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第二話 私がオリヴィエだ、文句を言うな

「……黒髪の、」

「十一皇子殿下はどちらにいらっしゃるのかな?」


 真正面から対峙してそう聞けば、言うと思うのかと当然の答えを返して来る。


「教えてくれないなら、城中に私の姿を見せ付けてもいいけど?簡単に侵入を許した無能共ってレッテル張られるけどいいの?」


 十一皇子がいる城の中、何か近衛っぽい男に向かってそう聞けば、余裕で笑われた。

 こちらに向かってくる足音が聞こえていて、まあ、随分頑張ってんなって思うんだけどさ。


「……交渉決裂です」

「そうだね。まあ、当たり前かな」


 ヴィーが軽くそう言った後。

 

「じゃあ勝手に探すからいいわ」


 一応そう断ってからジャンプして天井を駆け抜けた。

 驚いた声と叫び声、慌てて追い掛けてくる足音がするけど追い付くのは無理だってね。防御壁で囲んで移動するってのも面白そうだったんだけど、魔力が無くなったら洒落にならねえって事でこっちになりました。


「おーい、十一皇子殿下ーっ!第七皇子殿下の事で聞きたい事があるんですけどーっ!」


 そんな風に叫びながら天井を走りまくり、城の構造なら熟知してると言うヴィーの後にくっ付いて行けば、奥まった所、入口が一つしかない所に兵が固まってて。


「ここだね」


 そして、降り立った私達はヴィーの防御壁で囲まれ、剣で攻撃されるのをじっと見てた。やがて向こうが焦りを見せつつ、剣の攻撃が止んでから話し掛ける。


「第十一皇子殿下に聞きたい事がある。第七皇子殿下の安否を問いたい」

「何を言っているかっ!貴様らはここで処刑されるのだっ!」


 ちっ、しょうがねえな。


『あーあー、こほんこほん。第十一皇子殿下に問うっ、第七皇子殿下は無事かっ!?』


 拡声魔法で声を張り上げ、城中に聞こえるようにしてから声を出せば、目の前にいる兵達が耳を抑えて顔を顰めていた。相変わらず馬鹿の一つ覚えみたいに、ヴィーの防御壁に向かって剣を振って来るのを見ながら、第十一皇子の返答を待ってた。


 兵達の後ろにある階段から男が一人顔を出したのは、リクト隊長が苛立ちを見せ始めた時の事であった。ほっと胸を撫で下ろしながらソイツの顔を窺う。

 殿下とは似てないからたぶん側近だろうと当たりを付け、言葉を待つ。


「お止めなさい」

「コーシュカ様っ」


 剣で斬り付けていた兵達が一斉に起礼を取り、コーシュカと呼ばれた男が近づいて来て、私達を訝しみつつ眺め。


「黒髪の……、第七皇子殿下が世話になったと」

「十一皇子の側近の人であってるかな?」

「…………その通りです」

「第七皇子殿下は帝都に戻ったんだよね?無事?」


 コーシュカさんに問えば、じいいいっと私達を値踏みするように見ていたけど、それでも口を開いてくれた。


「無事帝都に戻られたと連絡はありました」

「そっか。ジーリオさんの家族はどうなった?」

「……まだ、解りません」

「一応聞きたいんだけど、帝都には人を支配してしまう魔術があるのかな?」


 ほんの一瞬、コーシュカさんが片目を眇めたのを見て、いるのかと溜息を吐きだした。

 殿下、また洗脳されちゃったかもしんない。


「お願いがあるんだけど」

「……聞くだけはしましょう」

「ありがとう。ジーリオさんの家族が無事にここに辿り着いたら、第八皇子の所に連絡が欲しい」


 今度は解りやすく眉間に皺を寄せてこちらを窺うコーシュカさんに、髪の毛を一本抜いて見せ、それを床に落とした。


「出来ればでいい、お願いしたい。この髪を添えてくれれば貴方からの報せだと解るから」

「…………何故そうまで第七皇子殿下の事を?」

「人と形を知ってしまったから。私個人としては助けたいと思ってる」

「それは……」

「いや、解ってるから改めて言うなよ?国としての理はちゃんと理解してるからさ」


 コーシュカさんが何を言おうとしたのかぐらい解る。

 それに、殿下に家族を殺された人がいるって事も、理解してるんだ。


「コーシュカさん、強引な事してごめんなさい。出来ればでいいので、お願いします」

「…………いいでしょう。ジーリオ殿の家族が来られたら報せましょう」

「ありがとう」

「第七皇子殿下の事は宜しいのですか?」

「殿下の事は、帝国が決める事だろ。助けたけりゃ、皇帝になるしかねえしさ」


 じっと睨み合い、そして同時にふっと笑った。


「皇帝に、ですか」

「ここの主は早々に放棄したらしいね?」

「……ええ、その通りです」

「第二皇子ってのがそんだけ脅威なんだと理解してる」


 ピクリと眉を上げたコーシュカさんを見て軽く笑った。


「第二皇子は第八皇子を潰すまで続けるつもりなのかな?」

「どうでしょうね?」


 そう言って笑ったコーシュカさんに私も笑い。


「じゃあ、そろそろ失礼します」

「お構いもしませんで」

「いえいえ、大歓迎をありがとうござました」


 そして、コーシュカさんにお辞儀をし、真横の壁を粉砕して外へと舞い上がり、空に浮かせておいたリドルに跨って空を駆け抜けた。

 コーシュカさんと話しをしている間に集まって来ていた兵達に囲まれてたから、逃げるならそれしか無かったんだけど。


「下に誰もいなかったですよね?」

「いても避けられるだろ」

「だといいんですが」


 ついでに、床に落とした髪の毛も無事だと良いんだけどなあと思いつつ、地面に降りたった。


「武器と食料を見るに、攻撃まで最短で二日ぐらいですね」

「……恐らく、十一皇子はまだ動かないとみて良い。北方に攻め入る方が早そうだ」

「え、それは何故?」

「コーシュカならそう判断しそうだから」

「北方に行ってる間に攻め入って来るとか」

「いちるを置いて行けば問題ないよ」

「え、マジで?」

「うん。まずはジーリオの家族の安否を優先してくれるよ、コーシュカは」


 良く解んないけど、ヴィーがそう判断したならそうなんだろう。

って事は、北方の十三皇子を(くだ)した方が良いって事か。


「でも、バーレム達伸しちゃいましたけど」

「ジェイドに、西方の民を動かして貰えば良い。シオじゃ西方の民は動かない」

「……国を取り戻させるのですか?」

「ああ」

「え、じゃあジェイド隊長、残るかもしれないって事ですか?」

「それは本人に任せるよ。ジェイドはリュクレースでの加護を授けられている」


 ああ、そうか。

 って事は、リーラルーラに残るってなったら、魔力の枯渇と共に寿命も縮むって事か。


「さて。シオに報告しようか」


 そして、城に戻った私達はあの庭でビンスのおっさん達と一緒に訓練をしていたギルニット隊長達を見て苦笑してから、シオに報告する為に歩き出した。

 

「バーレムのおっさんも訓練に参加すりゃいいのに」

「あれは無理だろうねえ」

「リクト隊長が相手だったらどうなりましたかね?」

「いちる如きに負ける相手にどうして俺が出なきゃいけないのかな?」

「うわ……、如きって、如きって」

「事実だから」

「そうですけどっ!でもムカつくちきしょうっ!」


 そして、報告をヴィーとリクト隊長に任せ、私はギルニット隊長の元へと走り、あのむさ苦しいおっさん集団に混じって訓練を受けたのであった。

 少しでも強くなりたい。もっと強くなりたい。


「お前……、あんだけ走ったってのに良く食えんな?」

「当たり前だろ、食わなきゃ明日も走れねえじゃんか」

「嘘だろ……、明日もやんのかよ」

「毎日やるよ。初心に帰ってやり直すぜちくしょうめ」


 訓練の途中でジェイド隊長が呼ばれて行ったから、ヴィーの案が通ったんだろうって事は解ってた。って事は、北方戦には置いて行かれるって事で、この城にいる人を守らなきゃいけないって事だと理解してる。


「なんだ、急にやる気になりやがって」

「強くなりたいだけだよ。頼って貰えるようにな」


 そして、たらふく食べた後、もう一度庭に出て走り回った。

 リドル達も一緒になって走り、たっぷりと汗を掻いてから鬣を撫でて庭を後にする。


「終わりに、すんのか」

「うん。つうかおっさん、明日動けんのか?」

「ああ。勿論だ」


 地面に倒れてぜいぜいと荒い呼吸を繰り返すビンスのおっさんを見下ろし、じゃあなと笑って手を振った。傭兵団を名乗るだけあって、割りと強いおっさん達なんだけど。

 やっぱ黒騎士って普通じゃねえんだなと実感した。

 まあ、ヨルガの強さが尋常じゃないからなあと、やっぱり最強種のヨルガを思い浮かべてクスリと笑う。あんなんと張り合うなんて、こっちに来なきゃ経験できなかったよなあ。なんて思いながら、今日も真ん丸の月を見上げる。


「……何で親がいないのかって、困らせた事あったよなあ」


 兄達と姉達には、本当の親がいた。

 極偶に会いに来るその親に、兄達と姉達は嫌悪の表情を浮かべていたけれど、そうして私に会いに来てくれる人がいないって事に気付いちゃったんだよなあ。

 勿論、色々調べてくれたらしいけどさ、結局私の親が誰なのか解んなかったみたいだし。

 あん時に、母を泣かせた自分が嫌になって飛び出した。


 我武者羅に走って帰り道が判らなくなって、そんでも母を泣かせたからもう帰れないって思って。どんどん暗くなって行く空に心細くなりながら、走り続けた。


「いちる」


 その声に、軽く笑って振り返る。

 あの時もこうして、月を見上げていたら名を呼ばれて振り返った。


「どうしたの?」


 月光を浴びて光る金色の髪を見ながら微笑んだ。


「……久し振りに走り回って、初心を思い出していました」

「そう……」

「話し合いは終わったんですか?」

「ああ。十三皇子を(くだ)す」

「味方になってくれたらいいですね?」

「どうだろうね?」


 振り返った先にいたのは母で、泣きながらギュウギュウ抱き締められた。

 だから、私も泣きながら抱き着いてごめんなさいと言い続けたんだよね。


「汗流してから戻ります」

「うん、解った」


 家に帰った私を兄達と姉達が鬼の形相で待ち構えていて、兄達から散々叩かれ、姉達には説教をくらい。そして皆で抱き合って身を寄せ合って眠りに付いた。


「……すっげえ心配掛けたんだろうなあ」


 突然いなくなった私を、あの時と同じように皆で探してくれたんだろうなって事ぐらい解ってる。だから、せめて一言で良い、元気だと伝えて欲しいと願ったけど。


「届いてりゃいいんだけど」


 そう思いながらオリヴィエを見上げる。

 自分がオリヴィエだと言われる事が、何か気持ち悪いと思ってたけどさ。


 逃げられねえならとことん向き合ってやろうじゃねえかと、ぐっと拳を握りしめた。



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