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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合

誘われ酔い

作者: ありりん

「私、彼氏できた」

 大学の友人、しおりの家。二人で飲もうと誘われ、やったー栞と二人きりだーと内心喜びながら飲んでいた私に、そう告げられた。

 頭が真っ白になり、一瞬何も考えられなくなる。

「へ、へぇ、おめでとう」

 なんとか出せた言葉はそれだけ。失っていた思考が戻ってきて、ショックが現実感のあるものになる。

 でも、考えてみれば当たり前のこと。栞だって女子大生なんだ、彼氏の一人や二人ぐらいできる。

 勝手にショックを受ける私が悪いのだ。



 栞と出会ったのは大学の入学式の日。方向音痴で迷っている私を助けてくれたのが出会い。

 そして入ったサークルで偶然再会して、そこから仲良くなって。

 好きになってしまった。

 自覚したときは悩んだものだ。だって、同性を好きになるなんて考えたこともなかったから。

 悩んで悩んで、この気持ちは秘密にしようと決めた。……はずなのに。


 ショックをかき消そうと、たくさんお酒を飲む。私はお酒に強くないのに、飲む。

 酔うのに時間はかからなかった。すぐに顔が熱くなる。

若葉わかば、そんなに飲んで大丈夫? 何か嫌なことでもあったの?」

 嫌なこと? あったよ。いままさに。

「ううん、だいじょうぶ……」

「そっか。あー、暑くなってきたなー。脱ごっと」

 そう言うと彼女は着ていた服を脱ぎ、上半身が下着だけになった。

 そんな格好されたら……目のやり場に困る。

「そこまで脱がなくても」

「暑いんだからしょうがないじゃん。何? ドキドキしちゃう?」

「ば、ばかっ」

 ドキドキするに決まってる。でも、栞は私に下着姿を見られてもなんとも思わないということも実感して、切なくもなった。

「私が脱いだんだから、若葉も脱ぎなさい」

「やだよ、恥ずかしい」

「ええーい、脱げー」

「うわあーっ」

 強引に私の服を脱がそうとしてくる。そのときに栞の顔が目の前に来て――

 酔って朦朧とした頭で、反射的に押し倒してしまった。

 栞の肩がフローリングの床にぶつかる。


「………………」

「ご、ごめ……」

 少しの時間見つめ合って、慌てて肩から手を離そうとする。が、その手が栞に掴まれた。

「……どうして私を押し倒したの?」

「…………」

「教えて?」

 その声色は、初めて聞くほど優しいものだった。まるで幼い子どもに問うような言い方をされて、私の心は揺れる。

 もう、私の気持ちを話してしまっていいんじゃないか。楽になりたい。

 冷静な判断じゃないってことは分かっている。でも、話してしまいたい。

「わた、しは……」

 言いたい。でも、拒絶されて友達でいられなくなるのが怖い。でも、言いたい。

「私は? 栞のことが?」

「好き、だから……って、え?」

 何が起こったのか理解できない。栞が「栞のことが?」と、私の台詞をリードした。なんで?

 まるで私の言いたかったことが事前に分かっていたような言い方だ。

「よかった……若葉のその言葉が聞けて嬉しい」

「え? どういうこと?」

「若葉、わかりやすすぎ。私が気づいちゃうなんてよっぽどだよ」

 栞が楽しそうに微笑んでいる。私にはその微笑みの理由が理解できない。

「あの……状況が理解できないのは私が酔っているからでしょうか……」

「分からないの? こういうこと」

 彼女が真面目な顔になったかと思うと、私の背中に手を回して……口づけをしてきた。

「……っ!?」

 本当に、何が起こっているのか分からない。

「私も若葉のことが好きってこと。彼氏なんて嘘だよ。若葉、そう言ったら露骨にがっかりするんだもん。ほんと、わかりやすい。私が服脱いだときも、めっちゃチラチラ見てくるんだもん。ま、そうさせたくて脱いだんだけどね」

「私のことが、好き?」

 信じられないと思いながら、彼女の言葉を反芻する。それって、実は相思相愛だったってこと? 本当に信じられない。

「好きだよ。それで、お互いに好きなんだったらさ……付き合っちゃおうか」

 私に覆いかぶさられたまま、栞が笑顔でそう提案した。その笑顔は、眩しくて――私の心を鷲掴みにするには十分だった。

「うん!」

 返事をすると、床に寝転がったままの栞に抱きしめられた。

 今度は私からキスをする。口を離すと、二人顔を見合わせて笑った。

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