いかにもな勇者の物語のはじまり
本当は短編になるはずだったものです。
なんだか書いていたらちょっと長くなってきたので連載します。
おそらく、あと2話くらいで終わります。
僕は勇者として召喚された。
いかにもな広間に、いかにもな服装の、いかにもな人たちが周りにいた。
「嗚呼、勇者様どうか魔王の魔の手から我らの世界をお救いください」
いかにもなお姫様は僕にそう言った。
お姫様の隣にはいかにもな玉座に、いかにもな王様がふんぞりk・・・座っていた。
太い。
どこが?とは言わないが太い。
太い王様が口を開いた。
「勇者よ、もしも魔王を打ち取った暁には望みの物を与えよう」
さっきのお姫様のセリフを聞いた時も思ったけど。
いかにもな勇者の冒険が、僕の冒険がこれから始まろうとしていた。
王様が一言発してから一呼吸おいてお姫様が一歩前に踏み出し、この世界について説明を始めた。
長い話だった。
もっと端的にまとめて話してほしい。
ちなみに、要約すると3つのことが分かった。
1、この世界ではステータスやスキルがある。
2、召喚された勇者は特別なスキルを1つ持っている。
3、召喚された勇者は元の世界に帰れない。
3つ目の項目に関してはお姫様が言った言葉をそのまま要約した形で「帰れない」となっているが、実際には「これほど素晴らしい世界に呼ばれたのだから、勇者が元の世界に戻りたいわけがない」といった感じのことらしい。
なので、帰れないというわけではない。
ただ、帰し方を知らないのだ。
いや、考えていないのだ。
この世界についての長い長い話を聞いた後、お姫様がステータスを確認するように促してきた。
すると、いかにも魔法使いだといわんばかりの老人が僕の目の前にお盆のようなものを持ってきた。
お盆の上にはカードがあった。
どうやらこのカードは触れた者のステータスを表示することができるカードらしい。
僕はカードを手に取ってみた。
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職業:勇者
HP300/300
MP100/100
攻撃力:50
守備力:50
魔力:50
【スキル】
覚醒補助
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これが僕のステータスだ。
カードを受け取った後、ステータスの詳細をお姫様に伝えると微妙な顔をした。
姫様だけではない。
王様も、その家臣たちもだ。
周囲の表情から察するに、僕のステータスは微妙らしい。
「もう一度召喚をやり直すか・・・」
小さい声だったせいで誰が言ったのかはわからなかったが、はっきりと僕の耳には届いていた。
後で知ったことなのだが、ステータスが平凡だから周囲の人間が微妙な顔をしていたわけではないらしい。
スキルが問題だったのだ。
この世界では平凡なステータスを持つ者でも、スキルが強力であることがあるらしい。
スキルの力だけで大きな功績を挙げた者は何人かいるらしい。
とくに有名なもので言うと『剣の極み』『魔道の極み』『神威』などが挙げられる。
で、僕のスキル『覚醒補助』は今までにないスキルだそうだ。
ただ、このスキルに似たスキルは存在する。
『補助』シリーズと『覚醒』と呼ばれるスキルだ。
まず、『補助』シリーズとは補助するスキルを総称したものだ。
例えば『速度補助』は足が速くなる、『腕力補助』は重いものが持てるようになるなど様々な種類がある。
つまり、『補助』とはその名の通りサポートを目的としたスキルである。
次に、『覚醒』
『覚醒』という言葉を聞くと「自分の中にある隠された力が解放される」と思うかもしれない。
僕も最初はそう思った。
だが、実際には眠っているモノの目をスッキリ覚まさせるだけのスキルである。
しかも、効果があるのは外傷や疾病による意識不明の状態からではなく、普通に睡眠をしている状態のモノだけが対象である。
さて、それでは以上のことを踏まえて僕のスキルをもう一度確認してみよう。
『覚醒補助』
上記のことから推測すると
『補助覚醒』=スッキリと目を覚ますことをサポートするスキル
となる。
ハッキリ言って『覚醒』の下位のスキルである。
ちなみに、スキルカードに書かれている僕のスキルをタップすると詳細が表示された。
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『覚醒補助』
覚醒を補助する。
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・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・端的すぎる。
いくら何でも、説明が短すぎる。
ステータスとスキルを提示した後、いかにも兵士らしい人が何かをもって近づいてきた。
「勇者よ、そなたには我が国より軍資金を与えよう。城下町で必要な装備を整えてくるがいい」
王様がそういうと、兵士は何も入っていない袋を僕に渡してきた。
「空間魔法のかかった袋だ。その中に金貨300枚が入っている。勇者よ、健闘を祈る」
そう言うと、僕は城の門の外まで兵士二人に引きずり出された。
いくら何でも扱いが雑すぎる。
僕はハズレ勇者らしい。
筋トレについて考えているときに思いついた話です。