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第八話 ベッドの上にて

「いやあ、黒騎士の訓練を見させて貰えるなんて思わなかったなあ」

「ふふ、喜んで頂けて何よりです、イサカ殿下」


 本気で凄い楽しみにしているらしく、物凄い上機嫌で飛んできたイサカ殿下を迎え。

 にっこり笑いながら、黒騎士訓練場へと案内する。


「ああ、ユラエさん。あの時は御免なさいね?」

「い、いえっ、私こそ本当に申し訳ありませんでした」

「お気になさらず。主の命令は絶対ですから」

「は……、はい……」


 にっこりと微笑んだ私に、ユラエさんはすげえビビってるけど気にしない。

 そして、リンデリア第一王子殿下を出迎えたってのに黒騎士の修練服を着ている私をじいいっと見てたけど、それも気にしない。

 さあ、楽しもうじゃねえか。


「はい、どうぞ」

「うん?」

「木剣です、殿下」

「いや、見れば解るが」

「どうぞ、お手に取って下さい」


 訝りながらもそれを受け取ったイサカ殿下を、おりゃっと訓練場に蹴り込み。

 慌てたユラエさん達を無視して、そのままイサカ殿下を訓練場の中へと引き摺りこんだ。


「さて。訓練と行こうか、殿下」

「……ま、待てっ!」

「殿下、ここは今から無礼講だ。それが黒騎士の訓練だ」

「いちる、もしかしてあの時の事を怒って」

「全然全く怒ってねえよ。ただぶっ飛ばさないと気が済まないだけで」


 そして、本気で遠慮なくイサカ殿下に木剣を繰り出して行き。

 途中、必死になって止めようと間に入って来たイサカ殿下の近衛達も丁寧に一人一人稽古を付けてやった。


「……勉強になったかな?」


 地面に転がった殿下の近衛達と殿下を見下ろし。

 一日中稽古を付けて上げたので、物凄い荒い呼吸を繰り返し続け、どうやら喋る事も出来なくなっているようだけど、まあいい、何とか気が晴れた。


 そして、訓練場を後にした私は、お風呂に入って満足する。


「ふっ、あの野郎、二度とこっちにちょっかい出さねえだろうな」


 やってやったぜと思うと、笑いが漏れる。

 汗を流してさっぱりした私は、黒騎士共が頑張って運び込んだイサカ殿下に会いに行き、一緒に食事を摂った。


「い、いちる。その、本当に悪かったと思っている」

「思ってるだけじゃなく、誠意を見せて欲しいですよねえ、殿下?」


 そして、顔色を悪くした殿下に色んな情報をただで頂いた私はにんまりと笑う。


「まあいいでしょう。イサカ殿下、今後もリュクレースと良い付き合いをして頂きたいですね」

「……ああ。こちらこそよろしく頼む」


 二人で食事を楽しんでいると、ヴィーが入って来て遅れた事を詫び。


「急用で王都に出ていたのです。大変申し訳ありませんでした、殿下」

「いや、構わない。いちるが持て成してくれたからな」

「そ、うですか。ではこの後秘蔵の酒をお出ししましょう」

「ほう?」

「女は抜きで」

「も、勿論だ!」


 申し訳ありませんが先に休ませて頂きますと断ってから自室に戻り、さっさとベッドに潜り込んだ。夜中にヴィーが戻って来て、あの時に運び込ませたもう一つのベッドに潜り込むのを見ながら笑いを堪える。


 まあ、もう少し反省していて貰おうじゃないかと思いながら眠りに付き。


 翌日、早めに出発するイサカ殿下の為に、ヴィー達も一緒にコルディックを発つのを見送った。魔獣から守る為に一緒に移動するんだけど、リューリュースのガルさんの所に寄るらしい。


 ユラエさんがビクビクしながら私を見てたけど、もう手出ししないっつうの。


「……母さん、何やらかしたんです?」

「黒騎士の訓練だよ?」

「厳重に魔法で誰も入らないようにしておいてですか?」

「おや?ティーラも入れなかったの?」

「まあ。父さんなら入れたのでしょうけれど」

「おお、すげえな、あれ。よし、もう少し練っておこうっと」

「母さんっ」


 ティーラの小言を聞き流しながら、マレナと孫に会いに行き、相変わらず可愛いマレナと孫をめっちゃくちゃに可愛がってから部屋に戻る。

 そういや、ジグルド爺ちゃんに土産渡すの忘れてたと思い出し、ヴィーが戻って来たら一緒に王都に行くかと、持ち帰ったものをもう一度整理し。


「んー、何かこう、物足りないって言うか。やっぱ毎日が冒険の日々ってのは楽しいんだなあ」


 なんて独り言ちつつ、思い出の品を磨いては眺めてしまい込み。

 そして、二日後にヴィーが戻って来たので、王都に行きたいと伝えた。


「王都?」

「はい。ジグルド爺ちゃんに土産を渡すの忘れてて」

「土産を?」

「はい。この間大公妃殿下には渡したんですけどね」

「……そう。判った、行こうか」

「明日でいいですよ」

「そう?」


 こくりと頷き、そして、話しがあるとヴィーと向き合った。


「ヴィー、本当に反省してるようですね」

「ああ。本当にごめん、いちる」

「もういいですよ。おっぱいに腕を挟まれていた事実は消えませんが、ヴィーが深く反省している事は伝わりましたし」

「……すまなかった」


 まあ、戦争状態を終わらせるぐらい暴れたし、イサカ殿下もぶっ飛ばしたので気が済んだと言うか。


「けどまだヴィーの前で胸を晒す事は出来ないです」

「いちる、俺は別にいちるに胸が無くても満足しているから」

「それは改めて言わなくてもいいです」


 それも重々解ってますから。


「あの、冒険の旅、楽しかったですね」

「……うん、楽しかった」

「二人で色んな所を見られて、本当に嬉しかったです」

「ああ、俺もだ。いちるが一緒にいたからこそだと思っている」

「はい。私もヴィーと一緒だったからだと思ってます」


 そして、思い出の品々を取り出して来て、ヴィーと二人で語り合った。

 あの時こうだった、あれが凄かったと思い出話に花を咲かせ。そう話している間にあっと言う間に時間が経つ。


「……本当は、こうして一緒に旅の思い出を語りたかったんですよ」

「いちる」

「なのにあの野郎のせいでっ」


 最後に泥を付けられた気がして、余計に腹を立ててたんだ。

 

「本当にごめん、いちる。俺が油断したばかりに」


 その言葉で思い出した。

 そういや私、フラグニルに胸揉まれたんだった。


「……あの、これでお相子にしましょうか」

「お相子?」

「はい。ほら、フラグニルに胸揉まれたのと」

「ああ……、そう言えばそんな事があったね……」

「あれ、ヤベ、余計な事言ったっぽい?」

「忘れてたよ、いちる」


 そう言ってふっと笑いながらジロリと睨まれ、ヤベエ、もう一回忘れさせるために殴っとこうかと立ち上がる。


「何処へ?」

「え、いや、ちょっと殴っとこうかなって」

「へえ?もしかして俺を殴るつもりだったのかな?」

「殴ったらもう一回忘れるかなって思ってですね」

「出来れば良いね?」

「で、ですよねー!あ、でもあん時容赦なく雷落としたじゃないですかっ!」

「いちるだって遠慮なく魔法をぶっ放しただろうっ!?」

「だってヴィーにはどうせ通じないと思ってですね」

「そう思ってたのに魔法をぶっ放したのか。大した奥さんだ」

「前線だったら丁度良いと思ったんですよ!どうせ戦でボロボロにするなら惚けられるかと思ったんです!」

「なるほど、だからあのタイミングで来たのか」

「う……、で、でも、ヴィーだって利用したじゃないですかっ!」


 そして、にっこり微笑んだヴィーと睨み合い。


「……仲直りしようか、いちる」

「も、勿論ですっ!」


 ヴィーの提案に即乗っかり、いやー、心配掛け捲ってごめんねとティーラやマレナと一緒に夕食を摂った。


「母さん、無い物ねだりもほどほどにお願いしますよ」

「テメエ、母親に向かって良い度胸だコラ!」


 バシッとティーラの頭を叩けば、嬉しそうに笑う息子をちょっと心配しつつ。

 そして笑い合って部屋に戻り、久し振りに一緒にベッドに入る。


「……いちる、愛してるよ。胸を揉まれたと聞いて怒り狂うぐらいに」

「私も愛してますよ、ヴィー。おっぱいに腕を挟まれてるの見て怒り狂うぐらいに」


 そしてじっと見つめ合って、ぷっと笑い出す。

 まったく、夫婦で何やってんだかって感じですよね、本当に。


「そう言えば、イサカ殿下に言われたんだけど」

「はい」

「二度といちるを怒らせないと誓うと」

「野郎、本気で反省しやがれってんだ」

「まあ、本気で反省したんじゃないかな?兄上にも叱られていたよ」

「そりゃ良い事です」

「うん。何故かダーナさんがいちるが怒っている理由を良く存じでね」

「リノ経由かな?リノには会いに行ってヴィーがどんだけ酷い夫か伝えましたし」

「…………言ったの?」

「はい。包み隠さず全てをマルっと。ガレム君も知ってます」


 そして、無言になったヴィーにさらに追い打ちを掛けた。


「コリットの村でも伝えて来たので、フィズエラ辺境伯の耳にも入っている事でしょう」

「いちる……」

「大丈夫です。後はロウさんぐらいですから」

「ロウ?」

「はい。一度情報を貰いに戻ったので」


 じいいいっと見て来るヴィーにニッコリと笑って見せる。


「いやあもうショックでショックで、誰かに話さずにはいられなかったんですよねえ」

「……いや、だが」

「だって、あのおっぱい達と一晩過ごしてますもんねえ?」

「…………いや、一晩と言っても、その」

「さぞ良い眺めだったでしょうねえ、あのおっぱい」

「お、れは、いちるで満足してるからっ!」

「いえ、別にかまいませんよ。私もロウさんの所で一晩世話になりましたし」

「なに?」

「なんにも無かったので心配無用ですから」

「……いちる、話し合おう」

「もう眠いです」

「駄目だ。一晩て、どういう」

「私はヴィーと違って、『隣で』過ごした訳じゃないですから」


 そして、言葉に詰まったヴィーに、よし、勝った!と心の中で握り拳を作り。


「おやすみなさい、ヴィー」


 そう言って瞼を閉じる。

 ふっ、悶々として眠れなくなるが良いっ!


 物凄く良い気分に浸りながら、早々に眠りに付いた。



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