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第六話 リュクレースの野原にて

「そういやお前、マレナと結婚したんだって?」

「はい。子供が一人産まれました」

「マジかっ!?」


 既に孫までいたかっ!


「おお、可愛いんだろうなあ、どうすっかなあ、会いに行くかなあ?」

「来たらどうです?マレナも会いたがってますよ?」

「行こうかなあ?マレナにも久し振りに会いたいなあ」

「じゃあ城に帰りましょう。それに、何時までもロウさんの所にいるといらない噂が立ちます」

「まあそうね、確かにね」

「俺は構わんが?」

「そう?じゃあ世話になってようかな?」

「母さんっ!」

「冗談だって。大丈夫大丈夫」


 けど、城にはラント団長がいるんだよなあ。

 まあいいか。


「よし、行くか」


 そう、出るなら夜の内。

 そして、ロウさんに世話になった礼を伝え、リドルと一緒に空に舞い上がり。


「さて、行くか」


 そう言って首をポンポンと叩いた。

 腹を蹴って合図を出した途端、「母さんっ!」と言うティーラの叫びが聞こえたけど気にしない。その場から勢いよく駆け出したリドルをそのまま走らせ続け、王都を通り抜けて東方へと駆け抜けた頃には、私の魔力も限界を迎え、朝日が昇り始めていた。


 まあいいかと思いながら森の中へと降り立ち、リドルに括りつけられていた食料をありがたく頂いてから眠りに付く。さすがロウさん、良く解っていらっしゃる。

 折角こっちまで来たから、ついでにリノの所に顔出しておくかと思いつつ。


 そして、目が覚めると既に夜闇が辺りを支配し、魔獣の気配が濃くなっていて何だか昼夜逆転になってしまったなあと笑い。残しておいた食事をリドルと分け合い、水を飲んでから空へを舞い上がる。


 そのままガレム君の屋敷へと向かい、空から駆け降りて行った。


 当然なんだけど、ガレム君の所の私兵に剣を向けられ、ごめんと謝りながら黒髪を見せれば、慌てて剣を引いて謝って来るので、こっちが悪かったと謝り。

 そんな事をしていると、屋敷の中からリノが飛び出して来た。


「母様っ!」

「おー、リノ、ただいま」

「た、ただいまって、ただいまって」


 そう言いながらあちこちをペタペタと触られ、ぎゅっと抱き締められ、取り敢えず中へと言われて案内してくれる。外の奴らにリドルの世話をお願いし、苦笑しながらもリノと一緒に屋敷の中へと入れば、ガレム君が出迎えてくれた。


「夜遅くに失礼致します」

「いえ、歓迎致します。是非寛がれて下さい」

「ありがとう。ガレム君、ヴィーに知らせるのは待っててね?」

「…………しかし」

「頼むよ。ちゃんとその内帰るからさ」

「あなた、取り敢えず話しを聞きましょう?」


 リノがそう言うと、ガレム君はその巨体をゆっくりとソファに沈めた。


「ありがと」

「いいえ。ただし、理由によってはすぐに報せを出しますからね?」

「うん、解ってる」


 そう言って笑った後。

 どう話したもんかなあと思いながらも、リンデリアであった事を包み隠さずそのまま伝えたのであった。


「……お母様、その、何と言えば良いか」

「何も言わなくていいよ。リノには解らない悔しさだから」

「え、あの、」

「いいの。まあそれが理由だ」


 そして、背中をソファに預けてふうと息を吐き出した。

 ガレム君が居た堪れないらしく、どうすればよいのか考えているようだけど。


「ガレム君、おっぱいって重要だよな」

「っ!?」

「いいんだ、解ってる。男にとってはやっぱ夢の存在だ。それは花を見て来たから解る」

「あの、いえ、」

「売れっ子の姐さん方は皆、豊かな胸をお持ちなんだ」

「あ、あの、お母様?」

「ちっ。どうせ私には胸がねえよ、こんちくしょう」


 ヴィーの腕に絡みついていたあのおっぱいが忘れられない。

 くそ、おっぱいで腕を挟みやがってムカつく。


「あの、お父様は何故そんな事を?」

「イサカ殿下の計らいだろ。私がどう出るかも賭けてたみたいだけどな」

「…………それは、確かにお父様が悪いと思います」

「だろ?」

「はい。女の気持ちを賭けの対象にするなど、最低の行いです」

「うん、その通りだ」

「あなた、あれを持って来て!」

「リ、リノ」

「早く!」


 ガレム君はすくっと立ち上がり、ささっと部屋を出て行き、あっと言う間に酒を持って戻って来た。おお、調教されてんなあと思わず笑ってしまう。


「お母様、こういう時はお酒を飲みましょう」

「いいねえ」

「あなた、何か摘まめる物を」

「わ、解った」


 ガレム君はその巨体を機敏に動かしながら、せっせとリノの世話を焼いてくれたのであった。すげえな、大公妃殿下と同じとか笑える。


「まったく、お父様もお父様ですよ。恥ずかしいっ」

「その通りっ」

「そもそも、どうして女性が必要だったのかしら?」

「楽しいからだろ?」

「……そうして女を享楽の道具に仕立てるとは、イサカ殿下は最低ですねっ!」

「まったくだー、まったくだー」


 ふんっ、ふんっ、と鼻息を荒くするリノに同意をしながら、あんまり飲み過ぎないよう見張りつつ酒を楽しませて貰った。

 それでも、酔いが回るのが早かったのかリノはガレム君に凭れかかって眠りに付き。


「ごめんね、ガレム君」

「いえ、大丈夫です。良ければ私がお付き合いしますが」

「いやいや、もう随分遅い時間だからいいよ。今リュクレースがどんだけ大変かは理解してるからさ」

「……南方の事ですか」

「まあね。リヴィも出てんだろ?」

「はい。太子殿下と共に前線に出られたようです」

「ならいい。黒騎士共が前線に行ったって聞いたし、リュクレースは大丈夫だ」

「私もそう思います」


 そうして、リノを抱き上げたガレム君に礼を言った後、案内された客室で眠りに付いた。

 翌日昼頃目を覚ました私は、隣にグルードが眠っていた事に嬉しくなって抱き締める。

 目を開いたグルードが驚きながらも抱き着いて来て、お帰りなさいと言ってくれた。


「ただいま、グルード。デカくなったなあ?」

「すごく背が伸びたんだ。その内父上を超えるだろうって、父上が」

「そっか。凄いなあグルードは」

「おばあちゃん、いつ来たの?お出迎えしたかったのに」

「夜になってから着いたんだ。グルードは寝てるから起こさないでって頼んだんだ」


 私とほぼ変わらない身長になったグルードは、まだ中身は成長していないらしくそれに安心してしまったけれど。リノからすると色々とヤキモキするらしい。まあ、親ってのはそう言うもんだと思わず笑ってしまう。


 庭でグルードと一緒に遊んだその日の夜。


「リノ、ありがとね。ガレム君も」

「今度はどこへ行くのですか、お母様」

「んー……、リュクレース中」


 そう言って笑った後、じゃあなと手を振って夜空に翔け上がる。

 一度南方へと視線を移した後、王都に向かってリドルを走らせた。


 王都の外れにある王家の墓地は、何となくヒンヤリとした空気に包まれていた。


「……ただいま戻りました」


 守備兵に見付からないようにしながら、大公殿下と大公妃殿下のお墓の前に立つ。

 ごそごそと胸元から、赤い鱗を取り出しそれと月明かりに翳して見せた。


「チオちゃんが、お守りにってこれをくれたんです。凄く綺麗でしょう?」


 月明かりの下でもキラキラと光るその鱗を翳しながら、目の前で見た竜を思い描いた。

 圧倒的なあの存在感に見惚れ、その荘厳な佇まいを思い出し。


「本当に凄く綺麗でしたよ、竜。ああ、後砂の川も凄かったです」


 旅の思い出を二人の墓に向かって伝え続けた。

 ヴィーと二人で色んな国に行って、色んな人たちに出会って。嫌な事もあったけど、思い返してみれば全部楽しかった。


 そして、おっぱいに挟まれていた腕を思い出し。


「どう思います?おっぱいに腕を挟まれてやがったんですよ。どうせ私の胸じゃ挟めませんよ、骨が当たりますよこんちくしょう」


 ぶつぶつとそんな事を言っていたら、朝日が昇り始めた。

 時間切れか。


「じゃあちょっと、ぶっ飛ばして来ます」


 思う存分やって来いと、背中を押された気がする。

 大公妃殿下の墓の前に鱗を置き、お土産ですと言って立ち上がった。


 リドルを連れて王家の墓地の中を歩いて門まで行くと、驚いた警備兵が私の髪を見て慌てて門を開けてくれた。


「ごめんね、勝手に入って。内緒にしておいてね?」

「わ、解りました」

「うん。お互いの為に黙ってようね?」


 その言葉にコクコクと頷いた警備兵に微笑み、そして久し振りに王都の中を歩く。

 途中で何度も声を掛けられ、何やってんだと驚かれながらも、食料を持たされ、酒を渡され、一緒に食べたり飲んだりして過ごしている内にすっかり一日が経っているって言うね。


「お前、前線にいたんじゃなかったのか?」

「それがさ、夫婦喧嘩しちゃって会いたくなかったんだよ」

「夫婦喧嘩?お前らホント仲良いよなあ」

「まあなあ」


 酒場のおっちゃん達とそんな話しをしながら酒を酌み交わし、早く仲直りしろよと言われながら酒を奢って貰い。

 

「偶には王都にも顔出せよ」

「そうするよ。ありがとねー」


 そうしておっちゃん達と別れ、空を見上げて溜息を吐き出した。

 まあいいか、ここで一泊してから行こうと宿屋に泊まり、翌朝王都を出た。

 王都の門番に「いちる様っ!?」と言われたけど、「違う、別人だ!」と言い張っておいたけど、たぶん報告されてんだろうなと思う。


「まあいいか」


 そして、朝日が昇って行くのを眺めながらリドルを走らせた。

 南方の前線へは、一度野宿をして、翌朝辿り着くようにしようとリドルの足を調整しつつ、何度か休憩を挟んでから野宿をした。


 何も無い野原で、焚火をしながら王都で貰った食料をリドルと分け合い腹を満たし。

 

「気力と魔力をたっぷりと蓄えておかないとな」

『ぬううう』


 返事をするリドルの鬣を撫でまくり、月を見上げながら眠りに付いた。



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