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第七話 第八皇子とむさいおっさん

「おお、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 ギルニット隊長とオーラン先輩が戻って来たのは、十一皇子の所に難民を連れて行った二日後の事だった。西方に行っていた二人は、客人を二人連れて来ていて訝しむ私の頭を、ギルニット隊長が軽く叩く。


「家の大将の所に案内してくれ」

「……どなたです?」

「帝国第八皇子殿下だ」


 へえ……。

 第七皇子とは似ても似つかないその顔を眺めてしまったら、第八皇子も私をじっと見つめてた。


「やっだ、一目惚れとか勘弁なんですけど」


 あまりにもじっと見て来るのでそう言うと、一瞬で顔を赤らめ「すまなかった」と謝られたけど。もう一人がこっそりと溜息を吐いているのを見て、何となく口元が緩む。


「案内しましょう」

「……頼む」


 これは面白い事が起きそうな予感!と、少しワクワクしながらヴィーのとここに案内した。リクト隊長が隣にいて、無関心を装いつつも観察しまくってるのが笑える。


「帝国第八皇子殿下だそうです」

「……ハーシオと言う。貴方達の事は噂で聞いていた」

「何を、でしょうか、殿下」


 仮面を付けたヴィーは、にっこりと笑いながら聞き返す。


「民を救ってくれていると。ありがとう」


 そう言って笑み返した第八皇子に、ヴィーはクツリと笑った。


「それで?」

「……良ければ、このまま西方に来ないかと誘いに来たのだ」

「西方に?」

「ああ。食料に困っていると聞いた。幸い、西方は全員を迎え入れる準備がある」


 仮面の奥で値踏みするように目を眇め、じっと第八皇子を見つめるヴィー。

 王子モード、久々に見ましたけどやっぱり格好良いなあ。思わず惚れ直すぜと思いながら眺めていたら、リクト隊長に睨まれていたので慌てて視線を外す。


「全員を、ですか」

「勿論、貴方方を含めて、だ」

「……利用なさるおつもりで?」

「当然」

 

 おっと、正直に即答しやがったよ。

 隣に立ってた第八皇子の側近が慌てて肘で突いたけどもう遅い。


「あー、俺実を言うとずっと庶民街で育ったから苦手なんだよ、こういうの」

「で、殿下っ!」

「クラヴィス、信用して貰いたいんだよ、俺は」

「しかしですね、礼を失してしまっては」

「なあ、困ってんだろ?全員引き受けるから来てくれねえかな?」

「……困っているのはお互いに、のようですね?」

「まあな。正直、第七皇子を潰したあんたらがこっちに着いてくれるならありがたい」

「良くご存知ですね?」

「この時勢だ、情報は最新の物が入るようにしている」


 ニヤリと笑いながら言う第八皇子に、側近が顔色を悪くしてあたふたしてるけど。

 うん、解りやすくて良い。


「だから一つ情報を渡そう。第二皇子があんたらを標的にしている」

「……十一皇子を抱き込みましたか」

「おっと、やっぱ話しが早いな。西方に入らせねえようにするようだな」

「同時に北方から西方に攻め入ると言う事かな?」


 ヴィーの言葉に第八皇子が目を丸くした。


「すげえな。何もんだよ」

「殿下っ!」

「やっぱ俺、アンタらが欲しいわ。来てくれるなら難民を直ぐに移動させる準備は整えてあるんだ」

「どうやって?」

「こっちに帝国の魔術師がいてな。そいつが移動陣の準備をしてくれたんだ」

「移動陣?」

「んー、地面に陣を書いて、そこに乗れば拠点に移動できる」

「……出た途端に殺されたり?」

「しねえよ。そんな事するなら最初から誘いに来ねえだろ」


 そう言って快活そうに笑った第八皇子に、ヴィーがクスリと笑った。

 そして、面を外せば第八皇子と側近が目を丸くして見つめ。


「うわ……、俺負けたわ、クラヴィス」

「上には上がいるものですねえ」

「なあ?やっぱ直接来てよかったぜ」


 そんなやり取りの後。

 

「エルトと言います。よろしくお願いします、殿下」

「シオでいい。さっきも言ったが、俺は庶民街で育ったから殿下って言われるのは慣れてねえんだ」


 握手を交わした後、移動するなら直ぐにって事で、シオとクラヴィスさんが一度離れた後、待機させていたらしい仲間を連れて戻って来た。


「コイツがさっき言った魔術師で、エラムの爺さん」

「爺さんは余計じゃっ!」

「なんでだよ、俺が小さい頃から爺さんの癖に」

「まだまだ現役じゃぞいっ!」

「って感じで、元気なジジイだ。怪しいけど怪しくねえからな」


 移動の陣は既に描き終えているらしく、そこまで移動する事になり、ユト達が人数を確認した後出発する。


「いちる、移動の陣だって」

「凄いですよね、テレポートですよ」

「出来なかったもんね?」

「ですね。悔しいですねえ」

「教えて貰えば出来るようになるかな?」

「なりたいなあ。でも、全力で阻止して来そうな人がいるんですよねえ」

「まあ、それは当然だよねえ」

「おかしいですよねえ」


 クスクスと笑うヴィーの向こうから、リクト隊長とオーラン先輩が睨んでたけど気にしない。使えれば便利だろうけど、使えないって事はたぶん、使っちゃいけないって事だろうって思ってたんだけど。


 そして、辿り着いた所は森を抜けた所にあった野原。

 そこに、大きな魔方陣が描かれていて、既に光っていた。周囲を見張る為なのか、武装した奴らがいて剣柄に手を当てつつ近付く。


「見張りご苦労さん」

「どうやら上手く交渉出来たみてえだな?」

「だから俺に任せろって言っただろ?」


 軽口を叩き合うのを眺めながら、光っている魔方陣をじっと見つめてた。

 何が描いてあるのかさっぱり解んないなあ。


「解読できそう?」

「無理ですね」

「そう。残念」

「です」


 ヴィーとそんなやり取りを交わしていると、シオと髭面で強面の男がやって来る。

 剣柄に手を当てたまま待っていると、近寄って来た強面がにかっと笑った。


「アンタが黒き乙女か。会えて嬉しいよ」


 そう言ったおっさんに思わず目を丸くする。


「俺はビンスと言う。傭兵やってんだが、シオとは昔から知り合いでな」

「…………え、いや、待って待って。黒き乙女って、なに?」

「あれ?アンタが黒き乙女じゃねえのか?」

「いやいや、いやいやいや。何それ、初めて聞いたんだけど?」

「ん?」


 思わずおっさんと同時に首を傾げ、何度か瞬きを繰り返し。


「まあいいや、ビンスだ、よろしくな?」

「いちるです、よろしく」


 取り敢えず流す事にして挨拶を交わし。

 誰が最初に魔方陣に乗るかって事で、リクト隊長とヴィーと私、そこにシオとクラヴィスさんとビンスさんが乗る事になった。エラムさんは最後に魔方陣を消してから移動して来るとやらで、他の強面と一緒に残ると言う。


「じゃあ行くぞ」


 シオの言葉にこくりと頷いて魔方陣の中央に立てば、胃袋をぎゅっと掴まれた感覚に吐きそうになりつつ、一瞬で景色が変わった事に感動する。


「おー、すげえな、これ」

「ようこそ、我が城へ」


 辿り着いたのは壁に囲まれた庭。

 と言っても、手入れされてる訳じゃなく割と荒れてる庭だった。崩れかけた壁と、崩れかけた城を見ながら思わず眉を顰めれば、クラヴィスさんが説明してくれる。


「この城は、昔リーラルーラと言う国の城だったんです」

「へえ……」

「リグラリア城と言って廃城になっていたのですが、西方の民達が出来る範囲で手入れはしていたようで」


 その説明を聞きながら、移動陣から離れつつ全員が移動してくるまで待つ事にした。

 城の中に入るよう言われたけど、無事に移動が済むまではと言って庭で待機させて貰う事にすると、女性達がやって来てお茶やらお菓子やらが出され。


「遠慮なく食べると良い」

「……そりゃどうも」


 毒消しの魔法を掛けてからリクト隊長とヴィーにも勧め、温かいお茶を飲みつつお菓子を頬張った。次々に魔方陣が光るのと同時に送られてくる避難民達が、着いたと同時に目を丸くし、私達の姿を確認してほっと溜息を吐き出していた。

 小分けにされた人達は、ユト達がちゃんと付き添い、必ず人数の確認をしていた事に安堵しつつ、避難民が全員出て来た後、リドル達と一緒に先輩達がやって来た。


 リドルも不安だったらしく、姿を確認した途端やって来て額を擦り付けて来るのが可愛い。もっさもっさの鬣を撫でつつ、リドルの為の小屋は在るかと問えば今建てている最中だと言う。


「自分達で賄ってんのか?」

「まあな。畑を耕す事もある」

「殿下がか?」


 そう聞くと、シオは笑いながらそうだと頷いた。


「コーブやルルガーも育てているからな」

「……それは食材?」

「そうだ」


 知らない名前だけど、取り敢えず美味い食材のようだと思いつつ、リドルは庭に放しておけば良いと言うのでそうさせて貰った。


「さて。取り敢えずそちらの話しを聞きたいのだが」


 全員が揃ったところで改めてシオがそう言い、ヴィーが頷き。

 案内しようと言ってシオとクラヴィスさんが歩き出すその後を着いて行く。


「なあいちる」

「なんですか」

「お前腹減ってるか?」

「当然」

「よし、こっち来い」


 ニカッと笑ったビンスのおっさんに、ニカッと笑い返し。

 そして一緒にこっそりと離れて走り出す。


「おっさん、手馴れてんな?」

「お前もな」


 笑い合いつつ城の廊下を抜けて行き、おっさんに案内されたのはどうやら食堂らしい。大勢の強面な奴らが出迎えてくれて「むさいな」と呟けば、ビンスのおっさんががははと笑いながら背中を叩き。

 そして、たらふく食べさせて貰ったのであった。




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