第三話 普通と汎用と同情
「へえ、帝都ってデケエのか」
「ああ。すげえ人が多いしな」
「何かゴミゴミした感じに聞こえんだけど、そうでもないのかな?」
「掃除人がいるぞ?」
「役人もうろついてるしそれに、貧民街とは壁で隔てているからな」
「貧民街?」
「ああ、帝都の周りに勝手に住み着いた奴らの事だよ」
「……ふうん」
「けど、今回そう言う奴らを集めてなかったっけ?」
「ああそういや、纏めてどっかに連れてかれてたよな?」
「前線にでも送られたか?」
「さあな。けど、この内乱でどうなったかは解んねえな」
散々食料を喰らい付くした私は、ジェイド隊長と二人、第七皇子の兵達と焚火を囲みながら情報収集中だ。取り敢えず殴り飛ばした奴らは、早々に降参して私に食事を運んで来ては、話しに混じって行くのだ。
「ところで、第七糞皇子はどこにいるんだ?」
「さあな。その内前線に来て命令すんだろ、死んで来いってな」
「ん?もしかして嫌われてんのか?」
兵士に嫌われるって、どんな大将だよ。
「……第七皇子は確かに勝ち戦ばかりでな、生き残る確率も上がるが」
「何で勝てるかって言えば、平気で兵士を見捨てるからなんだよ」
「捨て駒にされてんのかよ」
「まあな。兵士になりゃ食いっぱぐれがねえから、志願した奴は多かったんだ。継承争いが始まった頃は、この倍以上の人数はいたんだぜ?」
「いつの間にか減ってたよな」
「ああ。長い事顔を見てねえ奴もいる」
「なるほどな。だから結構簡単に逃げんのか」
「まあなあ。つうか、お前あの男何もんだよ」
「あ、あん時居たの?」
「俺はいつも前線だからな」
「マジか。悪かったね、人外が挨拶に行っちゃって」
「人外、やっぱ人じゃねえのか、あれ」
そして、どっと笑い出す兵士達に、ジェイド隊長と私は苦笑するしかなかった。
「俺達はさ、適当に戦ってる振りしてるだけだからさ」
「いい加減に止めて欲しいよなあ」
「本当にな。こんな争ってても意味ねえよ」
「あん時は悪かったな。アンタが守ってるのが国民だって知ってたんだがよ」
「やる気のねえ攻撃の仕方だったし、私が目立った途端に全部こっちに攻撃して来たからさ、何となくそうだろうなとは思ってたんだよね。それに、あの人外がすんげえ手加減してたぐらいだし?」
「おい、あれで手加減してんのかよ」
「何言ってんのさ、即逃げたくせに」
そう言った私に、違いないと言いながら声を上げて笑い。
「何かこう、迫力が違うんだよな」
「ありゃ本能で動いたよなあ」
「ああ。助けてって思いながら逃げる事しか出来なかった」
「ははは、本気で動いてたら恐怖で竦んだだろうさ」
リクト隊長ってのは、そう言う人だ。
「さて。腹もいっぱいなったし、そろそろ寝るか」
「おい、ここで寝るつもりか?」
「第七糞皇子の所まで運んでくれるかな?」
「なに!?」
「お前、正気か!?」
「当然だよ。それに、運んでくれるならその間に寝る事が出来るし」
そしてジェイド隊長が何も言わないって所を見るに、この意見に賛成って事だ。
「連行してくれよ」
「いや、しかし」
「もしかして、私怪我しておいた方が良い?」
「い、いや、だが」
「頼むよ。捕まえたって言ってさ、連行してくれよ。頼んだぜ?」
そして、第七糞皇子の兵士達に正気に戻れとか考え直せとか言われたけど、いいから黙って連行しろっ!と言うと、「どうなっても知らねえからな!」と言いつつもジェイド隊長と私を連行してくれた。
荷車の中で存分に休憩をした私は、最後の休憩だと言われた時に再び思いっきり食べまくって、魔力を回復させておく。ついでに携帯食も譲って貰ったので、それをポケットに忍ばせつつ、荷車の中で十分な睡眠をとったのであった。
「……捕えた?あれをか?」
「はい、そのようです」
そんな声が聞こえたのは、到着したと言って私とジェイド隊長を縄で縛りに来た兵士が、もう一度本当にいいのかと確認をしてからの事だった。
知らねえからな、俺は何度も忠告したからなと、言って来るその兵士を可愛い奴めと思いながら、「すぐに終わらせてやるからな」と約束をし。
そして、荷車の布が持ち上げられ、私は第七糞皇子と初めて対面した。
「…………普通?」
「いや、家が特殊なんだ、きっと」
「あー……、まあ、確かに」
ボソボソとジェイド隊長とそんな事を言い合ったのは、第七糞皇子の顔が凄く普通だったからだ。目立った特徴も無く、特に格好良い訳でもなく、ガタイが良い訳でもなく。
髪は暗めの茶色、肌は褐色で瞳は明るい茶色だった。
「これがか?」
「はい」
「…………こっちの男の方ではなくてか?」
「それは恐らく西方の男でしょう。あちらの特徴が出ております」
「黒髪に黒目。汎用な女だ」
「テ」
テメエに言われたくねえと口を開いた途端、ジェイド隊長に肘で突かれた。
黙ってろって事らしい。
「なんだ、何か言いたい事でもあるのか?そう言えばお前、吾に向かって言いたい放題であったな?」
そう言って睨んで来るけど、全然迫力が無いって言うね。
まあでも、冷たい目をしてる男だとは思った。
「おい、あれを連れて来い」
「はい。男の方はどうされますか?」
「殺せ、用はない」
「はい」
「お前達はさっさと前線に戻れっ、せめて吾の役に立って死ね」
おっと、こいつは頂けないなあ。
ま、こんな上司なら見捨てやすくていいか。
「おい、何か策はあんだろうな?」
「大丈夫だ」
「本当か?お前、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。運んでくれてありがとう」
「……お前は」
「大丈夫だよ、ありがとね」
ゆっくりと私達を立たせながらそんな事を会話して、荷車から降ろされた私は第七糞皇子のたぶん側近に腕を掴まれ歩かされた。殺しておけと命令したそいつは、確認もせずに歩くので、ジェイド隊長は大丈夫だろうと安心する。
無言で歩き続け、たぶん近衛達の好奇の視線を浴びながら、デカいテントの中へと引っ張り込まれる。
「置いて出て行け」
「……はい」
おっと、これはチャンス。
思わず笑ってしまいそうになる口元を引き締め、第七糞皇子をじっと睨み付けてた。
側近がテントを出て行った後、糞皇子が近寄って来て私の顎を掴んで左右に傾けながらマジマジと見下ろして来る。いいね、解りやすくてさ。
「……お前、怯えていないな。何故だ?」
そりゃぶっ飛ばすって目的があるからさ。
「だんまりか。まあいい、声を出させる方法はある」
ぷっ。やけに自信満々だなおい。あれだ、パンツ将軍みたいな野郎だぜ。
「しかし……、これ程欲を刺激しない女も珍しい」
一歩下がった糞野郎がそう言った。
コイツ、面白い事言うじゃねえか。
片眉がピクリと跳ね上がり、同時に魔法で口を封じて蹴り付けた。
「きゃあああ、止めて、許してえええっ、お願いいいいっ!」
ガツッと拳を顔面にめり込ませ。
「いやあああ、お願い、言う事聞くから止めてええええっ!」
と、叫びながら糞野郎をボコりまくった。
途中、鼻血を出した糞野郎に、うわ、きたねえと呟きつつ、殴った後叫ぶのを忘れず。
気絶するまで殴ってやった後、服をビリビリに切り裂き真っ裸にして転がして、外した縄で縛り付ける。
そうしてからテントの中を漁りまくって、コイツの武器を回収しておいた。
さて。どうすっかな?
そう思いながら真っ裸の糞野郎の上に座って悩んでいると、テントの外から声が掛かった。
「殿下、少し宜しいでしょうか」
ヤベ、側近だぜと思いつつ、糞野郎を物陰に寝かせてからテントから出た。
驚いた顔で私を見た側近に、にっこりと微笑む。
「疲れて休んでおられますよ?それでは失礼します」
相手が呆気に取られている今がチャンスとばかりに、さっさと歩いてその場を離れ。
そして走り出した。
「追え、捕えろっ!」
「はいっ」
好奇の視線を向けるばかりだった近衛達が、側近の言葉に慌てて動き出したけど。
「しょうがねえな。『爆風』」
振り返って風の魔法を叩き付ければ、全員が転がって行った。
ついでに糞野郎のテントも飛んでったけど気にしない。
「いちる」
「お、ジェイド隊長。今の内に武器を確保しちゃいましょう!」
「解った」
さすが、ジェイド隊長は直ぐに動けるなあと感心しながら、転がって行った近衛達から次々に武器を奪い取る。奪い取るついでに気絶の魔法を掛け捲り、目出度く全員が転がった後。
「さて、やりますか」
「ああ」
ジェイド隊長が側近に近付いた途端、剣が真横に走って行くのを避け。
そのまま何度か剣を振って来たけど、ジェイド隊長に蹴られて終わった。
「いちる、終わったぞ」
「はいはい」
「……あれは?」
「ええと、そっちの物陰に転がってると思います」
「そうか」
そうして物陰に行ったジェイド隊長が、げんなりした顔を私へと向け。
「なんで裸なんだ?」
「ええとですね、何か自信満々みたいだったので、指差して笑ってやろうと思ってですね」
「……それは、少し哀れになる攻撃だな」
「男の人ってもしかしてこれが一番効くんですかねえ?」
「何故?」
「既にやった事があるんですよね。そん時、全員がすげえ同情してました」
「ああ……、だろうな……」
少し遠い目をしたジェイド隊長は、糞野郎の縄を引っ張って来て転がした後、蹴られた腹を両腕で庇いながら唸ってる側近を傍に転がした。
「さて。いちる、話しがしたい」
「はあい」
仕方ねえ、ムカつくけど目覚めさせるかと、糞野郎と側近にばしゃっと水を掛けてやった。特に糞野郎には念入りに三回も水を掛けてやったので、思いっきり咽てたけど気にしない。
「お、き、きさ、げほ、ごほ、ごほっ」
そしてあちら側が落ち着きを取り戻した辺りで、ジェイド隊長が話し掛けた。




