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塩の山が目の前にある
軽トラ一台分山盛りだ
「多過ぎだろこれ……」
思わず、つぶやく
(純度は食卓塩と同じくらい。ちゃんとミネラルも含まれているから味も良いはずよ)
味の問題じゃない、量が問題なんだよ
(量はね〜、2トンくらいかな)
そういうことじゃなくてね、こんなにあっても使いきれないだろ
(塩の摂取量は成人で1日4〜5グラムだから、単純に40万日分。だいたい1100年分くらいかな)
いや、だから、使いきれないつーの
(一人の計算だからね。村の人口が50人くらいでしょ。22年分かな)
そう言われると、少ない気がしてきたな
(これだけ上出来の塩なら、物々交換でも重宝するわよ)
そっか、塩は貴重なんだっけ
もう一回分作っておこうかな
(ケチケチしないで、がっつり作っちゃいな。容器はあるんでしょう?)
ドラム缶サイズの竹筒が500くらい空いてるよ
(じゃあ、いくらあっても困らないし、いっぱい『抽出』の練習しておきなよ。練習できるうちは遠慮しないの)
そんなもんかね
(そうよ、そんなもんよ)
全く自重せずに、ドラム缶竹筒20本ほどの塩を作ってしまった
『貯蔵』はまだまだ余裕があるし、あっても困るものじゃないからいいか
日が傾き始めたので帰路につく
明日は魚を獲りにこよう
それから冬の間は海に通った
塩を『抽出』したり、砂から砂鉄取ったり、魚を乱獲したり
カニにそっくりな甲殻類も見つけて一人カニパーリィを開催したり、タコの魔物と闘ったり、巨大サメを捕獲したり、冬の海を満喫していた
順調に魔法も増えている
やはり、フレイがいると魔法の習得が早い
さすがギャル教師
そんなある日、いつものように魚を塩焼きにして食べようと串刺しにしていた
塩焼きに飽きて、ついつぶやく
「はぁ、醤油があったらなぁ」
元日本人にはやはり醤油が必要不可欠な調味料
米も食べたいし、味噌汁も飲みたい
これだけの海の幸を前に醤油も味噌もない
(醤油?この世界にはないだろうけど、作ろうと思えば作れるわよ)
え、だって、手帳に載ってなかったよ
(『神羅万象の端末』の劣化版だしね。他世界の調味料までは網羅できないのよ)
マジっすか?醤油作れるの?そうか、作ればよかったんだ
(味はどうかわからないけれど、作り方は教えてあげれるわよ)
マジっすか、さすがギャル教師神様!いや、さすギャ様‼︎
(ふふん、今日はやけに持ち上げるわね。じゃあね、まずは材料、大豆、小麦、塩、麹菌、この四つよ)
塩は売るほどあるけど、小麦は村の配給待ちで手に入るけど
大豆なんか村じゃ作ってないし、麹菌ってどこで手に入れるんだよ
(あ、そっかこの国じゃあ、発酵食品ないものね。でも安心して、大豆はそれなりに流通しているし、麹菌が無ければ魔法を使えばいいのよ)
さっすがギャル教師神様や‼︎ 頼りになるわ‼︎
って大豆が流通しているって、村には入ってこないじゃん
(街に行って、物々交換したらいいじゃない)
街に行く、か
考えてもいなかったな
地図はあるし、一度行ってみるか
次の日、さっそく街に行くことにした
地図によると、細くてギリギリ馬車が走れるような道がある
その道を使い森を抜け山脈を超えて、再度森を抜けると小さい村がある
地図データには伐採村とあるので森から木を切り出しているのだろう
そこから大きな川に沿って道が伸びているので、その道を進むと広大な小麦畑とまばらに村落が点在するこの国の一大穀物生産地だ
その小麦畑を大きく三等分する3本の街道が交わるところに地方都市アウグスがある
街道と並んで流れている川はいくつもの水路に引き込まれながらアウグスへと続いている
街のの中心部に溜め池を作って、また街の外へ流れ出ている
開拓村からは馬車を使うと半月くらいかかるそうだ
直線距離で300キロメートル
道沿いだと400キロメートルほどだ
それでも『飛翔』を使えば半日かからない
海から山脈を回り込んでいく方法もあるけれど、かなりの遠回りになるので却下した
通常の援助物資ルートの上空を通り、アウグスに向かう
初めて山脈についたときは絶句した
地図上の道が全て雪で埋まり、空も猛吹雪で一面真っ白だ
地図をカーナビ代わりにして、なんとか山脈をこえる
服が布切れ一枚だと寒いので、周囲に『風壁』を展開して、『狐火』を暖房代わりに風壁内に浮かばせているので寒くはない
もちろん、伐採村は見つからないように迂回していく
穀倉地帯に入ると意外に人が畑に出ていた
冬に畑で何してるんだろ?
(麦踏みよ、村でもやるでしょ)
今の時期はやらないよ。麦って春に蒔いて秋に刈りとるだろ
(それは春小麦だからよ。冬小麦は秋に蒔いて、今頃に麦踏みして春ころ収穫なの)
へ〜、今ごろが麦踏みなんだ
見つからないように高度を上げておくか
高度を上げて遠くを見渡せるようになると、遥か彼方に長い壁のシルエットが見えてきた
近くまで来るとアウグスは三角の形しているのがわかる
三角形の先端から橋が降りてそこから街道が伸びているようだ
壁の周囲は川を利用した堀になっているので先端から入るしかない
三角形の一辺の真ん中ほどへ、周囲を探知しながら慎重に降りた
うまいことに周囲には人気がなかった
偽装のため、貯蔵していたウサギ三匹とヤマドリ三匹を肩にかけて橋に向かう
こんな小僧がいきなりドラム缶サイズの塩を持ってきて、物々交換なんて怪しすぎるもんな
橋に着くと20人くらいの行列ができていた
最後尾にいる大荷物を担いでるおじさんに聞いてみる
「すいません、これはなんの行列でしょうか?」
「ああ、みんな街に入るための検査待ちだよ。持ち込む商品によっては税金取られるからね」
なるほど、並んでるのは旅商人ばかりのようで大小の違いはあるけれど、荷物を担いだり、荷馬車で引いたりしている
「ありがとうございます。どのくらい待つのでしょうか?」
やけに丁寧な見た目は農家の子供に、内心驚きながら商人は答える
「さっきね、門番の衛兵たちが昼休憩に入ってしまったみたいで、一向に進まないんだよ」
苦笑いして答える商人にお辞儀をして、最後尾だった彼の後ろに並ぶ
「お使いかい?」
「はい、このウサギと鳥と他に細々としたものを売りに来ました」
「へ〜感心だ。街に入るのに時間がかかる、私が買い上げようか?」
「ありがたいのですが、買い物もありますので、街に入りたいんです」
「そうかい、それもそうだな」
そこで会話を打ち切ると、商人は荷物をおろして休み始めた
俺も休んで、昼食でもとろうかな
商人は木の器に固形の白い塊を入れて、砕いて水を入れふやかしている
興味津々で覗いていると、俺の視線に気づいたのか
「コレが気になるか?これはな小麦を固く焼きしめたものだよ。保存がきいて軽いから旅には必需品だ。かなり硬いからこうやってふやかして食べたり、煮たりして食べるんだ」
なるほど、保存食なんだ
トロリとしたおかゆのようなものを木の匙ですくい口に運ぶ商人
あんまり美味そうじゃないが、腹に入って栄養になるならなんでもいいのだろう
見ているとお腹がすいてきた
いつものように魚を焼こうかと思ったが、『貯蔵』をこの場で使うのはマズいかもしれない
火をおこすにしても、薪を出せないし魔法で『着火』することもできない
(魔法見られたらマズいの?)
目の前にフレイが現れる
うああ、フレイ出てきたらマズいよ
慌てて腰袋を被せるが、袋は空振りする
(ああ、ステルスモードよ。他の人には見えてないわ)
便利な体だな
魔法を見られたら、魔法学園に強制入学させられるんだ
母ちゃんをあんな開拓村で一人になんかできないだろ
(この国じゃあ、そういう法律あったわね)
我慢するしかないか
列がが進んだのもうしばらくたってからだった
門番仕事しろ!




