表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/74

第一話 寝起きのリクト隊長には近付くな

「ぼへっくしょおおおおっっっ!!!」

『ぶほっ』


 陽が登る少し前からオーラン先輩と並んで川で魚でも釣ろうと釣り糸を垂らしていたら、やけに豪快なくしゃみをしたオーラン先輩は、そのくしゃみのついでにおならした。


「ちょっとおおっ!よりにもよって私の風上でなんて事しやがるんですかっ!」

「うるせえな。出ちまったもんは仕方がねえだろうが」

「うえ、信じられねえ!」

「ありがたく全部吸い込みやがれ」

「吸うかあああっ!!!って、来たあああああああああああっ!」


 釣竿がしなり魚が餌に食い付いた事が解ったので、釣り上げようと竿を引き上げる。


「俺の屁の臭いに釣られたんだな」


 ニヤリと笑いながらそう言われ、何だかとっても微妙な気持ちになった私は折角掛かった魚だけど逃がしてあげる事にする。


「お逃げ。もうこんな臭い男に捕まったら駄目だよ?」

「あ、テメエ、折角の朝食逃してどうすんだよっ!」

「でも、焼いたらオーラン先輩のおならの臭いが漂うんですよ!?」

「臭う訳ねえだろ、阿呆がっ!」

「だってオーラン先輩のおならの臭いに釣られたって言うからっ!」

「相変わらずいちるは莫迦だねえ」

「リクト隊長……」

「朝っぱらからうるせえんだよ」


 そう言って、オーラン先輩と私の頭にゴチンッと思い切り拳骨を落としたリクト隊長は、釣り糸が垂れている川面に近寄って顔を洗い始めた。


「魚が逃げるじゃないですか」

「リクト、てめえ俺にまで拳骨しやがったな?」

「……じゃれるならもう少し静かにして欲しいね」

「じゃれてねえっ」

「そうです、いつだって本気ですからっ!」

「ちっ」


 顔を洗い終えたリクト隊長が振り返って舌打ちをするのを聞きながら、ゆっくりと立ち上がって対峙する。同じく立ち上がったオーラン先輩と並んで身構え、寝起きの不機嫌なリクト隊長と対峙し。

 素手の組手、しかもオーラン先輩と二人掛かりで潰そうとしたってのに、あっと言う間に足払いを掛けられ川に投げ落とされ、オーラン先輩は蹴り込まれた。


「……くそっ!」

「寝起きのリクト隊長怖いいいいいいっ!」


 川の流れに身を任せながら叫んだ後、溺れる前に魔法を使ってオーラン先輩と周囲の水ごと浮き上がった。ついでのように魚も捕れたので良しとしよう。


「あー、冷めてえ……」

「いいから早く魚捕まえて下さいよっ!」


 降り立った地面でビチビチと音を立てながら跳ねて川に戻ろうとする魚を必死に捕まえて袋に入れていった。一匹の大きさが大体五十センチくらいはあるし、良く太っているから食いでがありそうだ。


「オーラン先輩、釣った分と合わせると三十匹超えましたし、もういいですよね?」

「ああ」

「あ、乾燥させましょう」


 びしょ濡れのまま魚を集めきった私とオーラン先輩を魔法で乾かすと、オーラン先輩が眉間に皺を寄せて自分の身体を見下ろしている。


「なんです?」

「いや……、何つうか、かさかさに干乾びた気がすんだよ、これ」

「ああ、私、細かい調整できませんからねえ」

「相変わらずザッパーか」

「まあねっ」

「褒めてねえよっ!」


 オーラン先輩に尻を蹴られつつ、捕まえた魚を持って皆の所に戻れば既にギルニット隊長が魚を焼く準備を整えていた。


「釣れた?」

「釣れましたー」


 袋を持ち上げながらヴィーに答え、魚をギルニット隊長に渡せば、早速塩を摺り込み始めつつ器用に枝に刺して行く。


「ほら、いちる」

「はい」


 それを焚火の傍の地面に突き刺して行くのを手伝っていると、まだ寝起き状態から回復していないリクト隊長がぼうっと眺めている事に気付いた。

 寝起きのリクト隊長には近寄らないようにしようと、軽く場所を移動すればそれに気付いたギルニット隊長がクツリと笑う。


「何ですか」

「いや。まあ、正解だ」

「ですよね。まったく、酷い目に遭いましたよ」


 こそっとそんなやり取りをしながら焚火の周りに魚を刺し終えると、火に掛かっている鍋をジェイド隊長がかき混ぜており、何が入っているのか気になってひょいっと覗き込んだ。


「…………あの、これ、」

「飲めると思う」

「思うって。でもこれ、」

「いちる。美味い食材を見つけ出すのも旅の醍醐味だ。そうだろう?」

「やけに良い笑顔で言われても。これ絶対腹壊しますよ?」

「……いちる、味見しろ」

「嫌です!ってか何入れたんですかっ!?」

「木の実に決まってるだろう?」

「それは勿論食べてみたんですよね?」

「いちるじゃあるまいし」

「食えよっ!せめて一口齧ってから煮込もうよっ!ねえっ!」


 ジェイド隊長と言い合いを始めた私に、リクト隊長がジロリと視線を飛ばし「ちっ」と舌打ちをしてゆらりと立ち上がったので、即オーラン先輩を盾にした。


「テメ、巻き込むんじゃ、止めろリクトッ!!!」

「うるせえんだよって何回言わせんだこら」

「リクト」


 ヴィーの声に我に返ったリクト隊長は、燃え上がるような闘気を一瞬で消し去ってしゃがみ込んだ。うおおおお、本気でヤベエよ、寝起きのリクト隊長。


「いちる、焼けたぞ」

「やったーっ!」


 ギルニット隊長がそう言って差し出してくれた二匹の魚を受け取り、ヴィーに一匹渡しつつ隣に座り込んで噛り付く。肉厚のその魚は、摺り込んだ塩が効いてて美味しい。


「美味いですね?」

「そうだね」

「……いちる。俺には?」

「はいはい」


 しゃがみ込んでいるリクト隊長に言われ、仕方がねえなと思いながら立ち上がれば、ギルニット隊長が笑って片手を上げて制し、ほらとリクト隊長に魚を差し出していた。


「ほらいちる、特別お前に一番最初に味わう栄誉を与えてやろう」

「いりませんよそんな栄誉っ!」


 ジェイド隊長が作った謎スープを受け取りつつ言い返し、取り敢えず匂いを嗅いでみれば何となく果物系の香りがしなくもないんだけど。


「……何か、青臭いっていうか、泥臭いっていうか」

「ほら、一気に行っていいぞ」

「一気に行ったら死にそうなんですが」


 そんな事を言いながらも恐る恐る謎スープに口を付けた。

 色は赤紫、毒物は検知されなかったけど一口であの世行きは嫌だなあと、顔を顰めながらも口に含むと、何て言うかジャムみたいな甘ったるさに葉っぱを混ぜ込んだような青臭さが混じってて物凄く不味い。


「………………これは、人の食べ物じゃないです」

「ちっ、駄目か」


 そう言ったジェイド隊長の右太ももを殴り付けた。


「私を実験に使わないで下さい」

「美味かったら儲けものかと思ったんだが」

「果物のジャムならいけそうですけどね」


 そして、悔しそうな顔をしながら鍋の中身を森の中に捨てたジェイド隊長もクツクツと笑うギルニット隊長から魚を受け取って噛り付く。


「魚だけってのも飽きるんだな」

「食えるだけマシじゃないですか。今までどんな食生活だったんです?」

「……お前こそどんな食生活送ってたんだよ」

「え、魔獣を捕まえてその場で食べる生活ですけど?」

「まさかそれ、エルヴィエント様も?」

「そうだけど?」


 二人で『当然だろう?』と返せば物凄く呆れられてしまった。


「お前、稼いだ金はどうしてんだよ?」

「さあ?金の管理は一括でヴィーにお願いしてましたよ?」

「足りない物や擦り切れた物を買い足したり、偶に街に出て食べたり飲んだりだね」

「酒は街に入らないと飲めませんからねえ」

「お菓子もね」

「重要です」


 うんうんと頷きながらそう言うと、ギルニット隊長だけがクツクツと笑い、残り三人は溜息を吐き出した。


「そういや、皆が出て来る辺りってリュクレースはどうでした?」

「あ、そういや報告があったんだ」

「ああ、そうだった」


 そして、魚を食べたからか随分マシになって来たリクト隊長が口を開く。


「ティレルがロウの娘と結婚したぞ」

「えっ!?」

「……これはすごい情報だね」


 コルディック領主になった家の次男、何時の間にマレナを騙したかなあ。


「あの野郎、帰ったら一発ぶん殴っておこう」

「……帰る頃には孫が増えていそうだね」

「そっちはめっちゃ可愛がりますけど。つうか何でマレナと?」

「ああ、お前は知り合いだったな。エルヴィエント様は?」

「話しを聞いた事はあるけどね」

「良い子ですよ。見た目は母親似でしょうね」

「可愛いですよ、マレナ」

「……騙した訳じゃないよね?」

「そこが心配ですよね、やっぱり」

「まあね」


 自分の息子だからこその心配って言うか。


「大丈夫だと思いますよ?随分しっかりしているようですし」

「その辺りはロウに似ているのかな?」

「かもしれませんね」


 ヴィーと私にとっての大ニュースの後、リュクレースとコルディックの細々した情報を聞きながら、黒騎士がちゃんと仕事をしているようで安心した。


「王都も随分静かになったみたいですね?」

「ああ。お前がやらかした尻拭いはしてやったからな」

「おかしいなあ、私は手紙を届けて貰っただけなんですがねえ」

「良く言う」

「皆、目が良いからね、仕方がないよ」

「そうそう、見付けたのは私じゃないですし?」

「そうだね。報告があった物を精査しておくよう命令したけど」

「自ら罪を明らかにするなんて、随分潔い人達でしたねえ」

「そうだねえ。皆そうだと助かるのにね」

「ですよねえ」


 そうして笑い合えば、先輩達も笑い出す。

 

「ま、後進が育っている事は良い事ですよ」

「今後の為にもね」


 そうして笑い合ったカルッチェ二日目。

 捕った魚で腹を満たした私達は、今後の事を話し合い大まかな道順を決め、リドルに跨った。


「さて。行こうか」

「はい」


 そして、深い森から出て砂利道をゆっくりと南下して行く。

 空を見上げれば青空が広がっており、この空もリュクレースに繋がっているんだと思うと、何だか楽しくなって来る。


「どうしたの?」

「……皆が笑っていられたらいいなと」


 隣に並んでいるヴィーにそう言って笑い掛ければ、ヴィーもにこりと笑って頷いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ