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第四話 リンデリアにて

「いちる様!お久し振りです!」

「おおお、白き悪魔団のユラエさんじゃないですかっ!」

「……それ、まだ継続するんですか……」

「すげえよ、私ね、黒き守護神って新しい二つ名貰ってたんだよ」

「それは……、素晴らしい二つ名ですね……」


 がっくりと肩を落としたユラエさんと二人、同時に溜息を吐き出し。

 先輩達に、リュクレース公爵私兵、白き悪魔団のユラエさんだと紹介した。

 途端に口元を歪ませた先輩達は、よろしくと言いながらユラエさんを眺めてた。


「あの、第一王子殿下がお待ちです」

「そうだろうと思ったよ。フォルサスからすぐに連絡が入ったんだろう」

「はい。第一王子殿下がここで出迎えて必ず連れて来るようにと」

「なるほど、それでユラエさんが」

「はい。ご案内させて頂きますっ」


 そして、ほぼ強制的にリンデリア王城へと連れて行かれた私達は、リンデリア第一王子と対面し、挨拶を交わした。


「やっと戻って来たか。無事なようで何よりだ」

「ありがとうございます、殿下」

「しっかし、相っ変わらず綺麗なままだな、お前。もっとボロボロになってりゃ面白かったのに」

「そうですね、私もそうなってみたい物です」


 にっこりと笑って答えたヴィーに、第一王子殿下はクツクツと笑った。


「で?土産は?」

「ああ、ありますよ?」


 え、いつの間に?なんて思っていたら、ヴィーは小袋を取り出しその口を開けて見せる。


「……何も入ってないが?」

「南方の空気が入っておりましたよ、殿下」


 ぶっと思わず吹き出してしまえば、第一王子殿下がやられたと言いながら笑い出した。


「いちる、お前も変わらないな!」

「ありがとうございます。殿下もお変わり無いようで」

「まあな。ああ、お前らに部屋を用意している。寛いでくれ」

「お世話になります、殿下」

「ああ。エルト、久し振りに酒でも飲もう」

「是非」


 おっと、エルト呼び来たよ。

 これはマジでヤバいのか?


 そう思いながら、殿下とヴィーが退室するのを見送った後、私達はユラエさんがそれぞれ部屋に案内してくれた。そして、ギルニット隊長の元に集まれば、やけに真面目な顔をしたギルニット隊長が出迎えてくれる。


「いちる、何を聞いている?」


 防御壁で囲み、遮音の魔法を掛けた後、ギルニット隊長がそう聞いて来る。


「アクリュットとコルスライルに、ヴィーが国にいない事がバレたようなんです」

「……それはいつの話?」

「最近ですよ。フォルサスでその情報を貰ったみたいです」

「最近て」

「そこがあの二国の相変わらずさって言うか。まあ仕方が無いですけど」


 リュクレース南方はまあ、まだ大人しいと言うか可愛げのある魔獣しかいないので、この二国とも貿易が行われているんだけど。それでも、この二国は所定の領から出る事は許可していない。出た場合の命の保証はしないと通達してあるし、そう言う条約が結ばれている。

 その領から出るのは王都で行われる親善の為の夜会が開かれた時だけで、その時は当然このリンデリアからも人が来る。人って言うか、絶対第一王子なんだけど。


 アクリュットとコルスライルの大使は、私が第三王子妃殿下だった頃は共に王弟殿下だったけど、公爵夫人になって随分立つ頃代替わりをしたようで、二国共にどうも野心があり過ぎる奴が大使になってんだよねえ。


「……あの第一王子殿下がわざわざエルヴィエント様を呼んだんだ。何かあるとみて間違いないけど」

「ですね。まあイサカ殿下って、情報収集能力だけなら黒騎士の上を行きますし」

「確かに。何であんなに色んなこと知ってんだかなあ」


 まったくだ。

 その内このリンデリアで玉座に着くだろうその人を思い浮かべ、面倒な事になりそうだと溜息を吐いた。


「他に何を言っていた?」

「え?ええと、フォルサスに魔石をもっと流通させて、東方で同盟を結ぶとか。ああ、後フォルサスの南方にも魔石を流そうかと」

「南方?」

「はい。元々はトクラノとサスフェースって国があったんですけど、七年前に戦があって今は一国になったようですね。まだ戦の名残で疲弊しているようですけど」

「……西方を囲みたいって事かな?」

「何を見てどう判断してるのかさっぱりですけど、アクリュットとコルスライルの南の国も行きましたからねえ」


 そう言いながらヴィーが描いていた地図を思い浮かべて行き、確かに手を結べば西方を囲い込む形になるなあと思いつつ。


「もしや同盟を結ぶ話でも聞き付けたか?」

「直接的ではないだろうけど、そうなりそうな話を聞いたんだろうね」

「え、いつだろ、全然気付かなかった」

「例えば、アクリュットから品物がたくさん入るようになったとか、そう言う話しだよ」


 リクト隊長の言葉に色々と思い出そうとしたけど、食べた物しか思い出す事が出来ず。

 あの食堂ではあれが美味しかった、こっちではこれが美味しかったとしか記憶にない。


「……同じ所にいて同じ会話を聞いたはずなのに」


 そして全員で肩を落とし、解散して部屋に戻った。

 どんな会話を拾って何を見てそう判断したんだろうなあ。

 やっぱ私には良く解んねえや。


 よし。

 考えても解らない事は流すに限る。


 ヴィーが戻って来ないけど、どうせイサカ殿下と話し込んでいるのだろうと、さっさと浴室を借りて身綺麗にしてからベッドに潜り込む。

 私が魔法壁を掛けてもヴィーならそれを物ともせずに入れるからと、それを解除する事無く眠りに付いた。翌朝、一人で目が覚めたのは随分久し振りだったけど。


 着替えて待っているとユラエさんが朝食だと言って案内してくれた先で、先輩達が既に到着していたので腰を下ろし、取り敢えず互いに無言のまま食事をする。


 そして、食べ終えてから「リンデリアの王都で買い物をしたい」と言って、先輩達と城を出る事にした。くっ付いて来るユラエさん達に、やっぱりかと思いながらお菓子を買いこんだり、散々歩き回って連れ回し、買い物しまくって荷物係りにし。


「あ、次はあれにしようっ!」

「ああ、ちょっとお待ち下さいっ、いちる様っ!」


 夕方になって込み合って来た王都の大通りでそう叫び、全員で人混みの中へと走り出して姿を消した。裏通りに入り込み、一度魔法を解除して頷き合った後、姿消しの魔法を掛けたままリンデリアの城に戻り、取り敢えずギルニット隊長の部屋に落ち着く。

 一応、私が与えられた部屋に様子を見に行ったけど、ヴィーはまだ戻ってなかった。


「これは、どう取ればいいのかなあ?」

「リクト、頼むから抑えてくれ」

「解ってるよ。まだ友好国だからねえ」

「確認が先決だ。いちる、いけるか?」

「勿論です」

「じゃあ行け。ススコで待ち合わせだ」

「はい」


 そして、姿消しの魔法を使ってバルコニーから外に出た後、屋上まで上がってから中に戻る。リンデリアの城へは何度か来た事があるし、第一王子の厚意で奥まで入った事もあるから、大体の構造は頭に入ってるんだけど。


 まあ、ヴィーの気配を辿ればいいかと姿を消したまま天井を駆けた。


 やがて、二階の奥まった部屋にヴィーの気配を感じ、ドアの傍で様子を窺う。

 見張りも無く、ただ鍵が掛かっているだけのそのドアに、眉間に皺を寄せた後コンコンとノックをしてみた。


 暫く待っていると鍵がガチャリと外される音は聞こえたけど、ドアが開く事も無く、声が掛かる事も無く。

 訝しみながらもそのまま待っていると、再びガチャリと鍵の音が聞こえて終わった。

 変わらず中からヴィーの気配はしているんだけど。


 どういう事なのかが解らないので、もう一度ノックをしてみる。


 ドアの蝶番の位置を確かめ、ドアが内開きである事を確認し再びガチャリと鍵が開けられたそのタイミングで、思い切りドアを蹴り付け鍵を開けたその人を倒し、同時に天井へと張り付いた。

 そして、天上から見下ろしてみればそこに、カードゲームをしていたイサカ殿下とヴィーがいて、二人の周りに女が侍ってるって言うね。


『氷結』


 一瞬で部屋中が凍り付き、ヴィーと私以外は身動きが取れなくなったようだけど、まあ狙い通りですよ、ええ。


「どういう事ですかねえ、これは」

「待ってたよ、いちる」

「待ってた?へえ?来てよかったんだ、私?」

「訳は話す」

「いやいや、そろそろデカい方が良くなったのならそう言ってくれれば良いだけですが」


 私の隣でビキビキと音を立てながら凍って行く椅子を、拳で粉砕し。

 視線をイサカ殿下と女達へと動かせば、女達は顔を青褪めさせて声にならない悲鳴を上げる。


「殿下、これでこちらの完勝です。約束通りお願いしますよ?」

「……仕方が無い」


 そのやり取りに目を眇めれば、賭けだったのだとヴィーが話しを始めた。


 アクリュットとコルスライルの動きは割りとあからさまになってるらしく、その南側の国を抱き込んで一緒にリュクレースに攻め入る準備を整えていると言う。

 そして、この話はリンデリアにもこっそりと来ており、筒抜けになっているとも知らずイサカ殿下に嬉々として情報をくれたらしい。

 で、ヴィーとイサカ殿下の賭けで、今晩中に私がここに来たらその情報をマルっと全部貰う事と、ついでにリンデリアがリュクレースに加担する事を賭けていたそうだ。


「賭けはまあいいですけど、そこに女がいる理由はどこに?」

「それは、イサカ殿下が」

「理由はどこに?」


 重ねて問えば、イサカ殿下が全身を凍らせた。

 ちっ、何でヴィーには掛からないかなっ!


「い、いちる、一応あれでも第一王子だから!」


 ヴィーがそう言いながら魔法を解いて、氷からイサカ殿下を救い出していた。


「おふざけが過ぎるようですねえ、リンデリア第一王子殿下?」

「ま、待て!いちる、これはほら、昔馴染みのお遊びで」

「ユラエさんも知ってたのかなあ?あの野郎、絶対許さないわあ」

「いちる、待てっ!」

「おっと、リンデリア第一王子殿下にご挨拶もせず失礼致しました。と言うか二度とお会いしたくありませんので、これで失礼します」


 そして、凍り付いている壁を粉砕し、外へと舞い上がってオーラン先輩に言われていたススコへと行き。

 

「あいつら、おっぱい侍らして鼻の下伸ばしてやがったっ!」


 そう報告をすれば三人が眉間に皺を寄せ、詳細を私から聞き出した後、視線を逸らして笑い始めた。


「死ねばいいのにっ!」


 そう言ってその部屋を粉砕した後、再び城に戻ってユラエさんを探し出し。


「ユラエさん、知ってたんだ?」

「い、いちる様……」

「知ってたんだよね?」

「…………し、知らされておりました」

「ふうん」


 壁に背中を預けているユラエさんの周囲に、隈なく粉砕弾を叩き込んでやる。

 何かリンデリアの城が壊れそうだけどまあいいか。


「申し訳ありませんでしたっ、いちる様っ!」

「はは、許さないから安心してよ」


 蒼白になったユラエさんに氷の礫を降らして埋もれさせ、それでも気が治まらないので、次はどうしようかと考え込み。

 そういや第一王子って珍品を飾っておく部屋を作ってたなと思い出して、その部屋に歩いて行く。途中で何とか抑えようとするリンデリアの兵士達を爆風で吹き飛ばしながら進み、コレクタールームに入ってそこに飾られていた全部を粉砕しまくった。


「ふう……」

「気が済んだ?」

「済む訳ねえだろ」

「いちる、すまなか」


 ヴィーの言葉の途中で壁を粉砕して外に出てみれば、何故かそこに私のリドルが待っていた。おお、コイツはやっぱり優秀だぜと思いながら跨り、そのままリンデリアの空を駆け抜けた。



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