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第九話 魔人と神使と理不尽と

「うおおお、ジェイド隊長がいっぱい」

「その言い方は変な想像しか出来ないから止めようね」

「はあい」


 街の人達は赤毛に褐色の肌、目鼻立ちはキリッとしてて南国の人って感じでした。ただ背の高さはバラバラで、私と同じ身長の人もいれば、ギルニット隊長みたいに大きな人もいて、この辺は面白いなあと思った次第です。


「ジェイド、何か聞いてたりするのか?」

「いや、別に何かを聞いている訳ではないが。だが、何故か懐かしい気がする」

「へえ……、そう言う事もあるんですねえ」

「うん。いや、きっと母の話しを聞いていたからだと思う」

「故郷のですか?」

「ああ。たぶん、話しを聞きながら思い描いた景色が、この街のような雰囲気だったのだろう」


 そう言いながらも少し口角を持ち上げて周囲を見回したジェイド隊長を、珍しいと思いながら眺めてしまった。


「おや、お兄さんはこの辺りの出身なのかい?」

「ああ、まあそうだ」

『ヘクトーラ ビリレオルネ』

『……メルカソ』

「ははは、ありがとねえ。はいよ、これを持って行って」

「いいのか?」

「勿論さ」


 そう言って渡された木の実を、私達にも気前よく分けてくれる。


『イルゴーレ』

『ノビラス』


 そう挨拶を交わした二人に、首を傾げつつも私もご馳走様ですと言ってから別れ、ジェイド隊長を見上げれば、手に持った木の実をじっと見ていた。


「今の、何語ですか?」


 ヴィーにそう聞くと、目を丸くして私を凝視する。


「ん?」

「今、いちるには何て聞こえたんだ?」

「え、普通に現地語みたいに聞こえましたけど」


 そう答えると、ヴィーは真面目な顔になって考え込んでしまい。


「おっと、撤収!」

「はい……」


 リクト隊長のその声で、ヴィーと腕を組んだ私が歩き出し、肩を組んだリクト隊長に連行されるように歩き街中の宿屋までヴィーを連れて行った。

 空いている部屋に入り、ヴィーを座らせる。


「いちる、何だ、どうしたんだ?」

「えっと、さっきのジェイド隊長の言葉が解らなかったと言ったらこうなりました」

「それは……」

「マジかよ」

「本当に解らなかったのか、いちる?」

「え、なんです?何か重大事項なんですか?」


 ヴィーが考え込んでるぐらいなので、まあそうなんだろうなとは思うんだけど私にはさっぱり解らない。


「いちる、あのな、お前のその言葉に関する魔法を掛けたのはフラグニルだろう?」

「はい、その通りです」

「それが通じなかったと言う事は、ここはフラグニルの管轄外って事だ」

「ここと言うか、リーラルーラが、だな」

「ジェイド」

「悪い、だが俺を気にする事は無いさ。それに、俺も別にリーラルーラを気にいしている訳じゃない」

「だがな」

「いや、解ってる。だがもう三百年も前の事だ」


 先輩達には話しが通じ合ってるけど、私にはいまだに話しが通じてないんですがねえ。

 眉間に皺を寄せながら先輩達を眺めていたら、考え込んでいたヴィーが顔を上げた。


「いちる」

「はい?」

「……フラグニルの事なんだけど」

「はい」

「何と言えばいいか……、そうだな、フラグニルはいちるに『魔人だ』と言ったんだよね?」

「はい、そうです。自分で魔人だと言いました」

「うん。いや、そう聞いたからいちるには魔人で通すべきだと思っていたんだけどね」

「……はい」

「あのね、フラグニルと言うのはアクジェヴィエルラルの使いなんだよ」


 あれ?


「アクジェヴィエルラルって、太陽神ですよね?」

「そうだよ」

「じゃあ、神様の使い?」

「うん、そう。こちらでは神使として名を知られている」

「……神使、ですか。あれが?」

「あー、うん、まあそうだよ」

「別名おっぱい魔人が神使?」

「それはほら、いちるしか知らないと言うか」

「えー……、あれが神使……。ありえねえ……」


 いや、でも確かに掛けて貰った魔法はすげえ魔法だって事だけは理解してるんだけどさ。えー、太陽神は使いを変えた方が良いと思う。


「それで、フラグニルが掛けた魔法が通じないと言う事は、ここにはフラグニルの加護が無いと取れる」

「加護が無いとどうなるんです?」

「…………枯渇する」


 なにが、と聞かなくても解った。

 魔力が無くなるんだ。

 

「リュクレースはアクジェヴィエルラルの加護が篤い国なんだ。だからこそ、魔素の密度が濃く、強い魔獣が多いんだ」

「ええと、太陽神と月の女神はセットだから、オリヴィエの加護も篤いって事ですよね?」

「その通りだ」

「……やたらと恵まれた国だとは思ってましたけど。でもなんでリュクレースだけそんななんです?」

「さあ?でも、代々王族には必ず化身が産まれる」


 おー……、そう言う事かよ。


「それがヴィーなんですね」

「そうだね」

「その前は大公妃殿下ですか」

「良く解ったね?」

「まあ。なるほど、それで『リュクレースの至宝』か。で、リヴィなんですね?」

「ああ。たぶん、娘が王族になる」


 うわあ……。


「じゃあ、大公殿下はオリヴィエ?」

「その通りだよ、いちる」


 すげえ仕組みだよなあ。何だよそれ。


「ごめん。今まで言えなくて」

「…………いえ」


 やり場のない怒りが込み上げて来て、何度も深呼吸を繰り返してやり過ごす。

 理不尽な扱い、理不尽な誹り、理不尽な嫉みも、全部そのせいか。


「……ごめん」


 いいんです、大丈夫ですと言った方が良い事ぐらい解ってる。

 深呼吸して全てを飲み込み、顔を上げればヴィーが悲しそうな顔で私を見てた。

 言いたい事は解ってるし、私が飲み込んだ言葉も理解してるだろう。


「………………何か、食べましょう。お腹減りました」


 そして、部屋を支配していた緊張感が緩んで行き、笑い出した私とヴィーに先輩達も笑い出し、部屋を出て街中の食堂に繰り出し、散々食べまくった後今度は酒場に繰り出し、大いに飲みまくった。


「うー、さすがに腹がヤバイですねえ」

「本当によく食べたよね」

「これまでの分ですよ。ずっと我慢してましたし」

「そうだね、帝国に入ってからずっと碌に食べられなかったからねえ」

「まったくですよ」


 さすがに持ってた金が全部なくなったけどまあ、どうせ使い道ないしいいだろう。

 帝国の金なんて持ってても、良い事無さそうだし。


「あ、そういや第八皇子の方はどうする予定なんです?」

「ああ、その事なんですが」

「うん?」


 珍しくギルニット隊長が口を挟んだので、ちょっと驚きつつも見上げてみれば。


「あそこに、火山の向こうの国から来たと言う者がいます」

「あの向こうに国が?」

「ええ。ラインハルト国と言うそうですよ」

「火山を超えればいいんですか?」


 そう聞くと、ギルニット隊長が笑いながらこくりと頷いた。


「それにな、その国には竜人がいるそうだ」

「これは行くしかないでしょう、ヴィーっ!」

「そうだね、興味が湧いたよ」

「行きましょう!直ぐに行きますか?」

「いちる、落ちつけ」

「でも竜人ですよ?お会いしたいのですがっ!」

「だから、会いに行ってもいいかと思うんだが」

「ん?」

「ああ、そう言う事か」

「え?」

「ほら、城に行けと言う事だよ」


 なるほど。

 

「……ギルニット隊長がそう言うのって、すんげえ珍しいですよね?」

「まあな」

「どうしたんです?気に入ったんですか?」

「そうだな……、話しをしていたら父親が竜人なのだと聞いた」

「うおおお、竜人の子って事ですか」

「ああ。ただ、そのせいで色々と苦労しているらしい」

「え、良くある迫害パターンですか?」

「いや、それは言っていなかったが、どうやら力が強過ぎて色々と破壊してしまうらしいぞ」

「破壊ですか」

「ああ。何かを握る時にも凄く気を付けないとうっかり握り潰すと」

「ヴィー!」

「はいはい。じゃあ会いに行こうね」

「是非っ!出来ればお父上のお話が聞きたいですね」

「そうだね、俺も気になって来たよ」

「ですよねーっ!これはもう会いに行くしかないですよ!」

「ったく、現金な奴だなお前は」

「さっきまで色々悩んでたくせに」


 オーラン先輩とリクト隊長に軽くどつかれながら、宿屋に着いた私達はそれぞれに部屋に入った。


「ヴィー、質問です」

「……うん」

「リーラルーラに太陽神の加護が無い理由は解りますか?」


 そう聞くと、ほっとしたように溜息を一つ吐きだしてから教えてくれた。


「リーラルーラは、雨が降る方がありがたがられたんだよ」

「ああ、そうか」

「うん。だから雨の女神コレスヴェルが加護を与えていると聞いている」

「コレスヴェル、ですか」

「……コレスヴェルはアクジェヴィエルラルと真逆の位置にいる神だからね」

「まあ、確かにそうですね」

「だから、アクジェヴィエルラルの加護を受けている俺達は、リーラルーラでは長く生きられない」


 その言葉で気が付いてしまった。


「って事は、逆もまたあり、ですか」

「ああ。ジェイドの両親は、リュクレースの加護を受ける事が出来なかった」


 そっか。

 そうだったのか。



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