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第五話 怒気と変化と熱烈歓迎

「想定外過ぎるねえ」

「第二皇子がラスボスですかね」

「らすぼす?」

「最後の相手って感じです」

「ふうん。じゃあそれは俺達の仕事じゃないね」

「ああ、やっぱりそう言う認識なんですね」

「当然だろう?俺達が決めたのはさ、大砲の破壊と北進させないようにする事だけだ。継承争いを止める事はしないけど、非戦闘員の救助は優先する」

「そうですけど」

「ついでに言っておくけどさ、いちる」

「はい」

「俺はね、この国がボロボロになるならそれでいいと思ってるよ」

「……確かに、そこまで面倒は見られないって解ってますよ」

「違うよ、ボロボロになってくれれば、当分北進する余裕がなくなるだろう?」

「ああ……、そう言う認識ですか」

「まあね。自分で手を下す程ではないけど、勝手に自滅して行くのならそうなって欲しいぐらいだよ」

「自滅、ですか」

「ああ。あんな兵器を造り出す国だからね、何考えてんだか」


 リクト隊長のその考え方は、理解出来なくもない。


「けど、この国の大半の人達は関わってないって事も、忘れないで下さいね?」

「莫迦だないちるは。だから非戦闘員の救助を行ってるんじゃないか。面倒なのに」

「……ですね、スミマセンでした」


 そうだったよ、確かにその通りだよ。

 ヴィー至上主義者のリクト隊長が、せっせと避難民達に食料を運んでいる事自体が有り得ない事だったよなあ。


「いいけどね、別に」


 うお、何かストレス溜まってんな、リクト隊長。

 ヤベエよ。


「ところで、第七皇子の近衛達放置して来ちゃったんですけど、良かったですかね?」

「近衛?なら勝手に戻るんじゃないか?」

「こっちに来ませんかね?」

「聞いた限りじゃ、そこまで忠誠心は無さそうだけど」


 ああ……、確かにそうかも。


「皇子なのに大変だねえ」

「数が多いのも考え物ですよねえ」

「そうだね、そう思うよ」


 そんな事を言いながら、避難民達がいる森の中へと辿り着く。

 そして聞こえる、争う声。ったく、アイツら。


「またか」

「またですねえ」


 やっぱり、食料が少ないってのは、いらない争いを産みやすい。


「いちる、やれ」

「はいはい」


 言い争っている奴らの上から、大量の水を落としてやれば呆気に取られた後、今度はこっちに向かって来る奴らに、これでもかってぐらいに水を掛け捲る。


「テ、メエ、ふざけんなっ!」

「テメエこそふざけてんじゃねえぞコラ。どうやら力が有り余ってるようだなあ?」

「森の中に入って木の実でも摘んで来なよ」

「冗談じゃねえ、木の実じゃ腹は膨れねえんだよっ!」

「なら木の皮でも剥いで来ればいい。葉っぱを齧ればいい、土でも舐めてろ」

「この野郎、何言ってやが」

「ストップストップッ!おっさん、生きていたいなら止めろっ!」

「ああっ!?」

「いちる、止めるなよ」

「いやいやいや、駄目ですよ、折角助けたんだから」

「そんな価値無かった」

「リクト隊長、お願いします、考えなお」


 おっさん、私がおっさんの代わりに命乞いしてるってのに、空気読めよ、本当にっ!

 

「何勝手に決めてんだよテメエら。ああ?舐めてんのかコラ」

「ふっ、いちるは莫迦だねえ」

「……認めますけど、でもやっぱりせめて助けた分は働いてもらってからにしましょうよ」

「黙れっ!さっきからごちゃごちゃとっ!」


 おっさんは私の首を掴んで揺さぶりながら、リクト隊長にそう怒鳴り。

 ああ、助けられなくてごめんと思いながら、遠慮なく私ごと投げ飛ばしてくれたリクト隊長に、「せめて躊躇えよおおおっ!」と叫びながら空を飛んだ。

 落ちて来るおっさんを待ち構え、更に空へ蹴り上げ、再び落ちて来るおっさんを待ち構えて殴り上げ。それを五度は繰り返しただろうか。

 地面に落ちたおっさんは痛みに呻いた所でリクト隊長に遠慮なく顔を踏み付けられた。


「それで?まだ何か言うつもりかな?」

「……い、いてえよ」


 ミシッと、おっさんの頭蓋骨が鳴った音が聞こえた気がした。


「おっさん、マジで踏み殺されたくなきゃもう黙れ」

「な、なんだっ、いてえ、いてえよおおおおおおっ!」

「なんだ、まだ元気じゃないか。いちる、コイツに雷撃」

「え……」

「早く」

「は、はいいっ!」


 バタバタと暴れる足、何とかリクト隊長の足を避けようとする両手を物ともせず、ただ無表情でおっさんの顔を踏み続けるリクト隊長が怖い。

 私はまだ死ぬ訳に行かねえ。


「ごめんね?『雷撃』」


 そして、おっさんにビリビリっと痺れて貰い。

 気を失ったおっさんの首根っこを掴んだリクト隊長は、おっさんを引き摺りながら森の中へと消えて行った。それを黙って見送った私は、おっさんに絡まれていた人の怪我を見に行き、殴られて口の中が切れてるのを見て、回復術を掛けて上げる。


「動いちゃ駄目だからな?大丈夫、すぐに治るから」


 こくりと頷いたその人を周囲の人に任せつつ事情を聞き出せば、あのおっさん、どうやら皆を守る代わりに食料寄越せってやってたらしくて。

 そんな奴に武器渡しちゃったよなあと、反省する。


 まあ、最初っから同じ問題出っ放しだけどさ、さっきのリクト隊長を見せ付けたから後二、三日は大人しくしてんだろう。

 そして、森の中から一人で戻ったリクト隊長がやけにご機嫌な事も、皆解ってて口にしない。


「さてと。他にもいないかなあ?腹が減って人の食べ物奪う奴」


 そう言いながら周囲を見回したリクト隊長から、皆が視線を外して行くのをやれやれと、溜息を吐き出しながら眺めてしまった。

 参ったなあ、問題山積みじゃねえか。


「残念だなあ。もういないみたいだねえ、いちる?」

「そりゃあんなおバカちゃんは少数派ですから」

「そうかなあ?考えてみたら最初の頃から同じ事繰り返してる気がするんだけどねえ?」

「おっと、さすがリクト隊長ですねえ、記憶力良いですねえ」

「まあねえ。ああ、良い事思い付いたよ、今度から騒いだ奴は放りだせばいいね」

「それもありですけど、でもほら、そう言う奴でもなるべく扱き使う方向で行きましょうよ。徒党を組んで襲って来たりしたらさらに面倒ですし」

「そうなったら楽でいいのに」

「お願いしますよ、リクト隊長。ここには戦えない人の方が多いんですから」


 すげえ機嫌悪いって言うか、悪過ぎだろ。一体全体何があったんだよ。


「……いちる、教えておいてやるよ。ここにいる奴らはね、助けて貰っている事をすっかり忘れるのが得意なんだ」

「え?」


 リクト隊長の言葉と、この不機嫌さを合わせて考え、嫌な想像したんですが。


「……なるほど。ヴィーに攻撃したって事ですか」

「良く解ったね。偉い偉い」


 あー、そりゃリクト隊長不機嫌にもなるわ。

 もうこれは、何言っても無駄だわ。


「良く皆殺しにしませんでしたね?」

「ははは、今すぐにでもそうしたいんだけどねえ」

「そうでしょうね」


 はあ、やれやれ。


「それでヴィーから離れたんですねえ」

「まあねえ。ちょっと、まだ抑えられないんだ」

「そのようで。相手になりますか?」

「ははは、それじゃ弱い者イジメにしかならないよ」

「そうですけど。そんでもあっちの人よりは持ちますけど?」


 仕方ねえなと思いながら申し出てみれば、リクト隊長は真顔になって私をじいっと見下ろして来て鼻で笑った。


「……これ以上怒らせたくないから止めておくよ」

「そうですか」

「あー、なんでいちるなのかなあ?」

「やだなあ、私が良い女だからに決まってるじゃないですか」

「おっと、今凄く殴りたくなったよ」

「良い女だって気付けなかった自分をですか?」

「ははは、笑える、最高」


 無表情かつ棒読みでそう言ったリクト隊長は、長い長い溜息を吐き出した。


「ま、冗談はこれぐらいにして。いちる、早く食料の確認に行って来なよ」

「はあい」


 元々の目的である食料の確認に向かった私は、相変わらずなおばちゃん達と会話をしながら、やっぱり残り僅かな食料を見て顔を顰めた。


「今日の夜で精一杯ですね」

「いちる達が運んで来たのもあったのに?」

「その分、人数増えましたし」


 兵士達が横流しにしてくれた食料は、確かに大量にあったけどもさ。

 今難民は千人規模になってるんだよねえ。そこに二百の兵が増えたまではいいけど、いっくら沢山の兵糧が手に入ったってさすがに足りないわ。


「帝都に盗みに入れればそれが一番なんですがねえ」


 そんな事を話しながらヴィーの所に戻れば、第七皇子とヴィーは何故か和気藹々と話しをしていたようで、すっかり仲良くなってた。


「あれ、仲良くなれましたか」

「まあね。どうだった?」

「食料が底を尽きます。早急に、出来れば今すぐに確保しなきゃ夕食無しです」

「……困ったね」

「提案だが、ここからなら十一皇子の所の食料を分けて貰ったらどうだ?」

「素直に分けてくれるかな?」

「吾が交渉しても良い」


 いや、アンタら争い合ってんじゃん。

 思わず眉間に皺を寄せつつ、じっと見つめてしまったけれど。


「駄目元で行ってみます?」

「……うん、そうだね。出来れば、避難民の半分を受け入れて欲しいとも」

「了承した。誰が共に来るのだ?」

「俺が行きます」

「うん、そうだね、ジェイドが良いかな」


 そして、食料を手に入れる為に殿下がいた野営地まで一度戻る事にして、あの前線にいた兵士達に声を掛けてみた。


「なら俺が行く」

「いいの?」

「ああ。荷車を動かさないと駄目だろう?」

「そうなんだけどさ。あそこには近衛がいるよ?」

「大丈夫だ。それに、お前一人で行くつもりだろう?」

「まあ、こっちの人手を割きたくねえからなあ」

「一緒に行ってやるよ。荷物持ちとして連れて行け」

「いちる、そうして貰おう」

「わ、かりました。よし、ならすぐ出ようか」

「ああ。夕食の用意をする前に持って来ないと間に合わねえからな」


 そして、殿下達は直ぐに十一皇子の元へ急ぎ、私はあの野営地に急いで戻った。


「つうかこの国に入ってからずっと、食料を求めて彷徨ってんぞ。何だこの国はよおっ」

「ははは、間が悪い時に来ちまったなあ、お前」

「ったく、ふざけんなっつうの」


 そう文句を言いながらリドルを駆けさせ、野営地に辿り着いた時には近衛達が帰り支度をしていたんだけれど、私を見て抜剣した。

 ちっ、まだ武器もってやがったのかと思いつつ、熱烈歓迎についニヤリと笑ってしまった。




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