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第六話 近衛と殿下とアイドルと

「待って下さいっ!この人は、敵ではありませんっ!」

「何だお前はっ!」

「除け、邪魔だ」

「貴様、殿下を何処へ連れ去ったのだっ!」


 おっと、やっぱ兵士はパシリ扱いなのか。まあしょうがねえか。


「道案内御苦労」

「お、おい」

「さて。やろうか」


 抜剣してぐるりと剣を回して挑発し。


「貴様っ、」

「悪いが急いでるんだ。来ねえならこっちから行く」


 そして、最初から双剣で斬り付けて行って次々に捻じ伏せてやった。

 プライドの問題なのか、ガックリと膝を付いて動けない間に、私達はさっさと食料を集めて荷車に乗せ、ついでに布や服も積み込んで出立する。


「ま、待て!殿下は、殿下はどちらにいらっしゃるのだっ!」

「今十一皇子の所で食料を分けてくれるよう言ってくれてるはずだ」

「十一皇子?」

「避難民を助ける為に動いてんのさ。気になるならお前らも来い」


 そして、その後はずっと無言のままひたすら野営地を目指した。後ろから近衛のリドルの足音が聞こえて来たけど、まあ、そうだろうと思ってたからそのまま駆け続けた。

 何とか夕食を作っている最中に届ける事が出来たお蔭で、少なくはあるけど全員に食事が行き渡る。良かった良かったと胸を撫で下ろした所に殿下達が戻って来て、十一皇子が避難民の受け入れを承諾したと言う返事と、大量の食料を運んで来てくれたのであった。


「いやあ、助かりましたねえ」

「そうだな」


 夕食の後、子供に布や服を配り、そのまま夜を越してから十一皇子の所へと移動を始めた。


「殿下、第二皇子が直接出張って来る事は無い?」

「……このまま吾が戻らなければ出て来るであろうな」

「十一皇子は第二皇子に着いたりしねえの?」

「帝都の西に、大きな湖があるのだ。十一皇子がいる所はこの湖の南になる。そして、十三皇子が湖の北になるな」

「うんうん」

「兄上が必要なのは、この湖から東側なのだ」

「なんで?」

「湖から西側は、常に帝国に対して反抗的でな。これを抑える為に南方と北方を塞いだ」

「反抗的ねえ……」

「昔、と言ってももう三百年も前の話しだが。湖の西方にはリーラルーラと言う国があった。その国の者達は今でも帝国の西方に息づいているのだ」

「……なるほどね」

「どうも、当時の王族が逃げたらしく、それが戻って来るのを待っているのだと聞いた事がある」


 すげえ忠誠心だなあ。

 何世代に渡って待ってんだろう?まあ、そんな人ばっかりじゃないだろうけどでも、このデカい国で東と西に別れてる感じがしたのは、そう言う訳か。


「だから、帝国はずっとこの湖の東方を豊かにして来た」

「だろうな。だからこそ西方との溝が埋まらねえんだろうけど」

「仕方あるまい。何をしても反抗的な民より、喜ぶ民の方がいいだろう」

「まあなあ」


 荷車の中でそんな会話をしつつ、側近のジーリオさんを窺えば彼はずっと無言を貫いている所であった。


「なあ殿下。十一皇子の所に着いたらさ、近衛達引き連れて一旦帝都に戻った方が良い」

「なに、を」

「ジーリオさん、殿下にとって大事な人だろ。なら、大事な人の大事な人も守らなきゃ駄目だ」

「い、いえ、私の家族は覚悟しておりますから」

「そうしよう」

「殿下っ!?いけません、敗走となればいくら殿下でも」

「良い。吾はもう兄上の言いなりに動く事は止める」

「しかしそれは」

「勿論、ジーリオの家族を救った後でな。帝都を脱出させ、十一皇子の元へ身を寄せさせろ。話しを通しておく」


 おやおや、第七皇子はどうやら随分とマシな男だったみたいだなあ。


「何か、変わり過ぎじゃねえの?」

「……そうか?それなら嬉しいのだがな」

「第二皇子ってのが随分強烈なんだなって理解出来るからいいけど」


 所謂『洗脳状態』だったのかもなあ。


「あれだけ殴り飛ばされたのは初めてだ」

「まあ、普通は殿下に向かって殴り掛かるとか有り得ないだろ」

「お前、躊躇いもせずに殴ったくせに」

「当たり前だろ。その前に何を言ったか思い出せや」


 そして、考え込んで思い出したらしい殿下は、素直に「すまなかった」と謝った。

 何か、殿下のキャラが変わり過ぎて逆に怖いわ。


「お?」

「なんだ、何事だ?」


 止まった荷車の中で焦る殿下に、たぶん休憩だと告げた。

 

「休憩?」

「あのな、怪我人もいればご老体もいるし、女も子供もいるんだ。兵士のように鍛えているなら別だけど、一般人は早々簡単に移動なんて出来ない」

「そう、なのか」

「そうだ」


 最初、殿下が荷車に乗るのを物凄い顔で渋っていた近衛達が、休憩で止まった途端顔を出してご機嫌伺いをしてくる。この行動を見るに、元々第七皇子ってのはマシな方だったんじゃないかと思うんだよねえ。

 まあでも、自国民を容赦なく殺して来た奴だって事実は変わらねえんだけど。


「……お前、名は何と言う?」


 近衛が持って来た水を飲んだ殿下が聞いて来る。


「殿下、名を知ってどうする」

「呼ぶのに不便だろう?」

「……一応、敵対してるんだけどな。名を知ってしまったら、剣を向けづらくなるぞ?」


 そう言うと、殿下は私をじっと見て考え込んでしまう。

 正直に言うと、この国が整った時、殿下は処刑対象じゃねえのかなって思うんだよ。

 けど、それはこの国の奴らが決める事だから口出ししちゃいけないって解ってるからさ、本当を言うと、ここまで関わりたくねえんだよねえ。

 人と(なり)を知ってしまったらさ、止めたくなるから。


「確かに、その通りであったな」

「まあ、な」


 残虐に殺して来た奴の一面に触れただけだ。

 そして、その後は無言のまま荷車に揺られ続け、休憩を何度も挟みながらも十一皇子の所に辿り着いた。


「じゃあな、殿下」


 そして、荷車から飛び出してリクト隊長が連れて来てくれたリドルに跨り、あっと言う間にその場から姿を消した。

 こういう時のお決まりパターンで、十一皇子は軍を連れてたからねえ。

 攻撃される前に逃げたって奴です。


 難民の内、十一皇子の所に移住を希望する人を募って連れて来たからね。

 まあ、後は殿下が何とかするだろう。


「危ねえ危ねえ」

「いいねえ、この国」

「楽しそうですねえ、リクト隊長は」


 残っている難民達は既に移動を開始しているだろうし、後は合流するだけだ。


「まあ、解りやすくていいですけどね」


 前線にいた兵士達は、こっち側に着く事が決定して一緒に移動しているはずだ。

 また数が増えたけど今度は、動ける男が増えたもんで随分助かってる。争いも減ったし、移動を助ける男手が増えたし、食料や水を運んで来るのに人手を割けるようにもなった。

 けどやっぱり、相変わらず食料が足りない。


「はあ……。美味いもん腹いっぱい食べたいですよ」

「確かに、そろそろ食べたいねえ」

「お?リクト隊長がそんな事言うとは。ちょっと驚きですよ」

「まあね、ずっと食べられない状態が続くとイライラするよね」

「うおお、近寄りたくねええっ!」


 慌ててリドルの腹を蹴って駆けさせ、即逃げた。

 もう、不機嫌なリクト隊長の傍にいるだけで死ぬ気がするからやだよ。


「やだなあいちるは。こうしてわざわざ一緒に来て上げたのに」

「それはヴィーの命令だからでしょ、私の心配なんて髪の毛程もしてないって知ってますから!」

「命があればいいみたいだよね?」

「いいいいやあああああっ!殺られるっ、命狩られそうですうううっ!」


 そして、リドルと一緒に命の危機に怯えながら必死に逃げ、やっと合流出来た時には泣いて喜んだ。ヴィーに抱き付いた瞬間、背後から舌打ちが聞こえたけどまあ、逃げ切れたことを良しとしますよ、ええ。


「ふふ、またリクトに遊ばれたんだ」

「弄ばれて捨てられました」

「酷い男だねえ、リクトは」

「やだなあ、捨てる時はもっとボロ雑巾のようにしてますよ」

「うわあ、ドン引き発言頂きました」

「いつものリクトだね」


 うん、どうやら私を使ってストレス発散してるみたいだからいいけどね。いいけどその度に命の危機を覚えるので、こう頻繁にあると身が持たないよね。


 こっち側に寝返ったあの前線の兵士達は、元々孤児の兵士達だそうで、帝国には未練としがらみが無いそうです。なので、心置きなく寝返ったそうで。


「ユト、お疲れ」

「おう、無事に戻れたようだな」

「まあねえ、戻ってる最中に命の危機に怯えたけどねえ」

「大丈夫かよ、やっぱ待ち構えてたんだな」

「いや、弄ばれて捨てられただけだよ」

「え?」

「ああいや、何でもない。それより、グループ分けしたんだって?」

「ああ。その方が人数の確認とか食事とか解りやすくなるからな」

「だね、良かったよ、ユト達が来てくれてさあ」


 避難民の数は千人越えから六百二十七人にまで減った。

 ユト達前線にいた兵士達が二百十三人、まあ合わせると千人近いけどでも、働き手が二百十三人増えたのはありがたい。

 食料を奪い合っていたあの争いは、今じゃ完全に無くなったし。


「やっぱ食料が一番の問題だなあ」

「まあなあ」


 相変わらず、少ない食料を懸命にやり繰りしては全員に行き渡るよう頑張ってくれているおばちゃん達を労いに行けば、どうも前線兵士達の中でおばちゃん達のアイドルがいるらしい。可愛い子だと言っていたので、ユトにお願いして会いに行った。


「コイツがルーイだ」

「よろしくお願いしますっ」

「…………え、いくつ?」

「十三です!」


 若い、若いよっ!


「あー、うん、確かに可愛いわ」

「や、止めて下さいよ、僕、これでも頑張ってるんです」


 そう言いながら頬を赤くする辺りがさらに可愛い。

 うん、確かにアイドルになるわ、これ。


「なるほどねえ。癒しも必要だよ、うんうん」

「ルーイ、大丈夫だ、お前は凄く頑張ってる」

「これからも頑張ってくれ」

「はいっ!」


 うおお、眩しいぜ。

 

「いいねえ、若さって奴はさあ」

「……お前も若いだろ?」

「いや、私の場合はちょっと若作りし過ぎてるだけなんだよね」


 ユトは眉間に皺を寄せて私を見て来たけど、まあ、百歳超えてるとは言えないしね。


「さて。食料確保に行って来るか」

「お前、休んだ方が良いんじゃねえの?」

「ははは、ユトは優しいねえ」


 そんな事を言いながらユトと別れてヴィーの所に戻り、残りの食料は大体五日分ぐらいだって事で、食糧調達に動き出した。

 




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