帰郷
別室に連れられたルースを取り囲んだのは、かつての戦友だった。
皆が皆、苦々しい表情でいながらも驚きの色はない。
「……お前が、これほど愚かとは……」
失望の色が濃い声音は、ルースの凍てついた心さえも僅かに痛ませた。
うっすら開いた唇は、弁明のためだろうか。
だがルースは、そんな自分に気づいて自ら口を閉じた。
「弁明は?
何かないのか?」
新国王の親衛隊長を任された男が、微かな希望をもってルースに問いかけた。
この中の誰よりも国王に忠実なその男に、だがルースは答える言葉を持たなかった。
沈黙を選ぶルースに、失望のため息が複数洩れた。
「ルースの実家に預けようと思います。
あそこは王都からも遠い。
頭を冷やすのに、ちょうど良い距離でしょう」
宰相が、ため息に続く沈黙を狙ったように声を響かせた。
ルースは、その緑の瞳を見上げた。
綺麗なガラス玉のような瞳は、いかなる感情も映してはいなかった。
「……エイデン伯爵領か……」
ルースは、かつての盟友が己の処遇を話し合うのを無関心な眼差しで見つめた。
ルースはひどいやり方で彼らの信頼を裏切り、彼らは傷つけられた信頼を、初めから抱いていなかったように振る舞っていた。
「甘い措置ではないか――」
「実家との仲は悪い――」
「だがエイデン伯爵は油断ならない――」
ルースがまるで見えないかのように、彼女の措置について話し合う男達を見て、ルースの心から何かが零れ落ちていった。
顔を見ただけで通じ合った仲だった。
そう思っていた。
だが、それは幻想だったのだ。
所詮は、男だった。
彼らがルースを所詮は女だと言うのと同じように、所詮彼らは男だった。
決して分かり合えない存在だったのだ。
ルースは、深茶色の梁を見上げた。
恋した男から身をもがれ、分かり合ったはずの盟友から蔑まれる。
そこまでして手に入れたかったものは……手に、入ったのだ。
ほんの僅かに浮かべた微笑みは、他の誰にも見咎められることはなかった。
エイデン伯爵領は、国の最北部に位置する。
秋を迎えた今では、すでに麦の刈り取りまで終わらせて早い冬に備えていた。
「決して気づかれぬ毒であったというのに……もっと上手くやれなかったのか」
腹違いの兄が嘆息した。
禍々しささえ感じたことのある金髪は、弱々しい秋の日差しにくすんで見えた。
「…………」
異母兄に、謝る言葉をルースは持っていなかった。
「我が家から王妃を出せると思っておったのに……これだから下賤の血は……」
兄がルースの謝罪を必要としていないことは明白だった。
大陸の貴族を母に持つ兄が、『森の民』 を母に持つルースとは相容れるわけもなく、さらには家族としての情を持つことなどあり得なかった。
「まぁ良い。
陛下もすぐに贅沢好きの王女など飽きられるだろう。
せめて愛妾にでもなれればそれで良い。
陛下の怒りが収まるまで、大人しくしておるのだぞ」
ルースは返事の代わりに問うた。
「エイデン伯爵。
私の服はどこです?」
革命軍を率いる『森の民』 としての男装は、戦が終わってもルースを彩っていた。
だが三日の旅程を経てたどり着いたこの伯爵邸で、ルースは着替えを強制されていたのだ。
「あのみすぼらしい服など!」
兄と呼ばれることのなかった伯爵は、そのことに気づいてもいないようだった。
「お前がそのような色気もない服を着ていたから、陛下を王女に奪われることになったのだ!
少しは女らしさを磨くがよい」
肩を怒らせて、ルースに与えられた部屋を出て行った兄を見送り、ルースは呟いた。
「女らしさなど……磨いていた、ところで……」
どうにもならなかった、と断言はできなかった。
けれど、今さらルースが女らしくしたところで何も変わりはしない。
そのことだけは、確かだった。




