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第三話 守る為に

 ジェイド隊長が西方の民をあっさりと味方に付ける事に成功したのは、お母さんの形見だと言うリーラルーラ王家の指輪と、お父さんの形見だと言う懐剣のお蔭だと言っていた。

 リーラルーラ王家の忠臣の家系が残っていたってのも大きかったらしい。

 ただ、ジェイド隊長がその息子なのだと言う事は伏せてあるらしく、リーラルーラの血が残っていた事に歓喜の声を上げた人達を前に、ジェイド隊長は困った顔をしてた。

 

 だけどお蔭でシオの味方が増え、北方へ進軍できる事になり。


「行って来るよ」

「お土産期待してます」


 そうしてヴィー達を見送った。

 残ったのは、ギルニット隊長とオーラン先輩と私。ユト達も半分が参加してるし、バーレム達は当然だと言うように一緒に行ったけど、傭兵団は三分の二が参加しただけだ。


「残りは見張りでしょうね」

「俺達のな」


 オーラン先輩とそんな事を言い合った後、ギルニット隊長が笑いながら背中を叩き、訓練を開始した。おっさん達も参加しながら行われる訓練は、黒騎士のいつもの訓練で。

 早々にバテて地面に転がるおっさん達を尻目に、黙々と走り続ける。

 そんな日々を繰り返していたら、やがて西方の街の人達が集まり始めて、何事かと出迎えれば城の修繕をさせて欲しいと言って来た。

 顔を見合わせ、迎え入れて良いのかと悩んだけど、直してくれるならって事で迎え入れ。


「ずっと放置してたが、戻って来てくれたなら直さなきゃと思ってな」


 そして、資材が運び込まれ、徐々に綺麗になって行く城に驚きつつも、午前中に基礎訓練を熟し、午後は城の修繕を共に行う。

 修復の魔法が使える事は内緒にしたままで。


「ここに、肖像画を戻したいそうだぜ?」

「誰の?」

「何でも、王家の肖像画を持ってるって奴がいてな」


 へえ、ジェイド隊長の御先祖様か。

 まあそれもいいんじゃねえのと答えれば、謁見の間の壁に飾りたいと言う。


「ジェイドは嫌がるであろうな」

「それもまた面白そうだ」

「ですよね」

「あのクソ不味いスープのお返しだぜ」

「ですよねーっ!」


 オーラン先輩と私がそう頷き合い、謁見の間の修繕が終わった時、肖像画が運び込まれ、それを壁に飾り出したのでニヤ付きながら眺めてた。


「……これって」

「ジェイドの両親だろう。二人はジェイドによく似ている」

「ですね」


 元々婚約してたのか、それとも婚約の記念に描いたのかは判らないけど、ジェイド隊長のお母さんとお父さんが描かれた肖像画を三人で眺めてしまう。


「その肖像画は、最後の王族であるサシェラ姫とその婚約者のクランキン家のご子息だそうだ」

「……サシェラ姫」

「ああ。まだ幼いが、成長したら美人だったろうなあ」

「そうだね」


 ジェイド隊長がどういう選択をするのかは解らないけど。

 それでも、選んだその未来を応援する事にしようと思う。


「さて。次は二階だな」

「はあい」


 一階部分の修復を終えた私達は、次行くぞーと声を張り上げながら資材を運ぶおっさん達に混じって一緒に資材を運び、言われるがままに手伝いをして行った。

 

 そして、十一皇子の所から使者がやって来たのは、シオ達が北方へと出撃してから十二日目の事だった。


「右手首に黒髪を巻いて来た」

「使者は?」

「庭にいる」

「ありがとっ」


 駆け出して庭へと降りれば、傭兵団のおっさん達に囲まれている使者がいた。生きた心地しねえだろうなと苦笑しながら近付き、おっさん達にも礼を言い。


「ありがとう。ここまで来てくれて」


 真顔で頷いた使者は、掲げていた右手をゆっくりと降ろし、私の髪をじっと見た後口を開いた。


「ジーリオ殿のご家族を逃がす為、第七皇子殿下及びジーリオ殿と近衛隊の五人は帝都に残り、再び第二王子殿下の命を受け東の森へと向かった。ジーリオ殿のご家族は先日無事にカスール地方に辿り着いた」

「そっか。ありがとう、あの人にも礼を伝えてくれ」

「承知した。念の為にと記してある」


 胸元から手紙を取り出した使者からそれを受け取り、もう一度礼を言った。

 そして、こくりと頷いた使者をそのまま外に出して見送る。

 おっさん達は不満そうに見てたけど、使者を殺してどうすんだと睨み付ければ、それを覚悟して来たはずだと言われた。


「あの人を殺すって言うなら、まず私に勝ってから行け」


 そう言って剣を抜けばギルニット隊長とオーラン先輩も無言で剣を抜いた。

 それを見たおっさん達は即「すまなかった」と謝って来たけど。


「甘いのは承知の上だ。無理矢理承諾させてごめんな?」

「……いや、こっちも悪かったよ」


 一応は飲み込んでくれた事に安堵し、コーシュカさんからの手紙を開く。

 やべ、何が書いてあるのか解らないって言うね。やっぱこっちまで来ると文字が随分違うもんだと思いながら、それを眺めてからギルニット隊長へと渡して溜息を吐きだした。


「……やはりあちらに魔術師がいるな」

「ですね、残念です。ってか読めるんですか?」

「いや?だが、使者が口頭で伝えてくれたからな」


 ギルニット隊長の言葉に同意をしながら、東の森へと行ったらしい殿下の事が心配になって来た。オーラン先輩も一応手紙に目を通してから、私に戻って来た手紙を丁寧に懐に仕舞い込み。


「そう簡単に人の意を操る事が出来るのか?」

「私は無理です。使おうと思った事も無いですけど」

「昔、リュクレースにあったと言う呪術のような物かもしれないな」


 ギルニット隊長の言葉に、そういやそんな昔話があった事を思い出した。


「名で縛るって言う?」

「そうだ。第七皇子がそう簡単に操られるのならば、そう言った可能性も考えた方が良いのかもしれない」

「ああ、そういや第二と血の繋がりがありますもんね。名前を知られてるでしょうし」

「……それがあるからこそ十一皇子はすぐに争いから離脱したのかね?」

「側近がそう判断して守ったのではないだろうか」

「あー、コーシュカさんならそうかも」


 そして、空を見上げながらゆっくりと瞬きをし。


「さて。迎撃の準備に入りますか」

「だな」


 使者が来たって事はそろそろ進軍するって事だ。


 コーシュカさんが教えてくれた東の森ってのは、帝国東端に広がる、ラインハルトに続く森の事だろうと思うんだけど。まさかあの森を超えてラインハルトに行ったんじゃねえだろうなと思いつつ。


「……東の森には魔獣がいるってウェルさんが言ってたけど、そういやどんな奴か聞いてなかったなあ」

「ヨルガ並だったりしてな」

「笑えねえ。あんなんがゴロゴロいたら、殿下殺され……」


 マジか、マジなんか?


「当たらずとも遠からずかもな」

「え……」

「いちる、まずは迎撃。北方より無事に帰還してからでないと許可しない」


 なんて、なんて下種野郎なんだ第二皇子はっ!


「……殴りてえ」

「いちる、第七皇子の事をそう思っている奴もいる事を忘れるな」


 解ってんだよそんな事はっ!あの食堂のおばちゃん達だって、ユト達だってそう思ってる事は承知してるんだよっ!


「抑え込め。既に踏み込んで良い領域ではない」


 あああああ、クソがああっ!と叫んで走り出し、ひらすらあの庭をぐるぐると走り回った。ふざけんなふざけんな、負けた奴は死ねと言うのかと、走り続ける。

 解ってる、例え今助けたとしても、シオが勝利すれば殿下は処刑される。

 そう言うもんだと理解してるつもりだった。


「あー、くそっ」


 だから関わり合いになりたくなかったんだよなあ。

 ちくしょう、下種野郎と叫びながら走り続け、何とか怒りを抑える事が出来てから、やっと足を止めた。


 地面を殴って痛い思いをしてから、迎撃の準備で慌ただしい城内に戻る。


「ギルニット隊長、私が先頭に立ちます」

「……いいだろう。任せる」

「はい」


 西方の民達の協力の元、女子供を合わせた非戦闘員を逃がし、ガランとした城を見上げる。


「ここで迎え撃つのが最良、か」

「せっかく良い感じに修繕したんだ、やらせんなよ?」

「解ってます」


 庭で焚き火をしながら、十一皇子の軍がやって来るのを今か今かと待ち続け、漸くやって来たのを盛大に出迎えてやった。

 

「待ってたぜえ」


 ニヤリと笑いながら空を飛んで出迎えた黒フードマント姿に、十一皇子の兵達が怯え出す。噂ってのは、こういう時こそ利用するもんだ。


「じゃあ、始めようか」


 空に向かって花火を打ち上げ、その音でギルニット隊長とオーラン先輩がリドルに乗って走り出した。それに合わせるように前線の兵士達に爆風の魔法を掛け、雨を降らせる。

 二人の後ろから傭兵団のおっさん達が出て来て、西方の民達は城の守りを固めた。


「おら、遠慮しねえからなっ!」


 腹いっぱいに食べた私は、気力も魔力も充実していた。

 それこそ、遠慮なく魔法を放てる。

 砲弾が撃ち込まれるのを打ち返しつつ、銃による攻撃には防御壁で対応し、雷撃、炎、氷柱に爆風と繰り返し、大砲を粉砕魔法で砕いて行く。

 大砲は、撃った直後なら魔石が無いから爆発しないだろう、と言うヴィーの判断は正しかった。


「よしっ、完全粉砕成功!」


 十一皇子の陣営で構えられていた大砲を全て砕き終えた私は、空に浮かせて後ろに控えさせていたリドルに跨った。


「行くぞ」

『ぬううっ』


 気の抜ける鳴き声を発したリドルの腹を蹴り、上空から十一皇子がいる所まで一気に降下する。前方からギルニット隊長とオーラン先輩が来るのを恐怖を浮かべた瞳で見ながら、上空から降りて来る私へ視線を飛ばしたコーシュカさんは、ごくりと唾を飲み込んだ後剣を抜いた。


「遠慮は無しだっ」

「……無論」


 リドルから飛び降り、そのままの勢いでコーシュカさんに斬りかかる。

 ギインッと剣戟の音を立ててから、一度離れて対峙した。


「……出来れば、貴方とはやり合いたくなかった」

「私もだよ。残念だ」


 同時に地を蹴り、切り結んだその先に、まだ困惑の色を載せた瞳がある。

 『迷いを捨てろ』と、頭の中に声が響いた気がした。


 ぐっと剣を握り締め、右から来る剣を弾き首を狙って剣を繰り出す。

 それを屈んで避けたコーシュカさんの腹を蹴り、一度間を空ける。

 そのまま睨み合い、再び同時に地を蹴った。


 コーシュカさんの剣の腕は相当で、正直、やり合ってて楽しい。

 

「……んで、来たんだよっ!」


 ギインッと剣が合わさる音を聞きながら叫んだ。

 

「守る為にっ」


 再び剣戟の音を立てながらコーシュカさんも叫ぶ。

 くそ、どうにもできねえじゃんか。


 上から来る剣を避けながら、私はコーシュカさんの腹に剣を突き刺した。

 それでも、ぐっと体制を低くし、下から斬り上げて来ながら私を牽制する。

 後ろに跳んで、コーシュカさんと対峙した。


 ごふっと血を吐き、それでも私を睨み付ける目はギラギラと光っていて。


「……ごめんな」


 がくっと膝を付いたコーシュカさんにそう言って、横を駆け抜けた。

 たぶん、止め刺さなきゃいけないんだろうって解ってるけど、私には出来ねえよ。

 近衛に守られていた十一皇子を引っ張り出し、空に浮かんで勝利宣言をし。


 そして、防衛戦は終わりを告げた。



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