第二話 男の自信回復材
リュクレースがどうなってるか、それが一番心配だったけど変わり無いようで一安心ですね。まあ、黒騎士共がいるんだから早々リュクレースがどうにかなる訳ないけども。
「お、何か村発見!」
「村か」
「食べ物貰う訳には行かなそうですね」
「お前じゃ村のくいもん全部なくなるだろ」
「ですよねえ。やっぱ街を探しますか」
国境沿いにいたあの木の魔物も、カルッチェの中に入れば気配すらしなかった。
あれの事はカルッチェの人に聞いた方が早いかもしれないって事だ。
国境沿いにあった深い森を超え、小さな山を越えた先にあった村を見下ろしながら、そのまま東へと進路を取る。山から見下ろしたカルッチェは、南側に広大な森があって結局何処までがカルッチェなのかさっぱり解らなくて困る。
地図ってすごく大切だなあと実感した。
国境を越えてから二日目で少し大きめの街があった事は幸運だったと思う。
「へー、帝国と仲良しだったんですか」
「ああ。まあ、それも大昔の話しだ。帝国はカルッチェを裏切って、南側を広大な森に変えちまったのさ」
「んでその森にあの変な木の魔物を放ったと」
「ああ。お蔭で森には誰も入れねえ。魔獣も来ねえがな」
「皮肉な話ですねえ」
「全くだぜ」
情報収集は酒場からってのは、何処の国でも同じで助かりますね。
「おっちゃん、ダジェスさんと仲良いんだよね?」
「おうよ。アイツとは行商から戻る度に酒を飲む仲だぜ」
「ふうん。チェスカさんとかオゴノとか」
「おお、お前チェスカも知ってんのか!」
「おっと、やっぱチェスカさんも知ってんのか」
「まあな!ありゃ良い女だぜ」
「ですよねーっ!おっちゃん気が合うじゃんかっ!」
「いやだってよ、俺はまあ相手にもされねえが、目の保養になる女だろ?」
「解りますっ!あの凶悪な胸!」
「おう。見事だ」
そして、おっちゃんと無言で頷き合って酒の入ったコップを合わせた。
カルッチェ最初の街、イングで出会ったおっちゃんは鍛冶師だ。そろそろ剣の手入れがしたくて探したんだけど、どうも呑兵衛過ぎて家族でも手を焼いてるおっちゃんだそうで。まあでも、こういう時のお約束って言うか、そう言う人が一番腕が良いってのはお決まりパターンなんだよねえ。
「ダジェスさん、随分羽振りが良いんだねえ」
「まあ、国の推薦状を持ってる行商人だからな。だから森を超えられるんだぜ?」
「いいなあ、羨ましいぜ」
「俺もだ。俺が生きてる内は無いとは思うけどよ、徐々に森が広がってるだろ?」
「うんうん」
「その内、この国があの森に飲まれるのも時間の問題だって話しだ」
「……そうなんだ」
「ああ。東の方じゃそう言う話しは出ねえのか?」
「聞いた事無かったですよ」
「そうか。ならやっぱり本当の事なんだろうなあ」
「うん?」
「ほら、そっちは王都があるから情報統制が行き届いてんだろって話しだよ」
「ああ、だから聞いた事無かったんですねえ」
おっちゃん、いっつも酒飲んでるだけあって酔った振りしながら色んな話しを聞かせてくれたよね。東端のオルレ村って所から来たって言っても、知らねえなあって言いながらもこうして一緒に酒飲んでるけど。
「なあ、お前ら村から出てどこに行こうとしてんだよ?」
「さて?木の魔物がいるって解ったし、どうすっかなあと思ってますよ」
「……あれ、森を焼き払ったらいなくなると思うか?」
「火い点いたまま突撃して来そうでそんな怖い事出来ませんよ」
「まあ、そうなんだけどよ」
おっちゃんはそう言ってコップに残った酒を一気に煽った。
「そういやお前、剣を打ち直して欲しいって言ってたよな?」
「はい。刃こぼれしてボロボロなんですよねえ」
「……着いて来い」
そう言ってさっさと店を出ようとするおっちゃんに、慌てて残った酒を一気に飲み干してから後を着いて行く。私の後からヴィーとギルニット隊長、オーラン先輩も出て来て、足音の多さにおっちゃんが振り返り。
「……なんだ、お前の連れか?」
「はい」
「ちっ、仕方がねえ、着いて来い」
「あ、おっちゃんおっちゃん」
「あ?」
「後二人いるんだけど」
「………………あー、俺もヤキが回ったなあ、見抜けねえとはなあ」
「ははは、あんがと。んで二人は明日合流するから」
「何処にいんだよ」
「そりゃあ、楽しんでるに決まってんじゃん」
「ああ、あそこか」
「うん、あそこだよ」
おっちゃんが視線を向けた先にあるのは、うっふんなお店だ。
リクト隊長とジェイド隊長は、そっちから情報収集中で、ついでにお楽しみ中だ。
「……そっちの奴らは良いのか?」
「おっかない奥さんがいるトリオなんだよ」
私の言葉におっちゃんが一瞬呆け、そして声を上げて笑い出した。
「そりゃ残念だったな。旅先でも品行方正にしなきゃいけねえ程おっかねえのか」
「怖いよー?夫婦喧嘩で家を半壊させるぐらいには」
「おっと、そりゃ激しいな?」
「そりゃ大事なとこ握られてるからな」
「おお、おっかねえおっかねえ」
おっちゃんの笑い声と、溜息が三つ同時に聞こえたけど。
上機嫌になったおっちゃんの案内でおっちゃんの家に辿り着き。
「帰ったぞー」
鍛冶屋の裏口から入ったおっちゃんは、真っ暗な家の中に向かってそう声を掛けた。
「入れや」
「お邪魔しますっ!」
このおっちゃんには息子がいて、息子さんは既に結婚して子供が二人いるんだけど、隣の家に住んでるからこの家には誰もいない。奥さんは結構前に亡くなったって話しは、昼の内に息子さんから聞いていた。
おっちゃんは暗い家の中に入って行って、天上から下げてるランプに火を入れる。
「…………そういや、椅子がねえな?」
「いいよ、その辺に座るから」
「すまねえ」
剣を見せてみろと言うおっちゃんに双剣を差し出せば、ランプの下に行ってくるくると回しながらもジッと剣を見つめてくれる。
「……お前、やっぱこの国の奴じゃねえだろ」
「バレたか」
「随分あっさり認めるじゃねえか。どっから来た?」
「北の方。東にある河を遡って行った所にある国だよ」
ジッと剣を見つめていたおっちゃんが、剣を鞘に戻した後、ヴィーの剣を見て、ギルニット隊長、オーラン先輩と続き。
「確かに、随分とくたびれてるな」
「そうなんだよね。ずっと旅してるから碌に手入れも出来なくてさ」
「……なあ、剣ってのは命を守るもんだぜ?」
「解ってるさ。だからこそ、下手な奴に預けられねえじゃん?」
ニヤリと笑いながらそう言えば、おっちゃんもニヤリと笑って返して来る。
「……そうだな、後二人、だったか?」
「はい」
「なら六人分で金二十だ」
「おし。よろしくお願いしますっ!」
「…………お前、金二十も持ってんのかよ」
「稼いで来るわ」
「あ?そんな簡単に稼げる額じゃねえだろ」
「おっちゃん、この街って裕福な方かな?」
「なに?」
「皆割と金持ってる方?それともあんまり無いのかな?」
「なにを」
「街を牛耳ってるのは誰?」
次々に質問をすれば、おっちゃんは戸惑いながらも答えてくれる。
「この街はそんなに裕福じゃねえな。街を取り仕切ってるのはシェスタと言う」
「何処に住んでんだろ?」
「……おい、お前物騒な事考えてねえだろうな?」
「やだなあ、ちょっとシェスタさんと取引したいだけさ」
「取引?」
「そう。ちなみに、シェスタさんってのは何歳ぐらいかな?」
「……待て。お前、何を企んでる?」
物凄い警戒したおっちゃんに、にかっと笑って見せる。
「いやあ、ちょっと良いもん持ってんだよね。何て言うか、男の自信回復材?」
「…………なんだそれは」
「しょうがねえなあ、おっちゃんにも一本やるよ。それから判断してくれてもいいけど、あのうっふんな店に行ってから飲んだ方が良い」
「飲む?」
「そう、飲むんだよ。どうする?」
そう言いながらゴソゴソとポケットを弄って、作っておいた見る見る勃った君を取り出した。
「ぐいっとね」
瓶を振りながらそう言うと、おっちゃんは私の顔と瓶を何度か見比べて。
「毒か?」
「まあ、別名『女殺し』だからなあ」
「おい」
「一晩、楽しめる」
何度も視線を往復させたおっちゃんは、私から瓶を受け取った。
「早い内に試して答えが欲しい。ギャリッコの宿に泊まってるから」
そして、鍛冶屋におっちゃんを置き去りにして宿へと戻る。
取り敢えず信用して貰えなきゃ、何にも出来ないからなあ。
「いちる、どうする気なんだ?」
「シェスタさんに見る見る勃った君と潤汁を買い上げて貰おうかなって」
「…………その名前、何とかならんのか」
「解りやすくていいでしょ?」
ギルニット隊長に溜息吐かれたけど、ヴィーはくすくすと笑っただけで。
「いいんですか、あれで」
「旅の間、助けられて来たんだよね」
「……まあ、確かに需要はありそうですけど」
「オーラン先輩も欲しいなら上げますよ?」
「いらねえよ」
「じゃあ奥さんに」
「テメエ、アイツに余計な事言いやがったら腕立て五百」
「冗談ですってば!」
片手でこめかみをぎゅうぎゅうと掴まれ、痛みに悲鳴を上げつつ腕を叩く。まったく、何時でも本気で来るんだもんな。
「あっちの二人は何か聞き出せたかな?」
「リクト隊長なら色々聞き出してそうですよねえ」
「何でリクト?」
「だってあの人ドエスじゃないですか。ゲロッたらイカせてやるとか言いつつ、ギリギリまで嬲りそうな感じですよね」
しかも潤汁持たせたからなあ。
楽しんでる事間違いなしだとは思うけど。
「お前、何て言うか、もうちょっとこう……」
「いちる、羞恥心を育てた方が良い」
そして、ギルニット隊長とオーラン先輩が疲れ切った顔で部屋を出て行った後。
「駄目でしたかね?」
「いや?俺も同じ意見だよ、いちる」
「ですよねえ?」
「ああ、ちなみにジェイドはどう使ってると思う?」
「ジェイド隊長は何つうか、女が勝手にしゃべる気がしますね?」
「理由を聞いても?」
「えっと、例え一晩限りの女でも、凄く大事に抱きそうって言うか」
「ああ……、なるほど」
「ヴィーもそう判断したからあの二人を行かせたんでしょ?」
「まあ、そうだね」
「ま、明日街で商売しつつ情報が集まるのを待ちましょう」
そして、ベッドに潜り込んでさっさと眠りに付いた。
久し振りのベッドはやっぱり寝心地良くて、ベッドってのは偉大だと思った。




