表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

決断


 金髪の男からは、赤い瓶を。

 緑目の男からは、黒い瓶をルースは渡された。


「私が準備するから。

 貴女方は他の仕事をしていてちょうだい」

 腐敗した王朝を倒した、かつての反乱軍。

 その上層部の一角を占める彼女に、逆らえる侍女はいなかった。


 ルースは、未練がましく懐にしまっていた赤い瓶を、服の上からそっと撫でて苦笑した。

「……馬鹿ね」

 撫でる手つきは、割れんばかりに瓶を握りしめる動きに変わった。

 かつての王宮は侍女の控え室さえ美しく。

 白い壁に美しい木目を、虚ろな眼差しで睨めつけた。


「本当に……なんて愚かな」

 懐から、黒い瓶を取り出した。

 侍女達が完璧に淹れてのけた、二人分の茶。

 その片方に、慎重に黒い瓶の中身を数滴落とした。

 柔らかな湯気に乗って、ルースの鼻に酸っぱいような刺激のある臭いが微かに漂った。

 味も、その通りの酸味があるはずだ。

 ルースは、ほんの一瞬だけ微笑みを浮かべ、トレイを持ち上げた。


「……さぁ、終わらせましょう」

 隣室に、この茶を運ぶべき貴人がいる。

 反乱軍の長であり、今は新たに建国した国の新王である男と、旧王朝の王女。

 この国を、これ以上かき回さぬために、結ばれるべき二人。

 片や成り上がりの無骨な武人と、腐敗した王朝の粋を尽くした豪奢な王女。

 それなのにこの上なく似合って見えるのは、二人の間に生まれた『何か』 を痛烈にルースに感じさせた。


「愛する貴方に、これ以上ない贈り物を」

 歌うように口ずさんだルースは、軽やかな足取りで隣室の扉を開いた。

 ――破滅への扉を。






 ルースが供した、王女への茶は飲まれることなく叩き落とされた。

「――なんだ……なんなんだこれはっ?!」

 恋した男の激昂を、ルースは瞬きさえ抑えてただ見つめた。

「ルースッ、なんのつもりだこれは?!」

 王女を庇うようにルースの前に立ちふさがり、詰問する男。

 距離は近いのに、触れあうことのない距離が、何故かルースには切なく感じた。


(最後、だから……)

 最後だからほんの僅かな接触でも、と願う自分に気づいて笑みが浮かんだ。

 どこまでも、ルースの愛は自分勝手で誰も幸せにしない。

 そんなことはとっくに分かっていたから……だから、黒い瓶を選んだのだ。


「旧王朝の王女……そんな存在は、貴方の汚点にしかなりません」

 自分の欲望に、綺麗に蓋をしてルースは用意してきた言葉を羅列した。

「楽に逝ける薬を用意しましたのに」

「ルースッ!!」

 怒りの表情でさえ、反乱軍の長であった頃とは違い、王となった今ではどこまでも『国王』 らしい。

 そう感じるのは、男が変わったからなのか、ルースが変わったからなのか。


「陛下、王女殿下をお連れください。

 ルースはこちらで処理しておきましょう」

 反乱軍の軍師であった男が、今では宰相の座を戴く男が、王とルースの間に割って入った。

(あぁ……)

 もう、この距離は終わった。

 これから先はただ、離れていくだけの距離だ。

 それを思ってルースの唇から、儚い吐息が零れた。


 誰に気づかれることもなく消えた、吐息だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ