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~葵の独白編 その2~

仕事に追われていたもので、少し間が空きました。。

今回は葵サイド。

抱きしめた後、葵くんはどんな事を考えていたのでしょうね。

俺は彼女を衝動的に抱きしめていた。

誤解を招いてはいけないので書いておくが、俺がこんなことをするのは生まれて初めてだ。

「帰りたくない」と言った彼女がどうしようもなく可愛くて、気持ちが未だかつてないほどに昂ぶっていた。

抱きしめた彼女の身体は華奢でありながら、女性らしい柔らかさも持ち合わせていた。髪の匂いか柔軟剤の匂いか…定かではないが、彼女はとてもいい匂いがした。

いつもの荒んだ日常から解放され、穏やかな瞬間がそこにはあった。

俺は、ずっとこのまま彼女のことを抱きしめていたい。このまま彼女を家に帰したくない…そんなことを思っていた。

しかし、抱きしめてしばらく時間が経った後、俺はふと我に返った。

俺は一体、彼女の了解もなしに何てことをしているんだ…俺は彼女のことをそっと解放した。


「あの…えっと……ゴメン。」

「あぁ…うん、大丈夫。」


酔いが回っていた彼女も、一体何が起きたのかとポカンとしている。困惑している…訳ではない…のか?

それからというもの、俺は彼女に対してこれといった会話も切り出すことができず、気まずいまま時間は刻一刻と流れた。あれだけ捕まらなかったタクシーが、彼女を抱きしめた一件の後、俺たちの空気を読むかのようにあっさりと捕まり、お互い挨拶も程々に、別々に帰途についた。

抱きしめた後にキスをすることや、彼女を家に帰さないという選択肢もあったはずなのに…俺はそれをしなかった。

やり切れない気持ちになった俺は、コンビニに寄り、普段なら絶対に選ばないような度数の強いウィスキーを買い足し、家で一人で飲み直した。

彼女を抱きしめた時の感覚を思い出していた。抱きしめただけであんなにも穏やかなのであれば、その先に進んだらどうなるのだろう…そんな不毛なことを考えているうちに、俺はそのまま眠りについていた。


翌朝、許嫁からの電話で目が覚めた。

俺が東京に出て来てからというもの、日曜の朝10時、あいつは毎週欠かさずモーニングコールをかけてくる。

「もしもし…」

「葵、おはよう!もしかして今起きた?今日の体調はどう?」

俺のテンションの低さをもろともせず、ハイテンションのあいつの声が寝起きの俺の頭にキーンと突き刺さるかのように一気に押し寄せてくる。

「…最悪…」

「えー嘘でしょ?もしかして昨日の夜、派手に飲み過ぎちゃった?」

「まぁな。ちょっと二日酔い。」

「そうなんだ。サラリーマンも付き合いとか多いから大変だよね。葵そんなにお酒強くないんだから飲み過ぎちゃダメよ!

 あ、二日酔いにはしじみ汁が体に良いって言うじゃない。何なら作りに行ってあげよっか!?」

「…いや、それは大丈夫。」

「えー!そんなあっさりと断らなくたっていいじゃない。私これでも料理の腕、結構上がってるんだから!

 最近料理教室にも通い始めたのよ。そろそろ葵が私と結婚してくれてもいい歳だしね!」

「へー、そうなんだ。」

至極興味がない。というかさりげなく会話の中に結婚のタイミングを盛り込んで男を試すのは、あいつに限らず世間一般の女性達に伝えたいが、止めた方がいいと心底思う。

「あ、そうだ葵!私来月そっち行くからさ、久しぶりにデートしようよ!」

「えっ…恵那こっち来んの?」

「彫刻の展示会が東京であるから。私の作品も展示されるし、折角だから観に行こっかなーと思って。

 私料理もだけど、賞を受賞できるくらいには彫刻の腕だってもちろん上がってるのよ。

 そっちに行ったときは葵の家に泊めてよね。葵の両親にはもう許可もらってるから。」

「まぁ…別にいいけどさ。で、何日泊まるの?」

「んーとね、1週間。私としては何ならそのまま同棲してもいいくらいなんだけど。」

滞在期間が想定よりも長い。というか同棲は勘弁してくれ。

「はいはい。まぁまた来る時間とかはっきりわかったら教えてよ。迎えに行くから。」

「はーい!じゃまた連絡する!楽しい日曜を過ごしてよね。バイバーイ!」


騒がしい電話が切れた後、辺りは一瞬にしていつもの静寂を取り戻す。鳥の囀りが聴こえる。

ふとスマホに目をやると、彼女からLINEが届いていた。


「昨日はいろいろとありがとう。迷惑かけちゃってゴメンね…無事に帰れた?私は何とか無事に帰れたよ。

 もしまたの機会があるのなら、その時には酔いつぶれないようにするよ。お互い仕事、頑張ろうね。」


彼女らしい文面だと思った。社交辞令ほどではないけど、当たり障りのない文面というか…

俺が彼女のことを抱きしめた件に関して触れていないのは、恐らく彼女の配慮があってのことだろう。

どんな返信が良いのか、暫く悩んだ。抱きしめた一件に関しては、俺がわざわざ掘り返すのはかえって迷惑だろうし…

悩みに悩んで数時間後、結局俺も彼女同様、当たり障りのなさそうな文面で返信した。


「こちらこそ、昨日は付き合わせてゴメンな。俺も無事に帰れたよ。

 樫村と色々話できてすげー楽しかった。二日酔い大丈夫か?無理だけはするなよ。また職場でな!」


次に彼女とこんな機会を持てるのは、一体いつのことになるのだろう。

俺としては彼女の打つところの「またの機会」があって欲しい。けれど、果たして彼女はそんなことを考えてくれるのだろうか。抱きしめた時の彼女は、一体どんな事を考えていたのだろうか。

そんなことを思い廻らせながら、俺は再び眠りについた。


明日からまた、代わり映えのしないの毎日が始まる。

許婚初登場回でした。

グイグイ系の女性を想定しながら書いてはいるものの、私自身がグイグイじゃないせいでものすごく表現が難しい。。

次は再び栞サイドに戻ります。

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