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2話

ちまちま書きます。

お外は怖い。ニートが勇気を出して外に出た瞬間ぶっ殺そうとするなんて恐ろしすぎる。あの事件がきっかけで一週間以上も自宅に引きこもってしまったではないか。まぁ、その間に鼓膜やら顔の傷やらは大体治ったので良しとするが……あの真っ赤な竜は一体なんだったのだろうか。あの後俺は、子鹿もびっくりのよろけっぷりでコンビニから自宅へ戻ったので詳しいことは知らない。TVでも、三日前までは、やはり俺が実際に見た光景をリピートしていただけなので、有益な情報は得られなかった。むしろトラウマが抉られた。

四日目。あれから四日したら状況がガラリと変わった。やはりちゃんとメディアには目を通しておくべきだな。あの赤い竜を皮切りに日本の至るところで、スライム、リザードマンやオークなど、RPGでお馴染みのモンスター共が自然発生し始めたのだ。……いやおかしい。とてもおかしい。そんな外来種みたいな感じでモンスターが湧いてくれると非常に困る。ワニガメとオークでは危険度が桁違いなのだ。どのくらい違うのかというとヤムチャとフリーザーくらい桁が違う。

自衛隊の人々が火器弾薬で応戦しているらしいが、そんなクソ危ない状況になってしまったら、結果オーライだろうと俺は思う。


そんな危ないお外に、俺はまた出掛け無ければならない。食糧が尽きかけている為だ。絶対に篭城を決め込むつもりだったのだが、ピザ屋の配達というライフラインすら無くなっているので、もうどうしようもない。一週間前よりも圧倒的に増えているゴミを跨ぎながら、玄関を目指し、再びあの紺のスーツ姿へ変身した。このスーツもほつれたりなんやなので、結果まともな服は俺の手元には皆無になってしまった。


伸びてきた無精髭を擦りながら、自宅から一番近いスーパーへと歩を進める。野良猫が飛び出して来るだけで、


「ンギャァァぁぁあ゛ぁ゛!!!!」


と絶叫してちびりかけるくらいなので、かなり俺も精神的に参っているのだろう。当たり前だ。街の中に、数十人の殺人鬼がうろついてると考えるだけで、もうやばさが伝わるはずだ。というか伝われ。伝わらないと俺が只のビビリみたいではないか。

そんなこんなで、細心の注意を払いながら、俺はスーパーへ向かンギャァァぁぁあ゛ぁ゛!!!!


合計二回絶叫をあげたが、無事にスーパーへ辿りつく事が出来た。出来たのだが……食糧が、無い。非常食であるカンパンはともかく、店長がふざけて入荷したシュールストレミングまで完売してるとはどういうことだ。すっからかんになったスーパーというのはなんだか珍しく、良いものを見れたような気がするが、結局食い物が見つからなかったのには変わりないので、そのまま他のスーパーへと向かうことにした。シュールストレミングを買ったやつはせいぜいガステロの脅威に悶え苦しむがいい。


三度ほど絶叫した後だっただろうか。狭い住宅街で、遂にその時が来てしまった。ゲーム風に言えば、「エンカウント」だ。

日焼けをしていない薄緑の肌。ブツブツがいっぱいある。うぅ、不潔だ。やっぱり元気な太陽の光に照らされた肌に、青い血管が透けて見える。小学五年生程の身長で、小太りのだらしない腹。小汚い腰布。黄ばんでがたがたの歯が覗く口元はニタニタといやらしい笑みを浮かべている。バイトちゃんのスマイルとはえらい違いだ。虹彩が灰色で濁っているのを除けば、目は人間のものとそう変わらないようだ。髪は……ほぼ無い。俺も、もう20代。あいつの辛さが解るようにはなりたく無い。

この小物感丸出しの見た目のモンスターは、ゴブリンだ。

手には手入れのされてない鉈を持っており、群れで行動する知性がそれなりに高い魔物。と、朝のニュースで可愛い女子アナが言っていた。

実際に居たのか……というのが俺の感想だった。正直、実際に自分の身に起きてみなければ確信出来なかったが、要るんだなぁ。モンスター。ということはあの赤い竜も俺の中二病が呼び出した妄想では無かったのか。……凄いやばいじゃん。それ。


「ぐぇっ」


突然潰れたカエルみたいな声を出したゴブリンのお蔭で現実に帰ってこれた。

現実が非現実みたいになっているが、これが現実なのだからしょうがない。事実は小説より奇なり、ってね。

そのままゴブリンが鉈振りかざしてこっちへ向って来るんだから現実ってすっごい奇妙だね。

鉈持った殺人鬼を目の間にしてやることは一つ。


「だぁぁぁぁすけでぇぇぇえ゛ぇ゛!!!!!!」


徹底的撤退。これに限る。命あっての人生だ。逃げの何が悪い。

入り組んだ路地を駆けずり回る。


「グェアァァ!ウゴッ!!」

「ぁあああ!しつけぇぇぇぇ!!」


閑静な住宅街に悲鳴と怒号が鳴り響く。

……近所の皆さんごめんなさい。

ある程度走り回っていると、突然後からの足音が止まった。巻いたのかと一瞬安心するが、違った。ゴブリンは諦めたのでは無かったのだ。十字路を俺の方向に曲がるのではなく、右側に曲がるのが見えたのだ。その時、気付いた。ただ獲物を俺から、華奢な、少女へ変更しただけ。


逃げ回る、殺しにくい獲物から、まだこの状況に気が付いていない殺し易い獲物へと心変わりしただけだった。

彼女には悪いが、逃げるには絶好のチャンスだ。


俺の中で、勝手に俺が自問自答を始める。


俺のせいか?

俺のせいだ。

外に出てたあの子が悪いじゃないか。

ここまで走って来た俺が悪い。

俺はあの子を見殺しにするのか?

仕方が無いことだ。

俺のせいで死ぬ子が出ていいのか?

……それは…。


俺はあの娘の死体の上で生きていけるのか?


無理だな、多分。俺は罪の意識に苛まれ、いつか自殺してしまうだろう。俺はそこまで図太く丈夫な神経は持ち合わせていない。俺のハートはガラスより繊細だからな。


俺は立ち止まり、Uターンする。幸い、俺のほうがあの小汚い化物よりも足が速い。全力で走ればまだ、間に合う。

口元から生暖かい吐息が漏れる。かなり足の筋が痛いが、更に力を込める。

汗が吹き出てくる。額を伝う汗が目に入って痛い。だが、更に更に速度を上げる。

ゴブリンにかなり近付いた。

やるしかない。未だに渋っている自分自身に、無理矢理言い聞かせた。


「クソがぁぁッ!!」


俺は全体重を重心に乗せ、その重心を真正面に傾けて、肩からゴブリンにぶつかって行く。

きっと上手くいく。またも自分に言い聞かせた。自信も、根拠も無いけれど。

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