表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第1巻
9/33

悪魔な娘と過ごした休日

ガタンゴトン、ガタンゴトン……


「すぅ~……すぅ~……」


帰りの電車の中、すっかりお疲れのほのかは

俺の胸にしがみつくように眠りこけている。


時刻は既に21時半。

休日出勤のサラリーマン、観光帰りの家族、これから仕事の夜勤組、

様々な人々に交じって、俺達もようやく帰宅である。

お昼過ぎに今の社会に不慣れなほのかに出来る限りの社会勉強を、と

軽い観光のつもりで出かけただけだったのに


実に酷い目にあわされたもんだと我ながら悲しくなってくる。


もちろんほのかと過ごす時間は楽しかった。


あー、娘がいるとこんな感じなんだなー、とほっこりできた。

明日からの仕事もちょっとやる気が出たくらいだ。

生活に張り合いが出たというかそんな感じ。


だが、なんというか俺はそんなにも親として見られないのかなぁ?と

ちょっと悲しくなるくらい職質その他されて、

それだけが切ない。




                 ◆


「ほらほのか、ここが本屋だぞー」


「うわぁ!本当にたくさん本があるっ!

………印刷も字も、凄く綺麗………」


駅ビルの中の大型書店。

俺の部屋にあったラノベを見て魔導書だ研究書だと言っていたから

本屋に連れてけば色々納得するだろうと連れてきた。

途中の雑貨屋さんなんかでも大はしゃぎしていたけれど

本は時代ごとの知識の塊だ。

その時代時代の文化レベルを知るにはやはり書籍による情報から

読み取っていくのが一番手っ取り早い。


案の定ほのかは店内を見渡して学術書関係の棚を見つけるやすっ飛んでいく。

そして、その棚の背表紙を一通り眺め、呟く。


「…………パパ、文明進みすぎだと思うの。

私の知識だとどれを見ればいいかすら分からない…」


「うん、普通に学校関係の書籍の、歴史系の本を探すところからがいいと思うぞ?

何でいきなり量子理論とか相対性理論とか科学系の最上級から入ろうとするかな?」


隣の棚は経済学とか心理学とかの棚でした。

ドラッガーの『マネジメント 務め・責任・実践』

があったので買おうかなと思ったけど今日は止めといた。

そう言っていつも買いそびれるんだよなぁ。


小学生向けの学校教材的な書籍コーナーには、定番ともいえる

漫画「日本史」「世界史」などのシリーズや、図鑑、辞書など

お手軽に今を学べる本がたくさんある。

ほのかはそれらをパラパラめくると、


「パパ!これ全部ほしい!」

「無理」

「ええええええ!?」


絶対言うと思ったよ!

漫画とかだと分かりやすいもんな!

気持ちは分かるけど、全部買っていったら家に寝る場所が無くなるわっ!

ついでにそんなに金持ってきてないわい。


「そういう本は図書館でも読めるから。

今度連れて行ってあげるから、そういう分かりやすいものもあるんだ程度で

今日は我慢してくれや」


「う~~~、折角の資料が~…」


知識欲があるのはいいことだけど、折角今日は観光に来ているんだから

生で得られる経験、知識をたくさん仕入れてほしいって思う。

でも全く買わないのも可哀想なので帰りの電車で読めるように、

漫画「日本史」「世界史」の2冊は買ってあげた。

どうせすぐ読まなくなると思うけどガイドラインとしてはこれで十分だろう。



ちなみにこのあと職質された。

駅ビルを出てバスの使い方をほのかに教えている最中にも

巡回の警官に囲まれた。

………市民の通報があったらしい。



                  ◆


「気を取り直して今度はほのかに百貨店を見せてあげよ~う」


「わ~い!」


京成千場駅そば「すごう百貨店」前。


ちょっとセレブな人たち御用達、ブランド天国の百貨店である。

各種海外有名ブランドから、お高い国内の雑貨、食品などを

これでもかとばかりに集めた店舗、それが「百貨店」。


ここしばらくと言うには長きに渡る経営不振が続く「百貨店」ではあるが

俺の様な貧乏人にとっては不景気だろうと経営不振だろうと

敷居が高い施設であることには変わりはない。


そんな施設ではあるが、今日は同伴者がいるっ!


一人で入るには敷居が高くとも、娘を連れて行く分には

あんなものいいな♪こんなものいいな♪と

夢を語るくらいの事は出来よう!

たまにやってる催事コーナーで地方フェアがやってれば

何か美味しいものでも手に入るかもしれないし。


「普段俺には縁がない店だから、色々見て回ろうか~」


「うんうん♪」


そう言って二人手をつなぎ中に入る。


入った瞬間、開口一番ほのかが言った。


「パパ、ここ変な匂い。

気持ち悪い………」


「そうだな、さっさと上行くか」


一階はブランド品や香水のコーナーが立ち並ぶ。

香水も、単体ならばそう気にもならない香りだが…

凄まじい数の種類の香水が一堂に集まると、

不慣れな者からすれば単なる異臭でしかない。

ひと瓶数万数十万円の香水だろうがなんだろうが

匂いを混ぜないでほしいとモノ申したい。

無理だというのは分かってるけどさ。



すっかり気分を害したほのかを連れて上の階に行く。


たくさんの洋服が並ぶ階を眺めながらほのかは言う。


「ねぇパパ、こんなにお洋服あって、誰が買うの?」


「え?欲しい人が買うんだよ?」


「こんなにいろんなデザインがあって、色も違って、どうするの?」


「んん?どうするの?とは?」


「ここにある服、毎日着替えてもまだ多いよね?」


「あ~……」


ほのかは、こんなにいろいろ服があっても無駄じゃないのか?と言いたいらしい。

確かに、洋服屋さんにおいてある服は膨大だ。

サイズのあるなしも関係するかもしれないけれど単純な「着替え」換算でも

かなりの人数を賄えるだけのものがある。

もちろん用途ごとに違う服もあるわけで

「無駄」の一言で片づけられるものでも無いとは思うが

確かにデザインがダサくて売れなかったりで処分される物も多かろう。

ブランドだからと言って全部が売れるわけでもないし、

機会を逃せば古いデザインだからと言うだけで価値を失うものすらある。


服飾の発達はある意味で豊かさの象徴だ。


産業革命期までは貫頭衣から派生したもの(チュニック、カートル等)

を主流とした衣服が普段着で、きちんとした衣服は基本的にオーダーメイド。

ドレスや礼服などの服は基本的に貴族のみが仕立てられるもので

街や農村では祭りや結婚式などの特別な時にのみ

ある程度華美な服を着られた。

そういう意味でも、衣服は何着も持つ物ではなく

実用に即した、必要最低限のアイテムという感覚があるのかもしれない。

可愛いワンピースを着ている割には、服装に関しては執着とかないのかね?


「ほのかはあんまり着飾ったりとか考えないのか?」


「うーん、わたしはそもそも旅暮らししてたから、

機能性の低い服自体論外っていうか。

この服も可愛いとは思うけど、それだけよね」


「え、それ自分で用意した服じゃないんだ?」


「うん、出てきた時にこういう服になっただけだよ?」


お嬢様っぽい深紅のワンピース、ほのかのデザインという訳ではないようだ。

その辺ちょっと謎だなぁと思いつつ、

ほのかが実はファッションに興味がないと知り

ちょっとだけ安堵する。


女の買い物はすさまじく長いからなっ!


「んじゃあ、ほのかは特にほしい服とかないのか?」


「パパが着せたい服が着たいかな?」


そう言ってにまぁ~っと少女は笑う。

その顔は、「パパの趣味でわたしを染めてね♡」と暗に言っていて。

若干背筋が寒くなったのは言うまでもない。


ちなみにこの後花摘みに行きたいというほのかをトイレに連れて行ったのはいいが、

座式トイレをまだ使ったことが無いと言うので

仕方なく多目的トイレに一緒に入ろうとしたところで

私服警備員に痴漢呼ばわりされ、危うくほのかが粗相しそうになった。




                    ◆


カンカンに怒ったほのかを宥めるのにかなり時間がかかった。


小さなレディに危うく恥をかかせるところだった訳で、

私服警備員には本気で深く反省していただきたい。

個人的には、そんなに父親っぽく見えないのかという意味で泣きたい。

まぁパパ初日だからなぁ、と自分を慰める。


すごう百貨店を出た俺達は線路沿いを曽和方面に歩く。


「パパ、本当にこれ貰っていいの?」


「ほのかとの初めてのお出かけの記念だからな。

流石に本2冊じゃ味気ないだろ?」


「ありがとうっ!大事にするねっ!」


嬉しそうに肩から下げたちょっと大きめのポーチを抱えるほのか。

少々大人っぽいデザインのそれは、正直小学生が持つには不釣り合いの品。

だけれどまだ6歳くらいとはいえ大人っぽいほのかの事だ。

すぐに様になるだろう予測がある。


洋服に実用性を求めるような子だからなぁ。

長く使える身に付けるものなら喜ぶんじゃないかと

ちょっと奮発して買い与えたものなのだけど、

とても気に入ってくれたようで何よりだ。


時刻はそろそろ18時頃になる。


おなかも空いてきたので、折角だからと向かう先は回転ずし「銚子号」

東京、千場、神奈川、埼玉と結構な数の店舗を展開しているチェーン店、

にもかかわらず銚子には店を出していない妙な店である。

「銚子号」なのにね?


「寿司ってどんなのかなぁ?楽しみだな~♪」


「エキナカでも売ってたけど気付かなかったか?」


「あんなにいっぱい色々あったらわかんないよ!

パパが連れてってくれるんだから美味しいんだよね?」


「口に合うかは分からんけど、日本のソウルフードの一つだよ。

うちの近所にも何軒かあるけど、折角千場まで出てきたんだし?」


中世では生で魚を食べるなんて機会はそうはなかっただろうと思う。

その点では不安は残るものの、寿司そば天ぷら等含めた

和食全般は一度は味わってほしいもの。

この近隣だと「銚子号千葉駅前店」は入客も多く、仕事もきっちりしている方だ。

初めての回転ずしとしては安パイに入ると思う。


幸いな事にまだ夕飯ラッシュ前だったようですぐ席に案内される。


「いらっしゃいませ~」「「「「銚子号~~!!」」」」


気合の入ったノリノリの挨拶に若干びくつきながらも、

目の前のレーンを流れる寿司に目を光らせるほのか。


「ふわああああ!綺麗~♪」


「食べたいものがあったらお皿ごと取るんだぞ~。

乗っているものだけ取るのはマナー違反な?

お皿を戻すのもアウトだ」


「どれをとってもいいの!?」


「お皿の色でお値段違うけど、今日は好きなの選んでいいぞ。

欲しいのが無かったら板前さん…ってわかんないか、

そこの白い服着た人に食べたいのを注文すると作ってくれるぞ」


お茶を用意しながら説明していると、板前さんが


「お客さん、お嬢さんは寿司屋初めてですかい?」


と声をかけてきた。


「ですです、何かお勧めありますかね?」


「じゃあちょうどいいのがありますぜ。

お嬢ちゃん、こっちみててごらん~?」


「ふぇ?」


板前さんはささっと酢飯を握り込むとえんがわを一貫手ばやく用意。

棚に置かれていたバーナーのスイッチを入れると一気に表面を炙る!


「『エンガワの炙り』、おまちィ!」


「わぁ~~~!」


脂ののったえんがわの表面が綺麗に炙られ、実に美味しそうに仕上がっている。

……俺も食べたいなぁ。


「これ、食べてもいいの?」


「うん、食べてごらん?

きっと美味しいぞ~」


そっと小さな手でエンガワをつまんで、はふっと口の中に頬り込むほのか。


「うわぁっ!プリプリしてるっ!

おもしろーい!美味しい~!」


喜んでもう一個もぺろりと平らげる。


「おじさんありがと~!」


「すみませんねぇ、あ、俺はとびっことアジを」


「あいよっ、お嬢ちゃん、そこのメニューにも色々のってるから

お父さんに見せてもらって食べたいのがあったら頼んでくれな?」


「うん!」


ほのかが初めて食べた「お寿司」

生魚に抵抗があるかもという心配を初手で「炙り寿司」という妙手で

見事躱してくれた板前さんに感謝。

おかげで二人で交換しながら色々な寿司を楽しませてあげられてよかった。



この後おなかが一杯になり疲れが出たのか

一気におねむになったほのかを抱きかかえ家路につく。


本当は帰りに『スルーカ』の使い方を教えたかったけど、まあそれは今度だね。


「銚子号」から千場駅まで歩く間に、また職質されなかったなら

満足したまま帰れたのになぁ……とほほ。



こうしてうちに帰った俺達。


長かくて短かった一日は終わり、次のトラブルが満を持して襲いかかる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ