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第五話 大砲とジェイド隊長の過去

 走らせ続けたリドルが回復できるよう、休憩を長く多めに取りながら街に戻ったので、出発してからは五日が過ぎていた。先輩達はまだ戻ってなかったので、同じ宿屋に部屋を取った後、ノービルさんの所に顔を出す。


「あれ、いちるさん、戻られたんですか?」

「そうなんです。用事を先に済ませて来ました」


 フードを取りながら店に入れば、息子さん夫婦が出迎えてくれた。


「親父の奴、昨夜帰って来なかったんですよ」

「おや、息子さんに心配掛けるなんて駄目ですねえ」

「まったく、良い歳して何やってんだか」


 息子さんは、ノービルさんから鍛冶技術は一通り教えて貰ってるらしく、包丁とか鍬とかを打ち直したりもしているそうだ。と言うか、それがこの街では当たり前の事だとか。


「じゃあ、明日また来ますよ。ノービルさんによろしく伝えておいて下さい」

「スミマセン、何度も足を運ばせちゃって」

「いえいえ。そんじゃ、失礼します」


 一応、あの金塊があるのでヴィーは宿でお留守番だ。

 フードを被って鍛冶屋を出た後、さっさと宿に戻って部屋に入る。


「どうだった?」

「お楽しみだったみたいですね」

「そっか。これでやっと打ち直しをお願いできそうかな?」

「だと良いんですけどね」


 剣を預けている間もこの街に足止めされるんだよなあ。それはまあ、仕方のない事だし帝国に入る前に片付けておきたいって言うのもあるからいいんだけども。

 この街、退屈なんだよなあ。

 

「いちる、大砲の話しを聞いてもいいかな?」

「……はい」


 出来れば、無い方が良いと思ってたけど。

 

「あんな間近で見たのも初めて何で、そう詳しい訳じゃないですけど」


 そう言いながらも、映画で見た大砲の話しをしながらついでに銃の話しもしておいた。大砲の小型版で、手に持つ武器なのだと。


「……それは、当たったらどうなる?」

「当たり所が悪ければ死にます。それに、私が知ってる物とは限りませんし」

「うん、まあそうだけど」

「大砲も、魔石を使用する形になってたんですよね?」

「恐らくは、だよ。確定じゃない」

「ああそうか。でも、そうとしか考えられない?」

「まあ、そうだね」


 と言う事はだ、こっちはこっちで作り出されたって事かなあ。

 

「……帝国って、どんな国なんですかねえ?」

「今解っているのは、約三百年前に周辺国を滅ぼして国を広げて行ったって事だけだね」

「そん時にリーラルーラが滅ぼされたんですよね?」

「と言うか、偶々ジェイドの両親が逃げ延びて来たから知ってると言う程度だ」

「ああそっか、そうですね」

「うん。よくこの大陸を抜けて来たと思うよ?」


 そのヴィーの言葉に何となくピンと来るものがあったので、一応確認しておく事にする。


「ジェイド隊長って、もしかしてリーラルーラの王子様だったりします?」

「ああ、良く解ったね?」

「やっぱりかっ!うわ、すげえな、あの人王子様だったんか」


 ジェイド隊長の剣って独特なんだよね。

 お父さんから剣を教えて貰ったんだって聞いた事があったけど、なるほど、そう言う事か。


「お母さんが姫様で、お父さんが騎士って所ですか」

「そうだね。一応、亡命って形で受け入れたし」

「うおおお、何か、納得って言うか」

「納得なんだ」

「あー、まあそうです。ジェイド隊長って独特ですからね」


 それなら確かにこっからリュクレースまで行く事も出来るだろうなあ。


「ああそういや、二人っきりだったんですか?」

「……みたいだよ。その方が守りやすかったんだろうし」


 その言葉で理解した。

 たぶん、出た時はたくさんの人がいたんだろうって。


「何か、帝国に腹立って来た」

「今は抑えてね?帝国に入ったら暴れていいから」

「いいんですか」

「まあね。入って確かめてからだけど」


 そんな話しをした翌日、私はもう一度鍛冶屋へと足を運び、ノービルさんに出迎えられて奥の部屋へと通された。


「いちる」

「はい」

「あれ、凄かったわ」

「でしょう?自信回復できましたか?」

「まあな。お蔭でやる気が出て来た」

「あ、こっちも金の算段着きましたよ」

「なに、もうか?」

「はい。実は森の中に入って旧王城へ行って来ました」


 声を潜めてそう言うと、ノービルさんはこれ以上は無いってくらいに目を見開いて私を凝視し。そして詳細を聞いて来た。


「魔法が使えるので、あの魔物は問題なく辿り着きまして。崩れていた旧王城の地下に入って、お宝を頂いて来たんです」


 そう言いながら布で包んでいた金塊を差し出した。

 

「な……」


 その見事な金塊に絶句したノービルさんに、これで足りますかね?と聞くと、冗談じゃねえ、こんなもんいるか阿呆っ!と怒鳴られたけど。


「融かして利用して下さい。遊んで暮らせると思いますので」

「勘弁してくれよ。お前、これを俺に押し付ける気か?」

「当然。こっちも荷物にしかならないんでいらないですし」

「お、まえ、いらないって」

「この国の物はこの国に返されるべきだと思いませんか?」


 そして、呆然自失となったノービルさんに上手い事金塊を押し付けた私は、じゃあさっそく頼みますと剣を預けて帰った。まずは私の剣からお願いする事は決定していたので、ノービルさんが我に返る前に押し付けて逃げたとも言う。


 そして、宿に戻った次の日、先輩達が戻って来た。


「王都はここよりは大きな街でしたけど、何と言うか、雰囲気は同じでしたね」

「貧しくはないけど、富んでいる訳でもない」

「ならこれは作り出された状態か。上手い方法かもしれない」

「反感を抱く程の不満を持たせず、だけど富も持たせず?」

「適度な富を齎して満足させていると言うか」

「けどそれって、魔獣がいないからできる事ですよね?」


 命の危機に怯える事無く過ごせるのなら、確かに有効な政策かもしれない。


「この街は、日本に似てますよ。貧しさに喘ぐ事は無いけど、活力に満ち溢れる事は無く、それでも生きる為に働けばそれなりの生活は送れる」


 外からの脅威の無い世界。

 魔獣がいない、命が脅かされる事が無いってのは、確かに平和で良いのかもしれないけど。『飼い殺し』と言う言葉が思い浮かんでしまう。


「……魔獣のいない、命の危機を感じなくて済む世界を望んだ末がこの街、かな?」

「でしょうね。そうじゃなきゃあの魔物を国内に入れた意味が解らない」

「それに加えて経済の操作か。なるほど、上手い手だ」

「気付くにしても少数だろうね」

「外に出れば命の危機に陥る事が解ってますからね」

「最初は、生きる為の政策だったんでしょうけど」

「生き残る、だね」


 ヴィーの言葉に、何だか納得してしまう。

 確かに、生き残る為に必死だったんだろうって。


「……まあ、とにかく今は剣の打ち直しが重要事項だな」

「いちる、お前預けてあるんだろ?」

「勿論です」


 そして、剣を預けて五日後、ノービルさんからの伝言を受けた私はヴィーと二人で鍛冶屋を訪れ。その見事な出来栄えにひたすら感謝しまくった。

 そして、全員分の剣の打ち直しが終わったのは、一月も過ぎた頃の事。

 結局、暇すぎたってのもあるし、路銀が尽きてしまうって事で先輩達に協力させて見る見る勃った君と潤汁、魔法の洗濯粉を売りまくった。

 お陰様で充分すぎる程の稼ぎがあったのはやっぱり、リクト隊長の鬼畜っぷりのお蔭かなあと思う。


「ノービルさん、本当にありがとうございました」


 お礼を言いつつ、見る見る勃った君十本セットを渡し。


「いや、俺も勉強になった。それに、お前らのお蔭で色んなもんをやり直す事が出来たぜ」

「そっか、役に立てて良かったよ」

「ああ。なあ、今度は何処に行くんだ?」

「西かな?」

「……そうか」


 結局おっちゃんにダジェスさん達の事は言わず、そのまま街を出て、再び夜闇に紛れて国境を超える。盗賊の街があったあの国はそのまま通過し、南へとリドルを走らせつつ、国を渡り歩く。


「ってかここでもう何カ国目ですかね?」

「七カ国だね」

「早く帝国に辿り着きたーいっ!」


 そんな事を叫んでしまったのは、このカルッチェの西方にはモルト河の支流がたくさんあって、それに遮られる形で小国が犇めき合っていたからだ。

 ヴィーもせっせと地図を描いて行ってるけど、この辺は名前を記入するのも大変そうだ。

 西に行っては南進して東に戻り、再び西に行っては南進を繰り返し。


「魔獣が強くなって来てるな」

「魔力が復活して来てるからねえ」

「あ、やっぱ先輩達も解るんですか」

「そりゃ解るだろ」

「いちるは、食べて魔力を回復させるから」

「あー」


 ああ、そういやそうだった。

 確か魔力の回復ってのは、周りにある魔素を取り込んでどうたらと座学で習った事があったけど、それは私には出来ない事だったんだよねえ。フラグニル特典かなってヴィーが言ってたけど、異世界人ってのもやっぱり関係あると思うんだ。


「こんだけ魔獣狩りしてるってのに、美味い魔獣がいないっ!」

「金にはなるがな」

「そして食材もあれだっ!」

「そりゃほいほい他国へ行けないみたいだからな」


 小国が犇めき合ってるのはまだいい。

 互いに支流を超えてやり取りをしている国もあるのに、なぜ貿易にまで発展させないのだっ!お蔭でショボイ食生活だよ、こんちくしょうっ!


「やっぱ待ってでも剣を打ち直して貰って良かったな?」

「そうだね。こっちでも相当な武具類があるけど、それなりだからねえ」


 オーラン先輩とリクト隊長のそんな会話を聞きながら、南へと向かい始めた。

 そして、目の前に聳え立つ高い防壁を前に全員でその壁を見上げてた。


「……これが、帝国との国境壁か」

「これは、凄いね」


 高さにすれば十五メートルくらいあるんじゃないかってぐらい、高い高い壁。


「すげえな、これは」

「ずっと続いてますね、これ」

「どうやって建てたんだろう?」

「これも帝国の技術か」


 生い茂った森の先で、私達はそうして防壁を見上げた後。


「さて。もう少しでこの辺りの地図が埋まるからさくさく行こう」

「はい」

「はあい」


 帝国に入る前にこの辺りの地図を描き上げる作業に戻り、変わらず小国を渡りながら東に辿り着き、再び防壁を眺め上げた。


「さて。行こうか」


 こくりと頷き合って夜闇に翔け上がったのは、カルッチェを出てから半年も過ぎた頃の事だった。





第四章 終

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