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POPフラワー  作者: 憂木冷
3/9

THE RE:BIRTH



 心臓に住む誰かは言った。

(早くここから出せ。この檻をあけろ)

 ――それは無理だ。君はそこに居なくちゃいけないものなんだ。

(何言ってんだ。オレはこんなにもここから出たい。お前が頑ななら、オレはなんとしてでもここから出るぞ)

 ――いいや。だめだよ。君をさらけ出すのは僕らしくない。

(はあ。自分らしさとかそんなもの獣の餌にでも混ぜておけよ。オレはそんなものよりずっと大切なはずだぜ)

 ――そんなものあるはずない。自分らしさが必要ないなら、世界に人間なんて必要ないじゃないか。全部同じでいい。ロボットで十分だ。

(いいや。違うね、お前は知ってるはずだろ。オレの正体)

 ――なんだよ。

(かかかかか、人間らしさじゃんよ)

 その声は、(見つけた。オレの出口)と言ったきり何も言わず。代わりに喉の奥。心臓の辺りから誰かが無理矢理這い上がってくる。押さえ込もうとする度に、食堂の壁が鋭い爪でえぐられた。苦しみが一歩ずつ這い上がる。体を内側からあぶり焼きにされている様な苦しみ。

 堪えきれなくて、流動物を胃の底から吐き出した。

 でろでろの液体が道路に浸った赤い液体に混じって、理科室の人体模型を連想した。

 ガーガーと喉から熱い息をもらしながら、涙の粒が椿つばきの花のようにボトンと落ちる。

 ――苦しい。

「がー、があぁぁああ、ああ」

 ――なんだよ。これ。

(ゲロゲロゲロゲロー。汚ねぇ。うぇっうええ)

 ――人間らしさ? ただの嘔吐じゃないか。

(これも一種の感情表現なんじゃねーの)

 嘔吐した苦しさと痛みで涙が出てるのか。それとも違う原因で涙が出てるのか、アカシに判断できなかった。

(お前の自分らしさは、感情的にならないことだったりするのかもだけどよ。よよよいよぉ。抑制仕切れない感情は、表現されるもんなんだよ。たぶんなーあー)

 足の力がうまく入らなくなってへたり込んだ。

 赤い光とサイレンの音がどこかから近づいている。だけど、なんの音か思い出せない。パトカー? 救急車? 消防車? それとも他の何か?

(ヒト死にだから霊柩車だべーべーへへへへへー)

 吐いてから、徐々に呼吸が安定してきて、気づくと胸の内がスカスカする。まだ全然苦しみは柔らがないし、涙は熱い。

 ――なんで自分の吐瀉物と話してるんだろう。

 現実は直視できないままかもしれないが、現実逃避していることには気がついた。こんな奴と喋って何になる。

 最後に、「霊柩車にサイレンはないだろ」と言っておきたかったが、そこにあるのは、もうただの吐瀉物になっていた。

 そして改めて橙弥を見る。

 裃橙弥はそこにいた。ついさっきまで、きっとアカシと同じように、猫の少女のことを考えていた。アカシと同じように、どうしようもない自分を抱えたまま、こんなところでってしまった事を気まずいと思っていた。



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