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~栞の独白編 その2~

再び栞サイドに帰ってきました。

葵に抱きしめられた栞、一体どうなることやら。

彼から唐突に抱きしめられた。

突然のことで戸惑ってしまい、一瞬頭が真っ白になった。酔いも回っているので、どうしてこんなことになっているのか、状況がなかなか掴めない。私、彼に対して何か変なことでもしたのかな…?

しかし、「あぁ、なんかこの食事会で、彼とどーにかなってしまえばいいのに。」という邪念を数日前からほのかに抱いていた私にとって、この状況は寧ろ願ったり叶ったりである。私の人生の中で今一番、ものすごくドキドキしている。彼の腕は見た目よりもずっと筋肉質で包容力があった。抱きしめられている間、あぁ、彼も大人の男性なんだなぁ…と思った。お酒が入っているせいなのか、人肌に飢えているからなのか…温かい。ホッとする。こんなにも間近で人の温もりに触れたのは一体いつ振りなんだろう。

このままずっと彼に抱きしめられていたら、気持ちが昂ぶり過ぎて、それこそ本当に私はどうにかなってしまうのではないだろうか。そんなことを考えていたら、彼は私のことをそっと解放した。


「あの…えっと……ゴメン。」

「あぁ…うん、大丈夫。」


それからというもの、これといった会話もなく気まずいまま時間は刻一刻と流れた。あれだけ捕まらなかったタクシーが、彼に抱きしめられた一件の後、私たちの気まずい空気を読むかのようにあっさりと捕まり、お互い挨拶も程々に、別々に帰途についた。

思いの外彼とどーにかならなかったことに対して、若干ホッとしたような、がっかりしたような…。

とにもかくにも、この日以降、私は彼のことが気になって仕方なくなってしまったのである。


翌朝。平日の仕事のアラームを切り損ねていた私は、けたたましいアラームの音で目を覚ました。

カーテンを閉め忘れていたせいで、太陽の日差しがダイレクトに差し込んでくる。眩しくて思わず目が眩んだ。

「あー…気持ち悪い…」

店で眠ってしまうくらいに普段よりも随分ハイペースでお酒を飲んでしまった私は、ものの見事に二日酔いになっていた。頭が痛い、胃がもたれる、体が重いといった典型的な二日酔いの症状に悩まされ、なかなかベッドから出ることができない。

ただしかし、彼に対して食事をご馳走になったことと、介抱してもらったことに対するお礼は今日のうちに伝えておかなければ…そう思って、彼にLINEを送った。


「昨日はいろいろとありがとう。迷惑かけちゃってゴメンね…無事に帰れた?私は何とか無事に帰れたよ。

 もしまたの機会があるのなら、その時には酔いつぶれないようにするよ。お互い仕事、頑張ろうね。」


抱きしめられた件に関しては一切触れていない。話題に出すべきなのかどうか私自身よくわからなかったし、わざわざ話題に出したところで、気まずくなってしまうだけなんじゃないかと思った。

数時間後、彼から返信が届いた。


「こちらこそ、昨日は付き合わせてゴメンな。俺も無事に帰れたよ。

 樫村と色々話できてすげー楽しかった。二日酔い大丈夫か?無理だけはするなよ。また職場でな!」


当たり障りのない文面が並んでいた。その文面を見て私は、この先彼と何とかなる可能性は限りなく低いのだろうと察した。一瞬でも彼に対してそんな邪念を抱いて浮足立っていた自分自身にひどく後悔した。

そりゃそうだ、彼は私とどうこうすることなんて望んでいない。許嫁もいるんだし。彼も仕事で疲れてストレスが溜まっていただろうし、お酒が進んでいたから頭が上手く働いていなかったんだろう。この邪念は私の心の中だけでしまっておくべきだ。


明日からまた、いつも通りの毎日が始まる。

私は重い体を必死に起こして胃薬を流し込んだ後、再びベッドに体を預けた。

二日酔いって年々抜けなくなるので困りますよね。

次は再び、葵サイドからのお話に続きます。

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