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第五話 コルディックにて

 飛び出したはいいけど、さて何処に行こうかなと首を捻った。

 今まで、こういう時は大公殿下と大公妃殿下の所に行ってたけど。


 夜空を駆けながらそんな事を思い出し、ちくしょうと涙を拭う。


 朝日が昇る前に森の中へと入り込んで身を隠し、そこで腹を満たしてから眠りに付く。

 リュクレースに帰って来たってのに、誰にも会いに行けないのは寂しいなあ、おい。


 そんな事を考えつつ、まあいいかとリドルと一緒に夜闇を駆けながら野宿を繰り返してた。自覚は無かったんだけど、どうやら随分疲れていたらしくて、眠っている所を起こされて凄い慌ててしまう。


「お前、いちるだろ?何してんだこんな所で?」

「……え?」

「ああ、お前は覚えてないだろうけど、俺が住んでる村はお前に助けられた事があってさ」

「村?」

「ああ。コリットの村だ」

「……えっと、コリットって言うと、フィーネさんがいる?」

「おお、フィーネいるぞ。会いに来たのか?」

「行く」

「そうか。ああ、ちょっと待て、ビボルの実を採りに来たんだ」


 そう言ったおじさんと一緒にビボルの実を採り、そしてコリットの村に入った。


「フィーネ、いちるが来たぞ」

「え?いちる?」

「こんにちは、久し振りだね」

「……本当にいちるだっ!え、何で、どうしたのっ!?」

「えっと、何となく」

「入って入って!」


 コーラル時代に世話になったフィーネさんは、満面の笑みで迎えてくれて、私を起こしたあのおじさんが夫なのだと紹介してくれた。


「え、そうだったんだ、知らなかったよ」

「いや、あそこで会えて良かった」


 コリットの村はリュクレースの北西の方に位置している村で、王都とコルディックを避けてる間にそんな所まで来ちゃったかと、自嘲してしまう。


「何してんだ、こんな所で?」

「実は夫と喧嘩して飛び出した」


 正直にそう言うと、二人は顔を見合わせた後、好きなだけいると良いと言ってくれたんだけど。そう世話になる訳にも行かない。


「好きなだけいて構わないぞ。お前がいなきゃ、俺達は飢え死にしてたからな」

「……うん、ありがとう」

「もしかしたら、黒騎士が探しに来るかもしれないって事?」

「かも。そん時は遠慮なく差し出してくれ」

「帰りたくないんでしょ?」

「ん……、ちょっと、まだ顔を見たくないんだ」

「じゃあ隠れてればいいよ。黒騎士だって家探しまではしないだろうからさ」


 フィーネさんはコーラル時代も同じような事を言って、匿ってくれた人だ。

 だからこそ、迷惑掛けられねえよなあと思う。


 だけど、コリットの村の人達が次々に私に逢いに来てくれて、あの時の礼を言われたり、夫婦喧嘩の最中だと聞いた人に詳細を聞かれ、ついペロッと、おっぱいを侍らしてたと言ったら、絶対許さなくて良いと肩を叩かれ励まされる。


「しかし、コルディック公爵も男だったんだなあ」


 そう言ったおじさんが、奥さんに殴られて蹴られ、夕食を抜かれていた。

 何故かフィーネさんの家に女達が集まり、男ってのはここが駄目、あそこが駄目なんて話になって、大いに笑わせて貰ったのであった。


「すんごい良い男だって聞いた事あるけど、どうなの?」

「あー、確かに見た目は最上級だと思いますよ?」

「そんな人にあったら目が潰れちゃうわねえ」


 そう言って笑い合う。

 ここから王都まではかなりの距離があるから、そう簡単に出られないもんねえ。

 魔獣がいなきゃ、色んな村や町に行き来が出来るんだろうけどさあ。


「男ってのは何で大きなおっぱいに憧れんだか」

「まったくですよ」

「そりゃあ、アタシだって揺れる胸が欲しいって何度も思ったよ」

「同じですっ」

「……いいよね、アンタは胸があって」

「ですよね……」


 そう言いながらフィーネさんの胸をじっと見れば、フィーネさんが困ったように胸を隠す。けど、大きな胸はそう簡単に隠れる事は無い。


「くそおっ!おっぱいめっ!」


 そうなんだよ、これ見よがしに胸元が開いたドレスから零れそうなおっぱいを押し付けてやがったんだよ、あの女どもっ!

 どうせなら裸で侍ってろっつうの!


「いちるちゃん、こればっかりはね、誰を恨んでもしょうがないんだよ」

「そうですけど、自分の夫があのおっぱいに鼻の下を伸ばしてたとか許せなくて」

「ああ、それは許せないわ」

「ですよねーっ!」


 そんな話しをしながら、そう言えば家にあれがあった、これがあったと、食べ物を運んで来てはお喋りに花を咲かせまくり、そろそろ寝ようとなったのは深夜を過ぎた頃の事だった。


 皆が寝静まったのを見ながら、どうもありがとうございましたと挨拶をし。

 お礼の手紙を書いてから、夜闇に翔け上がる。

 旦那さん達にもお礼とお詫びを書いたので、許してくれたらいいなあと思いつつ、コリットの村を後にした。


「ふう……。さて、次はどこ行こうかねえ?」


 コリットの村の人達のお蔭で、随分と軽くなった胸の中は、それでもまだ顔を見たくなくてどうしようかと考え込む。

 そういやヴィー達はリュクレースに戻ったんだろうか?

 まあ、私の事より優先しなきゃいけない事があるから、それをきっちりやってなかったら、それはそれでぶっ飛ばすんだけども。


 そして、少し考え込んだ後コルディックに向かう事にして。


「さて。帰るか」

『ぬううう』


 返事をしてくれたリドルの首をポンポンと叩き、夜空を駆けさせ一晩でコルディックへと戻ったその足に礼を言う。

 下町へと入り込んだ私達は、そのまま空家に入り込んで眠りに付き。

 翌日夕方になってから動き出した。


「あれ?いちる?」

「おう」


 呆然としながら声を掛けて来る人にそう返事をしながら歩いていると、気が付けば後ろに集団が出来上がっていて。


「何で付いてくんだよ?」

「いや……、だって、お前、」

「何?」

「旅に出たんじゃ、」

「いちる!」

「お、ロウさん、ただいまー」


 誰かが知らせるだろうって思ってたけど、思ってたより早いその登場に顔を顰めつつも挨拶をすれば、腕を取られて引っ張られる。

 引っ張られるままに歩いて行けば、ロウさんの家に引っ張り込まれた。


「……ただいま、ロウさん」


 入ってすぐに掴んでいた腕を離し、上から下までジロジロと何度も視線を往復させ続けるロウさんにそう言うと、今度は何故かじいいいっと顔を見て来る。


「えっと……、あ、そういや家の息子とマレナが結婚したって聞いたよ。これで親戚だな、ロウさん」

「……お前、本当にいちるか?」

「そうだよ?」

「お前、なんで……」


 まだ呆然としてるロウさんに、リンデリアでヴィーがおっぱい侍らしてて頭に来たから会いたくないのだと言うと、再び何度も視線を往復させた。

 そして、ぷっと吹き出して声を上げて笑い出す。


「何、相変わらず失礼だな、ロウさんは!」

「いや、悪い。しかし、急にいなくなったと思ったら急に現れたんだぞ?疑いもするだろう、普通」

「そうだけどさ」

「んで、旦那と一緒にいない理由がおっぱいか。お前、本当に変わらねえなっ!」

「うるさいよ。しょうがねえだろ、ムカついたんだから」


 ぶすっとしながらそう言えば、ロウさんは更に笑い、バシバシと肩を叩かれた。


「なあロウさん。情報くれ」

「なんだ、俺に逢いに来てくれたんじゃねえのかよ」

「……会いたかったよ、ロウさん!」

「ったくお前は、本当に相変わらずだなっ!」


 そして、抱き合って背中をバシバシと叩き合った後、たんまりと出してくれた料理を食べながら、今現在のコルディックの事を聞いていた。


 ヴィー達は十日も前にリュクレースに戻ったらしく、その後王都からコルディックに使いが来て黒騎士達が出たらしい。それがリューリュースに向かったって事までは、ロウさんでも知ってる情報だった。


「何があるんだ?」

「アクリュットとコルスライルが攻めて来るんだ」

「ああ、あの国か」

「うん。よし、ちゃんと動いてんな」

「……いいのかよ?」

「何が?」

「お前を追い掛けて来てねえじゃねえか、旦那は」

「当たり前だろ。国の一大事に女のケツを追い掛ける男に興味ねえよ」


 そうしてロウさんと笑い合い。


「お前、どうすんだよ」

「どうすっかなあ。まだ顔見たくねえんだよ」

「なら好きなだけいると良い」

「……そう言われると出て行かなきゃって思うよな。なんでだろう?」

「お前が素直じゃねえからだろうよ」


 そう言って笑うロウさんに笑い返しつつ、悪いけど一晩だけ世話になると言って部屋を借りた。ベッドで眠れば疲れも癒せるから、これからも動けるしなあと思いながら眠りに付き。


 翌朝、すんげえ笑顔のヴィーがいると思ったらティーラだった。


「おはようございます、母上」


 寝惚け眼でそう言ったティーラをじっと見つめ、「おはよう」と答え。


「どうしよう、俺は母親の浮気現場を見てしまった気がします」

「……ああそう」

「何故ここに?どうして城ではなくロウさんの所にいるんです?」

「あー……。まだ眠い」


 そう言ってもう一度瞼を閉じた。

 久し振りのベッドは寝心地が良く、今までの疲れがどっと出たのか、本当にもう一度寝入ったようで、目を開けたら部屋の中が暗かった。


「あれ?」


 がばっと起き上がれば、まだ同じ部屋で寝ていたので安心する。

 そういや、ティーラがいた気がするけど、夢なのか現実なのか判断できねえ、なんて思いながら、身支度を整えて部屋を出た。


「母上、どちらに?」


 歩き出した途端に声を掛けられ、ちっと舌打ちをしてから振り返った。


「……夢じゃなかったか。ただいま、ティーラ」

「何でそう呑気なんでしょうねえ?出迎えた私達が、母の姿が無い事にどれだけ心配したと思っていらっしゃるんですかねえ?」

「あら?出迎えてくれたの?」

「当然ですよ。リンデリアから報せが入ったので、国境門の所で出迎えたんですよ」

「おー、良かったいなくて。黒騎士共も一緒だったんだろ?」

「当然です」

「怖い怖い。アイツら絶対斬りかかって来ようとしてただろうからなあ」


 そう言ってクスクスと笑ってしまう。

 待ち構えていやがったか。あれだ、怪我の功名だな、これは。


「父さんはだんまりだし、ギルさんもリクトさんも何も教えてくれないし、オーランさんも逃げて行くし」

「え、何だ、理由を聞いてないのか」

「どんな理由があったんです?その理由如何によって、俺は父に報せを出しますが」

「冷たい奴だな、お前。母親庇えよ」

「放蕩なのは小さな頃から承知してますからね」

「うおお、やだねえ、怖い息子になっちゃってさあ」


 そんな事を話しながら肩を竦め。

 仕方が無いので、リンデリアでのあの一幕を包み隠さず全部伝えてやった。



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