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第一話 ムカデと竜と食糧難

 砲撃の轟音と銃声、リドルが地面を踏み荒らし、怒声や悲鳴が飛び交う。


「もう、容赦ねえったらっ!」

「もう少しだ、おい、こっちだ、走れっ!」

「第七皇子、絶対ぶっ飛ばすっ!」


 高い高い防壁の向こうは、とんでもねえ内戦状態だった。

 ヴィシュカ帝国現皇帝が病だか毒に倒れて以来、十七人もいる皇子達が椅子を巡って争ってるらしく、すげえ事になってた。これで参ってるのは一般人。正直、トップが誰になろうが関係ないけど、取り敢えず、家壊すな、家族殺すな、飯を食わせろって感じだろうなあ。


 大砲と銃の話しはヴィーから全員が聞いていて、銃に付いては取り敢えずそれを向けられたら避けろと伝えてある。

 いや、まあ人外共だから避けられるかなって思ってそう言っておいたんだけども。

 帝国の第七皇子ってのがすげえ激しい奴で、自国民がどうなろうとも構わんって感じの攻撃して来やがる。アイツ、皇帝に即位した時に誰もいなかったらどうする気なんだか。空っぽの国をどうするつもりなのか聞いてみたい気もするけど。


「来たっ!」

「よっしゃ任せろっ!カッキーンッ!」


 砲弾が一般人に向かって来る度に、魔法で強化した木の棒で打ち返してやってる。

 避難民を引き連れて移動してるもんで、兵達より目立ってるせいかもしんないけど。


「おお、ナイスいちる!」

「うっしゃ、今度は地面に大穴開けてやりましたよっ!」


 そして、あちら陣営の苛立ちが限界を迎える前に、私達は移動を終え第五皇子の陣営の陰に隠れて逃げた。まあ、逃げても帝国内にいる限り、こうして必ず争いに巻き込まれるんだけどさ。


 帝国に入ってまだ十日目だってのに、毎日毎日こうして争いから逃げ続けながら細々と食い繋いでるけど、はっきり言って国内に食料が無いんだよね。畑や麦畑だった所は踏み荒らされたり燃やされたりしててさ。それでも無事だった物を収穫しながら移動してるんだけど。


「そろそろ、限界ですよね……」

「だな。もっと、西へ移動した方が良いかもな」


 畑や麦畑を周って残った僅かな物を集めてはいるんだけど、人数的に足りなくなって来てる。それに、逃げる人は逃げるだけで精一杯だからねえ。


「おい、食べ物持って来たのか」

「そうだよ」

「寄越せ!これじゃ足りねえんだよっ」

「ならテメエが採って来い。元気そうだし動けるならそうしろ」

「いいからそれを寄越せって言ってっ、いてえええええっ!」


 あっと言う間に男の腕を後ろ手に捻り上げたオーラン先輩が、すげえ不機嫌な顔丸出しになる。


「何だコイツ、新参か?」

「そりゃ、私らに向かってこんな事言ってくるぐらいなんでそうでしょうね?」

「……やれ」


 不機嫌なオーラン先輩はそう言って男を突き飛ばした。


「はいよー」


 そして、高く高く空に浮かせれば、男の悲鳴が響き渡った。


「そして一気に魔力を切るってね」


 悲鳴とも何とも言えない、太い男の声が辺り一帯に響き渡って落ちて来て、地面すれすれで止まった時、男はそれでも声を上げ続けた。


「ヤベ、漏らしてる」

「うわ……」

「おい、正気に戻れよ」


 バシッと頭を平手で叩けば、涙と鼻水と涎で散々な事になってる顔を向けて来て、腕を伸ばして来るので触んじゃねえ!と言いながら飛びすさる。


「おい、お前」

「は……、はいっ」


 どうやらすっかり怯えたらしい男は、怯えながらもちゃんと返事をして来た。


「お前怪我も病気もねえよな?」

「な、いです」

「ならお前も食料確保に奔走しろ。動けるなら手伝え、何もせずに食えると思うな」

「はいいいいっ!!!」


 オーラン先輩に蹴られた男は、そう言いながら何処かへ走って行った。

 

「……逃げたかな?」

「戻って来るだろ。戻って来たらおとなしくしてるか、ちゃんと食いもん持って来るだろうよ」

「まあいいか。さて、お騒がせしてごめんね?アイツに食事を盗られた人はいない?」

「大丈夫だよ、いちるちゃん。そんな事しようもんならアタシらが黙ってないんだから」

「おお、やっぱ頼りになるね。でも怪我しないでよ?」

「いざとなったら焼いて食ってやるよ、ああいう男は」

「駄目だよ、腹壊すから」

「違いない」


 そう言って笑い出したのは、食事を作ってくれてるおばちゃん達。

 村や町から逃げ出した人達で、人数の確認とか軽傷の手当てまで熟してくれる頼りになる人達だ。


「明日の食材は集まったかな?」

「まあね。少なくなって来てるけど、仕方がないねえ」

「腕の見せどころじゃないのさ!」

「そうだねえ、少ない食材でお腹いっぱいにするのは慣れてるからねえ」

「うおおお、何それ、すげえ切ないよっ!」

「何言ってんだい、そうしないと生きて行けないだろう」

「うう、私、これが終わったら皇帝から美味いもんたくさん奪って来ますから」

「あっはっは、なら楽しみにしてるよ」


 おばちゃん達に笑い飛ばされたけど、本気でそう思ってるんだよ。

 アイツら絶対、今でも良いもん食ってる、間違いないんだよ。だって、すげえ健康そうだし溌剌してたもん。ムカつくわあ。


「明日も早いんだろ?」

「ほら、こっちは私らに任せな」

「うん、ありがと。後はお任せします」

「いいよいいよ。明日も宜しくねえ」

「任せとけ!」


 そんな事を言いながらおばちゃん達から離れ。


「……そろそろ、本格的に食糧難だな」

「ですね。あれじゃ足りない」


 おばちゃん達の所にあった食材を確認したけど、もう本当にギリギリだった。そして、明日にはもっと人数が増える予定がある。


「あっちの食料奪うか」

「それしか無いですよねえ」

「……本格的に介入か。面倒だな」

「リクト隊長とギルニット隊長が戻ったら、また状況変わるでしょうから」

「まあな」


 そして、ヴィーとジェイド隊長の所に戻り、互いの情報を交換する。

 内戦状態の場合、あっと言う間に色んな情報が古くなるからちゃんと伝達しないとこっちがヤバイ事になってしまう。


「そうか、やっぱり食糧問題は大きいね」

「たぶんですけど、第五皇子は敗れましたね。移動した方が良さそうです」

「やはりか。第七皇子は武器をたくさん確保しておいたようだからね」

「後食料も。アイツら血色良過ぎんですよねえ」

「確かに。どうします、西方に移動しますか?」

「そうだね……。これ以上南方に進んでも、火山に阻まれてしまうし」


 そうなんだよなあ。

 帝国の南には高くてデッカイ連山が聳え立ってて、それが火山だったもんで暑いのなんのって。砂漠が広がってるし、その砂の中に魔獣が住み付いてるとか洒落にならねえっつうの。


「あのムカデのデッカイの、食えそうにないのが悲しいですよね」

「食う気だったのかよ!」

「当然じゃないですか。食いもんが無きゃ魔物を食います」

「……俺はお前を見縊っていたかもしれない」

「ふっ、見直しましたかっ!」

「ああ。俺はそこまで食い気だけで生きて行けねえ」


 そう言いながらオーラン先輩は私の肩を拳で軽く殴って笑う。


「お前、何があっても生き残りそうだな?」

「オーラン先輩、私がついうっかり死んだらどうなると思います?世界の半分は確実に滅びますよ」

「どうしてかな?」

「そりゃヴィーが世界を滅ぼすって意味ですよ。そしてそれを家の子供達が許すとは思えませんので」

「ああ、確かに」

「でしょ?我が家の場合、親子対決で世界を亡ぼせますので、ついうっかり死なないように気を付けるしかないんですよね」


 笑いながら言えば、にっこりと微笑んだヴィーと目が合った。


「そうだね、いちるがいないならこの世界に用はないね」

「……割と素で言いましたよね、今?」

「だから言ったじゃないですか、一番ヤバい人ですよ?」


 ジェイド隊長が真顔でヴィーに言った後、ニカッと笑いながらそれを肯定すれば、ヴィーが艶やかに笑って見せた。


「ま、絶対に寿命を全うして見せますから安心して下さい」


 そんな冗談を言いつつ、三日後にリクト隊長とギルニット隊長が戻って来た時には、避難民たちの食料が尽き果て、非常にヤバい状況の時であった。戦禍を逃れつつ、東に西に移動しながら食料の確保と、一般人の救出を続けてたんだけど既に限界超えてるし。

 十七人いた王子達の内、既に十人が命を落としていると言うし。


「あー、こりゃ国が持ちそうにないですね」

「第二、第七、第八、第十一、第十三の生存が確認されていて、第一及び第十七の安否は不明か」

「第二と第七が組んでるそうです。第八はどうやら西方に向かっているようですね」

「もう少し西に行くと、第十一皇子の拠点となるカスール地方になります」

「第十三は?」

「北方らしいです。こっちは情報があまり出ませんでした」


 やれやれ。こりゃあ、一人残らず潰さないと終わりそうにないな。


「……どう判断する?」

「そうですね、第八皇子がどうも面白い動きを見せてます」

「傭兵たちを集め、南方の火山に向かった後、西方に移動を開始したそうですよ」

「火山?」

「噂ですが、竜がいるとか」

「竜っ!?え、それは本当に?」


 リクト隊長の言葉に私が反応すると、全員に注目される。


「え、竜、ですよね?あれ?ドラゴン?」

「ああいや、言葉が違っている訳じゃないから安心して?」

「いちるは竜を知っているのか?」

「物語には付き物です。日本では神様でもあります」


 私の言葉に先輩達は顔を見合わせたけど。


「神様、か」

「はい。竜神様って言って有名なのはやっぱり水を司っている事ですかね?」

「水……」

「はい。あ、って言うかこっちの世界でも竜は有名ですか?と言うか、居るのが当たり前なんですか?」

「いちる、落ち着け」

「うん、ちょっと落ち着こうか」


 身を乗り出して話しを聞いていた私は、リクト隊長とヴィーに言われ一度深呼吸をする。


「こっちの世界にも竜の話しはたくさんある。だけど、扱い的に言えば魔人と同様かな」

「いると認識はされているが、そう簡単に会える相手ではないと言う事だ」

「んでも生息してるなんて聞いた事無かったですよ」

「リュクレースにはいねえし、誰も見た事がねえからな」


 なるほど。

 あれか、稀少種って事か。


「ヴィー、私竜に逢いたいのですが」

「うん、さっきの喜びようを見たらきっとそう言うだろうなと思ったけどね」

「逢いたいならさっさとこの状況を何とかしないとだねえ」

「お前、皆を見捨てる事が出来ねえんだろ?」

「そうなんですよねえ……」

「まあそう言う事だよ、いちる」


 くっ、折角目の前に竜がいるってのに、見に行く事も出来ないとはっ!

 やっぱ第七皇子の野郎ぶっ飛ばす。殴り飛ばすっ!


 そう心に決めている間に、難民をどうするかって話し合いになり、話し合いは早朝にまで及んだ。まあ、こんだけの人数を移動させるのは色々と障害があるからなあ。




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