンターにはエルザさんがいたので、鍵を預け、朝市を見てくると伝え、宿から出た。


 朝市では、野菜、肉などの生鮮食品がところ狭しと並べられ、昨日の夕方前の閑散な状況とは違い、活気にあふれていた。その中で、端の方で形見狭くやっている果物屋さんが気になり、近づく。だって、イチゴですよ、苺。ザルの上に山盛りで積んでる。なんだか八百屋っぽいけど、八百屋かどうかとかはどうでもいいの、迷わず声をかけた。

「すいません。これおいくらですか?」

「おう、らっしゃい。これか。これは一個50アルだ。」

 高くない?一粒500円くらいって、高級イチゴ過ぎる。そんな思いが表情に出てたのだろう、

「値段はなぁ、こいつはとってくるのが大変なんだ。ほら、あそこに白い山が見えるだろ?」

 と遠くに見える、雪に覆われた山を指差し、

「あれが黒白山だ。あの山の麓に群生してるんだが、恐ろしく強い魔物がいてな。」

 と昨日似た話をきいたなぁと思いながら相槌を打つ。

「味は間違いないんだが、売れなくてなぁ。」

 とのことなので、とりあえず5つ分のお代を渡す。黒白山は気になるので、近いうちによってみてもいいなとおもう。しかし、なんで黒白山なんだろう。

「ああ、そりゃ、昔の勇者様があの山を氷菓子に見立てて、黒蜜かけたら美味そうだなって言ったらしく、そこからとったらしいぜ。」

 と説明までしてくれた。なんだかどこかで聞いた気もしないんだけど。まぁ、気にしない。イチゴを受け取り、お礼を言って、宿へ戻ることにする。宿で食べたイチゴは、値段どおりの甘さとジューシーさで大変満足だった。


 とりあえず、明日は清掃作業があるけど、今日は予定もないので、とりあえず仕事探そう。というわけでやってきました、冒険者ギルド。でも、掲示板見ようとしたら、マルフォーさんに捕まり、別室行きに。何もやらかしてないはずなんですけど。


「昨日、女性の冒険者が5体のフォレストウィンドウルフを討伐したらしいと衛兵から報告がありました。なにか心当たりありませんか。」

 と笑顔で尋問された。嘘ついても面倒なので正直に答える。

「薬草探してたときに突っ込んできたんで、適当に狩っときましたけど何か?」

「狩っときましたって、あなた。」

「だって、たった5匹だし。」

 あれ、呆れられてる。ため息をつかれて、

「一応ね、あの魔獣は1匹だとdランク、複数だとcランクなんだけど。」

「え、冗談ですよね。雑魚魔獣ですよ、あれ。お師匠様から、最下層魔獣とか言われてましたよ。さすがに20匹以上で群れたら面倒ですけど。」

 マルフォーさんは、長いため息をついたあと、

「あー。なるほど。わかりました。常識がないんですね。」

 すっごくいい笑顔で言い切ったよ、この人。その後、本棚から1冊持ってきて、

「とりあえず、これで魔獣ランクでも勉強してください。」

 と新魔獣大全という本をプレゼントされた。結構重いんですけど、これ。羊皮紙かと思ったけど、紙だけど、一枚一枚が厚いんで、この重さかな。あぁ、アイテムボックスが欲しくなるよ。

「あと、討伐した場合、きちんと報告をお願いしますね、報酬も出ますので。今回は未報告ですが、確認が取れたという形ですから、ペナルティで6割の報酬になります。」

 とのことだった。ついでに討伐履歴にも残さないとのこと。まぁ不味いから、仕方ないよね。あ、でも、ナイゼムさんに頼めば美味しく頂けるんだった。次からはちゃんとしよう。


 別室から解放され、報酬の大銀貨1枚と銀2枚を受け取り、仕切り直しで掲示板を見る。あいつら、結構高かったよ。

 作ったばかりの最下層Fランク冒険者なので、討伐が少ない。あっても狼や猪などの害獣討伐というよりも駆除だね、しかもパーティ推奨だ。猪かぁ。みかん農家のソーセージ美味しかったなぁ。そんなことを考えながら選んでいると、

「すいません。ちょっといいですか?」

 と可愛らしい声で話しかけられた。振り返ると、中学生くらいの、瓜二つな金髪少女がいた。双子かなとおもいながら、

「何かようですか?」

 と不思議に思いながら返事をする。

「ここ見てるってことはFランクの方ですよね。私達も先日登録したばかりで。見た感じ、前衛職のようですし、よかったらパーティ組みませんか?」

 とやや釣り目で活発そうな方が言う。ややタレ目でおっとりそうな方は横で頷いている。胸は、よし、合格だね。敵じゃない。うん。と、装備が普通の服に革の胸当ての軽装で、釣り目が短剣、タレ目がロングボウ。ちなみに私はお師匠様のお下がりセット、謎の白ローブ、謎の赤い盾、謎の薙刀だ。鑑定スキルがないから謎だらけだ。

 掲示されてる仕事で特にコレっとくるものもなかったので、了承し、3人で狼の駆除を行うことになった。場所は、エフスリーの正門を出た先にある小さな木に覆われた小山とのことだった。ギルドでの話からすると、アンブレラ種の熊を毛皮のために乱獲しすぎたかなにかで、狼が増えすぎている状況らしい。環境保全は難しいなぁと考えながら、3人で目的地に向かった。

 道中、互いに自己紹介をし、釣り目のほうが姉でマナァで、タレ目が妹でカナァと教えてもらった。一瞬、ん?と思ったが気にしないことにした。

 マナァとカナァは黒白山の近くの村からやってきたそうで、その村の孤児院で育ったとのことだ。こういった世界の孤児院というと、大きな街の隅にありそうだと思っていたけど、二人の話だと、幼年期はそうだけど、ある程度労働力として使えるようになると、丁稚として引き取られたりするらしいが、彼女たちのいた「栄光の集会場」孤児院では、そうならなかった子たちを小さな村に移住させ、そこで集団生活と職業訓練を受け、15歳で独立させるようにしているとの事だった。

 そこで二人は村の猟師などから斥候術や弓術学び、冒険者になるために近くの街であるエフスリーに来たが、いざ、仕事を受けようとしたところで、二人で対応するのは難しく、前衛ができる人を探していたそうだ。エフスリーっていうんだね、初めて街の名前知ったよ。ここは、強い魔獣が多く出る街なので、低ランクの冒険者が少なく、高ランクの人にお願いしようにも、護衛任務になりお金が発生する場合があるため、途方にくれていたところで、私を見かけ、声を掛けたそうだ。


「一つ聞いてもいいですか。」

 とマナァが言うので、

「答えられる範囲なら。」

 と返す。

「そんな装備で大丈夫ですか?」

 と前衛職にあるまじき軽装すぎる格好についてだろうとおもい、

「大丈夫ですよ。問題ないです。このローブ、マジックアイテムらしいので。」

 と答える。ちなみにどういう効果かどうかまでは詳しく知らない。ただお師匠様の話だと、このローブで革の鎧くらいの防御力があるそうだ。マジックアイテムすごい。

「マジックアイテムって、超お高いですよね?マリカさんっていいとこのお嬢様とか?」

「いやいや、そんな人冒険者なんてしないでしょう。これはお師匠様からの餞別なんです。」

「太っ腹なお師匠さんですね。」

 と言われ、間違いないなぁと苦笑いした。


 そんな話をしているうちに、目的の小山に到着した。見た感じ、標高100メートルくらいかなと思う。とりあえず登山用の山道があるので入山する。

 壁役すればいいのだろうから、自身に防御特化の強化魔法をかける。今のところできる強化魔法は、普通の強化魔法と攻撃、防御に特化した強化魔法である。普通の強化魔法は個人の体感で、攻撃・防御ともに1,5倍くらい強化できる。特化の場合は3倍弱強化するが、使用スタミナは普通の強化魔法の2倍使ってしまう。普通のは一回で攻撃・防御を強化できるが、特化は片方づつなので、4倍かかっちゃう。まぁ、スタミナは時間とともに回復するから両方かければいい話なんだけどね。ただ、特化魔法に関しては、他人にはかけれないらしい。とっても残念。

 そんなこんなで、山を歩けば狼さんがこんにちわしてくる、入れ食い状態で、気がつけば30匹狩ってました。普通の狼だと4匹以上の群れが多いのに、ここでは多くても2匹同時に出会うことが稀で、このパーティでもなんとかなりました。まぁFランクのお仕事ですしね。倒しては、入り口に積み上げ、倒しては入り口に積み上げをやっていたので、日が暮れそうな時間になってしまった。

 3人して、作っていたときは戦闘によるハイだったので勢いでやってしまったが、積み上げた山を見上げてどうしようかと途方に暮れている。そう、狩りすぎて持って帰る手段がないことに気づかなかった。アイテム袋に入れてもせいぜい5匹くらいしか入らないし、ほんと、どうしようと思ってたところに、ダチョウのような鳥2匹に荷車を牽かせている商人と思われる人物が街道を通っているのを発見した。相手の視界の中に入り、手を振ってアピールして、なんとか気づいてもらえた。

 ダチョウより大きく、足がガッチリとしている鳥が目の前で止まり、「ミッミッ」と鳴く。横で双子が、「走路鳥だぁ。」とか言っている。

「おう、こいつは大走路鳥だ。かわいいだろ。」

 と商人が言うと、うれしいのか、大走路鳥はまた、「ミッミッ」と鳴く。こんな鳥のアニメ昔見た気がするよ。

「って、朝の嬢ちゃんじゃないか」

 そう言われて、ようやく相手がイチゴ売りの人だと思いだした。いちごの感想を伝え、また買わせてもらうと伝えといた。それから、こちらの事情を説明すると、宅配の帰りで荷物は空だから、街まで運んでくれるとのことでたいへん助かるが、流石にタダでは申し訳がないので、狼さん5匹を運賃代わりにお渡しすることで話がついた。

 エフスリーに戻る荷台に同乗させてもらい、思った以上に速く走る大走路鳥たちのおかげで、暗くなる前にギルド前に到着した。


 ギルドについて、積み上がった狼さんたちを見て、マルフォーさんが引きつった笑顔をしてた気がする。そう、気がするだけだと思いたい。報酬を3等分して、銀貨4枚でした。あっちのウルフ高すぎな気が。

 マナァとカナァにお礼を言って別れ、宿へ帰ることにした。


 宿に戻り、装備の整備をして、夕食をいただく。今日のメニューは黒パン、ハーブのサラダ、たぶんフォレストウィンドウルフの煮込みスープ。これまた、美味。臭みさえなければ、肉はほんとに、おいしいんだね。見かけたら、積極的に狩っていこうと決意した。

 部屋に戻り、もらった本をペラペラめくりながら、お師匠様と狩っていた魔獣さんたちが軒並み高ランクで驚いた。あいつら強かったのね。そんなこんなで睡魔がやってきたので、休むことにした。


 朝になり、目を覚ます。いつもと変わらない時間のように感じるが、教会の清掃作業に参加する予定なので、身支度を済ませ、宿を出た。


 街の中心部にある教会につくと、冒険者だけでなく小学高学年くらいの子たちや街の大人などだいたい30人近く集まっていた。どうやら、先に教会の中でお祈りをして、その後説明をして、清掃活動を行うみたい。皆が、協会の中に入り、備え付けの椅子に座ってお祈りをしだしたので、空いてる席にすわり見様見真似でお祈りをする為に目をつぶる。

 すると、何か強い光を浴びたように、閉じた目でもわかるくらい白く見える。


 ゆっくりと目を開くと、そこは教会ではなく、何か真っ白の世界だった。

「ようこそいらっしゃいました。」

 と男性の声が聞こえたので、その方に目を向ける。そこには執事服を着た、金髪のハンサムさんがいた。

「わざわざお呼び立てしてしまい、申し訳ありません。」

 スタイリッシュにお辞儀をし、

「この世界の管理者の一人でございます。以後、お見知りおきを。」

 と言う。ええと、理解が追いつかないので、説明お願いします。まず、ここどこ?で、なに?なんなの?私なにかやっちゃいました?

「ああ、それはすいません。まず、ここはあの世界とつながった、異空間。まぁ、我々管理者の仕事部屋と考えていただけますと助かります。」

 はぁ。とわかったようなわからないので、曖昧な返事になる。ハンサムさんは、すこし笑い、

「特に深く考えていただかなくてもだいじょうぶですよ。単に私があなたとお話がしたかっただけですので。ここからあの世界に戻ると、先ほどの時間で戻れますから。」

 と優しく微笑む。続けて、

「なかなか珍しい加護をお持ちのようでしたので、ついつい、お呼び立ててしまいました。」

 と恥ずかしそうにする。管理者ってことはこの世界の神様ってこと?私の加護はあなたが?

「この世界の一般的な神と呼ばれるものですと、それに近いとお答えします。奇跡などは起こせませんが。貴方様の加護に付きましては、私どもの上位者による加護でございますゆえ、私どもではどのような効果をもたらすか図ることすらできません。ただ、たいへん美しくきらびやかに感じます。こう、ついついお話したくなるような。」

 とウインクする。様になるなぁ。

「こちらに来ていただきましたのは、貴方様とお話したかったこともありますが、もう一点、こちらのアイテムをお渡ししておきたくて。」

 と、よくわからない金属によくわからない文様がついたネックレスのアミュレットを右手で見えるように掲げた。左手でフィンガースナップをすると、私の首に付けられていた。おお、魔法すごい。

「この空間では私の思い通りになりますからね。」

 と自慢げにかたり、続けて、

「そのミュレットは我々管理者の祝福が付呪されております。あなたの加護が我々からの加護と偽装する意味だと思ってください。まぁ、それはある意味いいわけでございます。」

 と苦笑いし、

「そのアミュレットは転送魔法の鍵でございます。転送の魔法陣は各教会に作られており、そのアミュレットをお持ちの方は、訪れたことのある教会通しで転移することが可能になります。そう、教会でしか使えないので、使用の際は教会へ来ていただける。タイミングが合えば、またこうしてお話ができるというわけです。」

 と嬉しそうに言う。こんな便利なものを頂いていいのかなと思っていると、

「このアミュレットは我々の加護持ちや全世界の教会のにもありますので、お気になさらないでください。本当でしたら、アイテムボックスくらいお渡ししたいのですが、いかんせん、管轄が違うもので。本当に残念です。」

 と悔しそうに言う。ハンサムさんにこうチヤホヤされて嬉しいやら恥ずかしいやらよくわからない気持ちになる。それを優しげに見守っているようだが、

「せて、そろそろ時間が来てしまいました。残念ですが、お別れでございます。また、お会いしましょう。」

 と笑顔でいうと、視界がブラックアウトした。

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