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~栞の独白編 その1~

まずは栞サイドから起こったこと、感じたことを書いていきます。

私が葵君を好きになったのは、一体いつからだったのだろうか。

今振り返ってみれば、私は出会った当初から彼のことが好きだったのかも知れない。


私が好きになる人には、決まっていつも先に恋人がいる。彼も例外ではなかった。

26年生きていると自然と異性の好きなタイプも定まってくるのか、私は黒髪、メガネ、長身、細身の男性にとにかく弱い。そういう意味で、彼は第一印象からものの見事に私のストライクゾーンに入っていた。

人見知りの私にも気さくに話しかけてくれ、仕事もそつなくこなす。向上心もある。絵に描いたような「会社の上の人から好かれそうなタイプ」。私の心の壁を早々に取っ払った彼は、初対面のときから私には好印象の異性として映っていた。しかし彼には許婚がいる。その事実によって、私の彼に対する好印象は、恋愛というところまで歩みを進めるのを即座に止めたのであった。

人様のものを奪ってまで、彼氏にしたいと思う程、私は強欲ではなかった。

「相手がいるならすぐに諦めて、何もなかったこととして先に進んでいく。」それが今までの私のお決まりの一人失恋パターン。そんなことを繰り返し続けて早26年、いつものようにそのサイクルに彼も乗っただけ。そう思っていた。

彼と2人きりで食事に行くまでは。


初めて彼と出会ってから、早3年の月日が流れた。

私は29歳になり、両親からも結婚を急かされる機会が増えたが、なかなか良い相手に巡り合うことができない。しかし、私よりも先に結婚していった友人や職場の同僚の子育てに追われ、自分の思うような生活ができなくなっている様子を横目に見ては、「あぁ、あんな感じで生きていくよりかは、このまま独身生活を満喫してもいいかな」と呑気な考えを持ちながらありふれた日々を過ごしていた。


私は転職して今の会社にやって来た。彼と私は同い年だが、彼の方が今の会社では先輩にあたり、入社したての私の教育担当を任された。1年半彼の下で仕事を学んだ。彼は同い年でありながら、仕事に対する熱意が強く、周りの人達に対する思いやりもあり、同い年ながら先輩として私は彼の事をとても尊敬していた。

その後、人事異動の波に揉まれた結果、彼とは別の部署に配属され、彼と顔を合わせる頻度も徐々に減っていき、今では数か月に一度、エレベーターでたまに挨拶を済ませる程度にまで頻度が減っていた。彼の連絡先は知ってこそいるものの、プライベートで会うようなこともなく、何より一人失恋パターンを踏んだ私が、彼に対してときめきを求めるはずもなく、私から連絡を取ろうなどといった考えがそもそも浮かぶはずがなかった。


そんな彼と久し振りに、エレベーターで顔を合わせた。

久し振りに会った彼は、もうどうしようもなくしんどそうで、彼のあまりにも疲弊しきっていた様子を見て、どうしたものかと思い、珍しく私は彼に対して、挨拶以外の声を足した。

「おはようございます。…ていうかどうしたの?何か顔色悪いよ?」

私は会社では彼の部下に当たるが、彼からの希望で基本的にはタメ口で話をしている。

彼の顔に目をやると、目にクマができ、頬も若干こけている。絵に描いたような「会社の上の人から好かれそうなタイプ」の彼に、一体何があったというのか。

「いや……うん…大丈夫。って大丈夫ではないか。」

それは誰だって見ればわかる。

「どう見たって大丈夫じゃないでしょ。仕事忙しいの?」

「まぁね…何かいろいろと上手くいかなくてさ…」

「せめて最低限の食事と睡眠くらいは取りなさいよ。」

「だよな…」

少しの沈黙の後、彼が言った。

「なぁ樫村、一緒にメシでも行かない?」

「あぁ…別にいいけど……2人で?他にも誰か誘う?」

「そうだなぁ…仕事の話したいし、同じ部署の奴等は呼び辛いから…

 呼びたい奴がいるんなら連れて来てもいいし、そうでもないようなら2人でも。」

「わかった。じゃあ都合良い日また教えて。前と連絡先変わってない?」

「変わってないよ。じゃあまた改めて。」

こうして私は、何度かのメールのやり取りの後、彼との食事の約束を取り付けた。


会食当日、私は数日前から妙にそわそわしていた。

食事の約束を取り付けるまでは特に気にかけていなかったが、異性と食事に行くことなんて、もう何年もなかったからだ。果たしてどんな服を着て行けばいいのか。しかし彼には許婚もいるし、変に気合を入れた格好で行ってしまってあらぬ勘違いを招いても困るし…そんなことを不安に思いつつも、心の奥底で、

「あぁ、なんかこの食事会で、彼とどーにかなってしまったらいいのに。」

そんな邪念を少なからず抱いている自分がいた。

どうしてこんなことを考えてしまうのだろうか。長らく異性に飢えているから…?

そんな邪念を心の奥にしまいつつ、可もなく不可もない格好に身をまとい、私は約束の店へと向かった。


「おー樫村!こっちこっち!!」

店に入ってどこかとうろたえる私に、彼が声を掛けた。

結局お互い他の誰かを呼ぶ宛てもなく、2人きりの食事会が始まった。

話したことと言えば、最近のお互いの仕事の近況。9割型それに尽きる。

私は特に人間関係の荒波に揉まれることもなくただ平和に、淡々と仕事をこなしていたため、すぐに彼の話題へと移った。

聞くところによると、彼は女性だらけの課に移ったこと、その課の女性陣が傍若無人な人ばかりで、なかなか上手くコミュニケーションが取れず、協調性がないこと、仕事に対しての責任感が希薄な人が多く、中途半端に彼女達が仕上げた仕事の尻拭いが全て自分に回ってくることなどを私に話した。

完全に職場の女性陣に良いようにこき使われている。そりゃあひどく疲れる訳だ。

「仕事のこと、彼女さんには相談したの?」

「いやぁ…一応相談はしたんだけどさ…逆に怒られるんだよ。お前がしっかりしないからだって。」

仕事でもプライベートでも女性の尻に敷かれているのか…もう八方塞がりじゃないか。

話が弾むにつれて、食事も進むし、酒も進む。

食事が始まってから1時間後、お酒のペース配分を間違えた私は、不覚にも彼の前で酔い潰れてしまった。気付けばその場で眠っていたらしい。目が覚めた時には、それまで向かい側の席に座っていた彼が、私の隣に座り、大丈夫かと声を掛けながら私の背中をさすっていた。

私は何だかとても不思議な気持ちになった。ずっとこのまま、こんな時間が続いたらいいのにと思った。

そんな事を考えている間に私はまた寝落ちてしまい、気付けば閉店の時間を迎えていた。


とりあえず店を出て、私達は夜の街並みを暫く歩いた。帰りのタクシーを何度も拾おうとするが、土曜の夜ということもあり、飲み会帰りの客が多く、タクシーがなかなか捕まらない。

懸命に私の帰り方を探してくれている彼。しかし、酔っ払っていた私は彼に、何を思ったのかこう言った。

「…私まだ帰りたくない…帰りたくないよぉ。」

一体何を言っているんだ私は。ただの酔っ払いのワガママじゃないか。

しかし、そんな私に彼はあろうことか、突然こんな事を言った。

「なぁ樫村、抱きしめてもいい?」

私の返事を聞く前に、既に彼は私の事を正面から強く抱きしめていた。

私にとってはこれが初めての執筆。果たしてちゃんとした文面になっているのか…心配でなりません。

次は葵サイドからのアプローチで書く予定ですが…気長にお待ち下さいね。

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