第二話 帝国にて
翌日、ちゃんと銀十五枚を稼いだ私は、再び小瓶を買い込んで更に数を増やし、ついでに口コミで広がった評判のお蔭で、金三枚を手に入れた。
同時にこっそりと売った潤汁にもお客が付いたのがありがたい。
港で商売をしていた女の人にこっそりと売ってみたら、これまた口コミで広がったお蔭で、ヴィー達が指導料として金五枚を手に入れた頃、私は金十二枚を手に入れていた。
「ほーっほっほっほっほっほっほっほっ!」
高笑いをしながら勝ち誇ってやれば、チオちゃんが私を尊敬の眼差しで見ながら拍手をしてくれる。
「凄いですっ、いちるさんっ!」
真っ直ぐにそう言って褒めてくれるチオちゃんに、ちょっぴり胸を痛め。
「いやいや、ここで寝泊まりさせて貰った上、食事まで世話になったお蔭だよ」
「それでも凄いですっ!」
そして、ディル殿下とウェルさん、チオちゃんにお世話になったお礼を言って王都を発った。元々の地図を描くと言う作業に戻りつつ、途中途中で金を稼ぎながらラインハルト中を移動しては、美味しい食事にありつきつつ。
「……良い国だな」
「ですね」
他国から隔てられているラインハルトは、活気があり、美味しい食べ物と酒があり、イヴァリエールの風に守られた良い国だと思う。
「行こうか」
「はい」
そして、私達はイヴァリエールを見ながら北上する。
ウェルさんに食べさせて貰ったフォーガは、確かに珍味だと思う。肉を焼いて甘辛いソースで食べたフォーガは、コリコリと歯ごたえのある肉だったけど、その肉は全く味が無く。
好んで食べたい肉ではないけど、少し食べると腹が満たされると言う不思議な肉だった。ウェルさんも笑いながら、非常食にはなるんだと教えてくれた。
ラインハルトを出る時、ディル殿下がザクト火山を超えて行けば良いって言って、チオちゃんを付けてくれようとしたんだけど。
「そう簡単に神域を侵すのはちょっと」
そう言って笑いながら、砂漠を超えようと思うと伝えた。
ディル殿下とチオちゃんは反対したけど、ウェルさんが私達なら大丈夫だろうと言ってくれて、たくさんの水を持たされ送り出してくれた。
ラインハルトの西方に広がる大砂漠は、確かにキツイ。
「ああ、あれが砂の川」
「すげえな……」
どどどどどと音を立てて砂が動いて行くのを暫く眺め、川の上を空に浮いて渡る事にして。
「そういや、ここにフォーガがいるんですよね?」
「非常食だって言ってたし、捕まえて行くか?」
「何処にいるんですかねえ?」
動いている砂の中を移動すると言うフォーガの姿は見えず、ただ流れ行く砂だけが見えていて。
「魔力が無くなる前に渡ってしまおう」
「はあい」
眺めていたらヴィーにそう言われ、慌ててリドルを走らせて川を渡った。
降り立った先で振り返り、もう一度砂の川を眺め。
「そんなにフォーガが見たい?」
「見たいです」
ヴィーに聞かれて頷けば、じゃあ折角だから見てから戻ろうかと言ってくれたので、こくこくと頷いた後、どうやって見付けるかと話し合う。
「捕まえ方も聞いてくれば良かったです」
「そうだね。その辺り、何も聞かなかったね」
「失敗しました」
「いちるが餌になればいいんじゃないかな?」
「は?」
「川に餌を落とすようにさ」
「……ああ!それだ!」
そうしてリクト隊長と対峙すれば、ギルニット隊長に止められ。
「いちる、無謀な事をするな」
「もしかしたら勝てるかも!」
「ない。諦めろ」
「くっ……」
止めを刺されつつも、さてどするかと考え込み。
川の中に魔法を叩き込んでみようかと言う話しになり。
「おっしゃ、焼け石に水っ!」
そう言いながらバシャッと水の魔法を掛けてみた。
あっと言う間にその水が砂の中へと飲み込まれ、そして、変わらない砂の川が流れて行くのを眺め。上流からどどどどどと地響きが聞こえて来た事に思わずニヤリと笑ってしまった。
「来たっ!?」
ついでにもう一度水魔法を放ってみれば、砂の中から顔を出したそれに思わず口を大きく開けて見上げてしまう。
「な、なんじゃこりゃああああっ!?」
「フォーガかっ?」
「え、これ!?にょろにょろどころじゃねええええっ!!!」
全員が抜剣し、油断なく構えながら砂の中から現れたその姿を眺め続けた。
何て言うか、ミミズが育ち過ぎたって言えば良いのか。
幅は二メートルぐらいだけど、長さはどれぐらいあるか解らない。目はあるのかないのか解らないし、でも口だけはでっかく開いてた。
そして、歯が生えてないって言う。
「すげえ……」
「飲み込まれるなよっ!」
デカい口を何度か開け閉めするのを眺めてたんだけど、何て言うか、こっちに攻撃してくる気配が無いので、用心しながらその姿を眺め続けた。
やがて再び砂の川の中へと潜って行ったその姿を見送り。
「……すげえ」
「身体中が砂で覆われてるなんてね」
「ウェルさん……、あれがにょろにょろって。おかしいだろっ!」
何事も無かったかのように流れて行く砂の川を暫し呆然としながら眺め。
気になったのでそのまま、砂の川が何処まで行くのかと川沿いを下る事になった。
「家のリドルは優秀だと思いませんか?」
「どうしたの、急に?」
「だって、砂って足を取られて走りづらくなるでしょう?なのに、全然そんな気配を見せずに走ってるなんて凄いですよ」
「……そうか。気付かなかった」
そう言ったヴィーに珍しいと笑いつつ、実はすごい奴だと改めて感心したリドルを労う。
「そういえば、竜人には会えたの?」
「ああ、王都にはいましたよ。何か額に目印があるんです」
「目印?」
「はい。赤い鱗がくっ付いてるんです」
「宝石みたいに綺麗だったな?」
「ですねえ。けどほら、ジロジロ見るのも失礼だしそれに、迫害されてるって言うより寧ろ避けられてたって言うか」
「ああ、触らず近寄らずだが、避けてるって程でもねえっつうか」
「微妙な感じではありましたけど、何となく共存してるっぽいって感じで」
オーラン先輩と二人、王都にいた竜人たちを思い出しながらそんな事を伝え。
「最初に出会った時は、大興奮してたよ、いちるは」
「よく襲わなかったね?」
「リクト隊長じゃあるまいし」
ヴィーにはその日の内に報告したけど、そういやギルニット隊長とリクト隊長には言ってなかったなと反省したってのにこれだよ。
まあ、そんな感じで砂漠を移動しながら海へと向かえば、あの砂の川は切り立った崖の上から海へと落ちていた。
「……凄いですね」
「そうだねえ」
海の近くでは既に流れが遅くなっていて、零れ落ちて行く砂はそれ程の量ではないけれど、それでもその景色はとても綺麗だった。
「あの川って、中にフォーガがいるから何でしょうね」
「そうみたいだね」
「すごく高いね、この崖」
「ですねえ」
風に舞いながら砂はどんどん海に落ちて行き、それを波がさらって行くのを眺め。
「ヴィー、国を出て良かったですね」
「そう思う。こんな景色はリュクレースでは見られないからね」
「ですね」
そして、そのままそこで野宿をする事にして、砂が落ちて行く音と波の音を聞きながら眠りに付いた。地球の砂漠の夜は凄く冷えると聞いた事があるけど、こっちの砂漠は砂が熱を持っているかのように熱かった。
「うおー、あっついですねえ」
「水浴びてえ」
「浴びときますか?」
「いや、何が起こるか解らないから駄目」
「はあい」
魔法で水を出そうと思ったけど、確かにフォーガに襲われたくはないし、出て来るのがフォーガとは限らない。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
そして、イヴァリエールを眺めながら北上し、やっとの事で砂漠を抜けた私達は再び帝国へと入ったのであった。帝国西端では元リーラルーラの人達がお祭り騒ぎのようになっていて、やっと王が戻って来たと賑わっていた。
「すげえ歓迎振りですね?」
「子孫に伝えていたんだろうな、王族が戻って来ると」
「なら、ジェイド隊長は歓迎されてるって事ですよね?」
「当然だろ?そうじゃなきゃ連れて帰るよ」
「ですよねえ?いらねえなら返せって感じですよね」
初めてリクト隊長と意見があった気がしつつも、村や町で行われている祭りを見学しつつ、振る舞われている料理を頂きながら北上し、帝国の地図を完成させたと言うそれを見ながら思った。
「帝国って、ソ連位ありますね?」
「それん?」
「えっと、地球の」
「ああ、そうなんだ」
「はい。って事は、北の方で幅が縮まるのか」
「そうだね。リュクレースとラクスリュースを合わせても、これだけの広さは無いね」
面白いなあと思いながらヴィーが描いている地図を眺めつつ、泊まっている町から東を眺めた。どうやら帝国は随分と落ち着きを取り戻し、リーラルーラは地方自治を認められ、ジェイド隊長が頑張っているらしい。
シオが皇帝に即位し、傍らに顔に傷がある男がいると言う。
そして、湖の北方にビンスのおっさんが配置されたらしく、湖を行き来する船を造るって話しが出てた。そのお蔭でこの町の周りにある森の木を高く買ってくれるとかで、今男達は皆木こりになっているとか。
「そういや、あの木の魔物、どうなったんですかね?」
そんな話しをしながら森を眺め、ついでだからと帝都に向かった。
帝都の庶民街で美味しい物を堪能しつつ、たくさんあったお菓子屋さんも巡ってお菓子を手に入れ、それを堪能し尽す。
ジェイド隊長には会わずにこのまま行こうって事になったので、リグラリア城は遠くから眺めた。高台の上に建つ城を眺め、心の中でジェイド隊長の未来を応援してから帝都に入ったんだけど。
「すげえ、食材が豊かですね!」
「そうだね、そう思うよ」
帝国には魔獣がいないからなのか、食用としてコーブとルルガーが飼育されていると言う。なるほど、それがメジャーだからシオが牧場を作ったのかと思いつつ、美味しいお菓子を頬張り、随分長居してしまった。
「おお、本当に居やがった!お前ら、戻って来たなら挨拶ぐらいしろよ!」
「おっさん、自由だなおい」
街中で食べ歩きをしていたら、真正面から来たビンスのおっさんが満面の笑みで近付いて来て話し掛けて来て。
「すげえ食う女がいるって小耳に挟んでよ。もしかしたらと思って来てみたんだ」
「え、すげえ可愛らしい女?」
「どう間違えたらそう聞こえるんだよ」
「いや、お約束かなって思って」
そして、ビンスのおっさんに連れられてそのまま皇宮に引っ張り込まれ、久し振りにシオとクラヴィスさんに挨拶をして。
「お久し振りです」
「ああ、そうだな」
顔の左側を覆う仮面を付けた殿下に逢った。
「……エーリオさん、噂を聞いたよ」
「リオで良い。どんな噂だ?」
「墓を、建てていると」
「ああ。それぐらいしか出来なくてな」
「そうか」
シオの傍にいながら爵位を持たず、賜った土地に墓を建てていると言う。
人は仮面を付けたその男がそんな事をしているのを不気味に思っているようだけど。
「……リオ。応援してる」
「ありがとう」
そして、シオの厚意で夕食をたっぷりとご馳走になり。
その夜の内に帝国を出た。




