第一話 男の急所は股間一択
「あ、シオおはよう!」
「お……、おはよう、いちる。どうしたんだ?」
「ん?」
「その、今までは名を呼んでくれなかったから」
「単なる心境の変化って奴だから気にしないで?」
「そ、そうか。いや、俺はその方が嬉しいから構わない」
「でさ、聞きたいんだけど、帝国の皇子達の中でさ、第二と第七と第十一って兄弟?ああえっと、同じ母親の兄弟って意味でさ」
朝食を摂る為に入った食堂でシオの姿を見付けたリクト隊長が、丁度良いから聞いて来いと言い出し、そうれもそうかとシオの所に行って話し掛けた。『シオって呼んでやれよ』と言われていて、理由解んねえと思いながらも名を呼べば、名を呼ばれる事が嬉しいらしくちょっと頬を赤く染めた所が可愛い。なるほど、リクト隊長良く見てんなあと思いつつ、どんだけ殿下って呼ばれるのが嫌なんだろうって思ったけど。まあ、こういうご時世だから嫌なんだろうなと勝手に解釈しておいた。
「ああ、そうだ。俺にはそう言う意味での兄弟はいな」
「やっぱりか。ありがとね」
シオの言葉を途中で遮り、礼を言って踵を返す。
「お、おい、それだけか?」
「そうだけど?」
歩きはじめた私にシオが立ちがってそう聞いて来たけど、聞きたい事はそれだけだと頷きながら答えれば、何故か固まったシオに首を傾げたけど。そんなシオに何か話しかけたクラヴィスさんに後を任せ、ヴィーがいるテーブルに着いた。
リクト隊長が一人で何やら笑ってたけど、迂闊に突くとヨルガより怖いもん出て来るから無視するに限る。
「案の定兄弟でした」
「そっか。面倒だね」
「ちょっと私、十一皇子の所に行って来てもいいですかね?」
「お前頭沸いてんのかよ」
「だって気になっちゃって。確認も含めて行きたいんですけど」
朝食を食べながら話しを進めて行く。
殿下とジーリオさんの事が気になっててさあ。
帝都に向かったのかなとか、ジーリオさんの家族は無事だったのかなとか、殿下は殺されたりしてねえだろうなとか。ちゃんと理解はしてるし、どれだけ危険な事しようとしてるかも理解してるけどさ。
「…………話し合おうか」
「是非」
ヴィーの答えに頷き、ガツガツと朝食を平らげて部屋へと戻る。
「さて。いちる、確認をしてどうしたいんだ?」
「ただ確認したいだけですよ。帝都が今どうなっているのか」
「なら、シオから情報を貰えば良い」
「その情報が信用できるならそうします」
じっと、ほぼ睨み合いのようになりつつもヴィーから視線を外さない。
やがて、ヴィーが長い溜息を吐きだした。
「解ったよ。じゃあ行こうか」
「なら俺も行きます」
「そうだな、リクトが行くなら俺は良いと思う」
「だな、俺もリクトが行くなら賛成だ」
「ちっ、皆でリクト隊長を持ち上げやがって」
「実力だろう、いちる」
「くそっ!こんな鬼畜野郎が一緒にいるとか勘弁なんですがね」
「なら諦めろ。リクトが行かないなら阻止する」
くそおおおおっ!
「ニヤ付いて悦に浸りやがって!くそがっ!」
「まったく、いちるは何時でも何処でも莫迦だねえ」
「かーっ、余裕ぶってムカつく!」
「はいはい、いちる、抑えて抑えて」
ヴィーに笑いながらそう言われ、仕方なく矛先を収めた。
「いちる、第二皇子が元凶なら帝都に戻った途端、再び洗脳されているかもしれないよ?」
「……それは考えなくも無かったですけど。そう簡単に洗脳されるもんですかね?」
「たぶんだけど、あちらに魔術師がいると考えれば有り得ると思うよ?」
「ああ、魔術師!そうか、それを全く考えてなかったです」
「うん、ほら、こっちにエラムと言う魔術師がいるだろう?俺達が見た事の無い魔術を使う」
「そうでしたね。あの移動陣とか使えそうにないですからねえ」
そういや話しをしてみようと思ってたんだった。
いや、もしかしたら故意に引き離されてたか?
「ここに来てから一回も姿を見てませんね?」
「信用されてないんじゃないかな?」
「ああ、まあそれはお互い様ですけど。確かにそうですね」
「うん。まあ一緒に戦うのならその内紹介して貰えるようになると思うよ」
そんな話しをした後、シオを探して十一皇子の所に行って来ると告げれば、凄い勢いで反対された。
「もうここにいると情報が出ているから、行けば殺されるぞ」
「だから気を付けるよ」
「気を付ければ良いと言うもんじゃないっ、死んでしまうぞっ!」
「……どうすっかなあ、んー、戦って見せるのが一番かな?」
「は?」
「あのさ、砲弾を打ち返し銃弾を弾いてたって聞いてない?」
「そ、れは恐らく、誇張された物だろう?」
「ああ、やっぱそうなんか。うん、じゃあ戦おうか、シオ」
「な、何を言って」
「そうすりゃ話しが早いと思って。そっちで一番強いのは誰?ビンスのおっさんかな?それとも、バーレムさん?」
そして、話しを聞き付けたビンスのおっさんが面白がり、昼食の後あの庭で模擬試合が行われる事になった。
おっさん達傭兵から五人、バーレムさんが引き連れてる軍人三人と勝ち抜き戦となる。
人数の事でシオがこっちに合わせろと言ってたけど、こっちは全く問題ないと答えたらバーレムさんがニヤリと笑い、「第七皇子を降した事で随分驕っておられるようだ」なあんて言って来た。この人も解りやすくていいよねえ、ホント。
「さて。やろうか」
バーレムにニヤリと笑い返しながら双剣を抜き、ぐるりと回して見せ。
何やら耳元で言い含められたバーレムの部下が出て来て、私を見下ろしてニタリと笑って見せた。ふふ、楽しい。
「始めっ」
相手は女性だぞとか、黒髪の乙女なんだぞとシオが煩いけど、まあよくあるBGMみたいなもんだ。そして、オーラン先輩の合図と同時に地を蹴り、その速さに呆気に取られた奴の顔面に蹴りを入れれば、あっと言う間に地面に倒れて負けとなる。
「はい、一勝。次来いや」
あまりに早く片が付いてしまったからか、周囲がやたらとざわめいていて同時に呆然としていた。
「み、認めないぞっ!こんな、こんなっ」
「おいバーレム、部下にみっともねえ真似させてねえでさっさと引き取れや」
剣を突き出してそう言うと、呆然としていたバーレムが我に返り、倒れた部下を叱咤して引き上げさせ、次は傭兵のおっさんが出て来た。
嬉しそうに笑ってる割りに目がギラギラしてていい感じだ。
「始めっ」
合図と同時に膝を落とし重心を低くして構えれば、おっさんがニタリと笑って来る。
ゆっくりと歩き始めたおっさんに、そのままの姿勢で待ち構え。
後ろから斬り付けて来たその剣を避ければ、ざわめきが支配する。
重い剣はそのまま横薙ぎにされ、次いで下から斬り上げ、そして振り下ろされて来る。
それを避けながら、確かに実力はあんだろうけどと思いつつ、隙を付いて喉元へと剣を走らせ固まったおっさんにニヤリと笑いながら剣を引いて延髄蹴りをかました。そして、地面に倒れたおっさんを見下ろし。
「はい次。キリキリ行きましょう、キリキリと」
そう言って元の位置に戻って剣を構える。
「よし、俺がやる!」
「……おっさん、無理すんなよ、腰傷めるぞ?」
「うるせえな、腰は鍛えてんだよ」
「用もねえのにか?」
「ふざけんな、俺はモテモテなんだぜ?」
「ムサイおっさんにモテても嬉しくねえなあ」
「まあそう言うなよ」
ビンスのおっさんと軽口を叩き合った後、剣を握って対峙し。
「始めっ」
オーラン先輩の合図で駆け出して、胴を横薙ぎにしつつ顎を狙って蹴りを放つ。
剣を避けながら顔を引いてそれを流し、そのまま斜めに斬り上げて来た。おー、さすがムサイおっさんを束ねてるだけはあんだなと思いつつ、少し距離を取り。
今度は肩の辺りへ剣を走らせながら、頭上から氷柱を落とした。
「おおおおおおっ!お前、何それ、ずるだろずるっ!」
慌てて飛び退ったおっさんがそう言って来たけど、それを追った私は既に足を狙って剣を出していた。「うおお」と叫びながら飛んだおっさんを蹴り上げ、空に浮かせて着地点で待ち構え。
「待ったあああっ、参りましたあああっ!」
もう少しで股間に剣が刺さるって所でおっさんが叫び、魔法で落下を止めた後地面に下ろした。
「おおお、お前、股間狙うか普通っ!?」
「なんでだよ、急所だろ?」
股間を両手で隠して必死の形相でそう言うおっさんに、ニヤリと笑ってしまう。
「何その容赦のない攻撃っ!」
「あんまりうるせえと斬り落とすぞって言う脅しも含まれてる」
「脅しになってねえよ、冷や汗掻いたわっ!」
「うん、男への攻撃はこれが一番だって知ってるからね」
「……本気かよ」
そして、がっくりと肩を落としたビンスのおっさんが、傭兵団はこれ以上の腕試しはしないと宣言し、残りはバーレム達だけとなった。
あのムサイおっさん達が股間に手を当てているのを笑いながら見た後、ニタリと笑いながらバーレムに視線を定める。
「部下に戦わせるばっかりでいいのかい?」
「貴様など、こ奴で充分だわ。思い知らせてくれる」
「おー、言葉とは逆にすげえ悔しそうなその顔が良いねえ。泣きながら許しを請わせてみたいわ」
にやっと笑いながら言えば、周囲がドン引きしたけど気にしない。
そして、軽く溜息を吐きだしたオーラン先輩が合図を出し、バーレムの部下その二と対峙し。肩の辺りで切り揃えられていた髪を、少しずつ斬り刻んでやった。
「き、きさ、貴様っ!」
そして、突進して来たそいつを避け、背中を蹴り付けて踏鞴を踏んだ所を、ジャンプして飛び乗り地面に膝を付かせる。
「はい、三人目終了っと。まだやる必要ある?」
「ふざけるなっ!剣も使わずに何をっ」
「誤解すんなよ、ビンスのおっさんには剣で相手しただろう?」
「なぜ我々には剣を使わんのだっ!」
「え、ここで言ってもいいの?」
「試合なのだからきちんと剣を使えっ!」
「……いいのかな?」
「いいんじゃないかな?ああ言ってる事だし」
「はあい。じゃあそうします」
ヴィーが笑いながらそう言うので、しょうがねえなあと持っている剣をぐるりと回し。
「で?次は誰?」
「……剣を使っていないから今までの試合は無しだ」
「うん、そう言うと思った。どうでもいいから早くしてよ」
かっと頬を怒気で染めたバーレムを見ながらそう言えば、次から次へと部下を出して来て、その全てを剣柄で叩いて気絶させてやったんだけど。
「認めないっ、認めないぞおおおっ!」
そう言いながら抜剣して走って来たバーレムの目の前に防御壁を作ってやれば、見事にぶつかり、そのまま気絶した。
「あー……」
「将軍ねえ……」
微妙な顔になりながら地面で伸びたバーレムを見下ろし。
主に避難民から絶賛された私は、大量の夕食とお酒を頂いて眠りに付いた。
夜中、部屋の前で何やら騒いでいたようだけど、私はヴィーの魔法壁に守られながら、ぐっすりと眠っていたので全く気付かなかった。
「申し訳ない」
朝一でシオが謝って来たけど、こっちは既に予想済みだったんだよねえ。
「シオ、気にすんなよ」
「……バーレムは、反省させる為に部屋に閉じ込めてあるから」
「え、自由にしてやりなよ。閉じ込めたら余計弱くなっちゃうじゃん?」
「だが、あんな卑怯な事をやろうとするとは」
「大体予想してたよ。プライド高い奴って似たような行動取るからさあ」
「……すまなかった」
「まあそれはどうでもいいんだけどさ。今後一緒に戦うのはやっぱり無理だね、あの人」
「後ろから刺されるのは御免だよねえ」
「味方が信用できねえってのは勘弁だな」
私の言葉にリクト隊長とオーラン先輩が同意を示し、ジェイド隊長がこくりと頷いた。
「確かにその通りだ。バーレムとは色々ともう一度話し合う」
「……あの戦力では心許ないのでは?」
ヴィーのその突っ込みにシオが固まり、視線を外した後口を開く。
「一番、人数がいるからと思ったんだ……」
なるほど、そう言う理由か。
まあ、こんな時だから味方は多いに越した事ないけどさ。
「ま、頑張れ、シオ」
ぽんと肩を叩いて励ました後、リクト隊長とヴィーと私の三人でリドルに跨り城を出た。
十一皇子がいるカスール地方へリドルを走らせ、そして、上手い事侵入に成功したのであった。




