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3話

ぎりぎり毎日投稿。

ゴブリンと遭遇して約30分。

俺は何故か、きりりとした端整な顔立ちの美少女と一緒に食糧を探し回ることになった。

本当に何故だろう。しかしこれにはれっきとした理由があるわけで、誘拐でも拉致でも弱みに付け込んでいるでもないことを始めに断って、説明しておく。


あれほど粋がって居たのにも関わらず、俺のゴブリン退治は信じられないくらいあっけなく終わった。

そして、結果としては俺はゴブリンを仕留めることはできなかったとだけ言っておこう。


――「グビィッ!?」


俺が文字通り全身全霊を込めた体当たりは、小振りな身体のゴブリンを怯ませるには充分だった。というか充分過ぎた。

あまりの衝撃にゴブリンの躯体は慣性の法則を振り切って、俺のぶつかった方向と反対に吹っ飛んでいく。

つまり、その方向には助けようとした少女が居るわけで……



やらかした。


俺もそのまま勢い余って、硬いアスファルトの上で二転三転する。またスーツのほつれが酷くなってしまった。

ずきずき痛む身体に無理を良い、上体を起こし、急いで宙を舞うゴブリンを目で追う。


頼む……絶対にあの娘には接触しないでくれ……


そんな祈りも虚しくゴブリンの汚らしいでっぷりとした身体が、少女に重な――


「む?」


――らなかった。

次の瞬間には、薄緑で薄ハゲのゴブリンの頭と身体は綺麗に別れて、ぼてりと黒い地面へ落下した。


「あ、あばばばばば……」


お、おお、おちけつつけけつけ……あれは人型の化物であって人間が死んだわけじゃない。深く息を吸って……吐く。胃がムカムカするが、概ね大丈夫だ。

俺は改めてかの少女の方へ向き直る。


不思議な造形の服。ぴちっと引き締まった身体のラインが浮き出ている。関節を覆う金属製の防具。茶色い革のブーツは丈夫そうなつくりで鋲がたくさん打ち込んであるのが伺える。左腕には小さめの盾のようなもの――バックラーだろうか、が結び付けられている。表面には数え切れない程の大小様々な傷がつけられていた。そして右手には……細く短めの、剣が握られている。

あれでゴブリンの首をちょんぱしたわけか……。ん?さっき切られたゴブリンの死体が消えている。跡形も無い。残っているのは俺の体当たり時に落としていったきったねぇ鉈くらいだ。


「まさかもう魔物共が湧いているとは……そこの君、おかげで助かった。ありがとう。」


俺がぼんやり考えていると、彼女はそんなことを言って、ニコリと俺に笑いかけてきた。長い栗色の髪が、僅かな風に乗り揺れる。先程までのきりっとした気がきつそうな顔が、笑うことでとても、柔らかで可愛らしい少女の顔へと変化した。

薄い色の唇が言葉を紡ぐ。


「怪我は無いだろうか?危険な目に遭わせてしまってすまないな、まさか魔物がこんな異世界に現れるなんて想像すらしてなかっただろう?」


喉が震えて、心地良いボーイソプラノの声が俺の再生したばかりの鼓膜を震わす。夢見心地のまま、俺は答える。


「いや、まさか。こんな事になったのも想定内だ。先程のゴブリンもあと三十秒もあれば、我が秘真義『 エターナル・コカン・ズッ・トケル』により完封していただろう……」


左手で右手を掴み、掲げる決めポーズ付き。おだてられるとつい、見栄を張りたくなるのと、照れからこんなことを口走ってしまう。中学生時代からの、悪いというか消し去りたい癖の一つである。他にも合計108つの癖があるのだがどれも治りそうにない。せっかく会えた美少女相手に怪電波を垂れ流してしまうとは、我ながらレベルが高過ぎる。人知の感じ取れる感性の更に上を行っている。


「そうか!君も元の世界から来た人間か!あぁぁ、助かった、単身このよくわからない世界に引きずり出されたと思ったら、ゴブリンの群れに追いかけられるは食糧は尽きるは、死ぬかと思っていたのだ!!頼む、無理を言っているのは解るが少し食糧を分けてくれないだろうか!?」


俺の暖かい感情が瞬時に冷却される。

……なんだ、この少女は。俺のが怪電波ならこの少女は毒電波を俺の五倍の濃度で放ち始めたではないか。これじゃあ幾ら美人でも、関わり合いになりたく無い。ここは一つ、大人な対応をして、この妙なコスプレ少女を更生してやろう。雰囲気を壊さず、なおかつ中二病を指摘する。難しい方法だが、無いことも無いだろう。


「ふっ、ククッ……クククハハははぁ!

魔物狩りの少女よ、良く聞け。私は貴様の世界の民ではない。ついでに我が国は異世界ではない。そして食糧だってない。とどめに貴様も別の世界の住人ではない。オーケー!?アンダースタン!?

分かったら急いでその剣をしまえ!」


残念な美少女を一人、社会復帰させてやった。たまには俺だって世の役に立つのだ。


「なるほど、理解した。ならば食糧を共に探しに行こうではないか。二人ならば危険度も下がるだろう。なんなら私の予備の短剣を貸すぞ。」


「いや、お前は何も理解していない」


「食糧といえばヘビかトカゲがおすすめだぞ。カエルが居ればなお良しだ。」


「今の発言は俺の聞き間違いって事ですましてやるから、一人で色んなスーパーを回ってこい。俺は反対のスーパーに向かうから」


「しかし、一人で行くとまた背後から危険人物に襲われるかも……」


「今、一番の危険人物を相手にしてる俺が言うから安心しろ。お前以上にアブない奴はこの日本に存在しない。というかいい加減その剣をしまえ」


「それ以上ゴタゴタ喚くと危険人物がお前のクビ跳ね飛ばすぞ。早く案内しろ」


「はいわかりました今からすぐ向いましょう」


こうして、半ば振り回されるように電波系少女との二人組での行動を余儀無くされてしまったのだった。

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