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序文



 かつて、砂礫されき泥濘でいねいとが溢れる辺境の村で、ひとりの少年とひとりの「まれびと」が出会った。


 「まれびと」は、まれなる人という文字通り稀なる人で、世界の境界の向こう側からやってきた男であった。かつて戦場にて軍靴を掻き鳴らし、軍馬に跨り四方を駆け、誰よりも狙い撃つに長じた男は、しかし戦いに敗れ永久にふるさとを喪った。



 ――『行けと云うなら、行かぬでもないが、その代り、そのほうはわしの帰るまで、待って居れよ』。



 かつてカルタフィルスあるいはアハスフェルスあるいはブタデウスあるいはイサク=ラクエデムなる名のユダヤ人は、「神の子」を打擲ちょうちゃくし罵った罪で世界の終わりが来るまで永久とわ彷徨さまよう罰を負った。果たして歴史は常に勝者が描くものであり、敗者は如何な旗の下に戦おうとも常に罪人である。その普遍の道理に従って、人殺しの業以外を全て喪った男は、西部の荒野を彷徨う。ただ糧を得るために、獣のごとく、狼のごとく……。


 

 少年との出会いは、「まれびと」を変える。



 ――『およそ運命というものは、それがどんなに長く、また複雑であろうとも、実際は《ただ一つの瞬間》より成っている。その瞬間において、人は永久におのれの正体を知るのである』。



 「まれびと」はガンマンとしての、研ぎ澄まされたナイフとしての運命を悟る。

 同時に、少年もまた「まれびと」との出会いを通して変わる。マケドニアのアレクサンドロスがアキレスの生涯に、スウェーデンのカール十二世がアレクサンドロスの生涯に、己の鉄のごとき運命の反映をみたように。


 少年は長じ、彼もまた狩人となる。

 受け継いだ小銃を肩に負い、短剣と短銃とを携えて、かつて少年だった青年は深紅の大地を駆ける。



 そして、二人の運命は交差する。

 これは、そんな物語である。







 引用した文やこの序文の着想は、以下の二作より得た。

 先哲にはただ感謝以外の言葉がない。


 芥川龍之介『さまよえる猶太人ユダヤじん

 ホルヘ=ルイス=ボルヘス『タデオ・イシドロ・クルスの生涯』(訳・土岐恒二)



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