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~栞の独白編 その3~

飲み会から1週間が経過。栞サイドです。恋愛要素が希薄なお話。

彼との飲み会から1週間が過ぎた。


この1週間、特段何が起きたわけでもない。お互い飲み会後のLINE以降連絡を取ることは一切なく、彼とは相変わらずエレベーターで顔を合わせるだけの、普段通りの関係性に落ち着いていた。

近頃の彼は、飲み会に行く前のやつれた彼ではなくなっていた。私が入社当時から知っている、普段通りの彼。きっと立て込んでいた仕事がひと段落ついて、ようやく生活に落ち着きを取り戻したのだろう。

「抱きしめられたのは、やっぱりただの酔った勢いだったんだ」と、私の中ではすっかり結論づいた。


私はというと、今日も単調な仕事をこなし定時に帰宅する、そんな毎日。毎日があっという間に過ぎていく。歳を重ねると時間が過ぎるのが早く感じるというのは、あながち嘘ではないのかも知れない。

単調な毎日に飽きてきた私は、何かプライベートで打ち込めることがあれば生活にハリが出るのかも…と考えた。

「習い事をしよう」

仕事の休憩時間、1人スマホで自宅や職場近辺で通えそうな、手ごろな習い事はないかと探していた。

調べてみると、習い事は山ほど出てくる。料理、陶芸、キャンドル、習字、生け花、フラワーアレンジメントにボルダリング…選択肢に親のバイアスがかからないと、こうも選択肢が豊富なのだろうか。


私は小学生の頃、親から強制的にやらされる形で2年ほどピアノを習っていた。幼い頃から一人遊びが好きで友達が少なく、特に秀ででできることもなかった私を心配して、母が私をピアノのレッスンの見学に連れて行ったその日に申し込みを済ませて来たのだ。

しかし何故ピアノだったのだろう?両親や親戚がピアノに造詣がある訳でも、私が特別ピアノを好んでいた訳でもなかった。周りの女の子たちは確かにピアノを習う子は多かったけれど…

あまり前向きになれないままレッスンを習う方向で話は進み、家でも練習をするのに必要だろうということで、我が家に電子ピアノがやって来た。ピアノを特別好んでいた訳ではないとはいえ、それでも「我が家でピアノが弾ける」という状況があることは、純粋に嬉しかった。練習はあまり好きではなかったけれど、それでも鍵盤に毎日触れられるというのは楽しいもので、学校から帰ってきてはピアノに向かう、そんな日が暫く続いた。

しかしさすがは「女の子が習う習い事の代名詞」、ピアノを習っているということが周囲に知れると、他の女の子たちの目が違うものに変わってくる。ライバルとして見られるようになったのだ。小学生の頃、私の通う学校では毎年合唱コンクールがあり、その伴走者の座を狙う女の子はとても多かった。ピアノを習うだけで、伴走者候補に自動的に加えられることになる。

私は、ピアノを弾くことが好きというよりも、ピアノの鍵盤に触れることが好きだった。白鍵と黒鍵のコントラストを見ると心が落ち着いたし、強弱をつけることで変わる感触の違いを肌で感じられることが好きだった。

決して演奏が好きだった訳でも、伴走者候補になりたかった訳でもない。それなのに、「ピアノを習っている」ただそれだけのことで周りから対抗の目を向けられ続け、ピアノに向き合わないといけないくらいなら、辞めたほうがマシだ。そう思った。

しかし、電子ピアノを買ってもらった手前、そうすぐに辞めるとも言えない。私はとりあえず1年頑張ってみることにした。習う期間が延びてくれば、それ相応にレッスンのレベルも上がる。初めは付いていくことが容易かったはずなのに、だんだん思うように手が動かなくなり、指のリーチも足りず、演奏に行き詰まることが増えていった。

何よりも焦ったのが、同じピアノレッスンを受ける同じ学校の女の子が、あまりにも上手だったのだ。私もそれ相応には練習しながらレッスンに臨んだが、素人レベルでも充分にわかるくらい、格段のレベルの差がそこにはあった。どう足掻いたって越えられない、高い高い壁がすぐ傍にあることを私は感じていた。

「やっぱり辞めよう…」

そう決意して辞めるまで、ピアノを始めてから結局2年かかった。


そんな過去の習い事のことを思い出しながら開いたページに、興味深いものを見つけた。

「ステンドグラス教室」

教室のホームページに映る幻想的な世界に、私は一瞬で心を奪われた。直感的にコレを習おうと思った。

その日の仕事をいつも通り淡々とこなし、私はその足で教室に向かった。

心なしか、いつもよりも見える世界が輝いて見えた。

学生時代の習い事って親の意向が結構大きく働きますよね。

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