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第四話 旧王城にて

 翌朝、改めて街を出立した私達は途中の道で先輩達と別れ、防御魔法を掛けてから森へと入った。やっぱり生物の気配の無い森ってのは不気味過ぎる。


「不気味ですねえ、ホント」

「そうだね」


 空を翔けて見付けておいた元王城を目指してリドルを操りつつ、どんどん森の中へと入って行く。ざわざわと梢の音が激しくなり、ビュンと空気が唸る音が聞こえるけど、それを無視して駆けさせた。

 生き物の形を変える魔法、か。

 こういう魔法は好きじゃないなあ。やっぱさ、どうせ魔法が使えるなら楽しくなる方向で使いたいじゃん?まあ、危険な魔獣がいたのかもしれないけどさ。


 そんな事をつらつらと考えつつ、バシバシと防御魔法に当たるあの枝と木の魔物を視認しながらも、止まる事はせずに走り続けた。

 ほぼ丸一日駆けたリドルを空に浮かせて休ませている間、ヴィーと私は昨夜見付けておいた元王城へと入り込んだ。

 

「……あー。ヴィー、あれ見て下さい」

「うん?」

「あの城壁の上の黒い物体」

「……なんだろう、あれ?」

「大砲です」


 とうとう出て来たかと思いながら見上げ、溜息を吐き出した。

 あっても不思議じゃないけど、無きゃいいなってずっと思っていた物だ。


「近くで見てもいいですかね?」

「勿論」


 二人で浮き上がり、城壁の上に降り立ってマジマジと眺める。錆び付いているけどやっぱり間違いなくこれは大砲だ。


「……ここに鉄の玉を入れて、こっちで爆発させてその威力で球を押し出すんですよ。人がたくさんいる所を目掛けて撃ち込めば、相当数が殺せます」

「そう……」


 最悪だ。

 ここにあるって事は、カルッチェの王都にもあるかもしれない。


「……盗品かな?」

「西にある国々を周ってみるしかないですね」

「うん、そうだね、確認したいな」

「ですね。これ、量産されたら溜まったもんじゃないです」


 崩れた城壁の上にあるその大砲を見ながら、三番目の兄がこういう系にやたらと詳しかった事を思い出してたんだけど。


「あー、やっぱ思い出せないなあ。何て言ってたっけなあ?」

「どうしたの?」

「んー……、三番目の兄がこういう系が大好きで雑誌を良く読んでたんですよねえ。飾り用のモデルガンとサバゲー用のガスガン持ってて。それを眺めながら薀蓄語ってたんですけど、全く興味なかったんで聞き流してたんですよねえ」


 銃の構造とか、戦車も戦闘機も熱く色々と語っていた事は思い出せるんだけど。


「あ、黒色火薬は硫黄から作る?」

「ん?」

「ああええと、爆発させる為の火薬ってのが必要で、それは硫黄が必要?」

「いおう?」

「火山があれば採取できる物ですね」

「火山……」


 つっても、この辺に火山は無かったし、見える範囲にもないんだけど。


「……爆発って、いちるが魔法で使う事あったよね?」

「爆散魔法です。壊す時に丁度良くて」

「と言う事は、あれか。あれをこの中で?」

「半分に切ってみますか?」

「ああそうか、そうだね、そうしよう」


 どうやら構造が気になるらしいヴィーは、剣を抜いたと思ったら一瞬で半分に切ってしまった。言った本人が言うのも何だけどさ、大砲を一瞬で半分に切る事が出来るってどんだけだよって思うよねえ。


「なるほど、ここで爆発させるのか。ああこれは魔石でやってたみたいだね」

「え、魔石?あるんですか?」

「ここから入れるみたいだね。なるほど、やっぱりか」

「……一人で納得してないで説明して下さい」


 しげしげと大砲を見ながら色んな事を勝手に理解して行くヴィーにそう言うと、それでも色々と見回してからやっと口を開いてくれた。


「もっと、南方に行けばはっきりするけど。徐々に魔力が復活して来てるんだよ」

「…………帝国、ですか」

「そうだね、そう思う。この森の向こうにある帝国がどの程度なのか解らないけど」


 大砲を作り出す技能、それを使える技能、そしてたぶん、改良済みなんだろうな。


「……街に戻ったらもう少し色々話します」

「うん、頼むよ。さて、お宝探しに行こうか」

「はい」


 そして、城壁から降りた私達は城の中へと入り込んだ。

 ここに王都があって、帝国とやり取りしていた頃はきっと、とても綺麗な城だったんじゃないかと思う。庭は荒れ放題、城の壁は崩れかけって状態は何だかとても痛ましい。


「……遺体と言うか、骨ぐらいは残っているかと思ってたけどないね?」

「あの魔物、全部食うんじゃないですかね?」


 そんな事を言いながら、二人で城の奥へと入って行く。魔法の明かりを頼りに歩きつつ、壊れた調度類や落ちて割れてる食器類、雨曝しになっている為か傷んだカーペットの上を歩き、たぶん、謁見の間に入り込んだ。


「……あの魔物、やりたい放題ですね」

「そのようだ」


 天井には穴が開き、そこから夜空が見えている。

 そして、何とか保たれている場所に肖像画が飾られていた。雨には当たらなかったけど、風には当たっているからか、表面がボロボロだけど。


「王家の人達ですかね?」

「たぶんね」


 人が描かれていたんだろうなって感じのその絵を暫く眺めた後、二人で王城内をうろつき回った。確かに色んな物が置き去りにされたままの王城は、お宝がザックザックだったんだけどさ。


「豊かな国だったんですね」

「そうだね。見事な装飾品の数々だ」

「王妃陛下、かな?」

「だろうね」


 風雨に晒されたそれは、磨かれていない事もあってくすんではいるけど細かな装飾はとっても繊細で綺麗だった。


「技術的にも凄いもんがありますねえ」

「そうだね。これならノービルのあの技術も頷ける」

「ですね」


 それ程仕事がある訳じゃなさそうな街の鍛冶屋であのレベルだからなあ。


「元々、内乱があったのかもしれないね」

「ああ、それに気付いたんですか」

「まあ。あの街の適度な居心地の良さと悪さ。丁度良すぎるから人為的にその状態を作り出しているんだろうと思ったんだ」

「……内乱を起こさせない為?」

「たぶんね。だから不幸ではないけど、幸せとも言い切れない、微妙な街なんだと思う」

「なるほど……」


 何となく生きては行けるけど、ただそれだけの街って感じだもんな、あそこ。


「宝物庫もありますかね、ここ」

「あるんじゃないかな?」

「よし。じゃあサクサク行きますか!」


 たぶん王族の居住区画であったろうそこを後にし、宝物庫を探してさらに城をうろつき回り。結局見付けられなくて索敵の魔法を放つ。


「ああ、地下ですね。割りと大きめです」

「建築技術も凄いのか」

「ですね。建物の強度の計算が出来るって凄い事ですからね」


 そして、地下への入り口を発見した私達は、今度は地下へと潜り込んだ。

 

「あー。ここに逃げたのか」

「いちる、口を覆った方が良い」

「はい」


 地下には、たくさんの白骨が重なっていた。

 逃げ込んだ人は、そこで助けを待ちながら死んで行ったんだろう。

 一度地下から出て布で口を覆った後、再度地下へと入り込んだ。


「あの魔物、地面の下には潜れないんですかね?」

「そうかもしれないね。ああ、それなら対処法があるね?」

「デカい穴掘って埋める?」

「うん、それが一番いいかもしれない」


 なるほど、土に返すって事か。

 なら、カルッチェが森に飲まれる事も無くなるかなあ?


「……あそこから更に地下へと行けるみたいだ」

「牢屋の奥か。秘められた抜け道みたいですね」

「そうだね」


 そんな話しをしながらヴィーと二人、更に地下へと入って行き。


「あー、これは……」


 地下二階部分はたぶん、貴族とかそんな感じの人達が入ったんだろうってのが、骨が着ている服から解った。風雨に晒されなかったからか、服の見事な刺繍まで良く見える。


「すげえな、逃げる前に高い宝石だけは身に付けて来たって感じですねえ」

「腐り果ててくれて良かったよ」

「辛辣ですねえ。まあ、気持ちはわかりますけど」


 結局の所、貴族だけが入ったってそれを世話する人がいなきゃ何も出来ない人達なのに。

 これは、上の人達が仕えてた人達って感じだろうな。


「思い思いの所に転がってるって事は、こっちの方が先に静かになったっぽいなあ」

「……王族は何処だ?」

「あー。ヴィーは索敵使えましたっけ?」

「いちる、限界が来てるのかな?」

「まだ余裕ですけど、帰りを考えるとこれ以上は無理なんです」

「解った。なら後は俺がやるから」

「スミマセン、お願いします」


 ずうっと防御魔法を掛けたままってのは割りとキツイ。あんまり魔力を使わない魔法だけど、それでもずっと身体の中から何かが流れ出して行くこの感覚は不安にもなる。


「……もう一つ下に部屋がある」

「行きますか」


 地下二階入り口の一番奥から、もう一階分を降りた先にあったドアを壊してみれば、確かにそこが宝物庫ではあった。


「微妙」

「だね。金塊に埋もれる骨か」

「王冠ですよね、あれ?」

「そうだろうね。そっちが王妃かな」

「……子供がいなかったみたいですね」


 そんな事を言いながらも、私はとりあえず合掌する。

 お宝ちょっとばかり貰って行きますねと、心の中で勝手に了解を取り。


「気になったんですけど、これって今でも使えるんですかね?」

「大丈夫じゃないかな?駄目なら融かして別の物に作り替えればいいだけだからね」

「ああ、じゃあ金塊の方が良さげですかね?」

「そうだね。一本あれば充分だろう」


 それもそうかと、金貨を何枚も頂くよりはこっちの方がかさばらないからと、それを持ってさっさと地下から地上へと出た。外は既に夜も更けた頃で、夜闇の中を照らす月の明かりに、崩れた壁がとっても不気味だ。


「……魔物、来ませんねえ、ここ」

「そうみたいだね。どういう理屈なんだろう?」

「さっぱりですねえ」


 良く解らないけど、ここなら休む事も出来そうだ。

 リドルを降ろし、ここから出るなよと言い含めた後王城の荒れた庭で座り込む。

 互いに剣柄からは手を放さず、背中合わせになって仮眠を取り、外が明るくなってからリドルに跨って森を駆けた。

 やっぱり途中で何度か襲われたけど、それでも、魔力切れを起こす前に森から出られた事に感謝する。


「うん、やっぱり逃げの一手でしたねえ」

「そうだね、まともにやり合うのは面倒だからね、あれ」

「ですね。けどあいつら、帰りは執拗にリドルの足を狙って来やがりましたねえ」

「もしかしたら学習能力があるのかもしれないね」

「あー、最悪パターンですよ、それ」


 そして顔を見合わせて笑い合い。

 あの街に向かってリドルをのんびりと歩かせた。





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