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第十一話 にょろにょろと渋いおっさんと異世界

「あ、チオちゃんおはようっ!」

「おはようございます、いちるさん」


 朝食を摂る為に食堂に入ったらチオちゃんがいて、手を振りながら近付いたのはいいんだけど。


「あ、ごめん。えっと」

「ディルナルド様とウェルガル様です。こちらがいちるさんです」

「いちるです、よろしくお願いします」

「……ディルナルドだ」

「ウェルガルと言います、よろしくお願いします」

「ラインハルトの人?」

「はい、そうです」


 ディルナルドは既に興味を失ったように私を見もせず、食事を淡々と口に運んでるんだけど、ウェルガルさんは食べながらも観察中のようだ。と言うか、食べ方で解るけどディルナルドは王族か。何だこの城、王族がゴロゴロいやがる。


「帝国第八皇子に協力する事は決定してんの?」

「はい。その、避難して来る方を減らしたくて」

「うん、国境を超えるのに命懸けみたいだからねえ」

「……いちるさんと呼ばせて頂いても?」

「呼び捨てでいいですよ、ウェルガルさん」

「ならば私の事もウェルでいいです」


 ウェルガルさんは見た目四十代ぐらいの渋いおっさんだ。

 はっきり言って、格好良い。渋いおっさんは好きだ。


「じゃあお言葉に甘えて、ウェルさんで」

「では私もいちるさんと呼ばせて頂きますよ」

「どうぞどうぞ」


 笑いながらそう言うと、ウェルさんが軽く空咳をした後問い掛けて来た。


「いちるさんも第八皇子殿下に協力を?」

「さあ?主が助けたいと思うのなら助けますよ」

「主?と言う、と……」


 ウェルさんの視線の先に、どうやらヴィーが来たらしい。

 ディルナルドまで食事の手を休めて凝視していた。


「いちる、ほら」

「ありがとうございます」

「ああ、チオちゃん、おはよう」

「お、おはようございます」


 私に食事が乗った盆を差し出しながらチオちゃんに挨拶をし、隣に座り込んだ。

 先輩達は隣のテーブルに着いて、それぞれに食べ始める。


「ディルナルドさんとウェルガルさんだそうです」

「エルトと言います、いちるの夫です」


 そして、三人があんぐりと口を開けて私とヴィーを交互に見るのをいつもの事と流し、早速朝食を頂いた。それをさっさと食べ、お代わりを貰ってそれも平らげる。


「いちるさんは、健康的ですね」

「……うおお、そんな言い回しがあったか!ウェルさん、ありがとうございます、今度から『健康的だ』と言う事にします」


 食い意地張ってるとか、大食漢とか、食い気野郎なんて言われてたけど、そんな素敵な言い方があったとは。


「ええと、そう、ですか」

「そうなんです、私は健康的なんですよ」


 そして朝食後、ウェルさんが城の案内をしてくれると言うのでお言葉に甘える事にした。


「ラインハルトは南端の国ですか?」

「そうですね、ラインハルトは国の半分がイヴァリエールに囲まれていますから」

「へえ、じゃあ海の恵みがありそうですね」

「イヴァリエールね」

「おっと、そうです、イヴァリエールの恵みです」


 ヴィーに言い直されて慌てて言い直したけど、ウェルさんはそれを流し、そうですねと言いながら美味しい魚の話しをしてくれる。うーん、これは流した振りしてしっかり聞かれてるなあと思いながら、要注意だと気を引き締めた。


「それと、ラインハルトでは珍味としてフォーガの料理が楽しめます」

「フォ、フォーガ?」

「ああ、ええと、ラインハルトの西に広がる砂の川に生息している魔獣でして。こう、にょろにょろと動くんです」


 え、これ、遠慮なく笑っていいとこ?

 思わず固まってしまったら、ウェルさんが少し頬を赤らめて視線を逸らした。


「ごめんウェルさん、笑っていいのかどうか悩みました!」

「いえ……、お気遣いなく」


 にょろにょろと言いながら身体をくねらせてくれたんだけど、ウェルさん、渋いおっさんなんだよね。そう言う人がにょろにょろって、にょろにょろって。


「砂蛇みたいな感じですかね?」

「へび?」

「はい、にょろにょろって動くんです」


 そう言いながら身体をくねらせれば、ウェルさんが笑ってくれた。


「貴方方は、何処からいらしたんですか?」

「北方です」

「たぶん、最北端にある国だよ。リュクレースと言う」


 え、言っていいんだと思いながらヴィーの言葉にこくりと頷いた。


「我々はお恥ずかしながら、こうなって初めて国を出たんですよ。なので、自国とこの帝国しか知らないのです」

「私達もですよ。偶々国から出てしまったので、ついでに諸国漫遊をしております」

「……そうですか。その、他国では魔獣はいないのでしょうか?」

「いますよ。だから、それなりに戦えないと危険でしょうね」

「ラインハルトにも魔獣が?」

「おります。国内はイヴァリエールの風が守ってくれるのですが、東方に広がる森や西方の砂漠には、かなりの魔物が生息しているのです」

「そして北方に竜?」

「はい。ザクト火山の赤竜は、ラインハルトの守り神でもありますが」


 ああ、やっぱり竜に会いに行きたいなあ。


「ウェルさんは、どうして第八皇子に肩入れしようと思ったんです?」

「肩入れと言うか……」

「帝国の地形的には、第八皇子より十一皇子ですよね?」


 十一皇子はザクト火山の北方に位置する所に所領を持っている。だから、避難民がどうと言うなら十一皇子と組んだ方が早いんじゃないかと思ったんだけど。


「……我々が第八皇子と出会った時、あの方は民を守って赤竜と戦っていたのです。自らが血を流し、ボロボロの体でした」

「へえ、ちょっと意外」

「共におられた傭兵の方達も、本当にボロボロで。何とかあの方を逃す為に剣を振っておられたのです」


 ああ、あのムサイおっさん達か。


「赤竜を落ち着かせてから手当てをし、民を連れて逃れたのがここなんですよ。それから何だかんだと世話になっています」

「そっか。ウェルさんは、第八皇子の為に剣を振うのかな?」

「……私が剣を捧げるのは主のみです」

「じゃあディルナルドさんの判断か。ディルナルドさんもそう簡単に第八皇子に肩入れしていいの?」


 視線を鋭くさせたウェルさんがじっと私を見つめ、その後ヴィーへと視線を移す。


「貴方方は、第八皇子と敵対する事を選ばれるのですか?」

「いや、今の所は帝国に加担するつもりはないよ」

「では、何故ここに戻られたのです?」

「それはチオちゃんに会いたかったから」

「チオ、ですか?」

「そう。竜人の子だって聞いたもんで」


 途端、一歩下がったウェルさんと対峙する。

 油断なくこちらを窺う視線はやっぱり軍人だ。


「チオを、どうするおつもりか」

「仲良くなりたいだけだよ、ウェルさん。ってかその態度で理解したけど、ラインハルトで竜人って、迫害されてんのな。ちょっとショック」


 ぐっと視線を強くしつつも何も答えないウェルさんに、さらに言葉を重ねた。


「私にとって竜ってのは、神様なんだ。それがこんな身近で触れる事が出来るなんて夢みたいだよね。すっごい嬉しいし、チオちゃん可愛いから仲良くなりたいし、ザクト火山の赤竜に会いたいとも思う。それに、竜人が迫害されてんのならリュクレースに来てって誘いたいわ」


 一歩前に出てヴィーを守るようにウェルさんと対峙し、暫し睨み合いをし。


「ディルナルド殿下がそれを変えようとしてるってのは、何となく解るけど。国中にある悪感情をひっくり返すのは難しいんじゃねえの?」

「…………何故、殿下と?」

「そりゃ、所作で解る。育ちが良過ぎて純粋培養だもんな、あの人」


 ウェルさん、ぐっと口を引き締めて睨む顔が恰好良い。渋くて素敵。

 いいねえ、ヴィーは甘い顔だからこう言う渋系にはならないだろうなあ。あ、ガルさんがこういう系統だなあ、こうなってくれたらいいなあ。


「いちる?」

「はい?」

「今、何か変な事考えてなかった?」

「か……、なかったです」

「そうかなあ?」

「そうです、気のせいです」


 ヤベエ、下手な事考えると何でバレルかな。


「まあいいか。ウェルガルさん、我々は気の向くままに旅を続けているのです。今回、帝国の民を救っていたのは偶々なんですよ」

「そうそう、偶然の産物です」

「まあいつも通りにいちるが面倒事を拾ったんだけどね」

「だって、一般人がいるのに平気で砲弾撃ち込んでたんですよ?思わず打ち返して何が悪いんですか」

「そうだけど。あれで目を付けられたんだよ?」

「だって放っておけないんだからしょうがないじゃないですか」

「少しは自重して欲しいね。自分が怪我をする所だったじゃないか」


 ぐぬぬ……。


「……国が絡んでいるのなら、手を出しても意味が無い事ぐらい解っているだろう?」

「でも、目の前の人は救えます」

「そしてずっとお腹を鳴らして我慢までしてね」

「ここまで食料が無いなんて思わなかったんです!」


 思わずムキになって言い返していると、ヴィーがふっと微笑んだ。


「と言う訳なんですよ。いちるが救いたいと願ったから、それを叶えていただけです」

「…………では、帝国にも、我々にも手出しはしないと?」

「帝国はどうでも、そちらにいると言う赤竜と竜人に関しては、傷付けようものならいちるが全力で阻止しますよ」

「当然です」


 ふんっと鼻息を荒くしながらそう言えば、少しだけ雰囲気を柔らかくしたウェルさんが肩の力を抜いた。


「解りました。信用しましょう」

「それは良かった」


 そして、改めてディルナルドさんに引き合わされ、ラインハルトの第五王子なのだと紹介される。


「ここ、王族がゴロゴロいますね」

「面白いよね」

「元第三王子と言う事だが、何故王位を捨てたのだ?」

「国を出る時にそう願い出ました」

「無職も楽しいですよね?」

「そうだね、思っていたより楽しく過ごしているよ」


 そうして笑い合った私達を、ディルナルドさんはじっと見て何やら考え込んでた。


「確かに、楽しそうだ」


 そう言って微笑んだディルナルドさんは、ディルでいい、気軽に呼んでくれと言ってヴィーと握手を交わし。


「そちらの用事が終わったらでいいんですけど、後でザクト火山の赤竜に会いに行ってもいいですかね?」


 そう申し出てみると、ディルさんはとっても驚いた顔をしながらも、チオちゃんがいれば大丈夫だけど、危険な事には変わりない事を教えてくれた。


「勿論、危険なのは承知しておりますが、それでも、どうしても会いたいんです」


 言い募れば、ディルさんはチオちゃんと視線を交わし、チオちゃんがこくりと頷いてくれてやっと承知してくれた。

 やっぱチオちゃんが竜人の子だってのと何か関係あるんだろうなと思いつつも、まだそれを口にする事無く会話を終わらせ。


「さて。そう決まったなら第八皇子に加担しますか」

「いいの?」

「元々、帝都に行って美味いもんたくさん盗む予定だったんですよねえ」

「そうなの?」

「はい、そうおばちゃん達に約束したんです」

「そっか。じゃあちゃんと約束を守らないとね?」

「はい。って事でヴィー、よろしくお願いします」


 そう言いながら笑って見上げれば、ヴィーは苦笑しながら「解ったよ」と言って頷いてくれた。また先輩達にどつかれんだろうなと思いながらも、まだ見ぬ赤竜に思いを馳せ。


 やっぱこれだよ、これこそ正しく異世界トリップだよと、一人悦に浸った。



第五章 終

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