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第三話 リクト隊長への認識

「あの木の魔物はヴィシュカ帝国が覇権を広げていた際に、この国に贈られた物だそうです。国境沿いの守りに使えるって事で最初はカルッチェでも喜んで受け入れてたらしいんですが、帝国がこの国から手を引く時に深い森を造り上げて、さらにあの木の魔物を投入したらしくて、現状では南方の森は『不帰の森(かえらずのもり)』って呼ばれてるそうです」


 昼食を摂りながらリクト隊長がそんな話しをして。


「カルッチェでも手を焼いているようですね。徐々に広がって行く森に、今は為す術もないとか。ただ、王都へ行けばもう少し情報が入るかもしれません」


 おー、やっぱ予想通りだったよね、この二人。なんて思いながら満足してうんうんと頷いていると、オーラン先輩がジト目で私を睨んで来たけど。


「どうします?王都の方へ行ってみますか?」

「うーん……」


 まあ確かに悩んじゃうよね、これはさあ。

 このままカルッチェを無視して別の国に入っても良いからなあ。


「そう言えば剣の方、どうなりました?」

「ああ、それなら今いちるが交渉中だよ」

「なら大丈夫ですね」


 あっさりとそう言ったリクト隊長に驚いて、思わずじいいっと見てしまった。


「あの、その信頼の理由をお伺いしても?」

「なあいちる、お前自分が人誑しだって自覚ねえのかよ」

「人誑し?」

「そう。大体知らねえ奴がそんな簡単に仲良くなる訳ねえだろ」

「…………いや、皆気が良いだけじゃないですかねえ?」


 ヴィー以外の全員が溜息を吐き出し、クスクスと笑うヴィーの声だけが聞こえたけど。


「さて。鍛冶師のノービルさんの返事を待つ間、こっちはどうするかな」

「取り敢えず商売の下地作りをしたいですっ!」

「下地?」

「はい。それとなく噂を広げておけばさらに売れる可能性大!」


 二人組になってバラけつつ街中を散策しながら情報収集に勤しみ。確かにあんまり裕福には見えないけど、そう貧乏って訳でも無さそうで。


「それなりだけど、これ以上にはならないって所ですかね」

「……そうだね」

「おっと、何か気になる事ありなんですねえ」


 私とは視点が違うヴィーが何やら考え込むって事は、上に立つ人からすると気が付く所があるって事なんだよね。そう言うの、さっぱり解んなかったなあ、私は。


「街の入り口で交換して貰った金って、割高でしたよね?」

「そうだね。手間賃だって」

「あれは何処に入ってんですかねえ?換金してる奴のポケットには当然の事、やっぱシェスタとやらにも入るんでしょうし」

「だろうね。その分上乗せになって行くんだと思うよ」

「……やっぱ金が絡む所悪い奴在りですねえ」


 これはもう、仕方がないのだろうと受け入れるしかない事だ。大体、日本じゃありえなかったけど、他国じゃ当たり前だったしなあ。まあ、日本でもいたにはいたみたいだけど。


「何て言うか、色んな意味で過ごしやすい街ですけど、それ以上にはなれない街って言うか」

「うん、そうだね」

「……おっちゃん待ちですかね」

「うん。駄目なら西へ向かって鍛冶師を探した方が良いかな」

「ですね。中々剣を預けられそうな人がいないってのは、誤算でしたねえ」

「そうだね。少し甘かったかも」


 リュクレース王都にある鍛冶屋のおっちゃんは、とんでもなく良い腕してて黒騎士全員が世話になってんだよね。このおっちゃん、弟子を作っちゃ色んな町や村に戻して、開店までの面倒見たりもするんだ。だもんで、リュクレースの武器と防具はこのおっちゃんが作ってるって言っても過言じゃないぐらいだ。

 なんで、他所の国にも一人ぐらいはおっちゃんレベルの鍛冶師がいるだろうって思ってたんだけど、これが中々出会う事が出来ず今に至ると。


 魔物討伐やって金稼ぎまくったのが裏目に出てるかねえ。


「そう言えば、シェスタ相手に商売するのは本気かな?」

「悩んでましたけど、ヴィーのその言葉を聞いて止めました」

「そう?俺は別にかまわないけど」

「いや、止めときます。ちなみにどんな事まで想定済みなんです?」


 ヴィーって、あらゆるパターンを考え出すのがすごい上手いからね。

 そして大抵予想は当たると言う。


「最悪、全員が投獄かな」

「……そんだけ?」

「そうだよ。この街にいる限りはそれだけで済むだろうね」


 なるほど。シェスタってのは随分良心的な奴なんだろうな、うん。


「んで、王都まで行きます?」

「んー……、それについてもまだ悩んでいる所だけど、取り敢えず確認も兼ねて一度は行っておいた方が良いかなあ」

「解りました」


 っつうかこの街に入ってからずっと不思議なんだけどさ。


「何で明らかに怪しい私ら放置されてんですかねえ?」

「ねえ?」

「仮面の男と黒フードマントですよ?」

「あんまり遠巻きにされないのも悲しいね」

「ですよねえ?カルッチェって、何かずれてんですかね?」

「どうなんだろう、その辺りは感性の問題になるかもしれないね」

「ああ……、例えば天空の麗人のような?」

「そうだね、黒き異端者」


 絶対帰りにもコルサさんに会いに行こうっと。

 新しい徒名が出来てるかもしれないし。


「あのパンツ将軍って、元気ですかね?」

「んー、結婚生活は上手く行ってないと思うよ?」

「あー、やっぱ言い過ぎましたかねえ?」

「いいんじゃないかなあ。下手くそには下手だって言った方が良いよ」

「すんげえ美人なお姉さんにそう言って叩かれるのも良さげですね」

「……偶にいちるの事が解らなくなる時があるよ」

「そうですか?」

「まあね。さて、一度戻ろうか」

「はあい」


 そして、一度宿に戻って先輩達と合流して情報を交わす。結局の所、これと言った目新しい情報も無く、さてどうするよって事になる。


「……ノービル待ちか」

「ですね。あれだけの鍛冶師に再び会えるとは限りません」

「そうだね、確かに」

「あそこに置いてあった剣は全部見事でしたからねえ」

「小型のナイフを買おうかなと思ってるんだよね」

「あれですか、こう、ナイフを舐めながら『へっへっへ、お嬢ちゃん、諦めな』とか?」

「……いちるは俺をどう思ってるのかなあ?」

「とんでもねえ鬼畜野郎だと思ってます」

「うん、概ねあってる」

「大体そうだな」

「違いない」

「ちょっと待って、え、俺そう言う扱いなの?ねえ、おかしくない?」

「おかしくないですよ。リクト隊長が普通って言い張るなら私は美少女です!」


 そしてしんと静まり返るメンバーって言うね。いいけど別に。


「ごめん、俺なんか自分の事客観的に見る事が出来てなかった」

「ちょっとっ!即謝るとかおかしいでしょっ!」

「莫迦だないちるは。大体美少女ってのはお前の娘の事だろう?」

「認めるっ!異論は許さないっ!」

「そうだね、確かにリノは美少女だね」


 リクト隊長の言葉に私とヴィーが同意を示せば、先輩達がドン引きした。

 何ですか何ですか、家の娘は世界一なんですよっ!


「まあ、確かに事実ですけどね」

「ふっ、恐れ入ったかっ!」

「お前の事じゃないからな、良く考えろよ?」

「オーラン先輩、私の生活考えた事あります?夫と子供達が美形なんです。それも他の追随を許さないぐらいの美形なんですよ」

「ああ、うん、だな」

「朝から晩までそれがずっと一緒なんですよ」

「ああ……」

「美形って言葉が崩壊して行くんですよね……」


 そして、オーラン先輩と一緒に溜息を吐き出した。


「苦労したんだな、お前」

「まあ。その内どうでも良くなりましたけど」

「あー、まあほら、一応お前だって見れなくはないと思うぞ?」

「何ですか、オーラン先輩に同情される程ですか」

「まあ、な」

「酷いな」


 ヴィーの言葉に全員で笑い合った。

 まあ、リュクレースの至宝って伊達じゃねえって事だよねえ。


「うん、お前は普通だ、大丈夫」

「……それは慰めですかね?」


 オーラン先輩の言葉にやれやれと溜息を吐き出し。


「さて、提案があるんですが」


 ニヤリと笑いながら言えば、全員がジト目を向けて来るけど気にしない。


「南方の森へ入ってみませんか?」

「は?」

「お前、あの木の魔物をどうするつもりだよ」

「あれは防御魔法で防げるって事が解ってますし」

「入ってどうするの?」

「お宝眠ってるかなって」


 おっちゃんはこう言っていたのだ、『帝国の裏切りにあった』と。

 って事は、森に変えられた時にそのままお宝もあの森が飲み込んだんじゃないかと推測しているんだけど。


「いいね。でも、何処に何があったのかが解らないと危険だ」

「そうなんですよねえ、そこがちょっと躊躇ってる理由なんですよ」

「それなら、南東に向かうと良いかもしれない」


 お?ジェイド隊長、さては昨夜色々聞いてますね?


「昔、カルッチェの王城があったのはもう少し南東の方だったそうだ」

「南東……」


 漠然としている事はしてるけど、でもまあ、方角が解っただけマシかなあ?


「……いちるの案もありっちゃありですけど」

「防御魔法だと俺達は無理ですね」

「大丈夫だよ、二人で行って来るよ」

「行くんですか!?」

「手っ取り早そうだし、上から大体の見当は付くかなと」


 そして、細かな打ち合わせの後、先輩達から散々注意を受け。


「ノービルさんに伝言して来ますね」

「俺達は明日の朝王都に発ちますね」


 ノービルさんに、一度街を出て王都に行く事を伝えると、ノービルさんは戻ってくるまでには試しておくと言ってくれたけど。


「ああ、そういや別口で儲けられるかも何で、それは別に何時でもいいです」

「……おい」

「いやだって、やっぱ飲むのは躊躇いますからね。ああ、けどそれ、お世話になるのでご挨拶って事で差し上げますから安心して下さい」


 ノービルさんの目の前に置かれている見る見る勃った君を指しながら伝えておく。

 店に置かれている剣や防具類は、息子さんとお嫁さんが良く手入れをしていて綺麗に磨かれてる。後は、ノービルさんのやる気次第って所なんだけど、やっぱ先行き不安だからなのか、中々難しいみたい。


「ノービルさん、守る物が増えるのって色々と身動きできなくなりますけど。案外生きてりゃどうにでもなるもんですよ」

「…………実感篭ってそうだな?」

「まあ、経験済みなんで」


 消えかかってたのは確かだけど、私はそれを繋いで貰ったんだよね。


「じゃ、また来ます」

「おい!いつ来るんだよ!」

「え?んー、十日ぐらい?」

「……ならそれまでに準備して待っててやらあ」


 そして、おっちゃんと笑い合った後店を後にし。

 ヴィーと私は夜の内に空へと駆け上がり、大体の場所を把握しておく為に空を翔けた。





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