奴隷
魔王を倒すために城から送り出された。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・で?
この次どうすればいい?
現状を把握しよう。
1、僕は勇者である。
2、『覚醒補助』というスキルを持っている。
3、ステータスは微妙である。
4、時空魔法のかかった袋を1つ持っている。
5、金貨300枚を持っている。
6、僕はこの世界が異世界であることしかわからない。
以上
情報が少ない。
とりあえず情報を集めよう。
情報を集めるならどこに行こう?
・・・酒場?
待てよ、ここは魔王が存在する異世界だ。
だったら冒険者ギルドみたいなところがあるのではないだろうか?
そこなら、いろんな情報があるのではないだろうか?
それに、冒険者になれば金も稼げるのではないだろうか?
金貨300枚はこの国でどれくらいの価値を持っているのか知らないけど、金はたくさんあっても困らないだろう。
よし、そこに行こう。
そう決意して、僕は城下町へと向かった。
城下町にたどり着いた。
すごい
本当に異世界なんだと改めて思う景色がそこにはあった。
いかにもな王道ファンタジーっぽい街並み。
いかにもな衣服を身にまとった人々。
そして、一番異世界っぽさを放っていたのは人間以外の種族の存在。
獣耳を持った戦士風の男、耳のとがった綺麗な女性、背が低めで筋骨隆々な髭モジャ・・・etc
僕は少しワクワクしてきた。
ただ、そのあと少しテンションの下がるものまで見えてしまった。
ボロボロの服とは言えないような布をまとい、体は細く弱弱しく傷だらけで、なのにその体に合わない肉体労働をする人たちの姿が見えてしまった。
乞食ではない。
あれは・・・
「おい奴隷ども、ちんたら働いてんじゃねぇ!!」
そういう怒鳴り声とともに奴隷の一人が殴られた。
殴られた奴隷は申し訳ございませんとかすかにつぶやいた後、再び仕事を始めた。
周囲にいた人間は誰も見向きもしなかった。
見ていてすごく気分が悪くなった。
微妙なテンションを維持したまま冒険者ギルドを探していると、ある店が目に留まった。
大通りから少し横道に入ったあたりにある店だ。
そこでは奴隷が売られていた。
さっきは奴隷を見たせいかなぜかものすごく目についた。
いつの間にか僕はその店の前に立っていた。
店の前には板が立てかけられた一つの檻があり、その中には一人の少女がいた。
綺麗というわけでもなく、平均的な顔立ちをしていた。
ただ、その顔には両目をまたいだ大きな傷があった。
おそらく、この子は目が見えないのだろう。
檻に立てかけていた板にはこう書いてあった。
『処分品、この檻の奴隷金貨10枚』
僕は今宿屋にいる。
値段は一泊一部屋銀貨5枚である。
「あぁ、疲れた」
僕は部屋にあるベッドに背中から倒れ込んだ。
ボフッという音とともに少し埃が舞った。
「さてと」
そう一言発して僕はベッドから上半身を起こした。
少しだけボーっと窓の外を見る。
ベッドの傍らに目を向けた。
また窓へと視線を戻した。
やっちまった・・・
冒険者ギルドで情報を集める。
僕がこの街に来ている理由だ。
それなのに僕は今ギルドではなく宿屋にいる。
なぜか?
簡単なことだ。
僕はやってしまったのだ。
僕は奴隷を買ってしまったのだ。




