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第四話 股間と傀儡と無職

 股間を見ながら話しをするのは萎えると言うジェイド隊長の為に、仕方なく転がってしまった荷物を漁って布を取り出し、それを頭から掛けてやる。文句を言うのでこれまた仕方なく連続で水を掛けてやった後、周囲を氷壁で囲んでやると必死に謝って来たので、正直に答えれば魔法を解いてやると言っておく。

 糞野郎と側近は、震えながらこくこくと頷いたので、早速ジェイド隊長が話し掛け。


「じゃあ、帝都に行けばいいのか?」

「そうだ。吾は第二皇子の傀儡に過ぎんのだ」

「第二皇子ねえ」

「ほ、本当だ!吾は言う通りに動いているだけなのである!」

「へえ?そいつが私を襲えって言ったのかなあ?」


 ジロリと睨みながらそう言うと、糞野郎はひいいいっと情けない悲鳴を上げながら悪かった、吾が悪かったと繰り返した。

 側近と抱き合いながらこちらを恐怖の眼差しで見て来る二人に、同情を禁じ得ない。

 

「一旦戻った方が良さそうですね」

「……戻るのは良いが、あれを連れて行かないと面倒だぞ?」

「どうしましょうかねえ?」


 ジェイド隊長と二人、この後どうするかと話し合った後。


「そういや前線のあの兵士、まだその辺にいませんかね?」

「ああ。捕まえて来る」

「はい、お願いします」


 ジェイド隊長がそう言って駆け出して行くのを見送った後、さて、と振り返ってニヤリと笑えば、糞野郎と側近がさらにぎゅっと抱き合った。


「あのさ、もしかしてそう言う仲だったりすんの?」

「…………え?」

「いや、別に私偏見はねえのよ。だから男同士でも愛し合ってるってんなら別にいいんじゃねえの?って思うタイプだしさ。それで?本当のところどうなん?」


 そう聞いてみると、かなりの至近距離で見つめ合った二人は、慌てて離れた後氷壁にぶつかって、冷たいと騒ぎ、もっと離れろとか無理ですごめんなさいのやり取りを交わし。

 やっとそれが落ち着いてからもう一度話し掛けた。


「聞きたいんだけど、第二皇子ってのはどんな奴なわけ?」


 途端に視線を彷徨わせ、元々良くなかった顔色を更に悪くさせた糞野郎が震えながら口を開く。


「あ、兄上は、その、何と言うか……」


 一度そこまで言った後、一旦口を閉じ、再び開く。


「そう、だな、兄上はとても頭の良い方だ」

「……父親を毒殺するぐらい?」

「なっ、」

「ああ、やっぱりそうなんだ。って事は第一皇子も殺したのか」


 すっかり顔色を失った糞野郎は、ぶるりと震える。


「お前、それを一緒にやったな?」

「ち、違うっ!吾は、ただ……、ただっ、」

「殿下は、騙されたのですっ!あの方に騙されただけなのですっ!」

「殿下って言われる奴が簡単に騙されるとか駄目過ぎんだろ」


 その言葉に、二人が黙り込んでしまった。


「……私が、至らないばかりに」

「うん、その通りだな。じゃなきゃ殿下は殿下でいられねえ」


 一度顔を上げて私へと視線を向けたけど、再び視線を落として俯いてしまう。


「第七皇子、さすが傀儡にされるだけはあんだな」

「……なんだと?」

「ま、どうでもいいか。さて、そろそろ解いてやるよ、魔法」


 そうして氷壁を解き、二人を解放する。

 私が殴った所を手当てしたいと言う側近に頷けば、側近が直ぐに動いて手当てを始めた。

 そうしている間にジェイド隊長とあの兵士達が騒ぎながら戻って来る。


「無事なのか!?」


 そう言いながら近付いて来たあの兵士に苦笑しつつもこくりと頷いて見せ。


「俺、てっきり……」

「お、お前、あれ!」

「え?あっ」


 今更口を閉じても遅いって。

 思わず苦笑しながらも、糞野郎へと視線を向ければ気まずそうな顔をしながらも何も言う事は無かった。


「向こうで話しをしようか」

「あ、ああ、そうだな」


 そして、ジェイド隊長と頷き合った後、私は兵士達を連れてその場から少し離れた。


「な、なあ、殿下怪我してたけど、もしかしてお前」

「んな訳ねえだろ。偉いさんは偉いさんで色々あんだろうよ」

「そ、そうだよな、お前じゃねえよな。なんだ、思わず焦っちまったぜ」


 そんな事を言って来るこの人も、私が殴った痕がまだ残ってるってのに何でこんなにお人好し何だか。これじゃもう、戦えねえじゃねえか。


「そういや、何で俺達を?」

「ああ、一旦仲間と合流したくてさ」

「戻るのか?」

「うん、ちょっと打ち合わせしておきたくてさ」

「ってちょっと待て、お前これ、どういう事だよ!?」

「え、うわ、何これ、気付かなかったんだけど!?」


 そう言って、近衛が全員気絶して転がっているのを見て、再び驚いている面々に、私は全てをすっとぼける事にしたのであった。


「さあ?まあ色々あったんだろ?」

「色々ってなんだよ、まさか敵襲かっ!?」

「いや、けど踏み荒らされた痕が無くねえ?」


 そんな事を言い合っては周囲へ視線を巡らせるのは、さすが前線にいるだけはあるって事だろうか。


「どういう事だ?」

「さあ?私が連れて来られた時には既にこの状況だったよ」


 取り敢えず近衛達の様子を見ていた奴が、気を失ってるだけだと確認して告げて来て、兵士達は何とか落ち着きを取り戻した。


「確かに、この状況なら話し合いが必要になるな」

「まあねえ。でさ、第七糞皇子も一緒に連れて行きたいんだけど、いいかな?」

「お、お前、何言ってんだよ!」

「それ許したら色々駄目だろ、俺達が」

「そうか?でもほら、人質に取られたって言えばいいんじゃねえの?」

「良くねえよ、駄目だろ」

「んー、じゃあ第七糞皇子から命令があれば問題ない?」

「そりゃあ……、まあ、その通りなんだが」


 そして、手当てが終わって散らばった荷物から必死に掻き集めたらしい服を身に付けた第七糞皇子と再び話し合いを行い。


「解った、共に行こう」


 そう言って頷いた第七糞皇子に、兵士達がどよめいたけど取り敢えず何も言う事無く、荷車に乗り込んだ第七糞皇子と私達を運んでくれた。

 そういや、近衛達放置して来たけど大丈夫なのかな?


「殿下、宜しいのですか?」

「ああ。吾は敗けたのだ、仕方あるまい」

「しかし」

「ジーリオ、捕虜になったのだと思えば良い」

「殿下……」


 捕虜ね。それは笑える。


「……あの、貴方はどの皇子殿下に仕えていらっしゃるのです?」

「その昔第三王子殿下で、公爵閣下だったけど、その爵位も返上したから無職だな」

「第三?その、失礼ですが第三殿下は既に」

「お前らが殺したんだろ?」


 真正面からそう言うと、私をジロリと睨んで来た。


「そうだ、吾が殺した」

「それも、第二皇子の命令って奴か?」

「……その通りではあるが、殺したのは吾だ」


 おっと、何やら急激に成長中のような。

 側近が驚いて目を丸くしてる事に気付いてないみたいだけど。


「そうか」

「ああ。それで、お前は誰に仕えているのだ」

「これから会わせてやるさ」

「……十一皇子か。しかし彼奴は争いには参加せぬと公言したが。違えたのか?」

「おい、少し前の話しぐらい覚えてろよ。誰も第十一皇子何て言ってねえ、元第三王子で元公爵で現無職だって言っただろ?」


 ん?言葉にしてみると、格好悪いなおい。


「まあ、会うの楽しみにしてろよ」

「……うむ、そうだな」


 そして、荷車の中でちゃんと睡眠を取りつつ、のんびりと運んでもらい。


「あっちに俺達が行くと、攻撃されるんじゃねえの?」

「当然だろ?」


 そして、荷車の中に兵士達を突っ込んだ後、ジェイド隊長がリドルを操って私が花火を打ち上げ、合図を出した。

 ヴィーとリクト隊長が出て来てくれたので、そこで事情を伝え、ヴィーと第七皇子による第一回和平会議が執り行われた。


「……では引き連れているのは民であるのか」

「知らなかったのかよ」

「何も。ただ、邪魔なら殺せと」

「……ちなみに、殿下は何を邪魔だと思うんだよ」

「ふむ。考えた事も無かったが、そうだな、言われた事が出来ない、それを妨げられた時に邪魔だと思っていた」


 ちらりと側近に視線を走らせると、顔を青褪めさせつつ視線を彷徨わせている。


「……なあ、アンタ家族でも人質にされてんの?」

「っ!?」


 うわ、ここでもかよ。

 何、家族を人質に取る事って決まりでもある訳?おかしいだろ。


「ジーリオ、真か?」

「………………殿下、申し訳ありません」

「おっと、ちょっと待ってくれ、そっちの話し合いは悪いが後回しで頼むよ」

「駄目だ、ジーリオは吾にとってとても大切な男なのだ」

「大切だって割りに、家族が人質に取られてる事に気付いてねえじゃん」


 突っ込みを入れれば、うっと唸って言葉を失う。

 何か、短時間で随分成長しやがったなあと思いながら見ていると、ヴィーが楽しそうに瞳を揺らした。


「何か、面白い事があったみたいだね、いちる?」

「まあ。糞野郎が急激に成長中で、今は普通に殿下って呼べるぐらいには」

「へえ?まあ後で詳しく聞くよ。それで?何があったのかな?」

「それがですね……」


 そして、第七皇子の事と第二皇子の事を話し、どう動くべきかと悩んでいると伝えた。


「…………参ったね」

「はい、参りました。これは想定外でしたので」

「それはそうだろうね。さて、どうしたものか……」


 取り敢えず、食料を運んでもいいかと聞くと兵士達がこぞって協力を申し出てくれたので、結局前線にいた兵士達まで混ざってしまって、これはもう下手に皆を動かせねえなと思いつつ、やっぱり少ない食料に腹を鳴らした。


「あ、殿下。この人が元第三王子で元公爵で現無職の私の主だよ」

「夫だよ」

「………………は?」


 殿下の間抜けなその顔は、今まで見てきた中で一番格好良く見えたと言ったら、殿下はまた肩を落とすんだろうなあ。




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