第1章 プロローグ
「ねえ、どうしてとーちゃんがいなくなっちゃうの?」
「えっとね、おとうさんのおしごとなんだ。ごめんね」
「なんでよ!!せっかく仲直りして、またあそぼうっていったのに!やくそくしたじゃん」
「ごめんねぇ゛…わだぢもいっじょにあぞびたいよぉ!!!またおはなししたいよ…またもどってくるからぁ゛!!!」
「僕もまってるよ。そうだ、ガチャガチャでとったゴムなんだけど、よかったらつかってくれないかな?きっと髪が長いとーちゃんなら似合うよ」
「でも、そんなのもらえないよぉ…大事な、物なんだよね?」
「ううん、これがやくそくかわり!!また会ったときにわかるようにつけてくれるとうれしいな!」
「ありがと。ありがとぉ…」
「はい。どうかな?」
「…ありがと!!またあえるよね??」
「あえるよねじゃないよ。会うんだって!!」
1章
ー八戸フリースクールー
都心から電車で数時間。皆野崎という駅にて下車した後はバスに1時間ほどゆれた先。行き場の無い学生。通学している学校以外に居場所を探している人たちのために開放されている『八戸フリースクール』という小さな建物がある。外面から見ると三階建てで、いかにも昭和のあたりに作られたような古い外見を醸し出している。午前8時から午後7時までは開放されている。何でもここを開いた先生は過去に高校や中学校などで教鞭を振るったことのある先生らしく、多くの科目を生徒達に教えているらしい。
教鞭を振るう講師の名前は藤川舞。お手製のエプロンを通し、見る人によれば割烹着のような服を着用している彼女が4年ほど前に私有地であったこの場所に私財を投じて作成した。
「センセ、これどこにおけばいいの?」
「んーとね。じゃあ二階あがってすぐの教室にでも置いといてもらえるかしら麻耶さーん」
「はいはーい。任せてください」
舞の事を先生と呼ぶ彼女は上田麻耶。ひょんなことから舞に雇われ講師をすることになっていた現役大学生である。大学生デビューでもしたかのような、明るい茶色に染めたボブカットに薄い紫色を基調としてラベンダーの花をイメージさせる模様をしたワンピースに、先ほど舞に尋ねていた自分用の教卓用に見える一回り大きい机と、彼女が教えることとなっている現代文、国語関連や世界史、日本史、経済学などといった社会科のテキストを重たそうに抱えながら手ぶらで横にいる舞と階段をあがって行く。
「そういえば、新しい人がここにきたがってるみたいですね」
階段を登り始めた段階で、気にでもなっていたのか。麻耶が舞に向かって尋ねた。
「ん~っと。正確には帰ってくるって言ったほうが正しいのかしら?元々この皆野崎に住んでいた子で、私も顔見知りなんだよね」
「そんなこと聞いていませんよセンセ!!なんで教えてくれなかったんですか!激おこってやつですよ」
「いやだって聞かなかったでしょ。それに」
「…それに?」
勿体ぶっている舞に対して急かすわけでもなく、ただ興味津々に麻耶は話を聞く。それに対して舞は
「……ううん。なんでもない。勿体ぶってごめんね。今日のデザートあげるからそれでゆるして頂戴」
「本当ですか許します!!!!ついでに話してくれる日も待ってますね!!」
舞は一瞬、階段の溜り場を見て
(…さすがに、不登校の子が来るだなんていきなり言えないって)