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第二話 懐柔と離反と人外生物

 戦う術を持っている男を集め、武器になりそうな物を持たせて移動の際の護衛をやらせつつ、西へ、西へと向かって行く。避難している人の中には勿論、子供も老人もいるから、どうしたって歩みは遅い。

 そして、所構わず第七皇子がぶちかまして来やがる、と。


「ヴィー」

「まだ駄目」

「食料奪ってくるぐらいです」

「ついでに殴るんだろう?」

「…………ヴィー」

「駄目。ギル、オーラン、食料を」

「はい」

「いちる、ほら、目立って目立って!」

「っ、くそおおおおおおおおおっっ!!!やいコラ第七糞皇子っ!ここにいるのはテメエが守るべき民ばかりだぞっ!この鼻糞野郎、聞こえるかあああっ!?」


 空へと駆け出し、逃げる人達から遠ざかって大声で叫んで見せれば、大砲と銃の砲身がこちらへ向けられる。一応リクト隊長が付いててくれてるけど、リクト隊長、完全に遊ぶ気満々で木の棒を振り回して挑発してるし。


『ドンッ』


 と言う地を揺るがす音を合図に、容赦なく砲弾が撃ち込まれ始め、銃を持ってる奴らが近付いて来る。しょうがねえとばかりに、その目の前に火の壁を作り上げてやれば慌てて逃げ出して行く。


『消火の雨』

「カッキーンッ」

『雷蛇』

「カッキーンッ」


 空に浮かんだ黒フードマントの二人組は、次から次へと魔法を繰り出し、木の棒で砲弾を打ち返すのだ。これ、割りと恐怖を与えているようで、第七皇子はともかく兵達にはとっても好評なんだよね。

 最近じゃ、姿見せるだけで及び腰になって来てる。


 ちなみに、食料を奪いに行ったギルニット隊長とオーラン先輩は、既に後方支援部隊へと近付いていた。リクト隊長が下手撃たなけりゃ、このまま食料を奪えるはずだ。

 ちらりと移動中の皆を確認すれば、ヴィーが空に浮きながら目印になっていて、殿(しんがり)ではジェイド隊長が子供を三人担いで走ってた。やれやれ、まだまだ掛かりそうだ。


『炎雷』

「はいドッカーンッ」


 完全に遊んでるリクト隊長は、一々楽しそうに打ち返しつつ、上手い事大砲を破壊して行く。この人、本当に人外なんじゃないかと思うんだよね。


『氷結』


 大規模魔法を展開し続けているせいか、私そろそろ持たなそうなんですが。


「……リクト隊長、食いもんくれ」

「ある訳ないだろ、莫迦だないちるは」

「どっかに隠してんじゃないですか?」

「もう全部食べちゃったよ」

「やっぱ隠してんのかちくしょうめっ!」


『八つ当たり落とし穴!』


 凍り付いた地面にボコボコと穴を開けまくれば、叫び声を上げつつ兵達が下がって行く。それを必死に押し留めようとしているのが、第七皇子の直属の部隊だ。アイツら、前線に出て来やしねえ。


「第七糞皇子っ!早いとこケツまくって逃げた方がいいぜ?テメエじゃ相手にならねえんだよっ!」


 弓矢で射られたり、槍が飛んで来たり、時に魔法でも攻撃してるみたいだけど防御魔法だけは完璧なんだよね。ふっ、散々叩かれたり蹴られたりして磨いて来たもんだからな、こっちは年季入ってんだよ。


『氷の礫』


 ビシバシと容赦なく当たる氷の粒は、気温を下げつつ体力を奪う。

 そして私の魔力も奪う。


「ああくそ、早くしてくれ」

「ヤバイか?」

「大規模過ぎて一々大量に使ってしまうんです」

「そうか。じゃあ交代」

「え?」

「ほら、いちるは打ち返す」


 木の棒を渡され、降ろせと言うのでリクト隊長を地面に降ろすと、抜剣して走り出した。

 おいおい、マジかよと思いつつ、偶に飛んでくる程度になった砲弾を、明後日の方向へ打ち返しまくった。リクト隊長は、単騎で前線にいた兵士達を遁走させると言う偉業を成し遂げ、意気揚々と戻って来た。


「そろそろいいんじゃないか?」

「……ですね」


 既に砲弾は飛んで来なくなってるし、ギルニット隊長とオーラン先輩は食料を運び出している。確認すれば最後尾にいたジェイド隊長が森の中へと姿を隠す所であった。

 で、ヴィーの姿が見えない事にニヤリと笑う。


「リクト隊長、私、ちょっと挨拶に行って来ます」

「駄目」

「面を拝んで来るだけですよ」

「殴るの間違いだろ、駄目」

「なんでよ、もういい加減頭に来てんですよあの糞皇子にはっ!」

「それでも駄目。それをやるのはこの国の人じゃないと駄目なんだよ、いちる」

「けど」

「駄目。俺達はせっせと一般人を怪我させないように守るだけ」


 正直に言えば、私は今空に浮いていて、リクト隊長は地面にいるから無視して飛んで行ってもいいんだけど、それが出来ないのはやっぱり、自分の力量を良く解ってるからだ。

 私には、リクト隊長のように単騎であの人数、およそ二百近い兵士を遁走させるなんて真似、絶対に出来ない。


「……くっそおおおおおおおっ!」


 右手を空に掲げ、ドン、ドン、ドン、と魔法を打ち上げ。

 そして私は地面に落ちた。


「やっぱり莫迦だねえ、いちるは」

「……うるせえ、ちきしょう」


 バシッと頭を叩かれた後、リクト隊長に担がれて戻ると、ヴィーの所に投げられた。

 もう動けないってくらいに魔力が無くなってるもんで、されるがままになってるしかないって言う。もうホントに情けないったら。


「また怒らせたんだ、いちる」

「なんで黒騎士ってあんな人外揃いなんですか」

「ああ、そっちか。んー、元々、変わり者ばかりを集めたからかなあ?」

「……リュクレースの変人は人外ですか」

「そうなのかもね。けど、その中に自分も入ってるって解ってる?」

「私はまだギリギリですよ、ライン守ってます」

「そう?」

「そうです」

「ふふ、じゃあそうかもね」


 なんてやり取りを交わした後。

 食事を運んで来てくれたギルニット隊長に泣いてお礼を言いつつ、ガッツリ食べた。やっぱり第七糞皇子の所には豊富な食糧があったそうで、これなら三日は持つって事らしい。随分大量にかっぱらった食料を無駄にしないよう、早朝に出立しつつ西方へと移動を続けて行った。


 途中にある村や町で生き残った人たちと合流したり、飲み水の確保に走ったり、農作物を手に入れたりと、やる事がたくさんあり過ぎる。


「そろそろまた来ないですかね?」

「来るだろ?けど、ここは第十一皇子がいる地だからな、そう簡単に手出しできねえだろうさ」

「保護を求めましょう!」

「……お前、頭沸いてんのか?」

「なんでそうなりますか。一般人の保護ですよ。もう動けない人もいますから」


 歩き続けたせいで、ご老体や子供達はもう限界なんだよね。

 そろそろ女性もヤバイと思うし。


「怪我をしている人もいますし、そろそろ庇い切れなくなりそうですからね」


 歩けなくなってしまった人を負ぶって移動をする人もいる。

 ご老体や子供にはキツイのだ。


「……この人数が一気に増えるとなると、門前払いだろうよ」

「確かに。状況から見てここも食糧難だろうからね」

「ならご老体や怪我人だけでも何とかなりませんかね?」

「役立たずだと言って、最悪見捨てられるな、それ」

「この帝国は糞揃いかこんちくしょうがっ!」


 一人で憤りつつ、それでも何とか生き延びられる方法を模索する。

 何とかなるはずだ、皆が助かる方法があるはずだと、何度も何度も意見を出し合いながら考え続けた。


「国が大きいと言うのも、色々と問題が多く出て来る物だね」

「それだけ人数も多いですからね」

「そして同じように意見が異なる、か」


 そして交代で眠りに付いた後。

 一つの命令を受けた。


「ジェイド、いちる。第七皇子の所に行って欲しい」

「何をしに?」

「ジェイドがいちるを捕まえたと言えばすんなり入れると思うんだよね。入り込んだら、兵の懐柔と離反をさせる事に重点を置いて、後はあちらの情報が欲しいね」

「懐柔と離反。難しいですよね?」

「そうだけど、いちるが一番向いてるからね。頼むよ」

「解りました」

「ギルとオーランは、第八皇子に接触して欲しい」

「第八?」

「そう。この人数を匿う事が出来るかどうかが知りたいんだ」

「第十三は?」

「北方から出て来なさそうだからね。念頭に置いた上で行動して欲しい」

「解りました」


 結局の所、食料が無いってのがネックになってんだよねえ。

 このまま移動を続ければ脱落する人が増えて行く一方だし、そう言う人を抱えつつ、さらに増える人を抱き込んで移動するって、キツイもんがある。

 皆、着の身着のまま逃げて来てるし、金持ってても役に立たないし。


「いちる」

「はい」

「……怪我、しないでね」


 真顔でそう言うヴィーに、私も真顔になる。


「ヴィー、信用してるから任せてくれるんですよね?」

「…………まあ、そうなんだけど」

「じゃあ最後まで信用して下さいよ。ヴィーが描いた勝利に導けるよう、結果を出しますから」

「……うん。頼む」

「はい、頼まれました」


 そして、円になって顔を合わせた後、互いに剣礼を交わした。


「皆の無事を」


 こくりと頷き合った後、ジェイド隊長と私はそこから離れて第七皇子陣営へと向かって走り出す。あの糞皇子のムカつく顔をやっと拝めるのかと思うと、間違えた振りで一発殴っておこうかなとそんな考えが過ぎったけど。


「そういや、ジェイド隊長の服装、どっかで交換しなきゃ駄目ですね?」

「…………このままでいい」

「疑ってくれって言ってるようなもんじゃないですか、それ」

「構わない。一緒に捕まった方が効率が良さそうだからな」

「でも、」

「いいんだ。まずはあちらの兵力の確認が先だと思う」


 まあ、入り込む方法は任せるって事だったけどさあ。


「それに、お前を一人にすると絶対に碌な事にならないからな」

「何で断言しますかね」

「日頃の行いだ。まあ、それに怯えるのを見るのも悪くないと思ってな」

「お?何か期待されてる?」

「まあ、いいんじゃないか?どうせやるなら徹底的にやれ」

「ふっ!そんな事言ったら本当に遠慮しないですけど?」

「構わない。こちらに着いた方が有利だと思わせたいからな」

「ああ、そっか、懐柔と離反!」

「おい、忘れてたのか?」

「いや、今思い出しましたっ!」


 走りながらジト目で睨んで、わざとらしい溜息を吐き出してくれる。

 ホンットに、相変わらずジェイド隊長も人外だよ、ちくしょうめ。


「いちる、もう少し頑張れ」

「はい」


 そして、もう少しって言った割りにすんげえ勢いで走り続けたジェイド隊長と、無言になった私はほぼ丸一日駆け続けた。

 随分久し振りに走り続けたなあと思いながら地面に転がり、荒い呼吸を整えていると上からジェイド隊長が見下ろして来る。


「いちる、頑張ったな」

「……褒めるなら、何か、食わせて欲しいですね」

「ほら。すぐそこで第七皇子の前線部隊が野営をしている」

「よっしゃ、喰い尽して来ますっ!」

「もう少し休憩してもいいぞ?」

「いや、腹が減ってるのでそれは後でします!」

「ああそう」


 そして、ジェイド隊長と私は第七皇子の部隊と接触し、取り敢えず暴れた後、思う存分食べ尽してやった。

 ふう、やっと腹が満たされたぜ。




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