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  ――閑話 エルヴィエント様と俺、とついでにいちる

 焚き火を囲みながら横になったのはジェイド、オーラン、いちるだ。交代で警戒に当たる為、組み合わせを考えるとこれが一番だと判断した。

 エルヴィエント様の足の上に頭を乗せてぐうぐう寝ているいちるを見て、思わず苦笑を漏らした。


「……エルヴィエント様が傍にいる時だけは本当に無警戒ですよね」

「そうだね」


 そんな会話にも目を開けないとは、本気で警戒を解いている証拠だ。

 

「羨ましい?」


 楽しそうにそう聞かれ、いちるのお蔭で随分変わった主を見ながら笑う。


「ええ、羨ましいですよ」

「ふふ、素直だね。どうしたの?」

「……どうしたのはこっちですよ。まったく、本気で二人で国を出るとはね」

「ごめんね?」


 エルヴィエント様の言葉に軽く溜息を吐けば、隣でクスクスと笑う。


「黒騎士を黙らせんの、大変だったんですよ?」

「リクトなら簡単でしょ」

「まさか。結局本気でやらなきゃいけなくなってしまいました」

「そっか」

「ギルは最初何も言ってなかったんですが、奥さんが様子がおかしいって気付いたらしくて。さっさと追い掛けてさっさと帰って来いと追い出されたと言ってました」

「奥方が、変わりないようで良かった」

「はい。あのギルと結婚したぐらいですからね。猛者ですよ」


 見回りに出ているギルの話しをしながら、いちるの頭を撫でるエルヴィエント様を何となく眺めてしまう。


「……リクト」

「はい」

「すまなかった」


 今、かなり本気で頭を下げているのが解って、その真剣な顔を見ながら思わずぷっと吹き出してしまった。

 エルヴィエント様が国を出た事を謝っている訳じゃないって事ぐらいは、この長い付き合いですぐに解った。謝ったのはそこじゃなくて、俺の故郷が魔獣によって壊滅した事で。

 ついでに言えば、誰が伝えたのか俺の恋人がそん時に死んでる事に対してだ。

 今も俺が結婚していない事で、色々心配してくれたからその時に聞いたのかもしれないけど。


「何故笑う」

「いや……。だって、今更じゃないですか」

「だけど結局国として動く事が出来なかった。すまなかった」


 ああ……。まったく本当にこの人は。


「もうとっくに折り合い済みなんで」


 そう、もうとっくに自分の中で終わりにしようと誓ったし、過去になっている。

 黒騎士一期生達は、皆、エルヴィエント様のその姿勢に救われたんだ。


「そう言えば、国を出る前にガラルさんとリツグさんが俺んとこに来ましたよ」

「ああ、元気でやっているようだな?」

「ええ。退団して故郷に戻った時はどうすんだろって思ってましたけどね」

「ガラルとリツグの教え子達は、随分優秀だよ」

「そのようですね。リュクレースの東方はあの二人のお蔭で栄えるでしょう」

「うん。楽しみだ」


 そう言って笑ったエルヴィエント様を見ながら、こくりと頷いて返した。


「あの二人には俺もまだ敵いません」

「ははは、一生敵わないの間違いだろう?」

「えー?一度ぐらい勝ちたいのですがね?」

「リクトは、あの二人に対してだけ本気でやれないから駄目だろうね」

「……成長期に植え付けられた物は、中々覆せませんね」


 ガラルさんとリツグさんは、俺の父であり、兄でもある人達だ。

 魔獣の大発生で俺の街が壊滅した時、軍規違反を犯しながら助けてくれた。

 そのせいで、騎士として上から嫌われて大変だったみたいだが。俺を一般兵士として入団させてから一般騎士になるまで、何くれとなく面倒を見てくれた。


 お蔭で、今の俺がある。


「リクトも随分優秀な弟子だったと聞いてるよ」

「……あの二人にとって俺は、手を焼かせるクソガキですよ。今もね」

「はははは、違いない」

「酷いですね。そこは『そんな事ないよ、リクト』って言わないと」


 わざとらしく肩を竦めながらそう言えば、一頻り笑ったエルヴィエント様が真剣な顔で俺を見ている事に、首を捻りつつも見返してみれば。


「そんな事ないよ、リクト」


 その真剣な顔のまま言われ、思わず鼻水が出てしまったが。

 まあ、エルヴィエント様が笑ってくれたならそれでいい。


「……と言うか、まったく起きませんね?」

「ああ、そうだね」

「本気で警戒解いてますね、これは」

「……今まで、ずっと気を抜けなかったからね。リクト達が来てくれたからってのもあると思うよ?」


 少し、不機嫌そうにそう言ったエルヴィエント様に苦笑を漏らせばジロリと睨まれた。


「まったく。追って来なくて良かったのに」

「そろそろ俺に会いたくて泣いてる頃かな、と」

「リクトこそ泣きながら追って来たんじゃないの?」

「あれ、やっぱりバレましたか」


 おどけながら肩を竦めて言えば、エルヴィエント様がクツクツと笑ってくれた。


「ご無事で何よりです」

「まあね。いちるが逞しくてね」

「また碌でもない物を作り出しましたか」

「役に立つ物、だよ」

「いちるが?」


 不審な顔で聞き返せば、「そんな顔しなくても」と笑われた。

 いや、けどなあ、今までが今までと言うか。


「国によって流通している金の価値が違うだろう?」

「はい。大抵他所の国の物は少なく見積もられましたね」

「うん、そうなんだよ。稼ぐ手段を持っているいちるは、必ず金貨を手に入れてくれるんだ」

「……凄いですね?」

「だろう?銅から始まって銀に行き、銀から金まで稼いでくる。それもちゃんと、合法的にね」


 そう言いながらいちるの頭を撫でるエルヴィエント様を眺めていた。

 無警戒のいちるもそうだが、無警戒のエルヴィエント様もいちるがいる時だけだと、本人は気付いているのだろうか。


「美味しい物食べ放題、なんて?」

「その為だけに稼いでいると言っても過言ではないね」

「やっぱりね」


 そうだと思いました。

 

「地図を描く作業は進んでいますか?」

「まあね。いちるがその国の美味しかった食べ物を書き記しているから、後で見てみると良いよ」

「……そういや、最初の頃は植物を食べようとしてましたよねえ。たっぷり食わせてるってのに、何がそこまでさせるんだか」

「そうだったね。けどあれで、薬草と言う物があると初めて知ったよね?」

「そうですね。あちらには魔法が無かったからとか」

「うん。そのまま食べたり乾燥させて茶葉にしたりして、ジグルドの所に運ばれて」

「毒がある物全て食べましたからね。普通は懲りるでしょ」

「でも、お蔭で安く病気や怪我の手当てが出来るようになった」

「だからって、何も自分が食わなくても良かったでしょうに」


 あの時は莫迦か阿呆だと思ったけどなあ。


「いちるが倒れれば、ジグルドが治癒するからね」


 本当に何度も何度も同じ事繰り返して手を焼かせやがってと懐かしく思い出していたら、エルヴィエント様がそう言って笑う。


「……それって、」

「まあ、そう言う訳だよ。農業に向かない土地で栽培させたり、働き先の無い地方で加工させたりしたのも、いちるの案だよ」


 まさかいちるが?と言う思いと、確かにいちるらしいと言う思いが錯綜し、とても複雑な気分になる。


「国王直轄の管理下に置いて、元コーラルのメンバーを入れたのも?」

「いや、それは俺の案。あのメンバー、貴族とは絶対に癒着しないと思ったからね」

「ああ……、確かに」

「案の定、色んな貴族から接触があったけど、蹴散らしていたからね」

「……懲りないですね」

「まあね。けど、お蔭で薬草が国中に認識された」

「けど何度も命の危機でしたよね?」

「ふふ、そうだったね。泡を吹いて倒れた事もあったっけ」


 そうだ、あの時のエルヴィエント様の慌てぶりに、俺達全員が驚いたもんだ。

 いつだって軽く笑んでいる顔しか見た事が無かったと言うのに。


「やっぱり阿呆ですよ」

「そうだね。そう思うよ」


 黒髪の英雄、か。

 勝手な期待を背負わされ、勝手な思い込みで裏切られ、それでもいちるなりに楽しそうに過ごしてはいたようだが。

 いや、そうであるよう努力してたって事か。


「ちっ。いちるのくせに」


 思わずそう口に出せば、エルヴィエント様にクスクスと笑われた。


「だからこそ、黒騎士は家族なんだよ。いちるをそのまま受け入れてくれる所だからね」

「散々叱り飛ばしたし殴ったり蹴ったりしてますが」


 いちるの防御魔法は完璧だったから、遠慮なんてした事無かったしなあ。


「それでいいんだよ、黒騎士は。本気で叱ってくれるからこそ家族なんだろ?」

「ああ……、それなら、解ります」


 俺にとってのガラルさんとリツグさんが、いちるにとっては黒騎士なのか。


「うん。いちるが言うには、何が非常識なのかもわからないと」

「そう言ってやりたい放題でしたよね?」

「あー……。うん、そうだったね」

「そこ、エルヴィエント様もあんまり注意しなかったですよね?」

「そう……、だった、かな?」

「判ってて放置してましたもんね?」

「そんな事は……」


 歯切れの悪いエルヴィエント様も珍しい。

 まあ、いちると一緒にいるようになってからのエルヴィエント様は、本当に色んな顔を見せてくれるようになった。


「さて。そろそろギルが戻ってもいい頃なんですが」

「ギルなら、一度戻って来て気を効かせたみたいだけど」

「……何してんでしょうねえ、アイツは」

「そう言えば、いちるはギルをお父さんみたいだと言ってたね」

「お、お父さん!?」

「そう。あのギルにそんな事言えるのは、いちるだけじゃないかな?」

「でしょうね。実の子に泣かれて以来、色々と苦労してたみたいですが」

「ふふふ、ギルに叱られた時だけは落ち込んでたからね」

「……知らなかった」

「知られたら利用されるって言ってたよ」

「ええ、今度からそうします」

「おっと。手加減してやってよ」


 笑いながらそう言うエルヴィエント様に、「生憎、手加減は苦手です」と答えれば、声を上げて笑うエルヴィエント様に釣られ、俺も声を上げて笑う。

 本当に、大した奴だよ、いちるは。


「今後はどう動きますか?」

「んー、今まで通りって訳にも行かなくなった。帝国の戦力を削いでおきたいな」

「……ですね。過ぎる武力は捨てた方が良い」

「そうだね……」


 視線を落とし、いちるの頭を撫でるエルヴィエント様を眺める。

 ただ、二人で笑いながら過ごしたいのだろうに。


「あの囲いから出ないよう、徹底的に潰しておきましょう」

「そう、だね。うん、潰せる内に潰しておきたい」

「……いちるはどうします?」

「そうだなあ……。ジェイドと一緒に捕虜、かな?」

「いいんですか?」

「ああ。いちるは人を殺せない。それに、絶対にいちるに手出しは出来ない」

「……確かに。まさか、そう言う事も含めて黒騎士に入れましたか?」

「まあね。何が起こっても生き延びられるだろう?」

「…………参りました」


 クスクスと笑うエルヴィエント様に、やれやれと溜息を吐き出した。

 まったく、いちるを黒騎士に入れた時にはどうなる事かと思ったけど、いちる本人の努力で這い上がったからなあ。確かに特別枠で入団したが、特別扱いはした事が無かったからな。少しでもそんな事があったら、黒騎士達はいちるを認めなかっただろう。


「いちるは、大した奴ですね」

「譲らないよ?」

「…………じゃあ兄枠で」

「それはオーランだね」

「弟?」

「ヒュウだ」

「じゃあ姉でいいです」


 ぶはっと吹き出したエルヴィエント様と二人で笑いながら、やっぱり国を出て来て良かったと思いながらオリヴィエを見上げた。


「妹の方が良いかな?」


 今度こそ腹を抱えて笑い出したエルヴィエント様と俺に、戻ってきたギルが訝しげな顔を向けたが。勿体無いから教えてやらん。


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