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第八話 帝国と出奔と謎料理

「帝都は、皇族街、上流貴族街、中流貴族街、下っ端貴族街、庶民街があって、壁の外に貧民街があるんだ」

「ふうん」

「で、シオは庶民街で育ったんだ」

「ああそれ、本人も言ってたけど、何でそうなったんだ?」

「母親が元々庶民で、下っ端貴族の所で働いてたんだよ。ただ、シオの顔を見れば解ると思うが、これがまたすげえ別嬪でな」

「ああ、うん、確かに整った顔してるよな」

「ああ。で、シオの母親はこの下っ端貴族から中流貴族の所に売られ、そっから上流に売られ、最後には帝国の皇帝に目を付けられたって訳だ」

「すげえな、それも。そんだけの別嬪さんなら会って見たいわ」

「残念だが既に亡くなった」

「おー……」

「毒殺されたんだよ。まあ、ありがちっちゃありがちだな」

「怖い怖い。なるほどね、シオは逃がされたのか」

「その通りだ。母親に着いてた女が、必死でシオを連れて逃げて来た」


 おっさんの言葉に、何となく含む物があって。


「その侍女さんも亡くなったんだな?」

「……ああ。シオを庇ってな」

「おっさんの恋人か」


 言った途端、目を丸くしてこっちを凝視して来る。


「ごめん、何となく気付いたよ」

「……そうか。ま、俺とシオはそう言う関係だ」


 なるほどねえ。って事はおっさん、昔は上流貴族出身か。騎士とかそう言う感じだったんだろうなあ。


「ん?そう言う流れならこっちの情報も渡せって事か?」

「おい、そこは自然と話しをしろよ」

「ははは、なら情報料が必要だな?」

「金取んのかよ」


 渋い顔をしたおっさんと笑い合い、周囲の強面共も笑う。


「ビンス、やられたな?」

「ああ、手強いぜ」

「まあその内解る事もあるさ」


 そう言いながら、昼間っから飲む酒は割りと美味かった。


「テメエは何をしてんだ何をっ!」

「いって、ちょ、誘われたんですよっ!」

「ふざけんな。早速何やらかしてんだお前はっ!」

「交流を温めるべきかなと思ってですね」

「おっさんがビンスか?」

「ああ、そうだ」

「あんたの大将が呼んでる、作戦会議だ」

「解った」

「おら、テメエも来るんだよ」

「あああ、待って待って、全部飲んじゃいますからっ!」


 引っ張られつつコップの中の酒を飲み干し、片付けといてと言ってコップを投げれば、強面の奴らが笑いながら受け取ってくれる。ビンスのおっさんも苦笑しながら、引き摺られる私の後をくっ付いて来た。


「なあ、いちるはいつもこうなのか?」

「そうだ。何時でも何処でも騒ぎの中心にいる」

「ああ、それは何か解るわ」

「何でだよ、おかしいだろ」

「自覚しろよいい加減っ!」


 バシッと遠慮なく頭を叩かれ、それを見たおっさんがクツクツと笑いつつ、どっかの部屋に放り投げこまれた。いつものごとく、シュタッと床に着地を決め、一人満足しているとシオが笑い出し、クラヴィスさんと見た事無いもう一人が目を丸くしてた。


「遅れてすみませんでした」

「楽しかった?」

「はい、それはもう」

「良かったね」


 ヴィーとそんな会話をしながら空いてた椅子に座り、シオ達と対面する。


「改めて紹介しよう。こちらの将軍、バーレムだよ」

「バーレムと申します」

「いちるです」


 むすっとした感じに見えるのは、お堅い人だかららしい。ビンスのおっさんが面白くなさそうに顔を背けてる事から理解した。


「それで、情報の共有をした所、やっぱり南方と北方から同時に攻撃される事が想定される。だから、こちらはこれを迎撃したいんだ」

「殿下、お言葉ですがこちらの者達を安易に信用するのはどうかと」

「バーレム、お前も黒き乙女達をこちらに引き入れる事に賛成したじゃないか」

「それは人心の掌握の為です。恐らく南方の兵士達は士気が低いでしょう」

「解っているのなら仲間として認識しろ、バーレム」

「しかし」

「殿下、そちらはまだ話し合いが必要なようですね」

「……すまんな」

「いいえ。そちらの話し合いが終わってからでも宜しいかと。こちらも再度話し合いたいと思います」

「待ってくれ、出て行く事は考えないでくれないか?」

「それも含めて、話し合いを行いますので。では、失礼します」


 立ち上がったヴィーに合わせて立ち上がり、ヴィーとリクト隊長が背を向けて部屋を出て行くまで、ジェイド隊長とオーラン先輩と私の三人はシオ達と対峙し続け。

 悔しそうな顔をしたシオにお辞儀をし、ビンスのおっさんへチラリと視線を走らせてから部屋を出た。まだここは、敵陣の中って事か。


「……そろそろベッドで眠れるかと思ってたんですけどねえ」

「頭が固い奴ってのは何処にでもいるもんだ」

「まあ、返り咲きたいみたいですからねえ、あの人」


 過去の栄光にしがみ付くのは勝手だけど、戦いの中で和を乱すなら一緒には戦えないし。


「そんなに良い暮らしを送ってたのかねえ?」

「心が貧しい奴は、解りやすい富みにしがみ付くんだそうです」

「……いちるが何か偉そうな事言うなよ、おい、雨が降るんじゃねえか?」

「失礼なっ!今のは大公殿下の至言ですよっ!」

「ああ……、なら最初からそう言え。驚くだろうが」


 オーラン先輩とそんな事を言い合いながら歩いていたんだけど。


「ジェイド隊長?」

「ん?ああ、悪い」

「……城巡りでもしてみますか?」


 何となく周りと見回すジェイド隊長にそう言うと、時間が出来たらそうすると笑って言われた。まあ確かにジェイド隊長からしたら、色々と感慨深いもんがあるんだろうなあって思うんだけど。


「じゃあ、ちゃっちゃと話し合いを済ませますか」

「だな」


 そうして、あの移動陣が描かれていた庭に出ると、そこで皆が待っていてくれた。


「いいですね、ここ。盗み聞きをするような奴が傍にいると解りやすい」

「何も無いからね」


 そうして笑い合った後、今後の事を話し合う。

 まず問題だった難民の受け入れ先が決定したし、ユト達も受け入れてくれるならってんで、住み付く事にしたらしい。


「身軽になりましたね?」

「そうだねえ。このまま帝国に関わらずにいなくなっても問題ないね」

「ですよね?じゃあ火山行きましょう、火山!竜に逢いたいですっ!」

「うん、いちるはそうだろうなと思ってたよ」

「当然ですっ!」


 ヴィーがクスクスと笑いながら私の肩を抱き、皆の顔を見回した。


「帝国の地図と言うか、まあ何となく地形は把握したから次に行ってもいいな」

「俺は賛成です。ここにいると黒騎士になる前の事を思い出してしまう」


 リクト隊長がしぶーい顔をしてそう言うと、ギルニット隊長がこくりと頷いた。


「元々、目的がある訳じゃねえし」

「うん、そうだな。帝国が落ち着いてから改めても良いと思う」


 そして、ジェイド隊長に視線が集まった。


「……俺は、もう少し見て行きたいとも思うけど、確かに今の状態で長居する事は得策ではないと思っています」

「ジェイド、元々西方に住んでいる人達と会った方が良いかもしれないね」

「ああそっか、そうですよね。別にここにいなきゃいけないって事は無いんでしたね」

「ジェイド、この城から出て街を探してみるか?」

「……いいでしょうか?」

「勿論。なら行こうか」

「はい」


 私達が集まっていたせいか、集まって来ていたリドルに跨り。

 崩れている壁から城の外へと視線を走らせていると、後ろから必死に私達を呼ぶ声が聞こえて来て。


「面倒そうですね?」

「行こう。今なら気付かなかったで通せる」

「はい」


 こくりと頷き合い、リドルの腹を蹴って駆け出した。

 何も無い砂利道が続いている所を駆け続け、草原に出てから更に西へと走って行く。

 城から見えた街は、もっと西の方向にあったのだ。


「見た目ジェイド隊長がいっぱい何ですかねえ?」

「そうかもな」

「西方の特徴だそうだ」

「ああ、そんな話しも聞きましたよ」


 その日は久し振りに黒騎士だけで野営をし、再びジェイド隊長の謎料理が振る舞われた。


「おええええ」

「なんじゃこりゃあああ」

「……ジェイド、素材は食べ合わせも考えないと駄目だ」


 オーラン先輩と私とギルニット隊長がそんな事を言っている時、リクト隊長とヴィーは涼しい顔で笑ってた。あの二人、飲んだ振りだけしやがったよ、ちくしょう。


「おかしいなあ?」

「おかしくねえですよ、今度は何入れたんですかっ!」

「熟れた木の実だろ?齧ったら甘かった葉っぱと、香りが良かった木の枝を入れて香りを付けたんだ」

「……この固形物は」

「ああ、それはポケットに入ってた乾肉だ」


 あー……。

 ひでえもん食ったわ。


「その乾肉と水だけで良かったのに」

「それじゃあいつもと同じになるじゃないか」

「それでいいですよ。もう他の物入れないで下さい」

「ジェイド、俺もそう思う」

「うむ。何か入れるのならば、相談してくれ」


 ギルニット隊長が真面目な顔でそう言うと、ジェイド隊長は「今後はそうする」と言いながら、謎スープを捨てた。

 やれやれ、これで謎スープを飲まなくても済むか。


 いつもの黒騎士スープの方がずっとマシだぜ。

 

 口の中に残る甘くて苦くて清涼剤のような香りを吐き出す為に、唾を何度か吐き出し、何度も水を飲んだってのに全然臭いが取れない。


「あー。何か口の中がとんでもない事になってるんですが」

「俺もだ。あー、駄目だ、水汲みに行って来るわ」

「あ、一緒に行きます。ギルニット隊長は?」

「共に行く」


 三人で川へと向かい、何度も口の中を濯いでやっと臭いが取れた。

 で、三人で顔を見合わせて気が付いたんだけど。


「何でジェイドがいねえんだ?」

「…………野郎」


 そして、戻ってすぐに私とオーラン先輩がジェイド隊長と対峙する。

 

「なんだ」

「テメエ、何で自分で作ったもん食ってねえんだよ」

「……変な臭いがしてたからな」

「野郎っ」


 オーラン先輩と同時に私もジェイド隊長に殴り掛かり、そして避けられながらも攻撃を繰り返していると、私の右足が脇腹に入り、オーラン先輩の拳が顎に入った。


「おおおおおおおっ!?」

「おし」

「なるほど、オーランといちるは二人でジェイド一人分だね」

「ええっ!?」

「セットにしないで下さいよ」

「そうですよっ!何でオーラン先輩とっ!?」

「俺だってテメエと組みたかねえんだよっ!」


 はいはい、どうどうとギルニット隊長に宥められ、そして笑われながら眠りに付いた。



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