食事をしよう
今、僕の座っているベッドの横には目の見えない奴隷がいる。
土下座をしている。
気まずい。
「あの~」
とりあえず、コミュニケーションを図ろうと声をかけてみる。
彼女の肩がビクッと反応した。
そんなに、怯えなくても・・・
「とりあえず、顔を上げてもらっていいかな」
僕は必至である。
何とか彼女を怯えさせないように、優しく、やさしく声をかけたつもりだ。
また、彼女の肩がビクッと震えた。
彼女はまだ顔を上げず、土下座の状態を維持している。
あまり言いたくはないけれど、もしかしたら命令という形をとったほうがいいのだろうか?
声も低めにして・・・
「顔を上げろ。これは命令だ」
あ~、死ぬ。
恥ずかしくて死んでしまう。
これは命令だ。だって。
僕のノミの心臓が異常な収縮を繰り返している。
彼女は土下座をやめた。
俯いた状態の彼女は心なしか震えている。
罪悪感が半端じゃない。
僕の顔は恥ずかしさと罪悪感のせいで何とも形容しがたい表情をしている。
「あ~、うん、その~なんだ・・・」
沈黙が苦しい。
「こ、この度はわ、私のようなものを買っていただき、あ、ありがとうございます」
彼女が言葉を発した。
とりあえず、沈黙は回避された。
「あ、ああ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
前言撤回、沈黙は再び訪れた。
「とりあえず、ご飯を食べよう」
もう何でもいいからこの空気を変えたかった。
それに、ちょうどお腹も空いていたし。
僕は時空間魔法のかかった袋・・・アイテム袋から、彼女に会う前に街で買った食べ物を取り出した。
パンと干し肉だ。
何とも質素だけど、とりあえずこれでいいだろう。
僕は木の皿とコップを2つづつ取り出し、さらに食事を皿にのせて彼女に渡そうとして思い出した。
彼女の目は見えないのだった。
「今食事を用意したから、手を出して」
「は、はい。ありがとうございます」
彼女は両掌を器のように差し出した。
「え~っと、何をしているのかのな?」
「・・・!? す、すみません」
彼女は咄嗟に両手をひっこめた。
そして、なぜか口を大きく開けて、舌を長く伸ばし、ひっこめた両掌を顎の下あたりに持ってきた。
「どおろ」
ああ、何となくだけどわかったぞ。
これはあれだ、R-18てきな奴だ。
俺のストローを咥えて、ミルクを飲みな的な奴だ。
「準備万端のところ、申し訳ないけれど普通の食事だよ。パンと干し肉だよ。食べる?」
認識の齟齬があったことに気付いた彼女は顔を真っ赤にしたことは言うまでもない。
食事を終えた頃、外は暗くなっていた。
あと2,3話とか言っていましたが、まだもう少しだけ続きそうです。