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第四話 孫パワー!

 ヴィーが王都から戻ってからと言うもの、城の中がやたらと慌ただしい。

 ラント団長、ティーラ、ロウさんまでがヴィーの執務室にやたらと出入りしてて、ヴィー自身も動き回ってる。

 私はと言えば、留守番だったイルクが引き続き張り付いてて動けやしないと言う。


「なあイルク」

「んー?」

「王都で何かあったんかな?」

「さあな。俺のとこには何も情報来てねえが」

「……何だろうなあ?」


 屋上でのんびりと空を見上げながらそんな会話をしては、毎日屋上見張りの新人をカモにしてカードゲームしてたり。まあ、城から出るなって言う通達受けてるからねえ。


「あ、また王都へ使者が出てったな?」

「これで二回目だ。本格的に何かあったな、こりゃ」


 ババ抜きしながらそう言うとイルクが答え、新人がきょとんとした顔でこちらを見て来た。


「あのな、ここにいても外の気配には気を配れよ?」

「眼で見るだけが見張りじゃねえからな」

「は……、はいっ」

「ああ、悪い、今すぐやれって言ってんじゃなくてさ。慣れろって意味だよ」

「最初からは無理だよなあ。訓練中に何回か死ぬ事覚悟してからだな」

「あー、確かに。本気で諦めた時あったわ」


 そう言ってイルクと笑い合う。

 ま、こんな新人が屋上にいるのは、こうして私が屋上でプラプラしてるからって事らしいけどさ。相変わらず人使いが荒いっつうか、容赦ねえよ、ホント。

 要するにここは、新人の息抜き用の仕事って事だ。


「王都のおバカちゃん達は、この間きゅっと締めたはずだけどな?」

「まだいるだろ?」

「まだいる奴はわざと残してる奴だけだろ?」


 聞き返せば、イルクは顔を顰めて肩を竦める。

 まあ何にせよ、何かあったとは理解出来ても、何があったかを理解するのは無理だった。


「で?何があったんです?」


 理解出来ない事は確認すべし。これ鉄則。


「何がって?」

「いや、何か慌ただしく出入りしてるし、王都にも使者が急行しましたよね?」

「ふふふ、さすがだね。屋上にいるのに把握してるのか」

「出来なきゃ黒騎士だなんて言えませんからね」

「へえ?黒騎士ってのは大変なんだねえ」


 さらっと流されてしまうのはいつもの事だ。

 つうか、黒騎士にそう言うの求めたのはヴィーじゃないんだろうか。出来るのが当たり前って感じのあの無茶な命令の数々は、そう言う事だと理解してたんだけどな。


「ま、いちるはのんびりしてると良いよ」


 ちっ、会話切られた。

 聞くなってか。


 そうして放置されながら五日が過ぎた頃、リノ夫婦と孫が遊びに来てくれた。


「うおおおー、孫おおおおおっ!」

「おばあちゃああああああああんっ!!!」


 到着を迎えた私に、リールが止まった途端に飛び出て来た孫がしがみ付いて来る。

 リノの子で最初の孫の名前はエグランデと言う。グルードと言う呼び名で、リノの旦那さんのガレム君に似ている男の子だ。

 外見は旦那さんに似ていると言うのに、残念な事に中身は祖母、つまり私に似ていると噂されてる。


 私って言うか、伯父であるリヴィに似てるとかも言われてるけど。


「グルード、良く来たなあ」

「おばあちゃん、暇?遊べる?」

「暇、暇ー。何して遊ぶ?」


 しゃがみ込んでグルードとそんな話しをしていたら、リノが降りて来て、大きなガレム君が降りて来た。


「いらっしゃい」

「ご無沙汰しております」

「いやいや、ご無沙汰したのはこっちだから」


 今までは王都で会えたと言うか会っていたんだけど、私がここに引き篭もるようになってからは、王都に出たついでにとリノとグルードだけがこっちまで顔を出したくらいで、ガレム君に会う事はあんまり無かった。

 ガレム君は王都でも仕事してるから、こっちに来いなんて言えないしね。


「疲れたでしょう。取り敢えずお茶でも飲んで落ち着こうか」

「えー?」

「不満なのか?」


 手を繋いで歩き出しながら笑って見下ろせば、不満顔をしながらも黙り込んでしまう。

 まあ、伯爵子息だからなあ。


「よし、グルード。おばあちゃんと競争ってのはどうだ?」


 ぱああああっと顔を輝かせて私を見上げ、こくこくと頷いて返して来た。


「ヤールさんの所まで、どっちが先かなあ?」

「僕、早く走れるようになったんだよっ!」

「よおし、じゃあ競争だ!用意、ドーンッ!」


 リノとガレム君が口を出す時間を与えずに走り出し、付かず離れずで走りながら危険が無いよう、目を配りつつ走るグルードと私は城の皆に生温かい目で見られてた。

 

「うおおおお、負けないぞおおおおおっ!」


 後ろからそんな声を出しながら追い掛け、ヤールさんが開けてくれたドアに飛び込んだグルードを、待ち構えていたらしいヴィーが抱き上げる。


「グルード、凄いな、いちるを抜いたか」

「おじいちゃんっ!?」


 凄くビックリしたらしいグルードがそう言った後、ヴィーの首元にしがみ付いた。


「よく来たな、グルード」

「うん!後パパとママも!」

「そうか。じゃあやっぱりグルードが一等賞だ」


 そう言いながら頭を撫で、グルードを床に降ろす。

 ガレム君に似て小さな頃から大柄なグルードは、きっとあっと言う間に私の背を追い越してしまうだろうなあ。


「グルード、果物があるよ」

「頂きますっ」

「……いちるじゃない」

「グルード……、おじいちゃんは酷いよね。おばあちゃんに食べさせてくれないんだよ」

「子供に何吹き込むかなあ」

「で、でも僕、おばあちゃんの口の中に食べ物が消えて行くのを見るの好きです」


 おっと。なるほど、暫く合わない内にこんな風に気を使えるようになってしまったか。


「グルードおおおおお、何て優しい子なんだろう。良い子だよ、本当に」

「いちる、グルードと一緒に食べなさい」

「やった!グルード、どれにする?」

「これが甘くて美味しいぞ?」


 結局の所、孫に甘いジジババなので、やっと入って来たリノに叱られるって言うね。

 

「お母様。城の中で走っては行けませんと何度か申し上げましたし、グルードにもそう教えています」

「はい。スミマセンでした」

「グルード、本当はイケない事だとわかっていますか?」

「……はい」

「よろしい」


 子供を産んでからリノは随分変わったと思う。勿論、良い方へって意味で。

 あまり世間を知ろうとしなかったリノに、自分が学ぼうとしなければ結局何も学んでいないのと同じだと、何度か叱ったもんだけど。ヴィーの庇護下でぬくぬくしてたし、本人がそこから出ようともしていなかったからなあ。

 まあ、本人は出ていたつもりだったみたいだけど。


「お父様、お母様、お久し振りです。お元気そうで何よりです」

「ご無沙汰しております」

「ホ、ホントだね、元気そうで安心したよー」

「遠い所をわざわざ足を運ばせてしまってすまなかったね。座ってくれ」


 一旦手に取っていた果物を置き、体裁を繕って挨拶を交わした。

 そうだよね、それが最初だよ。まったく私ときたらいつまで経っても子供と同じに走り出すなんて駄目だなあ。


「そういやガレム君まで一緒に来るなんて久し振りだねえ」


 そう言った私に、リノとガレム君が顔を見合わせ戸惑うようにヴィーへと視線を走らせた。この動作だけで仕組んだ犯人が分かるって言うね。


「あー、わかった、大丈夫。ってか遠くからありがとね」


 落ち込んでる私に孫パワーを分けて貰えって事かと納得して、ヴィーとガレム君は主に仕事の話しをしながら、私とリノはグルードの成長っぷりの話で盛り上がった。


「ガレム君に似て大男になりそうだねえ」

「ふふふ、楽しみなの」

「そっか。良い事だ」


 幸せそうに笑うリノの顔を見ながら、一時はリノの恋心で親子関係がギクシャクしたのを思い出す。まあ、普通にへこむよなあ。好きになった人は自分の母親に好きだなんて言っちゃう人だったとかさあ。

 ヒュウもなあ、もっと他に良い女がいっぱいいるってのに、何を律儀にこっち見てんだかなあ。良い奴なんだけどなあ。

 まあ、最近はちょくちょく恋人は出来てるっぽいから、心配するほどでもねえか。


「いちる、リノ、悪いけど執務室に行くよ」

「え、ガレム君も?」

「ああ。少し東方とやり取りをしなければならなくてね」

「そうですか、わかりました」


 グルードを抱き上げたヴィーが、孫との暫しの別れを済ませて部屋を出て行くのを見送り。


「……行くか?」

「行くっ!」

「あ、ちょっと!」


 グルードと二人で走り出し、今度は黒騎士訓練場まで競争する。

 リノは一応制止の声を上げたけど、グルードの格好を見れば一目瞭然、こうなる事は予想済みだったようで、伯爵子息の格好より、リヴィが子供の頃に着ていたような動きやすい服を着せていた。

 汚れても良い服と言い換えた方が早いかな?まあ、動き回る男の子ってのを良く知ってるからこそかな。リノも順調に母親になってるみたいで安心する。


「待て待てえええええっ」


 なあんて言いながら追い掛けてるけど、確かに体力付いて来たなあ。

 って事は、普段から動き回ってんだな、こりゃ。どうもその辺含めて私に似てるとかリヴィに似てるって言われてんだろうな。


 訓練場に着くと、黒騎士達が訓練しながらもこっちに視線を走らせ、にかっと笑って直ぐに訓練に参加させてくれる。勿論、グルードが着いて行ける訳ないんだけど、息切れしながらも頑張るから、様子を見ながら参加させてた。

 木剣を持たせてそれで試合をさせて貰って、嬉しそうに笑うグルードを眺めてた。

 素手の訓練も受けてて、拳の避け方、蹴りの避け方、反撃の仕方を習う。


「伯爵子息がこんな実戦向きな訓練受けていいのか?」

「……それ言ったら、家の息子は第三王子殿下のご子息でしたよ」


 そう答えれば黒騎士共が、そういやそうだったなと頷き合った。


 グルードが楽しそうに訓練受けてるのを見ながら、そういや私も訓練受けるの楽しかったなあと思い出していた。

 死にそうになったのは数えきれない程あるし、餓死するかと思う事もいっぱいあったし、着いて行けなくなって倒れたのも数え切れない程だ。その度に次はその先に行ってやる、もっと先に行ってやるって思い続けた。


 ああ、そうか。

 私、黒騎士になりたくてずっと走って来たんだった。


 あまりにも格好良くて、格好良すぎて。

 同じ場所に立ちたいって思い続けて。




 私、同じ場所に立てたのかなあ……?


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