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第三話 フォルサスにて

 大陸の西側はイヴァリエールの恵みがたっぷりとある国ばかりで、色んな魚料理を味わいつつ、どんどん北上して行く。

 ヴィーの地図が埋まって行くのを眺めながら、途中お世話になった国に寄って挨拶をして行った。


 帝国を出てすぐ、カルッチェに足を伸ばし、ノービルさんに挨拶をすれば剣をじっと見られ、無料で手入れをしてくれた。そして朗報と言えば良いのか、どうやらあの木の魔物が、徐々に姿を現さなくなっていると言う。


「スヴァリィヤの使いとか言う奴が創った物でしたかね?」

「そうかもしれないね」

「やっぱりそうか。元々の形を変える魔法なんて、そう簡単に使えたら困りますもんねえ」

「そうだね。失くなった方が良い」

「ですね」


 その内、あの旧王城が荒らされたりするんだろうなあと思いながら、カルッチェの南に広がる森を眺めた後、再びアルノの肉を堪能した。


「うめえっ!」

「でしょうっ!?やっぱアルノは別格ですよ」

「いいな、これ」

「残念ながらすぐに腐るそうです」

「そうなんだ。じゃあアルノを連れて帰る?」

「でも、餌になる果物がないからってヴィーが」


 そうしてアルノの肉を堪能した後、再びイヴァリエールに向かい、地図を描きながら移動を続け、東に西にと移動しながらラクスリュース南端に辿り着いたのは、リュクレースを出てから既に七年が経過してからだった。


「あー、帰って来ちゃったよ……」

「なんだよそれ」

「いや、楽しかったなあって」

「そうだね、楽しかったね」

「はい」


 リュクレースの周辺国は既に地図に描かれているので、これでヴィーの地図も完成した事になり。残念な事に国を出ている理由が無くなってしまったのだ。


「いちる、フォルサスに行く?」

「行きます!」

「じゃあ行こうか」

「はい!」


 そして、首を捻る先輩達に『パンツで走らせる』って事を言えば、溜息を吐かれたけど、リクト隊長はどうせなら裸で走らせろと言って来る。

 それは勿論、ヴィーを使い走りにしたって事を伝えたせいなんだけど。


「まあまあ。どうせ抜けて行くついででしたから」

「それでもエルヴィエント様を使った事には変わりないだろう、いちる?」

「そうですけど」

「代償は高く付くって事を思い知らせろ」

「いや、だから」

「リクト、いいんだよ。こっちも色々とやらかしたからね」

「ああそうなんですよ。実はヴィーがまだ上手く魔力の調整が出来てない時で、フォルサスの城を壊しちゃって」


 そう言うと、先輩達は凄く驚いた顔でヴィーを見つめ、ヴィーはクスクスと笑い。


「修復の魔法を会得しておいて良かったよね、いちる」

「ですね。あん時はさすがにヤバいと思いましたし」

「そうだね。フォルサス王が許してくれて良かったよ」

「ですよねえ」


 その話にリクト隊長の気が少し収まったらしく、ほっと胸を撫で下ろして。

 フォルサスに入り込んで、村や町を周った後王都に入り。


「仮面の貴公子と!」

「黒い恋人達!」


 とやっていたら、随分歓迎された。

 やっぱフォルサス変だよ、おかしいよ。


「なあ、何で歓迎されんだよ、これで」

「だからフォルサスは変なんですって」

「変どころじゃねえだろ、おかしいだろ」

「だからそう言ってるじゃないですか」


 オーラン先輩とそんなやり取りをしながら、王城の正門に辿り着く。


「国王陛下近衛隊隊長のコルサさんに、いちるが会いに来たと伝えて欲しい」


 そう言いながらフードを外して黒髪を見せた途端、門番が目を輝かせた。

 

「あ、貴方は黒き守護神ではっ!?」


 言われた途端、がくっと膝の力が抜けた。

 おお……、覚悟してたけど何かまた変な二つ名付けられてる……。


「では、もしやそちらはっ」


 期待の眼差しを向けられたヴィーが、苦笑しながら仮面を外して顔を晒した。


「天空より使われし救国の神っ!」


 なんじゃそりゃああああっ!と、叫んで暴れようかと思ったけど、取り敢えずヴィーと二人恥ずかしさに震えながらもう一度「コルサさんを呼んで欲しい」と伝えた。

 後ろで先輩達が笑いをかみ殺している気配がむんむんと漂っている。


 そして、嬉しそうな門番が城内へ駆け出して行くのを見送り、コルサさんより先に話しを聞き付けたらしいフォルサスの兵達が門に集まって来ては、ヴィーと私を見て嬉しそうに目を輝かせる事にじっと堪え続けた。

 先輩達三人は既にこの場から姿を消しており、どうやら見えない所で腹を抱えて笑っているらしく、笑い声だけが聞こえている。


「アイツら、絶対ぶっ飛ばす」

「そうだね、協力するよ」


 そんな事をヴィーと二人で言いながら長い間見世物になっていて、ふと気付いた。

 竜に会った時、私はあっちの兵士と同じ事してたって。

 確かにチオちゃんに叱られるはずだと思いながら、じっと待っているとやっとコルサさんが出て来た。


「久し振りだなあ、いちる!」


 そう言いながら近づいてきたコルサさんに、引き攣った笑顔で挨拶をし。

 いつの間にやら戻っていた先輩達と一緒に、フォルサスの城内に入れて貰った。


 国王陛下は丁度一年前に代替わりをして、第二王子が玉座に着いたらしい。

 国王の判断でそうしたらしく、今はまだ新国王の補佐っぽい事をしているのだとか。


「パンツ将軍は?」


 そう聞くと、コルサさんがぶふっと吹き出した後、どうも第二王女と離婚して職を辞した後、どっかの町だか村に落ち着いたらしい。


「離婚したのか?」

「まあ、な」

「ヤベ、やっぱまずかったかな?」

「いいんじゃねえのかな?第二王女は新しい夫と仲良くしてるって話しだ」

「そうなんか?」

「ああ。今度は薬草学の学者と結婚したからな」

「ふうん」


 そんな話しをしながら謁見の間の控室に通され、待つ事も無く呼ばれて中へと入る。

 そこで新国王と旧国王に挨拶をさせて貰い、その後昼食を御馳走になった。

 

「あの時は、本当にお世話になりました」

「いえ、こちらこそ、色々とお世話になりました」


 旧国王は変わらない笑みを浮かべ、そう言ってくれたけど。


「さて。コルサさん、あの伝書の代金を払って貰おうか」


 そう言ってにやりと笑った私に、コルサさん達が顔を青褪めさせたけど。

 並んだリクト隊長の笑みに慄き、言われるがままパンツ一枚になって城内を走り回るのを眺めて満足する。


「絶対リクト隊長も二つ名貰いますよね、これ」

「何て付けてくれるかな?」

「冷笑の鬼畜とか」

「それじゃ普通だよね」

「…………ちょっと、リクト隊長を見縊ってました」

「そう?まあでも、どうせ付けてくれるなら面白いのが良いなあ」


 そして、コルサさん達が半泣きになりながら帰って来る時に、ゼルス君も一緒に来て久し振りだと肩を叩き合った。


「フォルサスの騎士って、こんなですけどすげえ優秀なんですよねえ」

「へえ?」


 ゼルス君を紹介しながら、コルサさん達が身支度を整えるのを待っている間、そんな事を言ったらリクト隊長が嬉しそうに微笑んだ。

 ヤベエ、余計な事言ったと思ったけどもう遅いよね。ごめん、コルサさん。


「じゃあ、行こうか」

「え?」

「ほら、訓練場に案内してくれるんだよね?」

「えっ!?」

「ごめん、コルサさん!」

「な、え?どうしたんだ?」

「だからごめんっ!」


 取り敢えず謝りながら、コルサさんとゼルス君と一緒にリクト隊長を訓練場に案内し。

 そして、やり過ぎないよう止めなきゃと見張りに来たギルニット隊長と一緒に、フォルサス騎士達と訓練をするリクト隊長を眺め。次々に倒れて行くフォルサス騎士達に合掌した。本当にごめんなさい。


「何、あれ……」

「えっと、元黒騎士団第二隊隊長」

「……あれが」

「うん。まだ敵いそうにないけど、いつか絶対負かすんだ」


 地面に転がって荒い呼吸をするコルサさんにそう言うと、その隣に転がっていたゼルス君が声を上げる。


「あれに、勝つんですか?」

「勝つっ!絶対転がすっ!」


 そう言いながら握り拳を掲げ、そして笑い合った。

 そして、フォルサス騎士達に見守れらながら、リクト隊長と対峙する。


「いつでもいいよ」

「……すげえご機嫌なのも怖いってどうなんだよなあ」


 ぼそりとそう呟いてから、お願いしますっ!と頭を下げてから剣を振り上げる。斬りかかってはがら空きになった腹に寸止めされ、斬りかかっては太腿の辺りに寸止めされ。

 てんで歯が立たないでやんのと思いながらも、魔法を使ったりしながら頑張ってみたけど、やっぱりまだまだ敵わなくて。


「あー、くそっ。ありがとうございましたっ!」


 ぜいぜいと荒い呼吸をしながらお礼を言えば、リクト隊長に試合中で気になった事をアドバイスして貰い、何度か動きを直される。それを聞きながら素振りを繰り返し、それを見て貰ってはアドバイスを貰いと繰り返した。

 それは今まで、ジェイド隊長の役目だった。


「ありがとうござました」

「いいよ。いちるのお蔭で楽しめたからね」


 そのままコルサさん達やゼルス君たちと一緒に訓練を続け、そのまま騎士団の食堂に案内して貰い、味より量の食事をガッツリと頂いたのであった。

 

「あー、やっぱフォルサスの騎士はすげえな」

「いえ、やはり黒騎士は別格だと痛感しました」

「だな。隊長ってのは皆あんな感じなんだろ?」

「そうだなあ……、まあ、確かに人外が揃ってるかな?」

「人外……」


 フォルサスから出る時に不穏だった南方のトクラノとサスフェースは、フォルサスに敗れた後、今度はその二国間で争ったらしく疲弊しているとか。

 助力を願う嘆願書が届いたらしいけど、叩き返したと聞いている。


「そういや、南方はまだ静かなのかな?」

「今んとこはな」

「そっか。ずっと大人しくしててくれりゃいいのにな」

「ああ。まあその内また仕掛けて来るだろうよ」

「魔石狙いでか?」

「そうだ。フォルサスで選別された魔石が流れてるからなあ」

「……そっか」


 コルサさんの話しを聞き、部屋に戻った私はヴィーにそれを伝え。

 まさかリュクレースまで来ねえだろうなと言う意味も兼ねて、どう思うかと伝えれば。


「そう言えば南下する時に無視したんだったね。様子を見に行こうか」

「是非。リュクレースを狙ってるなら潰したいです」

「そうだね。でも、様子を見るだけだよ、いちる」


 釘を刺され、ぎゅっと眉間に皺を寄せればヴィーがクスクスと笑う。


「フォルサスにも魔石が回るようにした方が良さそうだと思っているんだ。だから、その先まで広げてもいいかなって」

「え……、それは一体何故?」

「国として手を結んで、東方を纏めた方が得策だと判断した。それに、南方に伝手があればいざと言う時に手を結びやすいからね」

「ん?きな臭い国がありましたか?」

「まあね。相変わらずアクリュットとコルスライルが面倒そうだからね」

「ああ……」


 良く太った二国の大使を思い浮かべながら、溜息を吐き出した。


「何か情報貰ったんですね?」

「うん。どうも俺達がいないと勘付かれたらしくてね」

「まあ、既に戻って来てますが、今頃ですか」

「そう、今頃」


 出国してから七年が経って、やっとその情報を掴んだとかやっぱ駄目だな、あの国は。


「まあそんな訳で、一応確認しておこうかなと思ったんだよね。でも魔石を流通させるのはフォルサスが黙っていないだろうとも思うんだ」

「そうでしょうねえ。ならまだ無視しておきますか?」

「うん……。一度戻ってからでもいいかな?」

「解りました」


 そして翌日、コルサさんとゼルス君が見送りに出て来てくれて、色々食べ物を受け取りながらフォルサスを発った。



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